Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2019/07/06
Update

映画『ドッグマン』あらすじと感想。実話を基に結末まで説得力のある人間関係の闇を活写!

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『ドッグマン』は2019年8月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国ロードショー!

イタリアの片田舎で犬のトリミングサロンを営みながら、平穏に暮らしていたマルチェロ。しかし一方で彼はある男との関係に闇を抱えていました…。

実話のとある殺人事件をベースに、イタリアの寂れた田舎に住む一人の男が、心に抱えた闇とともに世の不条理に対してもがく姿を描いた映画『ドッグマン』

本作は『ゴモラ』『五日物語 -3つの王国と3人の女-』などの作品で高い評価を得ているイタリアのマッテオ・ガローネ監督が手掛けた作品です。

メインキャストを務めたマルチェロ・フォンテは俳優としては無名ながら、本作で第71回カンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞、いきなり大きな賞賛を浴びています。

映画『ドッグマン』の作品情報


2018 Archimede srl – Le Pacte sas

【日本公開】
2019年(イタリア映画)

【英題】
『DOGMAN』

【監督】
マッテオ・ガローネ

【キャスト】
マルチェロ・フォンテ、エドアルド・ペッシェ、アリダ・バルダリ・カラブリア、アダモ・ディオニージ

【作品概要】
イタリアの寂れた町で平穏に暮らしていた男が、様々な裏切りですべてを失いながら、もとの生活を取り戻して再起しようとする物語。実話の殺人事件を基に制作した本作は、『ゴモラ』『五日物語 -3つの王国と3人の女-』などで知られるマッテオ・ガローネ監督が手掛けています。

主演のマルチェロ・フォンテは、第71回カンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞。その他、『神様の思し召し』などのエドアルド・ペッシェ、ドラマシリーズ「SUBURRA -暗黒街-」などのアダモ・ディオニージらが脇を固めています。

また映画は同じく第71回カンヌ国際映画祭でパルム・ドッグ賞を受賞とともに、イタリアのアカデミー賞として知られたダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で、最多の9部門受賞と高い評価を得ました。

映画『ドッグマン』のあらすじ


(C) 2018 Archimede srl – Le Pacte sas

イタリアのある寂れた海辺の町で、犬のトリミングサロン「ドッグマン」を営むマルチェロ(マルチェロ・フォンテ)は、ひっそりと毎日を過ごしていました。

穏やかな性格のマルチェロは、大好きな犬に囲まれつつも時々訪れる娘とのひと時や、仲間と食事やサッカーを楽しむ毎日に、ささやかながら幸せを感じていました。

しかしその裏では、町でも様々な悪評が飛び交う暴力的な友人・シモーネとの付き合いに悩まされていました。

常に脅迫的な態度をとるシモーネは街中でも札付きの悪者で、仲間内でもたびたび暴力を振るわれたと嘆きの声が上がる一方で「他から人を雇って、殺してしまえ」という話までのぼるような状況。

そんなある日の夜、マルチェロはシモーネから、ある一つの仕事に協力するよう強要されます。

それはマルチェロの仲間を裏切る行為でもあり、やってはならないことと必死に抵抗しますが、腕力に物言わせ抑圧するシモーネに、なすすべもなくマルチェロは黙ってシモーネに協力することに。

翌朝、マルチェロの近所の店では、泥棒に入られたと大騒ぎになっていました。シモーネの仕業と確信していた警察でしたが、協力者と疑われたマルチェロは、決してそれを認めようとはしません。

結局、罪を一人で被り刑務所に入れられたマルチェロ。一年後、彼は出所しましたが、仲間は彼を裏切り者呼ばわりし、シモーネは我関せずといった態度。マルチェロは散々な目に遭い、絶望の淵に立ちながらも店を再開します。

そして、彼はかつての穏やかな暮らしを取り戻すため、ある一つの計画を実行に移しますが…。

映画『ドッグマン』の感想と評価


(C) 2018 Archimede srl – Le Pacte sas

実話から導き出されたメッセージ

本作は1980年代のイタリアで実際に起きた殺人事件がベースとなっていますが、ガローネ監督は様々なインスピレーションを働かせ、自由な発想からストーリーを構築させています。

脚本が出来上がった段階からも、様々なアイデアや意見を取り込み進化したと語っており、現場でのトライ&エラーに関しても、積極的な想像がされたことが伺えます

それだけにストーリーから得られるメッセージ、説得力はかなり強いものになっています

結果的に出来上がった内容は、「平穏に暮らしていた一人の男性は、なぜ殺人を犯さなければいけなかったのか」というポイントとなり、様々な人間関係の中でお互いに不信感を抱く様子が克明に描かれています。

その人間関係の中で最も大きなポイントになるのが、マルチェロの仲間グループとの関係。

明確な根拠が立証されているかどうかは不明ですが、イタリア人は仲間意識が強いというお国柄的な性質。一人でいることが悪であると思われるくらいに団体主義が強いといわれています。

