子どもとともに成長して行く親たち
突然、妻が失踪した事で、残された父親が家族と向き合う姿を描く映画『パパは奮闘中!』
2019年4月27日から、全国順次公開となる本作をご紹介します。
映画『パパは奮闘中!』の作品情報
【日本公開】
2019年4月27日(ベルギー・フランス合作映画)
【原題】
Nos Batailles
【監督・脚本】
ギョーム・セネズ
【脚本】
ラファエル・デプレシャン
【製作】
ダビド・ティオン・フィリップ・マルタン
【キャスト】
ロマン・デュリス、ロール・カラミー、レティシア・ドッシュ、ルーシー・ドゥベイ、バジル・グランバーガー、レナ・ジェラルド・ボス、サラ・ル・ピカール
【作品概要】
2018年の「カンヌ国際映画祭」「トリノ映画祭」「ハンブルグ国際映画祭」などで上映され、高い評価を受けた人間ドラマ。
仕事一筋だった父親と、母親に置き去りにされた子供たちが、共に苦難を乗り越えながら成長する姿を描いています。
脚本と監督は、長編映画初監督作『Keeper』(2015)が数々の映画祭で絶賛された、ギョーム・セネズ。
主演に、2017年の映画『ゲティ家の身代金』などに出演している、フランス映画を代表する俳優ロマン・デュリス。
映画『パパは奮闘中!』あらすじ
オンライン販売の倉庫で働くオリヴィエ。
彼は職場で必要な存在とされており、リーダーの役職に就いてます。
ですが、効率化を進めていく会社側の方針で、オリヴィエが長年一緒に働いていた仲間たちが、次々に解雇されていく現実を目の当たりにします。
オリヴィエは仲間を守ろうとし、職場環境の改善も目指して、職場の上司と対立しますが全く意見が通りません。
不満を抱えているオリヴィエですが、仕事も忙しく残業が続き、夜中に帰宅する事も増えていました。
オリヴィエの妻ローラは、息子のエリオットと娘のローズの子育てと、セレクトショップでの仕事を両立していました。
ですが、眠れない日々が続き、ローラはオリヴィエに相談しますが、オリヴィエは深刻には受け止めず出勤します。
出勤して仕事をしていたオリヴィエですが、学校から連絡が入り、2人の子どもを迎えに行くように告げられます。
子どもたちを送り迎えするはずのローラと、連絡が取れなくなったオリヴィエは、ローラがセレクトショップにも出勤していない事を知ります。
突然、行方不明になったローラ。
オリヴィエは、警察官の友人に相談し捜索をしてもらいますが、ローラの足取りは掴めません。
ベビーシッターを雇う余裕もないオリヴィエは、周囲の人間の協力を得ながら、仕事と子育てを両立させようとしますが、自分が子どもたちの事を何も知らなかったと実感します。
数日後、ローラから手紙が届きますが、逆上したオリヴィエは手紙を破き、子どもたちと亀裂が入ります。
これまで家族の事を考えていなかったオリヴィエと、ローラの失踪にショックを受けている子どもたち。
果たして、本当の家族になる事ができるのでしょうか?
父親の存在を問いかける作品
本作の監督ギョーム・セネズが離婚を経験し、仕事と子育てに向き合うようになった実体験から生まれた本作。
オリヴィエは一家の長として、仕事を優先させてきた結果、ローラ失踪後に家族の事を何も知らなかった事を思い知らされます。
子どもがお気に入りのシャツの事を話しても、何の事なのか分からず、寝かしつけるのも一苦労で苛立ちを隠せません。
ローラから手紙が届いた際には、母親からの手紙を喜ぶ子どもたちの目の前で、ローラの自分勝手さに怒りを感じ、手紙を破いてしまうという大人げない部分を見せます。
オリヴィエは、自身の大人げない部分を隠すように、家族の中では厳格であろうとしましたが、それが上手くいっていません。
また、オリヴィエ自身も、自分の父親に良い思い出を持っていません。
対して子育てを任されてきたローラは、優しさで子どもたちを包み込んできました。
彼らにとって、ローラの存在はオリヴィエ以上でしょう。
オリヴィエが戸惑っていたのは、子どもたちの中の、ローラの存在の大きさでもありました。
そんな子どもたちを置き去りにして、突然失踪したローラに「母親失格」と怒りを感じる人もいるでしょう。
しかし、男女平等が主張される現代で、母親が家を出るという自由も、本来なら認められて良いはずです。
母親が消えた事で、家族の中ではその存在感が増していく事は間違いありません。
そうなった時「父親はどうするのか?父親は、子供たちにとってどんな存在であるべきか?」と、本作は問いかけて来ます。
必死に生きるオリヴィエの姿に共感
ローラの失踪により、家庭の変化に戸惑うオリヴィエですが、本作では変化する社会に戸惑うオリヴィエの姿も描いています。
オリヴィエが勤務するオンライン販売の倉庫では、効率を重視するあまり、長年勤務している従業員の契約を次々に解除。
さらには暖房代を節約させる為、従業員は寒さに耐えながら働いています。
従業員を守る為の労働組合も、実質機能していません。
そんな中で、オリヴィエは長年一緒に働いてきた仲間を守ろうとしますが、自身の無力さを痛感する状況が続きます。
ローラ失踪後は、子どもたちの事も考えなければならず、精神的に余裕が無くなり、心配して訪ねてきた妹のベティにも、悪態をついてしまいます。
かつて自身が嫌っていた父親に言動が近づいている事に戸惑いながらも、良い父親であろうとし、職場の同僚の力になろうと奮闘するオリヴィエの姿は、共感する部分があり、感動的です。
映画後半で、ある決断を迫られるオリヴィエ。
それは、ローラとの決定的な別れとなる可能性があり、子どもたちと自身の置かれている状況の間で揺らぎます。
オリヴィエのラストの行動に、父親としての成長を感じるでしょう。
まとめ
本作『パパは奮闘中!』は、妻のローラが「何故、失踪したか?」を描くサスペンス的な映画ではなく、オリヴィエが子どもと向き合い、父親として成長する人間ドラマです。
作品内では、これまで家族の事を考えてこなかったオリヴィエや、家族を置き去りにし家出をしたローラの「どちらに問題があるか?」と判定を下す事はありません。
本作はどこの家庭でも起こり得る現実をシンプルに描いた作品となっています。
人間ドラマの部分を強調する為、あらかじめ用意していた台本を重視せず、その場で俳優達が出てきた言葉を採用する、アドリブ重視の演出と行っていたそう。
また、男性目線になりすぎないように、ギョーム・セネズ監督は女性の脚本家と共同で台本を作成しました。
そのため、オリヴィエを助けてくれる女性達の描写は、男性に都合が良すぎず、リアルな目線で描かれています。
変化する社会の中で、家族や社会はどのように変化し、何を残すべきなのでしょうか?
必死に毎日を生きるオリヴィエの姿から、様々なことを考えさせられる作品です。