Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ドキュメンタリー映画

Entry 2019/01/14
Update

映画『バスキア、10代最後のとき』あらすじネタバレと感想。天才アーティストに迫るドキュメンタリー

  • Writer :
  • 福山京子

アートを凌駕し、ファッションそして音楽をも刺激する天才アーティスト、バスキア。

没後30年を迎え、その秘密に迫るドキュメンタリー映画が誕生しました。

バスキアが注目を集める前の1970~80年代ニューヨークの社会やアートにスポットを当て、初期の秘蔵作品、影響を受けた詩や音楽などを交えながら、アーティストとして世界へ羽ばたいていく姿を映し出します。

映画『バスキア、10代最後のとき』の作品情報


(C)2017 Hells Kitten Productions, LLC. All rights reserved.
LICENSED by The Match Factory 2018 ALL RIGHTS RESERVED
Licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan
Photo by Bobby Grossman

【公開】
2018年(アメリカ映画)

【原題】
Boom for Real: The Late Teenage Years of Jean-Michel Basquiat

【監督】
サラ・ドライバー

【キャスト】
ジャン=ミシェル・バスキア、アレクシス・アドラー、ファブ・5・フレディ、ジム・ジャームッシュ、ケニー・シャーフ、アル・ディアス、リー・キュノネス、ジェームズ・ネアーズ、パトリシア・フィールド

【作品概要】
10代のバスキアに焦点を当てたのは、『豚が飛ぶとき』(1993)で独自の世界観を表したサラ・ドライバー監督。

彼女自身も、バスキア同様にニューヨークが変わる瞬間を生きた監督です。

2018年のバスキア没後30年を記念し、1978年から81年頃のニューヨークでバスキアが友人のアパートを転々としつつも、ストリートに作品を刻みつけていたバスキアに焦点を当て、天才アーティスト誕生の秘密に迫ります。

映画『バスキア、10代最後のとき』のあらすじとネタバレ


(C)2017 Hells Kitten Productions, LLC. All rights reserved.
LICENSED by The Match Factory 2018 ALL RIGHTS RESERVED
Licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan

1970年代のニューヨークのビル群。

その頃のニューヨークは財政が破綻し人々の生活水準が悪化、裕福な白人達は郊外へどんどん移住していました。

結果あちこちで暴力や犯罪が蔓延。

そんなニューヨーク・イーストヴィレッジに、一人の青年が夢と野望だけを抱えてやってきました。

彼こそが、ジャン=ミシェル・バスキア。

実家を飛び出して来た彼は、友達の家を転々と泊まり歩いていました。

無法地帯化したニューヨークは若者にとって、既成概念を破壊し、新しい時代を自らの手で創り出すビッグチャンスにあふれています。

ニューヨークのストリートでは、パンクロックやヒップホップ等の音楽、そしてファッション、文学やアート、揺れ動く政治と人種問題が日々目まぐるしく入れ代わっていました。

