2016年初頭に劇場公開されると、たちまち今年のベスト・テン入り作品だと話題になった作品をご紹介。
実話をもとに描いたピーター・チャン監督の『最愛の子』。
中国の抱えた社会問題を描きつつ、親子の絆を香港映画出身の監督らしい娯楽作品として楽しませてくれる映画です。
映画『最愛の子』の作品情報
【公開】
2016年(中国・香港)
【監督・製作】
ピーター・チャン
【キャスト】
ビッキー・チャオ、ホアン・ボーティ、トン・ダーウェイ、ハオ・レイ、チャン・イーハン、キティ・チャン
【映画の概要】
『ラヴソング』『ウォーロード 男たちの誓い』などで知られる香港映画のピーター・チャン監督の作品。
監督が偶然観ていた児童誘拐の報道番組がきっかけで、実話をもとに製作された映画だが、娯楽作としての質の高いエンターテーメント性が見られる作品です。
映画『最愛の子』のあらすじとネタバレ
新興都市である中国の深圳。その片隅にある路地でネットカフェを営んでいるティエン。
ティエンの息子ポンポンは、週に一度の母親との面会の日、別れを惜しむ元妻ジュアン…。
戻ってきたポンポンは、ティエンが、客との対応で目を離した隙に、近所の子が遊びに誘い出し店を出て行きます。
ポンポンは、偶然、帰っていく母親の車を見つけてその後を追いかけて行きます。
しかし、母親ジュアンの乗った車が停止することはありませんでした。
すると、物陰からポンポンは何者かによって連れ去られてしまいます。
ティエンは、一向に帰宅しないポンポンを心配して、警察に誘拐捜索の相談に行きます。
しかし、刑事は、失踪後24時間経たないと事件性があるとは言えないと門前払い。
ティエンは夜の街を必死にポンポンを探し歩きます。でも、見つかることはできませんでした。
やがて、ティエンは、テレビ番組で呼びかけをしたり、インターネットで情報提供を呼びかけます。
しかし、寄せられる情報は、偽の情報で誘拐された親をもてあそぶイタズラなどもあります。
中でも報酬金が目当ての犯罪に近いものまで、ティアンは巻き込まれてしまいます。
愛する息子ポンポンも見つからず、ティエンは、時間ばかりが過ぎていく中で苛立ちを隠せません。
一方で2年が経ち、元妻ジュアンは現在の夫から自分たちの子どもつくろうとせがまれます。
しかし、ポンポンのことが忘れられないジュアンは求めに応じません。
ある日、ティエンは、気落ちしていた元妻ジュアンを、行方不明の児童を探す親たちの被害者の会に誘います。
会の代表ハンを中心に、親たち全員がお互いを励ましながら、行方不明の子どもの手がかりを探していました。
元夫婦のティエンとジュアンも、同じような境遇の仲間の元に参加するようになっていくのです。
被害者の会では、独自に刑事からの情報収集や、収監された誘拐犯たちとも面会をしたり、自分たちの子どもの手掛かりは無いか必死で捜索して行きます…。
映画『最愛の子』の感想と評価
中国では公表されているだけで、年間1万人の子どもたちが行方不明となり、累計およそ20万人にも及ぶ子どもが誘拐されているといわれます。
この背景には、中国の急激な経済発展にともない生じた格差の構造が根底にあり、映画でも地域、民族、学歴、職業などの様々な格差を描いていきます。
また、この作品では、「赤色」が各所に散りばめられ、繰り返し登場します。
「赤」に対する、監督のこだわりと演出の意図を感じさせます。
冒頭の深圳に暮らす父親ティエンの赤いポロシャツに始まり、電線の目印の赤い紐、母親の自動車を追っていく少年ポンポンの後方にある赤い紐や、ポンポンの赤い靴、赤い風船…など、枚挙にいとまがありません。
「赤色」は、「愛情、勇気、勝利」を意味する一方、「危険、緊張、怒り、争い」を暗示します。
中国の国旗の地色「赤色」は、革命を意味します。
香港のピーター・チャン監督が、中国の社会問題をテーマに挑み、検閲の厳しい中国当局との交渉に苦労した末に完成させたこの作品。
映画にとって重要な色彩設計という表現1つは取り上げても、大きな意味があるように感じますね。
まとめ
実話をもとにしながらも、エンターテーメントとして見せる辺りは、香港映画を代表するチャン監督らしさを感じます。
香港映画の特徴は、ジャッキー・チェン映画や、カンフーアクションを思い起こせば、すぐにいくつか要素を挙げられると思います。
例えば、込み入った路地や狭い室内、逃走した際には必ず市場や食べ物、食堂がよく出てきます。
また、建物の屋上を逃げて走り、そこから飛び降りのも香港映画には欠かせない特徴といえます。
『最愛の子』の中でも、その特徴的なシーンはいくつか確認することが出来るのではないでしょうか。
また、作品の大きなテーマである、“生みの親と育ての親という問題”は、国家としての中国と特別地区である香港そのものように感じてなりません。
それらの“自分の意思で選んだ訳ではない状況や環境に揺れる子ども”は、国民そのもの姿ではないでしょうか。
この難しい問題を娯楽としての要素をふんだんに盛り込みながら、最後まで飽きさせずに見せるあたりには秀作。
そして、ピーター・チャン監督の確かな実力を感じられる作品になっています。
どなたも楽しみながら、深いヒューマンドラマを見つめる作品『最愛の子』。
ご覧になられたことのない方は、ぜひ観ていただいて損のないオススメの1本です。