『101匹わんちゃん』に繋がる、恐ろしい悪女誕生の物語
アニメーション映画『101匹わんちゃん』(1961)に登場する、クルエラ・ド・ヴィル。
白と黒をセンターで分けた、ロングヘアーが特徴的なクルエラは、ディズニー作品の中でもファッションセンス抜群の悪女として人気の高いキャラクターです。
映画『クルエラ』では、若き日のクルエラを、アカデミー賞女優のエマ・ストーンが演じ、悪女誕生の物語をコメディタッチで描いています。
『101匹わんちゃん』では、ダルメシアンで毛皮を作ろうとした冷酷非道なキャラクターでしたが、そんな彼女にも、夢を追いかける純粋な時期がありました。
悪女クルエラの秘密が明かされる、本作の魅力をご紹介します。
映画『クルエラ』の作品情報
【公開】
2021年公開(アメリカ映画)
【原題】
Cruella
【原作】
ドディ・スミス
【監督】
クレイグ・ギレスピー
【脚本】
デイナ・フォックス、トニー・マクナマラ
【キャスト】
エマ・ストーン、エマ・トンプソン、ジョエル・フライ、ポール・ウォルター・ハウザー、エミリー・ビーチャム、カービー・ハウエル=バプティスト、マーク・ストロング
【作品概要】
ディズニーの悪役の中でも、冷酷非道な変人として人気の高いキャラクター、クルエラ・ド・ヴィル。
元は純粋な夢見る少女だった彼女が、何故恐ろしい悪女に変貌したのか? その秘密をコメディタッチで描く映画『クルエラ』。
後にクルエラに変貌する、主人公のエステラを『ラ・ラ・ランド』(2016)でアカデミー主演女優賞に輝くなど、その演技力が高く評価されているエマ・ストーンが演じます。
クルエラと対峙するカリスマファッションデザイナーのバロネス役のエマ・トンプソンは『ハワーズ・エンド』(1992)などで、アカデミー賞主演女優賞を受賞するなど、アカデミー賞の常連です。
共演にジョエル・フライやポール・ウォルター・ハウザーなど、個性派の俳優が多数出演。
監督は『アイ・トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2016)が高い評価を得たクレイグ・ギレスピー。
映画『クルエラ』のあらすじとネタバレ
1968年、少女エステラは貧しいながらも、母親と楽しく暮らしていました。
彼女は幼い頃から自己主張が強く、学校でも問題行動ばかりを起こしていた為、母親からは「クルエラ(困った子)」と呼ばれています。
学校に馴染めないエステラの友達は、同じように学校でいじめられていたアニータと、偶然拾った犬のバディだけでした。
ある時、問題行動の多いエステラは、学校を退学させられます。
学校の対応に反発したエステラの母親は、ファッションデザイナーに憧れを抱くエステラを連れて、ロンドンに向かうことを決めます。
車でロンドンに向かう道中、母親はファッションショーが開催されている豪邸に向かい、誰かと会っているようでした。
エステラは母親に「車の中で、おとなしくしていなさい」と伝えられ、一族の家宝と呼ばれるペンダントを母親から受け継ぎます。
しかし好奇心旺盛なエステラは、車を抜け出し豪邸内に潜入してしまいます。
そこで、豪華なファッションショーを目の当たりにしたエステラですが、警備員に見つかり、豪邸の外に逃げ出します。
エステラを捕まえる為に、番犬のダルメシアン3匹がエステラを追いかけます。
ですが、ダルメシアンが襲ったのはエステラの母親で、母親は崖の下に落ちて亡くなってしまいます。
エステラは豪邸から逃げ出し、偶然通りかかったトラックに飛び込みます。
無事に逃げ出したエステラでしたが、母から譲り受けたペンダントを豪邸内に落としてしまいます。
ロンドンに到着し、噴水で途方に暮れていたエステラでしたが、そこでジャスパーとホーレスと名乗る、2人の少年と知り合います。
エステラは、ジャスパーとホーレスと共に泥棒家業を始めるようになります。
それから10年後。
ジャスパーとホーレスと共に、泥棒家業を続けていたエステラですが、幼少の頃の夢だったファッションデザイナーへの想いが強くなります。
エステラの想いを知ったジャスパーは、ロンドンの老舗百貨店「リバティ・ロンドン」で、エステラが働けるよう小細工をします。
ジャスパーのお陰で「リバティ・ロンドン」での仕事を開始したエステラでしたが、業務内容は掃除や倉庫整理などの雑務ばかりでした。
エステラはディスプレイのデザインや、裁縫などの仕事を希望し、支配人にアピールしますが、無視をされ続けます。
不当な扱いに不満が溜まったエステラは、ある時、支配人のオフィスにある高いお酒を飲み干し、酔った勢いでショーウィンドウのディスプレイを勝手に変更します。
エステラのデザインは、当時のロンドンで流行していたパンクを取り入れたものでしたが「リバティ・ロンドン」の空気には合いません。
怒った支配人により、エステラは「リバティ・ロンドン」を解雇されますが、その時に偶然「リバティ・ロンドン」を訪ねていた世界的なカリスマデザイナー、バロネスにセンスを高く評価され、エステラはバロネスのオフィスで働くようになります。
当初、バロネスはエステラを「汚い女」と呼び、名前さえ覚えようとしませんでしたが、次第にエステラのファッションセンスを評価するようになります。
エステラはバロネスの右腕のような存在になり、このままデザイナーとして成功するかと思われました。
ですがエステラは、自分が母親から譲り受け、どこかで落としてしまったネックレスを、バロネスが身に着けていることに気付きます。
バロネスは「このネックレスは家宝で、昔屋敷で働いていた使用人に盗まれたことがある」と語ります。