そして多くの若きアーティストたちが磁石に引き付けられるように集まります。

バスキアの元ガールフレンドのアレクシス・アドラーによると、絵画だけではなく部屋の冷蔵庫や壁、ドアそして外のゴミまでが彼の創り出すアート作品となっていました。

廃墟のような街並みの中、スプレーを持って、壁に高速で何かを描くバスキア。

色とりどりのメッセージとイラストが描かれた地下鉄が走ります。

バスキアは、グラフィティにこだわらず、詩や絵を組み合わせ新しいスタイルを生み出していました。

彼は友人アル・ディアスと“SAMO”というグラフィティアートのユニットを作ります。

攻撃的かつ観念的な詩は、人々の好奇心をそそり、ニューヨークの街で話題となりました。

バスキアは公共性の重要さを知っていたんです。

その後バスキアは音楽に夢中になります。

グラフィティ・アーティストでヒップホップMCも務めていたファブ・5・フレディとも、バスキアは親交を深めます。

バスキアとバンド“グレイ”を組んだアーティストのマイケル・ホフマンは、「彼はバンドの端っこで演奏していて、前に出なかった」と懐かしそうに話します。

さらにノイズ音楽にも興味を持っていたバスキア。

当時のバンドの映像も流れます。

バスキアはコラージュしたポストカードやペインティングしたTシャツを手作りして売り歩きました。

既製品の服にペインティングをし“マンメイド”というブランド名をつけて、ファッション・デザイナーであるパトリシア・フィールドの店でも販売。

ソーホーのレストランでバスキアがポストカードを売っていると、アンディ・ウォーホルが買ってくれました。

その頃ニューヨークのダウンタウンは、疲弊したビルが画家、ミュージシャン、彫刻家、パフォーマー、ダンサーなど若いアーティストの発信場所になっていました。

若者と年上のアーティストは刺激を受けあい、学び合うことができました。

毎晩のようにパーティーやクラブにアーティストが集まり、ドラッグも街中で当たり前のように売られていました。

ドラッグを友人と吸いながら話しているバスキアの姿が映ります。

以下、『バスキア、10代最後のとき』ネタバレ・結末の記載がございます。『バスキア、10代最後のとき』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2017 Hells Kitten Productions, LLC. All rights reserved.
LICENSED by The Match Factory 2018 ALL RIGHTS RESERVED
Licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan
Photo by Bobby Grossman

バスキアは出入りをしていたクラブで、キュレーターのディエゴ・コルテスと出会います。

コルテスに招かれ『タイムズ・スクエア・ショー』に参加。

大規模な展覧会で彼は、多くの有名なアーティストと知り合いになります。

そして同じ頃、映画監督のサラと彼女のパートナーの映画作家ジム・ジャームッシュと出会います。

「バスキアが何処かで盗んだんだと思うけど、彼女の元に走ってきて花束をプレゼントしたよ」と楽しそうに話すジム。

さらにコルテスに誘われ「ニューヨーク/ニューウェイヴ」展に参加し、次々と個展を開き作品を創り出します。

ニューヨークでのバスキアの評価がぐっと高まっていきます。

『ニューヨーク/ニューウェイヴ』展に参加した後、展覧会は長蛇の列ができるほどの大盛況を迎えました。

バスキアは大絶賛され、一躍時の人となっていきます。

彼はポストカードをきっかけに、裕福な白人が取り仕切るアートの世界に風穴を開けていきます。

しかし、ドラッグに侵されていた彼の身体。

それでもバスキアは夢を追い求め、混沌の80年代を“無邪気さ”を失わずに疾走していきました。

映画『バスキア、10代最後のとき』の感想と評価


(C)2017 Hells Kitten Productions, LLC. All rights reserved.
LICENSED by The Match Factory 2018 ALL RIGHTS RESERVED
Licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan

バスキアの生涯と魅力とは?

バスキアと聞いて思い浮かべるのは、ある日本企業の社長が、バスキアの絵『Untitled』を123億円で落札したニュース。

そのニュースが世界中を駆け巡ったことで、多くの人々がその画家を知りました。

『Untitled』には黒く塗りつぶされた頭蓋骨と、あまりの激しさと挑発的な荒さが描かれ、一度見たら忘れることができません。

それほどの衝撃を与えるバスキアの魅力とはどこにあるのか。

それを紐解くために、この映画ではバスキアの才能が開花し始める10代の頃を辿ります。

今や世界の資産家の垂涎の的となっているバスキアは、1988年27歳の時にヘロインの過剰摂取が原因でこの世を去りました。

ドラマティックな成功から早すぎる死に散ったその生涯。

ジュリアン・シュナーベル監督が劇映画『バスキア』(1996)で、タムラ・デイヴィス監督がドキュメンタリー映画『バスキアのすべて』(2010)で彼の生き様を描いてきました。

参考映像:ジュリアン・シュナーベル監督映画『バスキア』(1996)

アート界のスター、ジュリアン・シュナーベルはバスキアの親友でした。

初の映画監督作である『バスキア』で、親友のシュナーベルから見たバスキアの生涯を映画化しました。

ポップな演出とアートと音楽がマッチしているクールな映像。

また、ジェフリー・ライト、ベニチオ・デル・トロ、デビッド・ボウイ、デニス・ホッパー、ゲイリー・オールドマン、クリストファー・ウォーケン、ウィレム・デフォーという、今では考えられない程の豪華キャストです。

参加映像:タムラ・デイヴィス監督の映画『バスキアのすべて』(2010)

