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Entry 2021/12/11
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映画『あしやのきゅうしょく』あらすじ感想と評価解説。キャストの松田るかが伝える給食にある「学び」とは⁉︎|映画という星空を知るひとよ82

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第82回

兵庫県芦屋市の芦屋小学校に赴任した新米栄養士の奮闘を描いた映画『あしやのきゅうしょく』。学校給食への取り組みが注目される芦屋市の芦屋小学校を舞台としています。

監督は芦屋市出身の白羽弥仁。食べることが何よりも好きな主人公の新米栄養士・野々村菜々を「賭けグルイ」シリーズの松田るかが演じ、楽しい学校給食を作る側からの苦労や給食に寄せる思いを描き出しています。

子どもたちに美味しい給食を食べて心も身体も成長し、楽しい思い出を作ってほしいと願う主人公の願いは、無事に叶うのでしょうか。

『あしやのきゅうしょく』は、2022年2月4日(金)よりOSシネマズミント神戸、テアトル梅田、アップリンク京都にて関西先行公開! 3月4日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『あしやのきゅうしょく』の作品情報


(C)2022「あしやのきゅうしょく」製作委員会

【公開】
2022年(日本映画)

【監督】
白羽弥仁

【脚本】
白羽弥仁、岡本博文

【音楽】
妹尾武

【主題歌】
大塚愛:『ドラセナ』

【キャスト】
松田るか、石田卓也、仁科貴、宮地真緒、藤本泉、栗田倫太郎、小笠原拓己、芹沢凜、堀内正美、桂文珍、赤井英和、秋野暢子

【作品概要】
芦屋市制施行80周年を記念して製作された『あしやのきゅうしょく』は、「食」を通して繋がる「絆」を描く温かなヒューマンドラマです。

独自の阪神間モダニズム文化を擁する芦屋市は、給食開始当初から自校式給食や栄養士によるオリジナルな独立メニューを展開するなど、斬新な給食への取り組みをしています。

新米栄養士の学校給食の奮闘を描いた本作は、「賭ケグルイ」シリーズの松田るかが主演を務め、『ママ、ごはんまだ?』(2016)の白羽弥仁監督が取りまとめました。

映画『あしやのきゅうしょく』のあらすじ


(C)2022「あしやのきゅうしょく」製作委員会

春。芦屋小学校に赴任した新任栄養士の野々村菜々は、退任するベテラン栄養士の立山から給食のイロハを引き継ぎます。

給食の予算の問題や子どものアレルギーの問題・宗教上の問題を考えてのメニュー作りなど、様々な問題に対処と直面しながら、子どもたちに美味しい給食を食べてもらおうと奮闘する菜々。

新学期が始まり、給食に対する子どもたちからの反応は「美味しかった」から「味が変わった・落ちた」など様々で、あまり芳しくありません。

ショックを受ける菜々は、他の栄養士や調理師スタッフから「味が変わったと言われるのはよくあることで、子どもたちの気のせいだ」と慰められました。

けれども、菜々はなんとか子どもたちに喜んでもらいたいと、直接子どもたちに給食の感想を聞いてみました。

そして、菜々はたとえ子どもの苦手な食材があっても、素材の味を生かしたメニューを心がけなければ、と決意します。

果たして菜々は、子どもたちに受け入れてもらえる給食を作ることができるのでしょうか。

やがて1年が過ぎ、菜々にとって初めての卒業式がやってきます。

子供たちが菜々をはじめとする給食の先生たちに伝える思いとは……。

映画『あしやのきゅうしょく』の感想と評価


(C)2022「あしやのきゅうしょく」製作委員会

食べることは、生きること

主人公野々村菜々は、食べることが何よりも大好きな女性です。子どもたちにも美味しいものを美味しく食べてもらいたいと思い、学校給食の栄養士となりました。

一口に「給食」と言っても、アレルギーのある子、宗教上の問題から肉が食べられない子と、様々な問題が浮上。

限られた予算の中で旬のものを美味しく調理して喜んで食べてもらうために、課題は山積みです。

子どもたちにとっては、友人と同じものを食べられないというのは、自分だけが違っているという気持にさせ、給食の時間が苦痛になることもあり得ます。

みんなが笑顔で食べられるように、見た目は同じだけれども中身を変えたメニューを考案したりと、栄養士・調理スタッフの苦労は絶えません。

加えて、子どもたちが好きなメニューを給食に取り入れ、常に給食への関心を持ってもらおうとします。

給食への関心があれば、次には給食が美味しいかどうかが気になります。美味しい給食ならみんなその時間が大好きになって、始まるのは笑顔はじけるランチタイム……。

作品の根底にある「食べることは、生きること」というコンセプトは、給食を囲む子どもたちの笑顔からも伝わってきます。

1995年に発生した阪神淡路大震災では、芦屋市の避難所で炊き出しも行われ、不安で脅える人々の心と身体を温めてくれたそうです。

「食べることは、生きること」。このコンセプトは当時の人々の想いのこもったものだったのです。そんなメッセージ性もしっかりと捉えた作品です。

芦屋市の学校給食


(C)2022「あしやのきゅうしょく」製作委員会

『あしやのきゅうしょく』は、給食の映画ですから、美味しそうなメニューが数多く登場しました。

映画での調理場面は、清潔な調理室で食材をカットし、大鍋で煮る様子も映し出され、まるで料理番組のようです。

サイトには、給食で出された「豆腐のキーマカレー」や「スコッチエッグ」の作り方が紹介されています。

子どもたちの健全な心身の発達のための食生活について考える機会を持とうとする芦屋市。

夏休みにはパネル展示の「給食展」も開かれ、芦屋市の学校給食を広く紹介し、学校と家庭、地域社会との連携を深め、子どもたちの健全な心身の発達のための食生活について考える機会を設けました。

芦屋市のおいしい給食の魅力を発信しようと、映画の他にも、書籍『芦屋の給食 オシャレな街のおいしい献立』(カナリアコミュニケーションズ, 2017)が出版されています。

まとめ


(C)2022「あしやのきゅうしょく」製作委員会

本作『あしやのきゅうしょく』は、独自の学校給食が注目の芦屋市を舞台にした、「食」を通して繋がる「絆」を描いたヒューマンドラマ。

子どもたちのために給食のメニューを作る菜々の姿から、「食」がもたらす夢と希望を見出せます。

作品を手掛けた白羽弥仁監督は、兵庫県芦屋市出身で神戸市在住といいます。芦屋への深い郷土愛溢れる作品となりました。

ところで、作品中気になったのは、子どもたちに一番人気の「願いを叶えるたまご」という料理。

願い事をしてその料理を食べれば願いが叶うという、夢を与えてくれる料理です。果たしてどんな料理だったのでしょう。それは観てのお楽しみ……。

観れば絶対に給食が食べたくなる本作。ご覧になった後は、ぜひ給食の味と学校のランチタイムの楽しいひとときを思い出してください。

『あしやのきゅうしょく』は、2022年2月4日(金)よりOSシネマズミント神戸、テアトル梅田、アップリンク京都にて関西先行公開! 3月4日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。

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