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Entry 2018/04/22
Update

映画『女は二度決断する』あらすじネタバレ感想とラスト結末考察解説。ダイアン・クルーガー演じる母の絶望の決断を“水”と“血”から読み解く

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

絶望の中、彼女がくだす決断とは──。

世界三大映画祭で映画賞を受賞したファティ・アキン監督と、『イングロリアス・バスターズ』や『戦場のアリア』に出演した女優ダイアン・クルーガーがタッグを組んだ映画『女は二度決断する』。

極右組織によってドイツ各地で起こったトルコ系移民に対する殺人・テロ事件を背景に、理不尽にも愛する家族を失った女性の苦難と絶望を描き出します。

女優ダイアンの演技を深く堪能できる映画であり、第70回カンヌ国際映画祭・女優賞を受賞した『女は二度決断する』を紹介します。

映画『女は二度決断する』の作品情報


(C)2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions, Pathe Production, corazon international GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH

【公開】
2018年(ドイツ映画)

【原題】
Aus dem Nichts

【脚本・監督】
ファティ・アキン

【キャスト】
ダイアン・クルーガー、デニス・モシット、ヨハネス・クリシュ、サミア・シャンクラン、ヌーマン・アチャル、ヘニング・ペカー、ウルリッヒ・トゥクール、ラファエル・サンタナ、ハンナ・ヒルスドルフ、ウルリッヒ・ブラントホフ、ハルトムート・ロート、ヤニス・エコノミデス、カリン・ノイハウザー、ウーベ・ローデ、アシム・デミレル、アイセル・イシジャン

【作品概要】
監督は、『愛より強く』『そして、私たちは愛に帰る』『ソウル・キッチン』で世界三大映画祭(カンヌ、ヴェネチア、ベルリン)にて賞を獲得したファティ・アキン。

主演にダイアン・クルーガーを迎え、突如として愛する家族を奪われた女性が辿り着く“絶望の決断”を描いた本作も、2017年に第70回カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞しました。

映画『女は二度決断する』のあらすじとネタバレ


(C)2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions, Pathe Production, corazon international GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH

第Ⅰ部「家族」

ドイツ、ハンブルク。ドイツ人のカティヤとトルコ系移民のヌーリは、カティヤが学生の頃に出会います。

かつてヌーリは麻薬売買の罪を犯していましたが、刑務所で罪を償ったのちにカティヤと結婚。

その後、ヌーリは愛息ロッコが産まれると子煩悩になり、トルコ人街で在住外国人を商売相手としたコンサルタント会社を始めます。カティヤも会社の経理を務め、3人の家族は細やかながらも幸せな日々を送っていました。

ある日、カティヤは親友とスパに出かけるため、ヌーリの事務所に息子ロッコを預けます。

変わらぬに日常の中、夫と息子に別れを告げ、事務所から出たカティヤ。すると、鍵もかけずに新品の自転車をその場に置いて去ろうとする、若い女性を見かけます。

カティヤは「鍵をかけないと盗まれちゃうわよ」と声をかけましたが、若い女性は「すぐ戻るの」と立ち去っていきました。

ゆったりとスパでくつろぐカティヤは、親友に新しく脇腹に入れた“侍”のタトゥーを見せながら「これを入れるのが最後だ」と言い、ヌーリがそれを嫌がっていることを説明します。

夕方、スパでのリフレッシュを終えて、息子ロッコの待つヌーリの事務所に向かうカティヤ。ところが、事務所の前になぜか人だかりができているほか、規制線が引かれ、複数のパトカーも止まっていました。

嫌な予感にカティヤの鼓動が早まります。野次馬たちや警察官を掻き分けながらも「何があったの」と尋ねると、誰かが「爆発事故だ」と答えました。

思わず駆け出したカティヤの目に入ったのは、焼け焦げたヌーリの事務所と瓦礫の山。

ヌーリとロッコの安否に不安を抱くカティヤですが、警察に案内されるがまま、爆破事件に巻き込まれた人たちがいる救護所へと案内されます。しかし、どこにも夫と息子の姿は見つからず、「男性と子どもが1名ずつ死亡しており、身元確認を進めている」とだけ伝えられます。