デイヴィス監督の『バスキアのすべて』は、有名アーティストの友人たちの言葉でつづられたドキュメンタリーです。

若くして才能を開花させ、著名人たちと交際するなど華やかな生活を謳歌しながら、一方で人種差別に苦悩していたバスキアの光と影が映し出されていました。

そして、本作『バスキア、10代最後のとき』は10代最後のバスキアを追うという、過去の2作とは全く異なるスタンスで撮っています。

グラフィティ・アートやその他の活動

SAMO

映画では、壁や地下鉄などの公共施設の場にスプレーで絵やメッセージや詩、記号などを描いていたバスキア。

バスキアとアーティストのディアスが組んだユニット“SAMO”が作り出すグラフィティ・アートは、新しい表現として認められていきました。

グレイ

アーティストのマイケル・ホフマンと結成したバンドで、バスキアはバンドの隅でもっぱらサックスやクラリネットを吹いていました。
 
当時クラブでは、ヒップホップやパンク、ノイズなど新しい音楽シーンが生み出され、多くのアーティストが交流し、アートと融合していきました。

マンメイド

「MANMAID(人工的)」という服飾のブランドを立ち上げます。

バスキアは、名前の如く既製品にペインティングしたり、コラージュしたポストカードを売り歩きました。

既存の価値観を取り去り、新しいものや表現を追求するバスキアの原点とも言える表現です。

バスキアが押し着せられた表現を払拭し、新しい表現を模索し掴み出した時代が、正に「10代、最後のとき」でした。

まとめ


(C)2017 Hells Kitten Productions, LLC. All rights reserved.
LICENSED by The Match Factory 2018 ALL RIGHTS RESERVED
Licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan

「必要なら、いかなる手段でも」という言葉が入ったポスターを、バスキアは部屋に飾っていました。

アフリカ系アメリカ人の公民権運動の活動家のマルコムXの言葉です。

「必要なら、いかなる手段でも」の言葉通り、野心と夢に突き進んだ“10代、最後のとき”のバスキア

現代でも既存の表現に満足せずに、新しいものを生み出してほしいという、バスキアの熱いメッセージを受け取りに行きませんか。

関連記事

ドキュメンタリー映画

映画『人生ドライブ』あらすじ感想と評価解説レビュー。熊本県民テレビ発のドキュメンタリーから見える“大家族の絆”

何が起こっても大事なものはここにある。 人生の悲しみも喜びも、思い出も10倍! 熊本県で暮らす岸家は、7男3女の大家族。泣いて笑って全力投球の岸家の21年間を追い続けたドキュメンタリー番組が、劇場上映 …

ドキュメンタリー映画

アート・オン・スクリーン『フィンセント・ファン・ゴッホ〜新たなる視点』ネタバレと感想

スクリーンから今までにないゴッホと出会えます。 20世紀の美術にも大きな影響力を及ぼし、ポスト印象派を代表するオランダの画家フィンセント・ファン・ゴッホの真の姿とは? ゴッホの悩ましくも輝ける人生を深 …

ドキュメンタリー映画

映画『キューブリックに魅せられた男』感想とレビュー評価。逸話を持つ巨匠にすべてを捧げた生き様

映画『キューブリックに魅せられた男』は2019年11月1日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかで、『キューブリックに愛された男』と全国カップリング上映! 没後20年、今なお伝説の巨匠として語り …

ドキュメンタリー映画

映画『アルツハイマーと僕 ~グレン・キャンベル音楽の奇跡』感想とレビュー評価。ミュージシャンの姿から見えるテーマとは

映画『アルツハイマーと僕 ~グレン・キャンベル 音楽の奇跡~』は2019年9月21日(土)より新宿シネマカリテ、有楽町スバル座ほかで全国ロードショー! 数々の音楽活動やさまざまなセッションで偉大な功績 …

ドキュメンタリー映画

映画『フジコ・ヘミングの時間』あらすじネタバレと感想。ラストの結末も

世界を魅了する美しい音色は、いかにして生み出されるのか? パリ、ニューヨーク、ブエノスアイレス、LA、ベルリン、東京、京都と、世界が熱狂したワールドツアーでの演奏、フジコの素顔と知られざるヒストリーを …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学