Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2021/07/05
Update

映画『元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件』感想解説と内容評価レビュー。タイトルの意味(邦題)に隠された意図を考察|SF恐怖映画という名の観覧車147

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile147

車や電車など人類は長い歴史の中で長距離を移動できる手段を手に入れ、空間的距離が生み出す問題は以前に比べ少なくなりました。

しかし、その一方で移動手段が生み出す事故は増加し、日本では自動車だけでも毎年3000人前後の死者が出ています。

そして移動手段における事故の中でもトップクラスの「恐怖」と言えば、じわりじわりと死の恐怖が襲い来る飛行機での事故。

今回はパイロットの突然死によって操縦不能となった小型飛行機の中で生きるために奮闘する最新映画『元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件』(2021)の魅力をご紹介させていただきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件』の作品情報


(C) 2020 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

【原題】
Horizon Line

【日本公開】
2021年8月6日(スウェーデン映画)

【監督】
ミカエル・マルシメーン

【キャスト】
アリソン・ウィリアムズ、アレクサンダー・ドレイマン、キース・デイヴィッド、パール・マッキー、アマンダ・カーン

【作品情報】
『遊星からの物体X』(1982)で俳優デビューを果たしたキース・デイヴィッド出演で製作されたスウェーデン産スリラー映画。

主演を務めたのは『ゲット・アウト』(2017)で主人公の恋人ローズを演じ高い評価を受けたアリソン・ウィリアムズ。

映画『元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件』のあらすじ


(C) 2020 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

サラ(アリソン・ウィリアムズ)はモーリシャスで自然と生きるジャクソン(アレクサンダー・ドレイマン)と出会い恋に落ちますが、仕事を優先し彼の前から姿を消します。

1年後、ロンドンで過ごすサラは友人の結婚式に参加するため再び訪れたモーリシャスでジャクソンと再会。

結婚式が行われるロドリゲス島へと向かうクルーズに乗り遅れた2人は、知り合いの小型飛行機で島に向かいますが……。

「運転手不在の飛行機」を描いた極限のワンシチュエーションスリラー


(C) 2020 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

小型飛行機は古くから少人数の移動手段に用いられ、観光や撮影だけでなく個人の趣味として所有する人がいるほどに間口の広い飛行機です。

しかし、操縦に必要な知識はジャンボ機さながらに多く、熟練のパイロットでさえもたびたびに事故に遭遇する、知識のない人間には乗りこなすことは到底できない乗り物でもあります。

本作『元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件』では、パイロットの突然死によって小型飛行機に取り残されてしまった1組の男女が、持てる知識と勇気を振り絞り生存のために奮闘する様子が描かれていました。

飛行機の操縦に関しては素人同然の2人に容赦なく襲い掛かる数々の「脅威」。

それは知識だけでは決して乗り越えることの出来ない、判断ミスが死に繋がる「選択」を迫られるものでした。

自然の猛威


(C) 2020 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

飛行機事故の中で「バードストライク(エンジンに鳥が衝突し破損する事故)」が一般的とされるように、「自然の猛威」が事故を引き起こすことは珍しくありません。

本作ではパイロットの死亡後、2人は目的地の方角に向かって飛行機を飛ばしますがそこには雷雨が待ち構えていました。

ベテランの操縦士であれば乗り越えられる自然の猛威も2人にとっては脅威であり、2人の取った「選択」がその後に大きな影響を及ぼすことになります。

さらに小型飛行機ではジャンボ機と違い気圧の調整が行われないため「高度障害(俗に言う高山病)」も誘発され、何気なく乗ることの多い飛行機がいかに「自然の猛威」の中にいるのかと恐怖を再認識させられます。

