一度見れば忘れられない衝撃の実話から生まれた映画『32 Malasana Street』
映画『32 Malasana Street』は、実際の事件を基に構成されたホラーです。
1976年、スペインのマドリードで新たな門出を夢見て、都市に引っ越して来た6人の家族が、家に住み着く怨霊による恐怖と悪夢に苦しむ姿を描いています。
『Dhogs』(2017)のイヴァン·マルコスと『ペインレス』(2012)のベア·セグラが夫婦役で出演し、娘役のバゴーニャ·バルガスは、本作で初出演デビュー。『Matar a Dios』(2017)のアルバート·ピエント監督が手掛けています。
CONTENTS
映画『32 Malasana Street』の作品情報
【公開】
2020年(スペイン映画)
【原題】
Malasaña 32
【監督】
アルバート·ピエント
【キャスト】
イヴァン·マルコス、ベア·セグラ、バゴーニャ·バルガス、セルヒオ·カステラノス、イワン·ルネド、ホセ·ルイス·デマダリアガ、コンツァ·ベラスコ、マリア·バレストレスト、アルムデナ·サラート、ハビエル·ボテット
【作品概要】
実話を基に構成されたホラー映画『32 Malasana Street』は、スペイン·マドリードに、新しく引っ越して来た家族が経験した悲惨な悪夢のような出来事を描いています。
独裁政権の犠牲を通じて、苦しんで来たスペインの1970年代の社会が投影され、シナリオ的社会批判が結合された作品。
スペインで最も多くの人が亡くなった街と事件をモチーフにしているのはもちろん、それにインスピレーションを受けて制作されました。
映画『32 Malasana Street』のあらすじとネタバレ
1972年、スペインのマドリード。
あるアパートの4階で、2人の兄弟がビー玉で遊んでいました。そのうちに、ビー玉を落としてしまい、ビー玉は3階の家に転がり込んで行きます。
弟はビー玉を探す為に、3階のお祖母さんの家を開けて入ります。お祖母さんはロッキングチェアに座っていて、その下にビー玉が落ちています。
弟は、お祖母さんに「ビー玉を頂戴」と言いますが、お祖母さんは死んでいました。弟は驚き、2人の兄弟は3階から逃げて行きました。
4年後の1976年、田舎からマドリードにオルメド家族が引っ越して来ました。オルメド家族は、死んだ祖母が住んでいた家に住む事になります。
一家は、両親のマノロとカンデラ、長女のアンパロ、次男のペペ、そして末弟のラファエル、祖父のフェルミンの6人家族です。
引っ越した家には、前住人が置いていった生活家具が揃ってあり、家族はマドリードでの生活に満足し、幸せな未来への夢に浸っています。
両親は不動産仲介業者の案内を受けて、新居に入りました。引っ越し荷物をほどいていく中で、ペペはアンパロに恋人のマテオが送った手紙を渡します。
家の中には、4年前にかつて住んでいた祖母の持ち物と一緒に、前住人のような写真が飾られています。
アンパロは、自分の部屋で洋服を整理していると、前住人が置いて行ったと思われる緑色のドレスが綺麗な状態で出て来ました。
ペペの部屋では、誰もいないのに窓が開き、向かい側の建物に写真に写っている前住人のような人物が見えました。
その夜、アンパロは祖父とラファエルと居間にいました。アンパロは、ラファエルを風呂に入れて洗い、髪を乾かします。すると、横に座っていたはずの祖父がいなくなり、アンパロは心配になってその部屋を出ました。
部屋の前にあるドアが開いたままのトイレで、祖父が便座に座っていました。アンパロは声を掛けながら近付いて行くと、突然トイレのドアが閉まります。
ラファエルに「ドアを開けて」と言いますが返事が無く、ドアの隙間からは怯えているラファエルと誰かの足が見えます。
別の部屋にいた両親が駆け付けて来ました。マノロがドアを強く開けてその部屋に入ると、ラファエルが窓際に座っていました。このことで、両親にこっぴどく叱られたアンパロは悲しくなりました。
銀行から融資をうけて引っ越して来た為に、両親は借金返済のために働きに行かなければなりません。ある朝、マノロはトラック工場に出勤し、カンデラは洋服屋に出勤しました。
アンパロは、ラファエルの朝食を準備します。ペペは、タバコを吸う為に窓を開けました。
そして、ペペは、向かいの窓から窓に繋がれたロープを通して、送られて来たメモを発見。「私はクララ」という言葉に、返事を書いて送ると「あなたが来てくれるのを待っていた」と返事が来ました。
アンパロは、フライト乗務員になることを夢見ており、応募先の電話番号を確認していると、メモ帳に<スザンナ>と書かれた電話番号を見つけました。
するとラファエルが、独り言を言います。アンパロが「なに?」と言うと、ラファエルは「お姉さんが先に質問したから」と言い、何も質問もしなかったアンパロは、不思議に思います。