爆破事件の捜査をする刑事とともに、カティヤは自宅へと帰宅。洗面所にあったヌーリと息子ロッコの歯ブラシを、例の遺体のDNA鑑定のために刑事へ預けます。

DNA鑑定の結果、発見された遺体はヌーリとロッコであると判明。刑事からその報告を受けたカティヤは泣き崩れ、心配して駆けつけた家族や友人の前も嗚咽を漏らします。

突然の状況に何も考えられないカティヤですが、事件の真相を突き止めようとする刑事に促され、手がかりになる情報を見つけるための聴取を受けること。

「夫は熱心なイスラム教徒だったか」「夫はクルド人か」「政治的な活動はしていなかったか」「敵はいなかったか」……聴取での質問はいずれも、ヌーリ自身に事件を引き起こした原因があるかのような内容でした。

「ヌーリには麻薬売買の前科がある」という情報をすでに得ていた刑事は、「ヌーリは闇社会とつながっていて、今回の事件は彼が闇社会の人間との抗争の中で起きたもの」と見立てた上で捜査を進めていたのです。

人種と過去への偏見に基づく刑事の聴取に嫌気が差すカティヤは、愛する2人の命を奪ったのは、排外主義に基づいて移民へのヘイト・クライムを続けるネオナチではないかと推測します。

そして彼女は、事件発生の少し前に遭遇した若い女性のことを思い出し、彼女が置いていった自転車の荷台には「箱」が載っていたことを伝えましたが、刑事はその言葉を聞き流しました。

翌日、知人の弁護士ダニーロの事務所を訪ねたカティヤは「夫ヌーリは闇社会の人間に恨みを持たれていたのではなく、息子ロッコとともに、ネオナチによるテロ事件に巻き込まれたのだ」と主張します。ダニーロは協力を約束した上で、「少しでも悲しみが癒せれば」とカティヤに薬物を渡しました。

いつまでも深い悲しみのように降りしきる雨の中、自宅に戻ったカティヤ。そして、最愛の夫ヌーリと息子ロッコが奪われた悲しみを紛れるかもしれないと、薬物を服用してしまいます。

すると突然、捜査令状を持った刑事たちがカティヤの自宅に入ってきます。それは「死亡したヌーリが、出所後も麻薬売買を続けていた」という証拠を見つけるための家宅捜索であり、やがて刑事たちはカティヤが服用していた薬物を発見しました。

カティヤは物的証拠となる薬物は、ヌーリのものではなく自分のものだと自供。その様子を心配そうに見守っていたカティヤの母親は「ヌーリのだと言えばよかったのに」と言いますが、カティヤはそれに不満を見せます。

ヌーリとロッコの葬式では、ヌーリの両親から「あなたがスパに行かなければ、ロッコだけは死ななくて済んだのに」と責められたカティヤ。

最愛の家族を失った悲しみ、そしてヌーリの両親、ヌーリの人種や過去への偏見に満ちた刑事たちと自身の母からの心ない言葉を浴び続けたカティヤは、自宅の温かいバスタブへと浸かります。自殺のために切った手首から流れる鮮血は、湯に混ざり続けていました。

すると、スマホに連絡が。それは、爆破事件の容疑者が逮捕されたという報せでした。

以下、『女は二度決断する』ネタバレ・結末の記載がございます。『女は二度決断する』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

第Ⅱ部「正義」


(C)2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions, Pathe Production, corazon international GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH

事件の有力な容疑者として逮捕されたアンドレ・メラーとエダの夫妻はネオナチでした。またエダは、事件発生の前にカティヤが目撃した自転車の女性その人でした。

事件を起こした後も仲むつまじさを見せる2人を、法廷で凝視するカティヤ。彼女の横には、弁護士ダニーロも一緒に出廷しています。

容疑者夫妻の弁護を担当するハーバーベック弁護士は、裁判の主導権を握ろうと次々に戦略的な仕掛けを繰り出し続けます。カティヤとダニーロは何とか切り抜けますが、裁判の流れは悪くなる一方でした。

その中で、容疑者アンドレの父ユルゲンが証人として出廷します。彼は息子アンドレが自宅ガレージに買い貯めていた肥料や釘などが、報道で知った事件に使用された爆弾の材料と一致したことから、今回の事件は息子アンドレの犯行だと察して警察に通報したと証言しました。

しかしハーバーベックは、ガレージの戸締りに使用されていた鍵の在り処は粗末なものであり、「容疑者以外の第三者がガレージに入って爆弾を作った可能性」が現時点では否定できないことを指摘しました。

