連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第97回
今回紹介するのは、2026年10月3日(金)よりシアター・イメージフォーラムほか全国公開の『プーチンの愛国教室』。
ウクライナ侵攻後からロシアで強制的に進められた愛国教育の全貌を映し、2026年の第98回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞に輝いた衝撃作です。
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映画『プーチンの愛国教室』の作品情報

© 2025 made in copenhagen Aps, Pink Productions s.r.o.
【日本公開】
2026年(デンマーク・チェコ合作映画)
【原題】
Mr. Nobody Against Putin
【監督】
デヴィッド・ボレンスタイン、パヴェル・タランキン
【製作】
ヘレ・フェイバー、ラドヴァン・スィーブルト、アルジュビェタ・カラースコヴァー、ペトラ・ドベショヴァー
【脚本】
デヴィッド・ボレンスタイン
【撮影】
パヴェル・タランキンほか匿名
【編集】
ニコライ・モンベウ、レベッカ・ロンキビスト
【音楽】
ミハル・ラタイ、ヨナス・シュトゥルク
【作品概要】
ウクライナ侵攻後からロシアで行われていた愛国教育の現場を、教員パヴェル・タランキンのカメラが捉えたドキュメンタリー。
撮影後にロシアから亡命したパヴェルと、デンマークを拠点に活動するアメリカ人ドキュメンタリー作家のデヴィッド・ボレンスタインが共同で監督を務めました。
2026年の第98回アカデミー賞にて長編ドキュメンタリー賞を受賞。
日本では2026年にNHK BS『BS世界のドキュメンタリー』で「名もなき反逆者 ロシア 愛国教育の現場で(前後編)」のタイトルで放映され、同年10月に劇場公開となりました。
映画『プーチンの愛国教室』のあらすじ

(C) 2025 made in copenhagen Aps, Pink Productions s.r.o.
ロシアの小さな町カラバシュの小学校で教員を務めるパヴェル・タランキンは、学童たちの授業風景を撮影する日々を送っていました。
しかし2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻が始まると、プーチン大統領は子どもたちを「未来の兵士」として育てるため、戦争を賛美し参加するよう学校で教える「愛国教育」の導入を発令。
和やかだった学校からは笑顔が無くなり、子どもたちは戦時教育に染められ、卒業生たちは戦地へ送られていく……。
パヴェルのカメラは、そのすべてを克明に記録していきます。
「1人の愚か者に世界中が脅かされている」

(C) 2025 made in copenhagen Aps, Pink Productions s.r.o.
本作『プーチンの愛国教室』は、ロシア・ウラル山脈の麓にある町カラバシュの初等・中等学校(6歳から17~18歳)でイベント企画・撮影の担当教員パヴェル・“パーシャ”・タランキンが主人公。
「この仕事の魅力は、生徒を支えられること」とする彼は、生徒たちの学校生活をビデオカメラに収めつつ、一緒にアートやお喋りを楽しむ日々を送っていました。
「世界で最も汚染された街」とユネスコに評され、物珍しさから各地から見物人やYouTuberがやってくる田舎町カラバシュ。それでも町民たちにとって、そこは何気ない日常でした。
しかし2022年2月24日、プーチン大統領が「ウクライナのファシズム化やNATOの拡大から国民を守るため」と称し、ウクライナへの侵攻を開始。戦争を“是”とし、積極的に支持するよう生徒に教え込む「愛国教育」の導入を、新たな国家方針として発令します。
「1人の愚か者に世界中が脅かされている」――自由と民主主義、そして教職を心から愛するパヴェルは、ビデオカメラを表向きは子供たちの成長を記録するため、その実は愛国プロパガンダの実情を映すツールに変えていきます。
「Z」に抗う「X」

(C) 2025 made in copenhagen Aps, Pink Productions s.r.o.
パヴェルが撮った映像は、侵攻後に急速に変化していく教育現場を捉えます。
教師たちは国家からの教育令への対応を求められ戸惑う。軍服を模した衣装を身にまとった生徒たちは国旗掲揚や国歌斉唱を指導されるも、幼い彼らにはその真意を分かりかねていない。
新しく使用される教科書に書かれた用語を上手く発せない同僚に指示を出し、再撮影するパヴェル。もちろんそれは彼の意志ではなく、撮影した映像を国に提出・報告する義務があるからです。
教師の中には、プーチンの教育令に心酔して子どもたちに愛国心を教え込む者も現れ、徐々に町中には、侵攻のシンボル「Z」のマークが溢れていく。
笑顔に満ちていた学校から笑顔が消え、渇いた非日常へと変わっていく現状に、パヴェルは自撮りするカメラの前で嘆き、悲しみます。
とりわけ悲しい思いにさせるのは、年長者となった教え子たちが兵士として戦場に送られること。丸刈りにされた彼らもまた、ウクライナ侵攻の真意を分かりかねていません。

(C) 2025 made in copenhagen Aps, Pink Productions s.r.o.
当コラムで取り上げた『プーチンより愛を込めて』(2023)では、1999年12月31日にプーチンがロシア大統領代行に就任してからの1年間を追っていますが、その中で彼は、「国民の大半はソ連時代を懐かしく思っている」と断言しています。
ロシアを旧ソ連時代に戻そうとしているプーチン。ウクライナ侵攻の真意が、この言葉に集約されているのは言うまでもありません。
やがてパヴェルの学校にも前線から戻った傭兵たち(元囚人なども含む)が訪れ、生徒たちに地雷の扱い方や銃の撃ち方を教えるようになり、ついには手榴弾投げコンテストなる行事まで開かれてしまう。
ロシアの男性に兵役訓練が義務付けられているのは18歳からだったはずなのに、幼き子どもが銃を持たせられている――露骨な戦争批判を避けていたパヴェルも、たまらず校内のガラス窓にテープで「X」のマークを施します。それは、反戦のシンボルです。
2023年、ロシアでは過去7年間で最多とされる約20万人の教師が辞職。次第に身の危険を感じたパヴェルも、2年間かけて母校の変容をカメラに収めたのち、同僚や生徒たちに何も告げぬまま母国を脱出しています。
ロシアでは上映禁止となっている本作。パヴェルによると、学校にFSB(連邦保安庁)の人間が訪れ、「パヴェルという人物は存在しなかったし、この映画も存在しなかった。
この映画についての一切のコメントも、この人物に電話もメッセージも送るな」と厳命したとか。
ウクライナ侵攻以来、ロシア政府は学校の教科書からウクライナやキーウに関する記述を削除するよう求めているといいます。
ウクライナ人監督ミスティスラフ・チェルノフは、「ウクライナという国を人々の記憶から消させないため」と、『戦場0地点』(2026)を撮りました。
本作の原題は『Mr. Nobody Against Putin』。「何者でもない」パーシャもまた、本作を「未来への記録、報告だ」と語ります。
次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューのほか、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)






































