連載コラム「インディーズ映画発見伝」第9回
日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」。
コラム第9回目では、荻颯太郎監督の映画『琴音ちゃんのリコーダーが吹きたくて』をご紹介いたします。
立命館大学映像学部に入学後映画を撮り始めた荻颯太郎監督。卒業成果作品『地球がこなごなになっても』(2017)で注目された荻颯太郎監督が在学時に制作した映画の一つが『琴音ちゃんのリコーダーが吹きたくて』です。
本作は43分という短編でありながら、青春、恋愛、シリアス、サスペンス、ヒューマンドラマ…と様々な要素を詰め込んだエンターテインメント作となっています。
CONTENTS
映画『琴音ちゃんのリコーダーが吹きたくて』の作品情報
【公開】
2014年(日本映画)
【監督、脚本、編集】
荻颯太郎
【キャスト】
合田達矢、田端奏衛、田之畑凌士、古池峻輔、佐藤柚里、杉本幸介、小森ちひろ、福井夏子、武田彩佳
【作品概要】
立命館大学映像学部に入学後、映画を作り始めた荻颯太郎監督。2016年に初監督作『2006のぷるーと』を制作。その後、『キエル』(2014)、『琴音ちゃんのリコーダーが吹きたくて』『風が吹けばキスをする』『うち湯』(共に2015)を制作します。
卒業成果作品として『地球がこなごなになっても』(2016年制作)を制作後、MV『WEEKEND』や『地球がこなごなになっても』のスピンオフ的短編『feral』を制作しています。ミュージックビデオ、企業コマーシャルなど様々な映像作品で意欲的に制作活動をしています。
映画『琴音ちゃんのリコーダーが吹きたくて』のあらすじ
友人も彼女もいる、何不自由ない生活を送っていた普通の男子高校生の主人公。ある日、幼馴染の佐々本琴音がしばらく学校を休むことを担任から告げられます。
「琴音ちゃんはどこにいるんだよ」
何かがおかしいと思った主人公は琴音を探し始めます。必死になる主人公に友人らは探すのをやめた方がいいと言いますが主人公は聞き入れません。
次第に異変にたどり着いていく主人公でしたが、琴音を探し出すことはできるのか…
映画『琴音ちゃんのリコーダーが吹きたくて』感想と評価
友達も彼女もいて、何不自由ない普通の高校生活を送っていた主人公の日常に大きな変異がやってきます。それが幼馴染の佐々本琴音がしばらく学校を休むということでした。
クラスメートの中で囁かれる噂に主人公は怒り、躍起になって琴音を探そうとします。隣にいる彼女のことにも気にかけないまでに琴音を探すことで頭がいっぱいになっている主人公を友人らは心配しますが、主人公には届かず。
琴音を探すうちに浮き彫りになった担任の裏の顔。いなくなった幼馴染を探す青春映画から次第にサスペンスへと雰囲気が様変わりしていきます。
主人公に対し、教師は中身のない正義感、肝心な時には決断できないと罵られます。それは何不自由ない普通な高校生活を送っていた主人公の有様そのものなのかもしれません。
幼馴染がいなくなるという非日常な出来事に必死になるのは、普通の日常に対する反動なのかもしれません。
様々な要素を詰め込んだエンターテインメント作でありながら、社会の情勢に対する視点も感じさせる一作になっています。
本作と比べ、『風が吹けばキスをする』(2015)は“風が吹けば桶屋が儲かる”を現代風にアレンジし、ファンタジックな要素を入れつつもコミカルで楽しい映画になっています。
『うち湯』も摩訶不思議で愛おしい人々が集まる銭湯を描き、ファンタジックでほのぼのとする優しい映画になっています。このようなコメディ要素の強い作品の中にもSFであったり様々な要素を混ぜ合わせ荻颯太郎監督独特の世界観を作り上げています。
まとめ
幼馴染の佐々本琴音がしばらく学校を休むということを知り何不自由ない普通の高校生活を送っていた主人公の日常が大きく変わっていく映画『琴音ちゃんのリコーダーが吹きたくて』。
幼馴染を探すことに必死になる主人公とその彼女や友人との関係性の変化を描く青春要素、そして探していくうちにサスペンス色の強い展開になっていく様々な要素が入り混じったエンターテイメント作になっています。
様々な要素が入り混ざり作り上げられた荻颯太郎監督独特の世界観。他の短編と合わせて堪能してみるのも良いかもしれません。
次回のインディーズ映画発見伝は…
次回の「インディーズ映画発見伝」第10回は、様々な登場人物が織りなす恋愛模様を描いた木村聡志監督の『恋愛依存症の女』。
次回もお楽しみに!