それでもエステラは「自分が母親から譲り受けたネックレス」と確信し、バロネスからネックレスを盗み出す計画を立てます。
エステラにとって、母親を泥棒呼ばわりされたことも許せませんでした。
ジャスパーとホーレスは、バロネスの新作ファッションショーの際に、会場へ潜入しネックレスを奪い取ることを計画しますが、誰かが、その間にバロネスを引き付ける必要がありました。
バロネスのことをよく知っているのはエステラですが、下手なことをしてバロネスのオフィスを解雇される訳にもいきませんでした。
作戦決行の当日。
害虫駆除を装い、ジャスパーとホーレスはファッションショーの会場に潜入します。
一方バロネスの前に、自身を「クルエラ」と名乗る、謎のデザイナーが現れます。
映画『クルエラ』感想と評価
『101匹わんちゃん』に登場した、毛皮好きの冷酷非道な悪女クルエラ・ド・ヴィル。
『101匹わんちゃん』では、99匹ものダルメシアン犬を誘拐し、毛皮で特製のコートを作るという恐ろしい計画を立てたクルエラですが「何故、冷酷非道な悪女になってしまったのか?」が、映画『クルエラ』では描かれています。
本作の特徴は、前半と中盤、そして後半で、映画のジャンルが目まぐるしく変化していくという点です。
まず前半では、幼少期のエステラが、ロンドンに出て、ファッションデザイナーとして認められる「サクセスストーリー」として物語が展開されます。
自己主張の強い、変わり者の性格から、学校ではいじめの対象になり、教師からも見放されていたエステラが、母の死を乗り越えながら、カリスマデザイナーのバロネスに認められ、着実に成功への階段を昇っていくという、ある意味お約束のようなシンデレラストーリーが展開されます。
クルエラが主役の作品で、シンデレラストーリーと言うのもややこしい話ですが…。
そして、バロネスがエステラの母親の形見である、ネックレスを持っていたことから急展開を見せる中盤では、バロネスからネックレスを盗み出すという「ケイパー映画」のような色合いが強くなります。
エステラからクルエラへと変貌した後半では、バロネスへの復讐が物語の中心になります。
力も名声も全てが上のバロネスは、到底勝てる相手ではないのですが、後半ではバロネス相手に「どうやって罠にはめるか?」という「コンゲーム映画」の要素が強くなります。
1つの作品で「サクセスストーリー」「ケイパー映画」「コンゲーム映画」の要素が楽しめるという、なかなか変わった構成の作品です。
エンターテイメント作品としては、サービス満点という感じですね。
さらに、クルエラのバロネスへの勝負の仕掛け方が面白く、正統派のデザイナーであるバロネスに対し、クルエラは「奇抜なファッション」「インパクト重視のファッションショー」で対抗し、どちらかと言うと邪道なデザイナーという存在でアピールをします。
新聞記者のアニータと組み、クルエラに優位な情報を世間に流し、話題性を作るあたり、ブランド戦略を踏まえた戦い方で、まさにファッションデザイナーのクルエラならではと言えます。
また、本作のもう一つの見どころとも言える衣装を、映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)で、2016年のアカデミー賞「衣装デザイン賞」を受賞した、ジェニー・ビーヴァンが担当しています。
作中に登場する衣装は47種類もあり、特にクルエラがバロネスを挑発する際に身に着ける衣装は、どれも個性的で面白いです。
クルエラが車の上に立ち、バロネスの顔を隠すという衣装は、5,060枚のフリルを使用して制作されました。
作中で映るのは一瞬なのですが、こんな細かい仕事にも決して手を抜かない、ジェニー・ビーヴァンが手掛けた衣装を見るだけでも、めちゃくちゃ楽しめます。
ディズニーの悪役は「魔術師」や「海賊」など、幻想的なキャラクターが多いです。
そんな中で「ファッションデザイナー」というクルエラは、それだけで異質のキャラクターと言えます。
そんな、クルエラのキャラクターを活かしたという意味では、本作は完璧な作品と言えます。
まとめ
本作は、悪女クルエラの誕生の物語です。
しかし、エステラは当初、あえて悪役としてのクルエラを演じていただけでした。
いわゆる「カリスマ」と呼ばれる人達は、カリスマとなった自分をあえて演じていることもありますが、作中のエステラのセリフ「あえて悪役をやっているの」という言葉からも、クルエラはエステラにとって、虚構の存在だったはずです。
それが、自身の出生の秘密を知り「悪女である運命から逃れられない」と知ったエステラは、クルエラとして生きていくことを決意したのです。
エステラの本性がクルエラだったのか? それとも屈折した感情がクルエラを生み出したのか?は分かりませんが、ファッションというのは、違う自分に変身するという意味合いもありますね。
夢見る少女エステラは、恐ろしい悪女クルエラに変身する為の、ファッションを選んだということです。
忌み嫌う相手であるバロネスと、結果的に同じ存在になってしまったのは、皮肉的としか言いようがありません。
本作は「サクセスストーリー」「ケイパー映画」「コンゲーム映画」という、ジャンルを特定させない珍しい作風ですが、それも、本性を掴めないエステラというキャラクターを反映しているように感じます。
クルエラは『101匹わんちゃん』に登場する悪役ですが、『101匹わんちゃん』を知っていればニヤリとする小ネタがある程度で、知らなくても楽しめる作品に仕上がっています。
また、ファッションショーのオープニング映像のような、エンドクレジットもカッコよく仕上がっており、本当に最後までこだわり抜いた作品です。