連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第96回
今回紹介するのは、2026年9月4日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開の『戦場0地点』。
第96回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞受賞作『マリウポリの20日間』(2024)のミスティスラフ・チェルノフ監督が、ロシア軍に占領された村を奪還するウクライナ軍小隊に同行した、緊迫の1本です。
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映画『戦場0地点』の作品情報

(C)2024 Dogwoof
【日本公開】
2026年(ウクライナ映画)
【原題】
2000 Meters to Andriivka
【監督・脚本・撮影】
ミスティスラフ・チェルノフ
【製作】
ミシェル・マイズナー、ラニー・アロンソン=ラス
【共同製作・追加撮影】
アレックス・バベンコ
【音楽】
サム・スレイター
【作品概要】
第96回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を獲得した、『マリウポリの20日間』のミスティスラフ・チェルノフ監督最新作。
2023年に、監督自らウクライナ軍第3強襲旅団の小隊に同行し、ロシア軍に占領されたアンドリーウカ村の奪還作戦を記録しました。
2025年の第41回サンダンス映画祭のワールドシネマ・ドキュメンタリー部門にて監督賞を受賞したほか、第98回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門でウクライナ代表に選出されました。
映画『戦場0地点』のあらすじ

(C)2024 Dogwoof
2023年、『マリウポリの20日間』のミスティスラフ・チェルノフ監督はウクライナ軍第3強襲旅団の小隊に同行し、ロシア軍に占領されたアンドリーウカ村の奪還作戦を記録。
2000メートル先に位置するアンドリーウカ村を目指す兵士たちは、死と隣り合わせの極限の道のりを、身を潜めながら前進。
兵士たちと行動を共にしながら、チェルノフ監督は激しい銃撃戦やドローンによる襲撃、絶え間なく降り注ぐ砲弾や荒廃した大地に横たわる戦死体など、ニュース映像だけでは決して伝わらない戦場の現実を生々しく映します。
ウクライナの尊厳や記憶を取り戻す戦い

(C)2024 Dogwoof
2022年2月にロシアによる侵攻を受けたウクライナ東部にある街マリウポリ壊滅までの20日間を記録した『マリウポリの20日間』で、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を獲得したミスティスラフ・チェルノフ監督。
『マリウポリの20日間』の上映で世界各国を飛ぶ一方で、ウクライナに戻って前線での反攻作戦を撮影。
そしてまた海外に戻って上映に参加するという日常を繰り返していた監督は、2022年11月にロシア軍に占領されたウクライナ東部・ドネツク州の小さな村・アンドリーウカの奪回に動くウクライナ軍強襲旅団に密着しました。
『マリウポリの20日間』で、ウクライナの人々が家や家族、子どもや友人を失う悲しみを描いた反動として、本作『戦場0地点』では逆の方向の視点である、「すべてを失った人々が、それでも立ち上がり、戦い、取り戻そうとする姿。家だけでなく記憶や尊厳も取り戻す姿」に重きを置いています。
「観客を戦場に招く以上、ただ見せるのではなく『体験』させたい。塹壕という異世界のような場所で、兵士たちと同じ距離に立たせたかった」というその映像は、誰も見たことのないウクライナ侵攻の最前線を活写しています。
“死”が歩いている距離
(C)2024 Dogwoof
2023年9月、アンドリーウカ村までの2000メートルを進むウクライナ兵たち。2キロといえば、歩いても1時間とかからない距離。
しかしその道程には、銃撃、爆撃、上空からのドローン攻撃など、ありとあらゆるロシア軍の攻撃が待ち構えています。1時間どころか数日かけて身を潜めながら前進し、村に近づくにつれ危険度が増していきます。
映像の大半は、兵士たちのヘルメットカメラやドローンによって占められています。ヘルメットカメラで記録するのは、戦闘分析や負傷の原因や戦術を検証するためですが、本作においては前述のように、「観客に戦場を『体験』させる」効果もあります。
ウクライナ兵の多くは、戦争が始まる前は平穏な日常を生きていた者たち。塹壕の中で彼らは、学生時の思い出や前職について、家族を持つ者は家のトイレ修理についてなど、過去の経歴や終戦後にやりたいことを、冗談を交えて語ります。
「あの環境では、人との距離はすぐに縮まる」と語るチェルノフ監督はこうも続けます、「爆撃やドローン、銃撃の中では、すぐそばを“死”が歩いている」。
母国のために志願して銃を取った彼らが、“死”に捕まってしまう――それは監督と会話を交わした数ヶ月後、またはわずかその数分後と起こってしまう酷さ。戦前にはそれぞれの日常を生きていたはずの人間を、記憶させていきます。

(C)2024 Dogwoof
ウクライナ兵に捕らえられ、「19歳の夢が『戦争に行きたい』だと思うか? なぜここに来た?」と尋ねられるも、「理由は分からない…」としか言えないロシア兵。
ロシアは一体何のために戦っているのか? 地図上からウクライナの街を消すためなのか?
アカデミー賞授賞式で、「映画は記憶を形成し、記憶は歴史を形成する」とスピーチしたチェルノフ監督。ウクライナという国を人々の記憶から消させぬよう、「ウクライナ人は生きるために戦う」姿が本作にはあります。
次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューのほか、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)


































