あなたは、お金とどう付き合っていますか?
お金で買えるもの。お金じゃ買えないもの。分かっているようで分かっていないお金のこと。
『億男』の原作は、2014年に雑誌『BRUTUS』で連載された後、刊行されてから4年で累計発行部数66万部を突破している、河村元気の同名小説です。
監督には、盛岡市が生んだ、時代劇から将棋の世界まで手がける大友啓史。
宝くじで3億円を当てた男が、消えた3億円と友人を探すうちに「お金と幸せの答え」を導き出して行くストーリー。5人の億万長者の「お金と幸せの答え」とは?
『億男』の原作と映画の違いを比較しながら、その答えを探っていきましょう。
映画『億男』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
【脚本・監督】
大友啓史
【原作】
川村元気
【キャスト】
佐藤健、高橋一生、黒木華、池田エライザ、沢尻エリカ、北村一輝、藤原竜也
【作品概要】
映画プロデューサーで小説家の川村元気の人気小説『億男』を、『るろうに剣心』『ミュージアム』『3月のライオン』と話題作が続く大友啓史監督が実写映画化。
5人の億万長者には、主人公・一男役の佐藤健をはじめ、高橋一生、沢尻エリカ、北村一輝、藤原竜也と豪華キャストが勢揃い。
お金とは?幸せとは?日々お金を使って生きているすべての人に問いかける。新感覚マネーエンターテイメント。
映画『億男』のあらすじとネタバレ
豪華で下品なパーティーに、一人どこか浮いている男がいます。
宝くじで3億を当てた男、一男(佐藤健)です。
一男は、兄が残した3千万円の借金返済に追われ、妻と娘と別居し、昼も夜もなく働く余裕のない生活をしていました。
3億円を手にしたものの、使い道に不安を抱いた一男は、起業して億万長者になった大学時代の親友、九十九(高橋一生)を訪ねます。
九十九は「お金を理解するためにまず使ってみよう」と豪華パーティーを開催します。
パーティーには、お金の匂いに集まった「金の亡者たち」が狂ったように踊っています。
次第に一男も気分が高まります。これが金持ちか。
酔いつぶれた一男が次に目を覚ますと、九十九と3億円が消えていました。
一男は、消えた九十九と3億円を探すために、パーティーで知り合ったあきら(池田エライザ)に連絡を取ります。
あきらの紹介で、かつて九十九と企業した仲間たち、3人の億万長者たちと会うことにした一男。
その出会いは一男にとって、「お金と幸せの答え」を導き出してくれるものでした。
『億男』映画と原作の違い
原作『億男』を忠実に再現した映画版『億男』。
『億男』には宝くじで3億当たった男・一男を含め、5人の億万長者が登場します。一男の他には、九十九、十和子、百瀬、千住です。5人とも名前に数字が入っています。
それぞれのキャスティングが、ドハマりです。原作のキャラをかなりデフォルメされていますが、それもまた面白い。原作を読んだ人にこそ見てもらいたいです。
さて、一男は、消えた3億円と九十九を探すために九十九の元仕事仲間を訪ね歩きます。原作と映画では訪ねる順番が違っています。それぞれの億万長者との出会いを辿って、原作と映画の違いをみていきましょう。
十和子の愛
一男が九十九を探して初めに訪ねる人物は、映画だと百瀬ですが、原作だと十和子が最初です。
九十九が立ち上げた会社「バイカム」で広報IR担当だった十和子は、団地で質素な暮らしをしていました。
美しい容姿で、愛とお金を切り離せなくなった十和子は、現在お金に縛られない愛を手に入れ穏やかに暮らしていました。12億は家の壁に隠され、そこにあるという安心だけを得る存在となっています。
映画では十和子の夫は登場しませんが、原作だと夫が登場します。
十和子の夫は、一男に帰りの車で打ち明けます。「実はお金の存在を知っている。知らないふりをし続けることが、僕の愛し方だ」と。
車のカーラジオからは、ポール・マッカートニーの「Can’t buy me love」が流れています。
「お金で愛は買えないと誰もが信じようとしている。果たしてそうだろうか?きっとお金で愛も心も買える。だからこそ僕らはお金では買えない愛や心を探している」
お金で買える愛と買えない愛の違いを知った十和子。十和子の「お金と幸せの答え」は今の暮らしにありました。
百瀬の賭
