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映画『雨あがる』あらすじネタバレと感想。監督小泉堯史が黒澤明の精神を受け継ぐ時代劇

  • Writer :
  • 加賀谷健

“世界のクロサワ”の遺稿を継いだ映画『雨あがる』

近年、時代劇はますます下火となり、製作本数もわずかですが、日本映画が培ってきた精神は未だ残されています。

巨匠黒澤明監督亡き後に製作された本作『雨あがる』は、紛れもない時代劇映画として孤高の輝きを放つ作品です。

早速、寺尾聰主演の人気時代劇について、あらすじネタバレ紹介と日本映画のよき伝統が溢れる作品の魅力を解説していきたいと思います。

映画『雨あがる』の作品情報

【公開】
2000年(日本映画)

【監督】
小泉堯史

【キャスト】
寺尾聰、宮崎美子、三船史郎、吉岡秀隆、原田美枝子、仲代達矢、檀ふみ、井川比佐志、松村達雄、加藤隆之、山口馬木也

【作品概要】
山本周五郎による短編を基にした「まあだだよ」の黒澤明の遺稿から製作された時代劇。

監督は、長年黒澤組の助監督を務めた小泉堯史が担当し、本作がデビュー作となりました。

撮影・音楽・美術それぞれに旧黒澤組が最集結した本作は、1999年の第56回ヴェネチア国際映画祭で緑の獅子賞を受賞しています。

映画『雨あがる』のあらすじとネタバレ

亨保時代。剣術の達人でありながら、世渡りが下手でなかなか仕官が決まらずにいる三沢伊兵衛(寺尾聰)。

彼には、仕官の口を求めて放浪の旅を続ける身にも関わらず、献身的に寄り添ってくれる心優しい妻・たよ(宮崎美子)がいる。

旅の途中、大雨によって川が氾濫し、足止めをくった二人は、ある宿場町にある木賃宿に逗留することにします。

そこには老若男女さまざまな性格の旅人たちがいて、雨があがるのをひたすら待っていました。

安宿で鬱々としている彼らを見兼ねた伊兵衛は、持ち前の親切心から賭け試合で都合してきた金を使って、美味しい食べ物と酒を振る舞い、元気づけようとします。

楽しい一夜の宴が明け、なまった身体を整えるために早朝の散歩に出て伊兵衛は、そこでう思いがけず侍たちの果たし合いの場面に遭遇してしまいます。

果たし合いは御法度であるため、ここでも親切心を発揮し、若侍たちの仲裁に入ります。

はじめこそ怪しまれた伊兵衛でしたが、そこへちょうどやってきた藩主永井和泉守重明(三船史郎)に行いを感心され、翌日城へ呼び出されます。

すると永井和泉守重明は、後任が見つからないでいた藩の剣術指南番の話を持ちかけるのです。

偶然の巡り合わせによって舞い込んできた大役に伊兵衛は心踊らせますが、慣例を重んじる頭の固い家老たちは猛反発。

正式な任命はお預けとなり、ひとまず御前試合によって判断されることになります。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『雨あがる』ネタバレ・結末の記載がございます。『雨あがる』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
御前試合の当日。

伊兵衛と一戦交えるはずの道場主たちが待てど暮らせど姿を現しません。

藩主永井和泉守重明は数名に相手をさせますが、伊兵衛の見事な腕にまったく歯がたちません。

そこでしびれを切らした重明は自ら相手をすると言い、臣下の者たちの制止を無視し、槍を持ち出します。

ところが、つい本気になってしまった伊兵衛は、重明を槍ごと池の中へ落とすという大失態をしてしまいます。

またしても仕官の口を棒に振ってしまったと伊兵衛は落胆します。

その帰り道、賭け試合で恨みを買った道場主の一団に襲われ、自身の刃にかけることはなかったものの、一人が重傷を追うという事態に。

数日後、伊兵衛の元に家老がやって来ますが、賭け試合が仇となり、仕官の話が破談になってしまいます。

隣席したたよは夫が何のために賭試合をしたかも分からずに判断を下した彼らを木偶の坊と非難。

そうして伊兵衛とたよは再び仕官の口を求めて放浪の旅に出立していきます。

しかし、後方には彼らを追ってきた藩主永井和泉守重明の姿がありました。

映画『雨あがる』の感想と評価

旧黒澤組が集結

参考映像:黒澤明監督『用心棒』(1961)

日本が世界に誇る巨匠黒澤明監督が亡くなったのは1998年のことでした。

しかしこの2000年公開の映画冒頭をみると、そこには紛れもない黒澤監督の画があり、驚かされます。

冒頭から、これぞ黒澤印の描写力と言わんばかりの雨が地上に激しく打ちつけるのです。

それもそのはず、未完のまま残された構想ノートを基に執筆された脚本の下には、撮影・上田正治(撮影協力には斎藤孝雄)、美術・村木与四郎、音楽・佐藤勝、監督補・野上照代と黒澤組が再集結し、長年黒澤監督の助手を務めた小泉堯史が監督を担当するという布陣なのですから。

主演の寺尾聰ももちろん旧黒澤組の出身。脇を固めるのが仲代達矢、井川比佐志という豪華さ。

さらに父三船敏郎譲りの豪快さを発揮する三船史郎の存在感というのもまたファンを大いに喜ばせます。

迫力ある描写

参考映像:『蜩ノ記』(2014)

その画面の力強さには目を見張ります。先述した冒頭の雨の描写。武士の歩行を捉えるドリー移動の勇ましい動き。

それは妥協のないスタッフたちの絶え間ない努力と、ワンショットに込めた映画への切実な思いがカタチとなったものです。

2000年代以降の日本映画から失われてしまったものとは、まさにそうした映画的な贅沢さでしょう。

そして見せ場となるのは、やはり殺陣の場面です。

寺尾聰の静謐な立ち回りには大変な緊張感があり、カメラはじりじりとした動きで張り付くようにその一挙手一投足を捉えていきます。

するりと足を切り返し、敵の急所を見極める正確さ。ここがズタズタと100人切りをあっという間にやってのけてしまう三船敏郎の立ち回りとは違うところで、観客は固唾を飲んで見守る他ありません。

父親さながらの三船史郎の怒声にも注目で、御前試合で藩主自ら槍を突き刺す場面での立ち回りは、まさに三船敏郎が幾度も演じてきた戦国の猛将の荒々しさを彷彿とさせ、凄みがあり、大きな見せ場になっています。

このようなダイナミックな描写の数々を演出する小泉堯史監督の手腕は本物の時代劇監督のものです。

本作での監督デビュー後も野心的な時代劇を多く発表していくことになります。

まとめ

本作で寺尾聰が演じた三沢伊兵衛という万年浪人は、貧しい人たちにはとくに優しい男でした。

その優しさが彼を浪人に止めてしまうのですが、そもそも浪人は浪人でいることが性分に合っているのです。

これは大方の時代劇のキャラクターに当てはまります。

ヒーローという存在はたとえどんな無頼漢であっても、腕っ節の強さに加えて人情味を兼ね備えているものです。

おそらく残された遺稿は、泥臭くも美しい人間の生き様を時代劇・現代劇問わずに描き続けた黒澤明監督らしい内容であったはずです。

助監督であった小泉堯史監督が師の思いを滲ませた本作『雨あがる』は、時代劇らしい気っ風のよさを感じさせるとともに、慎ましい武士の夫婦の絆を描いた人間味溢れる物語が、多くの映画ファンの胸の奥まで届いてゆくのではないでしょうか。

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