カンヌ国際映画祭、男優賞&脚本賞受賞!!
監督・脚本:リン・ラムジー×主演:ホアキン・フェニックス。
“21世紀版タクシードライバー”と評される傑作ノワール、『ビューティフル・デイ』をご紹介します。
映画『ビューティフル・デイ』の作品情報
【公開】
2018年(イギリス映画)
【原題】
You Were Never Really Here
【監督・製作・脚本】
リン・ラムジー
【キャスト】
ホアキン・フェニックス、ジュディス・ロバーツ、エカテリーナ・サムソノフ、ジョン・ドーマン、アレックス・マネット、ダンテ・ペレイラ=オルソン、アレッサンドロ・ニボラ
【作品概要】
主人公・ジョーに扮したのは確かな演技力の持ち主であるホアキン・フェニックス。この演技で2017年のカンヌ国際映画祭男優賞を獲得。
また、『少年は残酷な弓を射る』で世界を騒然とさせたリン・ラムジー監督の6年ぶりの作品は、説明的な描写を排し、ニューヨークを舞台にスタイリッシュな映像美で映し出されます。
思いもよらないラストに連れて行かれる鮮やかなストーリーは、2017年のカンヌ国際映画祭脚本賞を受賞。
さらに『ファントム・スレッド』でオスカーノミネートも果たしたジョニー・グリーンウッド(レディオヘッド)が手掛けたそのソリッドな音楽と相まって、観る者の視聴覚を刺激し続けます。
映画『ビューティフル・デイ』のあらすじとネタバレ
元軍人のジョーは行方不明の捜索を請け負うスペシャリスト。
いつものように仕事を終えて自宅に戻ると、部屋に入るところを仲介役のエンジェルの息子にたまたま目撃されてしまいました。
ジョーは唯一の家族である母と共にニューヨークで暮らしています。過去の多くのトラウマ経験からPTSDを患っているジョーは常に幻覚や幻聴を感じ、自殺願望を持ちながら過ごしてきました。
仕事の元締めであるジョンに呼び出されたジョーは、新しい仕事を頼まれます。
その仕事の依頼主は上院議員のアルバート・ヴォット。失踪した娘ニーナを発見したら5万ドルを支払うことを約束されました。
ニーナが少女専門の売春宿にいることを突き止めたジョーは、いつものようにハンマーを手に手際よくボディガードを始末していきました。
ニーナを発見したジョーは彼女を連れてとあるモーテルにて待機しています。
性的な虐待を受け続けてきたニーナはすでに心神喪失の状態で、自分を閉じ込めていました。
映画『ビューティフル・デイ』の感想と評価
本作は、外側だけ見るといわゆるジャンル映画に分類されるバイオレンス描写の激しい作品だと思いますが、その内実では主人公のジョーと同じく内面に物凄く繊細な心を秘めた切なくて胸が苦しくなる物語が語られています。
マーティン・スコセッシの『タクシードライバー』やニコラス・ウィンディング・レフンの『ドライヴ』などと比較されますが、私自身が最も近いフィーリングを感じたのはアカデミー賞を受賞したバリー・ジェンキンスの『ムーンライト』でした。
重いPTSDを抱えたジョーは、常に自殺願望を持ちながら日々を生きています。虐待を振るう父親からいつも言われていたのは「猫背を直せ」という言葉。大人になった今は平気で人を殺す(本当は平気じゃない)冷徹で力強い闇社会の男になっています。
同じく『ムーンライト』の主人公のシャロンは、本当の自分との解離に苦しみながらも、結果として筋肉という鎧を身に付け、ドラッグディーラーとして働いていました。
そのどちらもが屈強な身体の中に本来は繊細なはずの自分を閉じ込め、暴力と死の世界に身を置いて自らを騙し続ける。
自分すらも騙すことの辛さは想像を絶するでしょう。
その体躯、目つき、佇まいなど全てを見事に表現してみせた主演のホアキン・フェニックスは本当に素晴らしいです。
まるで限界を迎えたコップのフチから水が溢れだすようにジョーが泣きじゃくる場面は、彼の気持ちを思うと何とも切ない。
また、彼にとっては母の存在も非常に重要です。
劇中でアルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』を引用するシーンが出てきますが、そのシーンが暗示するようにジョーにとって母親は煩わしさと同時にこの世に止まるための重しのような存在。
その重しが文字通り沈んでいく時に果たしてジョーは何を選択するのか?
そして、深いところで共鳴し合っている二人はラストシーンの後に何を見るのか?
紋切り型の映画では決して味わえない、不思議な余韻を残すラストです。
原作小説と同じく原題は「You Were Never Really Here(あなたは本当はここにはいない)」。幻覚ばかり見る全く信用できないタイプの主人公なので、これはこれでさらに深い考察の余韻を残してくれます。
ただ邦題は『ビューティフル・デイ』。こちらの方がより寄り添うような解釈になっていますね。
タイトル一つを取ってみても色々と読み解きが変わる。改めて映画は面白いなと思わされる素晴らしい作品でした。
まとめ
監督のリン・ラムジーは、長編映画をまだ4本しか撮っていないというから驚きです。
音楽を手掛けたのはレディオヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッド。心を不安に陥れる劇伴の数々はこの映画の一部としてなくてはならないものになっています。
こちらも傑作、ポール・トーマス・アンダーソンの『ファントム・スレッド』でも恐ろしく美しい旋律を手掛けていましたが、今後の活躍にも要注目です。
今の時期は本当に素晴らしい作品ばかりが映画館にかかっているので優先順位は低くなってしまうかもしれませんが、暴力描写に耐性のある方はぜひ一度ご覧になってみてください。
時間はなんと、90分。この短さも素晴らしいですね!
思いもよらないラストの余韻にきっと心を震わされてしまうこと請け合いです。