映画『32 Malasana Street』の感想と評価
映画『32 Malasana Street』は、人間の内面的本性と実際の事件を構成した作品で、新しいホラーを待ち望んでいる世界中のマニア達の期待を集めています。
32 Malasana Streetの歴史背景
『32 Malasana Street』は1976年、スペインのマドリードにある実在した建物にまつわるミステリーを描いています。
様々な怪談の有名地となったスペインの首都マドリード中心部のマラサニアは、スペインで‟人が最も多く死んだ街”という悪名を轟かせています。
実際に、この街は多くの人々が不遇の死を遂げた所です。
マラサニア通りの中の1つ、アントニオ・グリロでは、1945年のミステリーな殺人事件を皮切りに、遺体をバルコニーに展示した一家殺人事件、無数の胎児の遺体が積まれていた倉庫の中の胎児墓事件など、残忍な事件が数十年にわたって起きました。
映画の中の家族が引っ越して来る家も実在の建物です。スペイン広場に隣接したこの建物は、約100年以上の数奇な歴史を持つ建物であり、歳月と同じ位多くのエピソードを留めています。
この映画は、退魔師と怨霊を登場させるなど、幽霊映画の基本要素を取っていますが、現存の建物と実際の事件を結び付けて、恐怖と共に人間の悲哀を表現し、恐怖以上の恐ろしい歴史を伝えようという狙いがあります。
「平凡な日常で向き合う恐怖を表現するのが、一番重要だった」というアルバート・ピエント監督の言葉にもその意図は表れています。
日常は恐怖の舞台でもありますが、背景には暗い歴史もありました。
映画に登場した家族の姿には、社会的、政治的、文化的に、暗鬱だった時代の社会像が投影されています。
映画が扱う時期は、欧州最後のファシストとも呼ばれる、独裁者フランシスコ・フランコの死亡直後の1976年。現在の資本主義民主主義国家に、様変りする前の過渡期が時代背景なのです。
家という限られた空間での恐怖
何処よりも家という空間は、人々にとって最も安らぎのある憩いの場であり、快適で寛げるねぐらでなければなりません。
それにも関わらず、本作では、家が一瞬にして恐怖の空間に変わるという悪夢の事態を、徐々に露わにしていきます。
限られた家という空間、時代を遡り1970年代のスペインの風変わりな姿と共に、その家にまつわるエピソードが明らかになるまで、家族全員が感じた典型的な恐怖に満ちた怨霊の恨みがきちんと描かれています。
そのように実話的ストーリーを基盤に製作されたとすれば、まるで家族の構成員になったような感じで、資本主義と都市に適応出来ない家族の不安は、家の中の不気味な恐怖と精神的苦痛を起こす原因にもなり、観客までもが逃げ場のない恐怖を感じます。
怨霊の存在
映画の開始から、怨霊が姿を現して、存在感を誇示しています。当時スペイン社会では、トランスジェンダーに対する敏感な部分で、性アイデンティティについて話すのは、難しかった時代だったのです。
本作では、男であるが女であることを望み、母性を欲望したミゲルの人生が全面的に否定され、怨霊として現存されます。ミゲルは、怨魂であり、その家の永遠の居住者であり、主人でありました。
したがって、その家に移住した家族は、根本的には居候にならざるを得ず、結局その家の主人にはなれません。
しかし、田舎から都会へ引っ越すのに借金をしてその家を買った為、返済完済前にその家から去ることが出来ません。
その家を離れられない怨霊が彼ら家族を待っているような状況が、まるで悪夢の鬼ごっこをするように、家族に恐怖を与えます。怨霊と借金が共存するその家から脱する道は死だけだったのです。
身元不明の怨魂の「死者はまた死ぬことが出来ない」という宿命を、映画は辛辣に描き出しています。
まとめ
「『32 Malasana Street』はホラーだが、人間の本性に対する核心を盛り込んでいる作品」という監督の主張は正論です。
本作を制作する際に監督は、その時代の問題点である田舎と都市の両極化、家族、貧民、社会的偏見などの様々なテーマと、マラサニアで起きた実際の事件を組み合わせて、映画に盛り込みました。
平凡な日常の中で悪意が全く感じられないことでも、予測出来ない恐ろしいことが起きる可能性があるのを表現しているのでしょう。従来のホラーとは異なる特徴を持つ映画です。
そして、緊張感と恐怖感を感じるサウンドを積極的に使用し、鏡や光、テレビなどの日常的な道具を活用した演出が続き、恐怖を与えます。
古い家が与える不気味な印象と、老婆の姿をした怨霊が家族を襲う恐怖を上手く調和させ、より深みのあるホラー映画として、恐怖心を作り出すのに成功した作品です。