飛行機の破損


(C) 2020 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

本作では自然の猛威以外にも「飛行機の破損」と言う致命的な脅威が主人公のサラとジャクソンを襲います。

オートパイロット、コンパス、燃料タンクと目的地への到達に必要不可欠な機能が破損し追い込まれた2人は、知識と身を挺した行動で状況の改善を試みます。

劇中で使われる知恵の数々は現実社会でも有用なものであり、いざと言う時に役立つかもしれない知識を映画の中から学ぶことも出来る本作。

アウトドアが流行となる現代だからこそ、最悪な状況を想定した知識の習得の重要さを痛感できる作品でした。

どこまでも広がる海


(C) 2020 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

命の源と言われる海は、どこまでも広がるその広大さが時に人の命を奪う最大の脅威となります。

原題の「Horizon Line」が水平線や地平線を意味するように、陸地の見えない状態での海上では方向感覚すらも狂わされます。

実話を基にした映画『アドリフト 41日間の漂流』(2020)でも描かれていたように、現在地を知ることが生き延びる上で必須と言われる中で、現在地を知る手段のない2人はどのような「選択」をするのか。

空に飛んでいる限りは脅威とはならない海中のサメも墜落後の恐怖を感じさせる一役を担っており、手に汗握る緊張感とじわじわと忍び寄る絶望感に興奮すること間違いなしの作品です。

まとめ


(C) 2020 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

「元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件」と言う邦題は日本だけでなく世界中で話題となりました。

邦題は現代風な気軽さを感じさせるキャッチーな雰囲気となっていますが、作品内容はゴリゴリのワンシチュエーションスリラー。

この内容とのギャップは作中において気軽な気持ちで小型飛行機に乗り、その後に絶望的な状況に追い込まれるサラとジャクソンの精神的落差に通じるものがあります。

トラブルにトラブルが重なる中、2人の取った選択は吉と出るのか凶と出るのか。

息つく間もない疾走感の高いスリラー映画最新作『元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件』をぜひ劇場でご覧ください。




関連記事

連載コラム

ゴダール作品『気狂いピエロ』ネタバレ感想とラストシーンの解説。 ある道化師の愛と言葉を永遠に|偏愛洋画劇場18

連載コラム「偏愛洋画劇場」第18幕 2018年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映、特別賞のスペシャル・パルムドールを受賞した作品が『Le Livre d’Image』。 日本語では『イメージ …

連載コラム

映画『ある殺人、落葉のころに』感想評価と考察解説レビュー。三澤拓哉監督が描く“現代の歪な物語”からの救済のメタ構造|映画道シカミミ見聞録53

連載コラム「映画道シカミミ見聞録」第53回 こんにちは、森田です。 今回は、2021年2月20日(土)/東京・ユーロスペース他での劇場公開後も、4月23日(金)/京都みなみ会館にて、4月24日(土)/ …

連載コラム

『Cosmetic DNA』映倫先輩との甘酸っぱい思い出【自主映画監督・大久保健也のニッポン頂上作戦4】

連載コラム『自主映画監督・大久保健也のニッポン頂上作戦』 第4回「映倫先輩との甘酸っぱい思い出」 皆様、お世話になっております。誰もお前の世話なんかした覚えねえよというそこのあなた、今こうしてリンクか …

連載コラム

『エンドロールのつづき』あらすじ感想と評価解説。実話から描くパンナリン監督の映画愛とインドの魅力が満載の感動作|映画という星空を知るひとよ132

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第132回 第95回アカデミー賞インド代表(国際長編映画賞)の映画『エンドロールのつづき』。 本作は、チャイ売りから映画監督へと、夢をつかんだ少年の驚くべき“実 …

連載コラム

カメオ出演最多のスタン・リー死去。アメコミからアニメまでを愛し続けた作家の軌跡|最強アメコミ番付評14

こんにちは、野洲川亮です。 2018年11月12日、『スパイダーマン』、『X-メン』などの作品を手掛けたアメコミ原作者、スタン・リーさん(95歳)が逝去されました。(以下、敬称略) マーベル・コミック …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学