それでもユルゲンは、息子アンドレの犯行を確信していました。彼はカティヤの方に振り返ると、息子の過ちへの深い謝罪の思いを彼女に伝えました。

今度は、爆破事件を捜査する刑事が証言台に立ちます。ガレージから押収した肥料や釘に残されたは特定不能な指紋がもう一つ検出されたという刑事の証言は、ハーバーベックの「第三者によって爆弾が作られた可能性」を後押ししました。

別の日の公判、ギリシャにあるホテルを経営するマルキスが証言台に。彼は事件当日にメラー夫妻がホテルに宿泊していたために犯行は不可能だったことを証言し、証拠品としてメラー夫妻がサインを残した宿泊台帳も提出しました。

しかしダニーロは、マルキスがギリシャの極右政党に属するメンバーであり、夫妻ともSNS上で関係があったことを指摘。夫妻のアリバイ工作に加担している可能性を主張しました。

夫妻のアリバイは崩れ、、法廷内に被害者の関係者から歓喜の声と拍手が上がります。ハーバーベックは、ぐうの音も出ない表情を浮かべます。


(C)2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions, Pathe Production, corazon international GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH

また別の日の公判にて、いよいよカティヤが証言台に立つことに。彼女は事件発生の前に目撃した自転車の女性とエダが、同一人物であることを証言しました。

しかしハーバーベックは、カティヤの証言を潰しにかかります。

彼はヌーリが麻薬売買の罪で服役した事実を確認した上で、カティヤが爆破事件の後に薬物を服用していたことを刑事に自供した事実を指摘。そしてカティヤが薬物依存者であった可能性と、彼女の目撃証言は薬物依存者特有の「幻覚」や「虚言」の類だったと主張し始めたのです。

カティヤの薬物検査を要請するハーパーベック。ダニーロはハーバーベックによる裁判の議題の巧みにすり替えと、被害者遺族を容疑者のように扱うような行為に抗議した上で、薬物検査も拒否してしまいました。

やがて下された、事件の判決。そこに、カティヤの待ち望んだ“法の裁き”はありませんでした。

薬物検査が行われなかったことで、カティヤの目撃証言は「信ぴょう性が低い」と裁判上で扱われ、容疑者のメラー夫妻は「疑わしきは罰せず」という法律の原則のもと無罪となりました。

第Ⅲ部「海」


(C)2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions, Pathe Production, corazon international GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH

裁判に勝訴し釈放されたメラー夫妻は、国から得た補償金による休暇を楽しむ様子をSNSにアップします。また写真画像には、証言台に立ったマルキスも写っていました。

カティヤの苦悩を嘲笑うかのような振る舞いをするメラー夫妻。彼らの居所の足どりを突き止めようと、カティヤは単身ギリシャへ乗り込みました。

海沿いのホテルを借りたカティヤは。さっそく裁判の資料を手がかりに、マルキスが経営するホテルを見つけ出すと、そこへと向かいました。

なかなか勇気を出して、ホテルに踏み込むことのできないカティヤ。時間だけが虚しく過ぎていきます。すると、車に乗ったマルキスがホテルを後にする様子を目撃しました。

ホテル内に侵入するカティヤ。フロントの奥にいた女性従業員に声をかけられてしまった彼女は、「ホテルの利用客に、自分と友人であるドイツ人が泊まっているか知りたい」とスマホでメラー夫妻の写真画像を見せました。

「ギリシャ人しか利用していない」と答える女性従業員。カティヤはその場を後にしますが、不審に思った女性従業員は彼女を追うと「電話番号と名前を控えさせてほしい」と尋ねました。

カティヤは嘘の名前、嘘のスマホの電話番号を伝えます。すぐに女従業員は電話をかけましたが、呼び出し音が鳴るはずもありません。

その時、異変に気づいたマルキスが車から降りて引き返してきました。手にバールが握っていた彼はそのままマティヤに襲いかかり、彼女は必死に車を走らせ逃げ出しました。


(C)2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions, Pathe Production, corazon international GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH

逃走したカティヤは、街の路地で車を止めて何食わぬ顔で売店に立ち寄ると、恐怖心の気持ちを落ち着かせようと煙草を買い求めました。その背後をマルキスの車が通り過ぎ、カティヤは危機を脱しました。

