第69回カンヌ国際映画祭で批評家連盟賞を受賞した映画『RAW 少女の目覚め』
失神者続出!衝撃のカニバリズム映画!!少女から女性への成長を誰も観たことのない形で描いた話題作『RAW 少女の目覚め』。
フランス人の女性監督ジュリア・デュクルノーが長編デビューを果たした作品で、主人公ジュスティーヌ役をデュクルノー監督の短編作品『Junior』でデビューした、ガランス・マリリエールが演じています。
厳格なベジタリアンの獣医一家に育った16歳のジュスティーヌは、両親、そして姉も通った獣医学校に進学。しかし、見知らぬことが多い環境での寮生活に不安な日々を過ごします。
そして、ジュスティーヌは、上級生からの新入生の通過儀礼として、強制的に生肉を食べさせられ…。
カンヌ国際映画祭で高い評価を得た映画『RAW〜少女のめざめ〜』をご紹介します。
1.映画『RAW〜少女のめざめ〜』の作品情報
【公開】
2018年(フランス・ベルギー映画合作)
【原題】
Grave
【監督・脚本】
ジュリア・デュクルノー
【キャスト】
ガランス・マリリエール、エラ・ルンプフ、ラバ・ナイト・ウフェラ、ローラン・リュカ
【作品概要】
2016年のカンヌ国際映画祭批評家週間でワールドプレミア上映され、スタンディングオベーションが巻き起こる大喝采を浴びた本作。
その後も世界各国のファンタ系映画祭、トロント国際映画祭やサンダンス映画祭などメジャー級の映画祭を席巻し、数多くの賞を受賞。
批評家や映画ファン、映画監督たちからも圧倒的な支持を得て、本国フランスでヒットを記録、アメリカやイギリスでもスマッシュヒット。
映画史に残る衝撃の1本が満を持して日本上陸!
2.映画『RAW〜少女のめざめ〜』のあらすじとネタバレ
ベジタリアンとして育てられたジュスティーヌは、親元を離れ姉と同じ大学の獣医科に入学します。
大学寮はゲイであるアドリアンと同室になりました。
最初の夜、新入生は上級生にたたき起こされ、強制的に新入生歓迎パーティーへ。
ジュスティーヌはそこで姉のアレックスを見つけますが、彼女は1年会わない間に雰囲気が変わっていました。
翌日、校庭に集められた新入生たちは頭上からは動物の血を浴びせられ、そのまま記念撮影。
合図の音が鳴るまで新入生は研修期間、上級生の命令は絶対と教え込まれました。
そして、ウサギの生の腎臓を食べるよう強制され、みな嫌々ながら口にします。
ベジタリアンのジュスティーヌはそれを拒み、アレックスに助けを求めます。
しかし、アレックスはジュスティーヌの口の中に無理矢理ウサギの腎臓を押し込みました。
その夜、ジュスティーヌの身体中には赤い発疹ができ、痒みのために掻きむしります。
掻きむしりすぎて身体の皮が剥けてしまったジュスティーヌは学校の医務室で塗り薬を処方してもらいました。
その頃からベジタリアンであったはずのジュスティーヌにある変化が。
学食では衝動が抑えきれずにハンバーグをポケットの中へ隠し入れたり、食欲を抑えるために自らの髪の毛を大量に飲み込んだり、肉を口にしたい欲求が彼女を襲います。
そして遂に、アドリアンと外出した先で肉料理を口にしてしまいます。
寮に戻ったジュスティーヌは深夜に冷蔵庫を開けて生の鶏肉のササミにかぶりつきます。その姿は正に獣そのものでした。
3.映画『RAW〜少女のめざめ〜』の感想と評価
カニバリズム、人の肉を食べるという行為は最大のタブーであり、であるからこそ作り物である映画の世界では度々描かれてきました。
クラッシックである『食人族』や『悪魔のいけにえ』、最近ではイーライ・ロス監督の『グリーン・インフェルノ』など。
サスペンス要素の方が強いですが『羊たちの沈黙』もその一種です。
食人映画という一つのジャンルを形成する程、一部のファンには人気があります。
この作品の何がそこまで絶賛されているのかと言うと、作品の重要な要素として食人行為が意味あるものとして組み込まれ、最終的には非常に切ない青春と感動的な愛の物語として語られているからです。
こういったジャンル映画は、外観のイメージで観客を刺激しながらもその中に繊細で美しいメッセージが隠されている場合、強烈な魅力を放ちます。
私的に近年特にお気に入りの作品は『イット・フォローズ』。この作品もホラーでありながら、青春と美しい愛の物語が織り込まれているとても感動的なお話でした。
何と何を組み合わせるのか、その意外性という意味で本作はずば抜けています。
「食人」×「少女が大人に成長する青春もの」×「姉妹愛+家族愛」。
まずもってそのキャッチーさがこの作品の圧倒的な魅力であり、いかにして誰も観たことのない物語を生み出すのかという難問に、監督のジュリア・デュクルノーは見事に答えを出しています。
人肉を食べたいというのはそのまま性欲のメタファー。身体の皮が剥けるのは脱皮、布団に包まるのは子宮のイメージ。
姉が妹に人肉の見つけ方を教えるのは、獣が狩りのやり方を教える方法そのもの。
姉妹の噛み付き合う喧嘩も獣そのものなので、上級生が止めに入るシーンは首輪をつけられるイメージです。
研修期間の終わりを知らせる合図の音に反応してゾロゾロと新入生たちが集まってくるのも家畜などを連想させます。
こういったメタファーやイメージが多くのシーンに入れ込まれているので、映画好きの方は色々と考えながら観るのも楽しいのではないでしょうか。
ラストにあの展開が待ち受けていますが、これはあくまでジュスティーヌの物語にオチをつけるため。(最高の終わらせ方でした)
これは誰しもが当てはまることで、獣医(社会人)になると厳しい現実が待ち受けています。
そこに足を踏み入れる前の練習、一種の通過儀礼(イニシエーション)として研修期間が設けられ、大人になるために傷つきながら心と身体が共に成長していきます。
そこには、甘酸っぱい初恋や切ない失恋だったり、初めての色んな体験が詰まっています。
この作品において姉のアレックスはそこから誘惑に負けて脱落してしまったように見えますが、それは誰のためを思ってとった行動だったのか。
父親の姿も含め、強い愛の肯定を描くこの作品の温かさには大きく心惹かれてしまいます。
まとめ
鮮烈な長編監督デビューを飾ったジュリア・デュクルノー。
冒頭シーンの切り返しの巧さ、脚本の面白さ、ショットの美しさ。
これからどのような作品を手掛けていくのかが、とても気になる監督になりました。
恐ろしくも美しい物語は、その内容故にどうしても観る人を選びますが、耐性のある方にはぜひ観ていただきたいです。
生々しさを超えた先にきっと大きな感動があるはずです。