サスペンスの神様の鼓動38
こんにちは「Cinemarche」のシネマダイバー、金田まこちゃです。
このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。
今回、取り上げる作品は、クリスマスに2人で留守番をする事になった、12歳の少年と18歳のベビーシッターが、屋敷に謎の男が侵入してきた事で遭遇する、恐怖の一夜を描いた『ベター・ウォッチ・アウト クリスマスの侵略者』です。
本作はホラー映画なのですが、作中にある仕掛けがされており、一筋縄ではいかないストーリー展開となっています。
豪華な屋敷で、留守番を任された12歳の少年ルークと、ベビーシッターを任された18歳のアシュリー。
2人は屋敷に謎の侵入者が現れた事で、恐怖の一夜を過ごす事になる、いわゆるホラー版の『ホーム・アローン』とも呼べる作品です。
主人公の少年、ルークを演じるのは『PAN 〜ネバーランド、夢のはじまり〜』(2015)で、ピーター役に抜擢され、世界的に注目れさているリーバイ・ミラー。
ルークを守るベビーシッター、アシュリーを、M・ナイト・シャマラン監督の『ヴィジット』(2015)に出演している、オリビア・デヨングが演じています。
CONTENTS
映画『ベター・ウォッチ・アウト クリスマスの侵略者』のあらすじとネタバレ
ベビーシッターのアルバイトに向かう、18歳のアシュリー。
アシュリーは、その美貌から街の男達の注目の的でしたが、家庭の事情で次の日には引っ越す事が決まっていました。
そのアシュリーに、8歳の頃からベビーシッターをしてもらっていた12歳の少年ルーク。
ルークもまた、アシュリーに恋心を抱いていますが、ルークの親友ギャレットは、年の差が5歳離れている事を指摘し「諦めろ」と諭します。
ですが、ルークは「女性は危険な状況に陥ると、恋をしやすくなる」という、インターネットの受け売り情報を披露し、ギャレットに馬鹿にされます。
ルークは先日も「ペンキの入ったバケツを、頭にぶつけると人は死ぬ」というインターネットの情報を真に受けて、ギャレットに呆れられたばかりでした。
そんな中、アシュリーが到着し、ルークの両親はクリスマスのパーティーで出かけます。
門限のあるギャレットも家に帰った為、屋敷内はルークとアシュリーの2人きりになります。
しかし、アシュリーは恋人のリッキーと揉めている様子で、バイト先の屋敷に来ようとするリッキーに、一方的に別れを告げます。
アシュリーが電話を終えると、ルークは家にあった高級シャンパンをラッパ飲みしています。
アシュリーは、シャンパンを取り上げ、2人でホラー映画を観る事を提案しますが、ルークの気持ちはアシュリーにしかありません。
アシュリーもルークの気持ちを察し「同世代なら付き合ってた」「君は可愛い弟」と、ルークを引き離そうとします。
そこへ、注文した覚えのない、ピザの配達が届きます。
2人は「ルークの父親が頼んだんだろう」と思いますが、ルークが苦手なマッシュルームが入っていた事で、不審に感じます。
また、ピザの配達が届いて以降、窓の外に不審な人影が現れるようになります。
そして、何者かがドアをドンドンと叩くようになり、アシュリーとルークは恐怖を感じます。
それは、恐ろしい一夜の始まりにすぎませんでした。
サスペンスを構築する要素①「中盤から大きく変化する展開」
クリスマスに、ある屋敷で起きる悲惨な一夜を描いた『ベター・ウォッチ・アウト クリスマスの侵略者』。
本作最大の特徴は、中盤から大きく展開が変わる事です。
作品の序盤は、ベビーシッターに来てくれたアシュリーに恋する12歳の少年ルークが、突然現れた謎の侵入者と対峙するという、ホラーに青春の要素を入れた、変わり種の「ティーンムービー」のような展開です。
2人になったアシュリーとルークに、謎のピザ配達が現れたり、家の中に突然サンタの置物が置かれたり、あからさまに後ろの壁に人影が出現したりと、いろいろと不審な事が起きます。
ですが、この辺りの演出は、ホラー映画のありがちな展開を不自然なぐらいに強調しており、なんともいえないわざとらしい感じがしました。
しかし、作品の中盤からこれらの不審な出来事は、ルークとギャレットが仕掛けた悪戯である事が判明します。
前半に感じたわざとらしさは、悪戯であるが故の不自然さを強調する為の確信的な演出だった訳ですね。
中盤から大きく展開が変わる『ベター・ウォッチ・アウト クリスマスの侵略者』は、ここから前半とは打って変わった、不快なぐらいの恐怖演出が特徴的な作品へと変化していきます。
サスペンスを構築する要素②「恐怖の現代っ子ルーク」