その後、カティヤはマルキスの車を尾行を続け、ようやく人目を避けてキャンピングカーで寝泊まりを続けるメラー夫妻を発見。カティヤはメラー夫妻への復讐を誓いました。

カティヤは夫妻が爆破事件で使用した爆弾を参考にしようと、裁判の資料から材料や製造方法を特定。同じ材料をホームセンターで購入します。

夜、愛する息子ロッコと遊んだラジコンカーの仕掛けを起爆システムに流用し、材料として購入した圧力鍋に肥料や釘を入れ、遠距離からの爆破が可能な爆弾を製造しました。

翌日、カティヤは作り終えた爆弾をリュックに入れ、メラー夫妻が宿泊するキャンピングカーに向かいます。そして2人がジョギングに出かけた隙を見計らって、キャンピングカーの下に爆弾入りのリュックを置きました。

草陰から、メラー夫妻が戻ってくるのを待つカティヤ。復讐の機会を待ち、ただただ時間だけが過ぎていく中で冷静さを取り戻した彼女は、復讐の計画を中止。仕掛けた爆弾入りのリュックを回収すると、借りていた宿舎に戻りました。

帰路に戻る夕方の車中、これまで何度もかかってきていたダニーロからの電話に、カティヤはやっと出ることにしました。また爆破事件以降、精神的なストレスにより止まっていた生理が再び訪れたことに気づくと、ナプキンを買うために道沿いの売店に寄ります。

「どこにいるんだ」と心配するダニーロは、上告の期限が明日に迫っていること、そのための書類を作成し再びメラー夫妻と法廷で闘うことを伝えます。

「明日の朝8時、オススメの美味しいパンでも食べた後に、上告のための書類を作成しよう」と約束するダニーロに、カティヤは深く感謝をしました。

その日の晩。ベッドに入ったカティヤは、夫ヌーリと息子ロッコと一緒に海へ行った時にスマホで撮影した動画を見つめていました。

仲良く海の波間に遊ぶヌーリとロッコ。ロッコは「ママもおいで」と言っていました。


(C)2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions, Pathe Production, corazon international GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH

翌日、メラー夫婦がいつも通りジョギングを終え、キャンピングカーに戻ってきました。アンドレは車内に先に入りましたが、エダはしばらく海を見つめていました。

やがてエダもキャンピングカーへと入る中、それを見届けたカティヤは砂浜の林の奥から姿を現します。彼女は爆弾入りのリュックを胸に抱え、ラジコンカーのリモコンを片手に、2人の乗ったキャンピングカーの中へ入っていきました。

爆発。

青い空に爆風とキャンピングカーの破片が吹き飛び、黒煙と火炎が舞い上がり、近くにあった松の木を焦がします。

海の波はまるで永遠のように繰り返し、絶望的に揺れています。

映画『女は二度決断する』の感想と評価


(C)2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions, Pathe Production, corazon international GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH

ダイアン・クルーガーの演技力と俳優たち

映画『女は二度決断する』の見どころは、やはり俳優たちの演技力の高さ。主演を務めた女優ダイアン・クルーガーは、本作で第70回カンヌ国際映画祭・女優賞を受賞しました。

2002年にダイアンはデニス・ホッパー主演作『ザ・ターゲット』で映画デビューを果たし、2004年のハリウッド映画『トロイ』でアメリカに進出。また、同年公開された『ナショナル・トレジャー』の公文書館の才媛アビゲイル役で広く知られるようになりました。

参考映像:『ナショナル・トレジャー』

そんなダイアンはハリウッド作品にも出演する一方で、『戦場のアリア』(2005)などのヨーロッパ映画界でも活躍し、英語・フランス語・ドイツ語が達者な女優でもあります。

今回の『女は二度決断する』ではドイツ北部出身の女性カティヤを演じ、映画としては“初挑戦”となったドイツ語での演技で、カンヌ映画祭の女優賞に輝いたダイアン。彼女の愛する家族を奪われ、心が荒んでいく様子や苦悩に満ちた血の通った表情は、必見に値するものです。

また2017年のドラマ『プリズン・ブレイク』第5シーズンでアブ・ラマール役を務めたヌーマン・アチャルが演じたヌーリは、生き生きとしたトルコ系移民を演じていました。

さらには、容疑者側の弁護士ハーバーベック役を演じたオーストリア出身の俳優ヨハネス・クリシュ。彼の厳つい顔を生かした憎々しい演技も忘れがたいです。

他にも、『善き人のためのソナタ』や『白いリボン』などで知られるドイツを代表する俳優ウルリッヒ・トゥクールが演じた容疑者の父ユルゲンの、取り返しのつかない深い罪悪感を背負った謝罪の姿など、出演するどのような俳優にも演技の“見どころ”があります。