そんな中で、誰に対してもいい顔をしなければならないというのは、なかなかに難しいことです。

本作では、人間関係のなかで矛盾が発生したことで、男性の仲間が壊れ、そして彼を絶望の淵に立たせています。

一方で、他の国の人間であってもそのことはかわらないのではないでしょうか。

お国柄による主義や傾向の違いはあれど、「人との間で生きることの辛さ」「いじめの構図」の内容は、今、日本でも問題とされている要素とダブって見えます。

またその民族的差異、お国柄が違うからこそ見える差異の部分で、本作から受ける印象は幅の広いものになっています。

単純に起こった事件の経緯を辿るだけでなく、観客が作品の人物に共感し様々なことを感じる。そういったことが、このテーマ作りの妙でうまく機能しています

マルチェロ・フォンテの表情と表現


(C) 2018 Archimede srl – Le Pacte sas

そして、この映画の見どころは、主演を務めたマルチェロ・フォンテの表情に、すべてがかかっているといっても過言ではありません。

彼は無名俳優であり、ガローネ監督に見出されて、本作でいきなり主演を務めたフォンテ

いきなり第71回カンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞は、もちろん偶然ではなく、起用したガローネ監督の眼力に間違いがなかった証拠でしょう。

イタリアの片田舎でひっそりと暮らすマルチェロ。犬のトリミングサロンを営み、仲間ともよろしくやっている。

しかし、その一方で妻・娘とは別れて生活し、皆の嫌われ者である暴君・シモーネとの悪縁も切れず、泥棒家業を手伝ったり、コカインの売買に関わったりする。

実はこの物語の中では、こういった複雑な関係の中でバランスをとる人物は、マルチェロという登場人物だけになります。それだけにいろんな登場人物のなか、ある意味、彼の一人芝居にも見えてきます

それだけに、彼の演技には様々な感情が混じった複雑な心境を表していますが、決して激しい感情を表すでもないその表情は、どんな複雑な心境も確実に表現する懐の広さを見せています

特にラストシーン。ここは彼一人の表情を長回しで追うシーンになり、まさに結末を結ぶにふさわしく、映画の本質を見る人に植え付けてきます

これまで俳優という職業のほかに、ミュージシャン、パフォーマー、彫刻家というバラエティに富んだ肩書きを持つフォンテ

ガローネ監督とは新作『Pinocchio』でも再びタッグを組むなど、とても信頼を得ており、今後どんな演技を見せてくるのか楽しみにな存在です。

説得力を引き立たせた犬の存在


(C) 2018 Archimede srl – Le Pacte sas

そんなフォンテの演技による説得力をもたせた要素として、彼を取り巻く犬の存在があります。

日本では近年『幼獣マメシバ』『柴公園』など、ドラマや映画などで犬とともに登場人物を映し出し、その性格やキャラクターを引き出すといった方向の作品も人気を集めています。

本作にもそういった向きがあり、先入観なしで主人公マルチェロの男に一番近しい存在として犬というキャラクターを置き、その場面場面で起きた反応に対して起こす行動で、マルチェロの心理や思いを際立たせて見せています

一方、先述の日本の作品群に比べると、本作での犬の立ち振る舞いは、犬自身の意思に任せた偶発的な動きを期待するよりも、しっかりと場面に合わせた演技をさせた訓練をしているのでしょう。

まとめ

鮮やかな色彩感と、燦々と照り付ける太陽の光。イタリアという国に、そんなイメージを抱いている人も少なくないかもしれません。

そんな方には、この国からこのような作品が出てくるのは、ちょっと意外に感じられるかもしれません。

しかし、そんなイメージが返って、他国の人が見ても共感できる説得力を見せた人間関係のようにも見えます。

映像は鮮やかなイメージは全くなく、どちらかというと全編くすんだイメージで画が仕上げられ、主人公の複雑な心理をさらに明確にさせ、テーマを克明にした画作りを活写させることに成功しています。

映画『ドッグマン』は2019年8月23日(金)より全国で公開されます!

関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『メアリーの総て』あらすじとキャスト。エル・ファニング紹介や上映館情報も

映画『メアリーの総て』は、12月15日(土)より、シネスイッチ銀座、シネマカリテほか、全国順次ロードショー! 200年もの間愛され続けてきたゴシック小説『フランケンシュタイン』。 その作者メアリー・シ …

ヒューマンドラマ映画

映画『のぼる小寺さん』ネタバレ感想と内容解説。工藤遥を主演に漫画を原作にした感動青春ストーリー!

なぜ、小寺さんはのぼるのか? そこに壁があるから!? 珈琲原作の人気青春漫画『のぼる小寺さん』の実写映画化。 自分は何がしたいのかわからない。何にも興味が湧かない。好きなことをしたいけど自信がない。進 …

ヒューマンドラマ映画

映画グレイテストショーマンあらすじとキャスト。実話バーナムの評価とは

映画『ラ・ラ・ランド』の音楽スタッフが再び集まったミュージカル映画。 華麗な歌声を披露した映画『レ・ミゼラブル』のヒュー・ジャックマンが主演を務める、2018年見逃せない大作です。 大注目の2月16日 …

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】フェイブルマンズ|あらすじ結末感想と評価考察。天才監督スピルバーグの原体験を集約して“フィルムメーカーの知られざる真実”を知る

名匠スピルバーグが自身の半生を描く『フェイブルマンズ』 映画『フェイブルマンズ』は、現在の映画界にとって最高の名匠スティーヴン・スピルバーグ監督作であり、第95回アカデミー賞では作品賞を含む7部門にノ …

ヒューマンドラマ映画

映画『祈りの幕が下りる時』あらすじネタバレ感想とラスト結末の考察解説。加賀恭一郎の新参者シリーズ完結編を描く

阿部寛主演「新参者」シリーズ、完結! 映画『祈りの幕が下りる時』は、東野圭吾の同題ベストセラーを映画化。 東野圭吾のデビュー作から続く加賀恭一郎シリーズの日本橋辺の完結編で、原作・映画ともに本作で加賀 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学