原作で十和子の次に一男が会いに行くのは百瀬の所です。百瀬は「バイカム」で、CTO(最高技術責任者)のスーパーエンジニアでした。
百瀬は賭け事の世界で生きていました。競馬で1億の金が動く様を疑似体験させられた一男。
原作ではその後、百瀬はリムジンで一男をバイト先のパン工場まで送ります。車の中で、九十九との関係を話す百瀬。
九十九の会社「バイカム」に入ったとき、なんで自分なのか?と聞いた百瀬に、九十九は「勘」だと答えます。「人を信じる時に、そこに計算はないはず。信用は不確実で不合理だ。でも、君を信じたい。君に賭けたい。それは勘としか言えない」と。
何かに賭けるという行為は、信じることと一緒だと教えてくれます。
信じたいものがある。信じたい人がいる。そのためにお金を賭けたいと思う。百瀬の「お金と幸せの答え」がそこにありました。
千住の罪
原作で、最後に会うのは千住です。千住は「バイカム」でCFO(最高財務責任者)でした。
彼は、マネーアドバイザーであり「ミリオネアニューワールド」の教祖となっていました。
「お金が無限にあるとしたら、あなたは何をしますか?」
借金返済、大きな家、世界旅行、皆が揃って同じような茫洋とした夢や欲望のために、お金を欲しがります。
千住はそんな参加者へ「お金に心まで支配されてはダメです。お金を捨て、お金から解放されなさい。そうすれば、あなたの夢は絶対に叶いま~す!」と言い聞かせます。
「絶対に叶いま~す!」この言葉。原作では「金持ちになるために生まれてきた!」となっています。
また原作では、千住は一男を「プライベートセッション」と題し、小さな演芸場に呼び出します。
そこは、九十九と千住がよく落語を見に来ていた場所でした。九十九との関係を話し出す千住。
友人を亡くした喪失感で世界中を旅していた千住は、お金が底をつき、自分は目的がなく彷徨っていたことに気付きます。
日本に戻り、九十九に出会ったことで千住は、再び人との信頼関係を築くことができました。
しかしお金が増えるにつれ、贅沢な暮らしに溺れていきます。
バイカムの売却話が出た時、千住は目先の金にくらみ、九十九を裏切ってしまいます。
お金に魂を売り、それ以上に大切な信用を売ってしまった。その後、千住はお金の使い方がわからなくなり、実態のない紙と神に憑りつかれたままでした。
壇上では落語の『死神』が幕を閉じます。
千住の「お金と幸せの答え」は、後悔という名の罪を背負ったまま、見つけられずにいました。
原作にないキャラ
映画『億男』には、原作にないキャラがいます。池田エライザ演じる、あきらです。
あきらは、男を「億男」と「雑魚」に分け、持っているお金で付き合いを決めています。
映画での彼女の存在は、本当にこんな女性いそう。と思ってしまうほどリアルです。
散りばめられたお金の哲学
映画では落語の『芝浜』だけが付箋として登場しますが、原作では『死神』もしかり、様々なお金にまつわる「金言」が登場します。
原作の中で『芝浜』と同じぐらい重要な付箋として登場するのが、チャップリンの言葉です。
「人生に必要なもの。それは勇気と想像力と、ほんの少しのお金さ」
想像力を持ち、世界のルールを知る。そして勇気を持って踏み込む。それさえあれば、ほんの少しのお金で十分。億万長者となった彼の言葉は、お金と幸せの答えをよく知っている者のセリフでした。
その他にも、「うまくお金を使うことは、それを稼ぐのと同じくらい難しい」byビル・ゲイツ
「金持ちがそのお金をどのように使うのか分かるまで、その人間を褒めてはいけない」byソクラテス
「富は海の水に似ている。それを飲めば飲むほど喉が渇いていく」byショーペンハウアー
お金に関する哲学が散りばめられた原作は、金言書としても楽しめます。
まとめ
『億男』の原作と映画の違いをご紹介しました。
巷には、「お金の稼ぎ方」「お金の増やし方」なる、ビジネス本が溢れている中、お金と幸せの関係について指南する本は少ないのではないでしょうか。
原作者の川村元気は、この小説を書くために、10億円以上持っている本物の億万長者を100人以上取材しました。登場人物のモデルは実在する億万長者がベースになっています。
リアルにこだわった小説が実写映画化で、エンターテイメント性が加わりパワーアップされた『億男』
宝くじに当たった時のために、見ていて損はありません。