そこには、俳優たちそれぞれに演じる役柄を十分に理解してもらった上で、のびのびと自由に演技に挑戦してもらう環境を作ることに長けた、ファティ・アキン監督の手腕も垣間見られます。

そしてカティヤ役を演じたダイアンは、本作での演技について次のように語っています。

撮影に入る前に約6ヶ月かけて30家族ほどのテロや殺人事件の犠牲者となった方々に話を聞いて、とてつもない苦しみや哀しみや重みを引き受けなければいけないと感じました。
この経験は私の人生を完全に変えました。撮影中、何度も自分が演技をしているのではないような感覚になったんです。自分の目の前で起きていることに反応しているような…。
今も私の中にカティヤはいます。

本作は、女優賞を獲得したダイアンをはじめ、映像に映し出される俳優の演技という、彼らが作品を通じて現実と向き合った結果を見つめられる映画ともいえます。

カティヤの流す血の数々


(C)2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions, Pathe Production, corazon international GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH

本作を観ていて記憶に残るのは「水分」あるいは「水気」です。

カティヤが愛する夫ヌーリと息子ロッコを失う原因は、親友と出かけたスパ。また事件後、カティヤが苦悩の重圧を受けている最中の場面では、涙や鼻水とともに長雨が降っています。

映画のラスト・ショットに映し出されるのが「海」なのも、悲しみの「水」が溜まりに溜まった果てに生まれたものとして「海」を描きたかったからなのかもしれません。

本作に登場する「水」でもう一つ特筆すべきなのは、カティヤの流す「血液」です。

義理の母が亡き夫と息子の遺体をトルコに持ち帰りたいと告げた際に、感情の興奮によって流した鼻血。バスタブの中で自殺を図った際に、両手首から上がる血煙

「裁判に強い思いのもと挑みたい」と考えたためか、ヌーリの嫌がっていたタトゥーを再度入れた際に、彫り進めてゆく中で滲んだ血。そして、事件以降の極度のストレスにより生理不順になっていたが、生理が戻ってきた際に手のひらで確認した血

生きようとする感情、死に向かう感情が行き来する場面において、血は象徴的に描写されています。そして、生と死の2つの気持ちが混じり合い、極限状態の感情が生じた果てにカティヤが選んだのが「自爆」でした。

本作のラストをどう受け取るのかを、ファティ監督は観客に委ねています。

映画では自爆の前日、カティヤがスマホの撮影動画を通じて、かつて息子ロッコがバカンスに出かけた際に「ママもおいで」と母を海に誘う姿を見つめる場面描かれていました。

カティヤが流した悲しみの水も血も、全ての水は混ざり合い、彼女は水の果てに見えた、息子たちの元に行きたいと考えたのでしょうか。それとも、生と死の感情が混ざり合い極限状態の感情が生じたことで、全ての水は蒸発し、カティヤの心が渇き切ってしまったたからこそ、彼女は自爆を選んでしまったのでしょうか

あなたは本作のラストに、何を感じますか?

まとめ


(C)2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions, Pathe Production, corazon international GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH

本作でダイアン・クルーガーはカンヌ国際映画祭主演・女優賞を受賞。彼女の演技は申し分のないものだったと思うし、脇役の俳優との演技と共鳴し合うことで、それはより素晴らしいものになっていたといえます。

また本作のラストを「衝撃のラスト」と評することは簡単ですが、脚本の展開はちゃんと10分先までを見せていますし、「どんでん返し」もありません。むしろ、良くない方向へと常に物語が進行し続けることを理解できてしまうからこそ、ダイアンの演技は観客の心に沁みてしまうといえるでしょう。

女優ダイアンの見せる表情や様子は、喪失、絶望、悲しみ、不安、憎しみ、怒り、恐怖、孤独、嫉妬など、心を確実にビジュアル化しています。

一点気になるのは、カティヤ自身の体に彫った「侍」のタトゥー侍の精神(サムライ・スピリット)の「死ぬことと見つけたり」は決して「ハラキリ」「カミカゼ」と同義ではないため、カティヤが選んだ自爆と結びつけるような演出は流石にいただけません

ただカティヤがマルキスから逃げた後に火を点けたのが「アメリカン・スピリット」という煙草であるという時点で、それは仕方ないのかもしれませんが……。

もしかするとそれらの演出には、カティヤもまた異なる形で「人種や民族に対する偏見」を抱いていたというメッセージが込められていたのかもしれませんね。


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