連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第59回
今回取り上げるのは、2021年04月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開の『SNS-少女たちの10日間-』。
チェコを舞台に、3名の成人女性が、未成年という設定のもとSNSに登録して何が起こり得るかを、10日間かけて検証した衝撃作となっています。
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映画『SNS-少女たちの10日間-』の作品情報
【日本公開】
2021年(チェコ映画)
【原題】
V siti(英題:Caught in the net)
【監督】
バーラ・ハルポヴァー、ビート・クルサーク
【原案】
ビート・クルサーク
【キャスト】
テレザ・チェジュカー、アネジュカ・ピタルトバー、サビナ・ドロウハー
【作品概要】
18歳以上の女性が、未成年という設定でSNSへ登録し、何が起こりうるかを検証したチェコ製作のドキュメンタリー。
現代の子どもたちが直面する危険をありのまま映し出し、SNSと常に接するジェネレーションZ世代やその親たちに驚きと恐怖で迎えられ、チェコ本国では、ドキュメンタリー映画としては異例の大ヒットを記録。
また、児童への性的搾取の実態を描いた映像として、地元警察が動き出す事態にもなりました。
監督は、多数のドキュメンタリー作品を発表してきたビート・クルサークとバーラ・ハルポヴァーが、共同で務めます。
映画『SNS-少女たちの10日間-』のあらすじ
2019年のチェコで、とある検証が行われました。
それは、巨大な撮影スタジオに作られた3つの子ども部屋で、幼い顔立ちの3名の18歳以上の女優が、“12歳女子”という設定の下、室内にあるパソコンを使ってSNSで友達を募集をするというもの。
ルールは以下の通り。
1、自分からは連絡しない
2、12歳であることを告げる
3、誘惑や挑発はしない
4、露骨な性的指示は断る
5、何度も頼まれた時のみ裸の写真を送る
6、こちらから会う約束を持ちかけない
7、撮影中は現場にいる精神科医や弁護士などに相談する
専門家のバックアップやケアを用意しながら、女優たちのSNS上でのやりとりを撮影し続けて10日間。そこで露になるのは、数々の卑劣な誘いでした…。
“12歳少女”がSNSで直面する危険に密着
本作『SNS-少女たちの10日間-』は、2017年のチェコで、ドキュメンタリー監督のヴィート・クルサークが、国内の通信会社から動画作成を依頼されたのが発端となりました。
その動画とは、インターネットにおいて、衝撃な方法で虐待を受ける子どもが急増している実態を伝えるというもの。
クルサークは、同僚でやはりドキュメンタリー監督のバーラ・ハルポヴァーと共に、「12歳の少女・ティンカ」というプロフィールの偽のSNSアカウントを作成したところ、わずか5時間あまりで23歳から63歳までの総勢83名の成人男性がコンタクトを取ってきたといいます。
その中には、過激な行為をしてきた者もいたことから、2人の監督はこの一連の検証を、独立した長編ドキュメンタリー映画として製作することにします。
少女に群がるプレデターども
まずハルポヴァーとクルサークは、幼い顔立ちをした3名の18歳以上の女性をオーディションで選出。
選ばれた3人は、インターネット上での児童虐待問題への関心や、「演じる」ことへの純粋な興味など、各々の理由でオーディションに臨みました。
巨大な撮影スタジオに3つの子ども部屋を作り、偽のSNSアカウントで12歳のふりをするという任務を与えられた3人は、部屋のパソコンで友達依頼をしてきた男性とスカイプでやり取りをします。
10日間の間にコンタクトを取ってきた成人男性の数は、実に2,458名。
その大多数は、自身の猥褻な写真や成人サイトのリンクを送信したり、セックスフレンドとなるよう強要するといった、いかがわしく卑劣な誘いばかりでした。
こうした行為をする者を、英語で「プレデター(predator)」と呼びます。
プレデターといえば、アーノルド・シュワルツェネッガー主演のSF映画『プレデター』(1987)に登場する地球外生命体を連想しますが、この言葉には「捕食動物」や「天敵」のほかに、「未成年者に性的いたずらを働く変質者」という意味もあります。
姿を消す能力を持つ地球外生命体のプレデターに対し、撮影されていると知らずに、自らの醜態を臆面もなくさらけ出すSNSのプレデターども。
そのあまりにもバカらしく滑稽な姿に、監督たちやスタッフも思わず呆れ笑いしてしまいますが、一方で3人の女性たちは、日を追うごとに疲弊していきます。
シュワルツェネッガーがプレデターを仕留めるために罠を仕掛けたように、やがて監督2人も策を講じることとなります。
利便と抑止の狭間で
幼い子どもでも、その気になればパソコンですぐ欲しい情報が得られて、買い物もできる。現在位置の確認や防犯対策として、スマホを持たせる親もいることでしょう。
何よりも、生まれた時からネットが普及している10代の少年少女から、コミュニケーションツールとなっているパソコンやスマホを遠ざけるのは、あまりにも酷というもの。
しかし、利便性の高いものほど、邪(よこしま)は付け入ります。
本来、そうした邪な行為を抑止するシステムは存在しているはずなのに、それが機能していない現状は、チェコだけでなく全世界共通の課題です。
内閣府が毎年発表する「青少年のインターネット利用環境実態調査」によると、日本の小学生のスマホ利用率は、2020年時点で53.1%と、前年度の49.8%を上回り過半数に達したとか。
本作のレイティングは「R15+」指定なため、10代前半は鑑賞が難しい状態にあります。
そのためにも、本作を鑑賞可能な大人がネットの危険性を改めて把握し、彼らに伝える必要があるといえます。