中盤から大きく展開が変化する『ベター・ウォッチ・アウト クリスマスの侵略者』。
序盤では、少し悪ぶった所はありながらも純粋な少年のはずだったルークが、中盤以降では、内に秘めた狂気を表に出していきます。
ルークは悪知恵が働く為、これまで周囲の大人を騙してきました。
いわゆる「大人しい優等生」を演じており、周囲を騙し続けていた事から、自分の悪知恵にかなりの自信を持っています。
そのルークの悪知恵が、アシュリーへの恋心に向いた事が、本作で描かれている悲劇に繋がっていきます。
クライマックスで、ルークがアシュリーに語る「今は憎しみしかないと思うが、いずれ僕に感謝するようになる」という言葉から、過剰な自信と屈折している恋心を感じますね。
また、作品序盤では、ルークを馬鹿にしていたギャレットが、実は心の底からルークに支配されており、中盤以降は言いなりになって動くという、立場の逆転が起こります。
ルークが「恐怖の現代っ子」と呼べる要因として、人生経験は少ないですが、インターネットで、余計な知識を身に付けているという部分があります。
特に、その恐ろしさが強調されるのが、インターネットで書かれていた「頭にバケツをぶつけると死ぬのか?」を実践し、バケツをぶつけられたリッキーが死んだ後に、ルークがガッツポーズをする場面。
自分が信じるインターネットの情報の正しさが証明された事だけに感情が動き、リッキーの命など何とも思っていないという、ルークの抱える闇が強調された場面ですが、幼い頃からインターネットに触れる機会が増えた現代社会、こういう子供が実際にいるかもしれないという、リアルな恐怖を感じました。
また、この場面はあきらかに『ホーム・アローン』を意識しており、ブラックなユーモアが盛り込まれている辺り、本作が悪趣味な方向に振り切った事を印象付けています。
サスペンスを構築する要素③「絶望的なクライマックス!からの…」
ルークが心の闇を開放して以降、本作は全てがルークの思い通りの展開となっていきます。
ルークを演じるリーバイ・ミラーが、あどけない表情を出しながら、無邪気に自分の思い通りに事を運ぶルークを演じている為、かなり憎たらしく、特にクライマックスで、踊りながら殺人の偽装工作をしていくルークの憎たらしさは、これまでいろいろ映画を観てきましたが、間違いなくトップクラスです。
この辺りになると、本当に悪趣味な方向に振り切っている為「このまま、ルークの完全勝利で終わるかも」と感じましたが、最後の最後に、アシュリーがルークを出し抜いた展開となります。
搬送されるアシュリーを、ルークがただただ眺めるしかないというラストで、屋敷内では最強だったルークが、外の世界にアシュリーを逃がしてしまった、もうどうしようもない、ルークの「完全敗北」を意味します。
ここまで、ルークが憎たらしかった為、心の底から「ざまあみろ」と思いました。
この爽快感を味わうだけでも、本作を鑑賞する意味はあると言えますし、ここまでの考え抜かれた展開と、キャストの熱演、全てはこのラストを成立させる為だったのだと感じます。
ただ、エンドロール後に、ルークがアシュリーのお見舞いに病院へ行く事を提案する場面があるのですが、ここで爽快感が薄まった為、蛇足に感じたのが残念でした。
映画『ベター・ウォッチ・アウト クリスマスの侵略者』まとめ
「恐怖の現代っ子」である、ルークの闇を描いた映画『ベター・ウォッチ・アウト クリスマスの侵略者』。
では、ルークは何故、このような性格になってしまったのか?と言うと、作中にヒントがありました。
ルークが拘束したアシュリーに寄り添い「母は昔は僕を抱いて寝てくれたけど、最近はしてくれない」と語る場面。
この後に、アシュリーに「分かる気がする」と答えられ、ルークが激高し「理由はなんだ!失望したからだろ?そう言えよ!」と感情をむき出しにします。
ルークの母親は、作中では世間体だけを気にして、他人の陰口を平気で叩く人物として描かれており、父親は、その母親の言いなりになっています。
おそらく、ある時期を境に、ルークは「母親に突き放された」と感じたのでしょう。
そのルークの心の支えが、インターネットだった訳です。
もし、ルークの両親が、もっと愛情を持って接し、インターネットとの距離の取り方を教えていれば、少なくともルークは、こんな大惨事は起こさなかったでしょう。
映画『ベター・ウォッチ・アウト クリスマスの侵略者』では、インターネットが普及された現代社会での、家族の在り方についても言及しているのです。
それを踏まえても、ルークはかなり憎たらしいですが。
次回のサスペンスの神様の鼓動は…
次回も、魅力的な作品をご紹介します。お楽しみに!