映画『すばらしき世界』は、2021年2月11日より公開。
『復讐するは我にあり』で直木賞を受賞した作家・佐木隆三が、実在の人物をモデルに、刑務所から満期で出所した身寄りのない男の再出発を書いた小説『身分帳』。
本著を原案にした映画『すばらしき世界』が、2021年2月11日より公開されます。
『ゆれる』『永い言い訳』の西川美和監督が、役所広司と初タッグを組み、原作から約35年後の現代に置き換え、人生の大半を裏社会と刑務所で過ごした男の再出発の日々を描きます。
映画公開前に、佐木隆三が4年以上にわたる取材と交流を重ねて書き上げた『身分帳』を、あらすじネタバレ有りでご紹介します。
小説『身分帳』のあらすじとネタバレ
山川一、44歳。
当時キャバレーの店長をしていた彼は、ホステスの引き抜きトラブルで20代の男性を殺害。13年の刑期を終え、旭川刑務所から出所します。
少年時代から犯罪を重ね、人生の大半を刑務所で過ごしてきた山川。真っ直ぐで何にでもこだわる性格のため、獄中でもトラブルが多く、懲罰を受けるのも日常でした。
彼は幼い頃に孤児院に預けられました。戦後の混乱もあって出生届もありません。山川には、久美子という年上の妻がいましたが、山川の逮捕後に別の男性と付き合い始め、獄中離婚をしています。
身寄りのない彼の身元引き受け人になったのは、東京の庄司弁護士。庄司弁護士の助けを借りながら、山川は役所で住民登録と生活保護の手続きをします。
山川は一刻も早く仕事をして生活保護を受けなくても暮らせるようにしたいと望みますが、長年の劣悪な刑務所の環境から、体調と精神のバランスを崩しており、まだ働きに出られるような状態ではありません。
手先が器用で縫い物が得意だったため、それを生かした職業を、と考えますが、なかなか仕事は見つかりませんでした。
庄司弁護士の家を出て、新たな家としたのは、築30年の木造のアパート。そこには新聞の販売拡張団が住んでおり、些細な生活音にも敏感な山川は、夜中まで酒盛りをしていた彼らとトラブルを起こします。
リーダー格の男性を脅しつけ、謝らせた山川。他の若い拡張員からは、やっとリーダーから解放されたと感謝され、新聞を毎日無料で届けてもらえることになりました。
そんな彼に興味を抱いたのは、アパートの階下に住むコピーライター・角田。作家志望という角田は、折に触れて山川の部屋を訪れ、過去の話を聞き、彼の調書を読んでいきました。
またある時、山川は近所のスーパーの店主と口論になりますが、お互いの誤解がとけた後、店主は良き相談役になりました。
なかなか仕事が見つからず焦る山川は、運転免許を取って運転手になろうと思い立ちます。
免許は持っていたものの、逮捕のどさくさで手元にはありません。免許センターに出向くと、職権抹消されていると言われてしまいます。
そこへ現れた警部は、過去に山川が起こした事件に関わっており、更新手続きの履歴から、原簿を確認してみると約束してくれました。
しばらく経ってから警部から、免許の原簿が見つかったと連絡が入り、仮免許扱いで運転免許試験を受けられることに。ですが久しぶりの運転では歯が立たず、何度受けても合格することができませんでした。
警部の勧めもあり、山川は自動車学校に入ることも考えますが、費用のこともあり、踏み出せずにいました。
福祉事務所のケースワーカーより、結婚相談所のパーティー「つどい」のお知らせをもらい、参加を悩んでいた山川。角田から「奢るから銭湯と焼肉に行かないか」と誘いを受けます。
小説『身分帳』の感想と評価
タイトルである「身分帳」こと身分帳簿とは、受刑者の氏名、本籍、刑期、写真、指紋、身体的特徴等が記された個人台帳のこと。
本著は、出所後の山川が、身分帳簿を見返し、過去を思い出しながら、現実社会と向き合っていく様を淡々と描きます。
天涯孤独な身の上と、育ってきた時代背景や環境もあって、愛情に飢えている山川。まっすぐでこだわりが強すぎる性格が災いし、多くのトラブルに巻き込まれます。
光が見えたかと思うと、彼自身の短気のせいで再び闇へ向かってしまう描写に胸が詰まりますが、彼を支え見守る人々の温かさに救われます。
本著は、山川のモデルとなった人物、田村明義が「自分のことを本にして欲しい」と佐木隆三に持ちかけたことがきっかけになったといいます。
『身分帳』と同時収録されているエッセイ『行路病死人』には、田村と佐木の交流と、田村の死が描かれています。田村は『身分帳』発刊から半年たらずで、福岡のアパートで亡くなりました。
未来への希望に胸を膨らませて『身分帳』で走り去った山川と、『行路病死人』で亡くなってしまった田村。
佐木隆三の正確な筆致で、すぐそこにいたはずの人物がいなくなったかのような喪失感に襲われました。
ぜひ『行路病死人』とあわせて読んでいただきたい小説です。
映画『すばらしき世界』の作品情報
【日本公開】
2021年(日本映画)
【原案】
佐木隆三著『身分帳』(講談社文庫刊)
【監督・脚本】
西川美和
【キャスト】
役所広司、仲野太賀、橋爪功、梶芽衣子、六角精児、北村有起哉、長澤まさみ、安田成美
【作品概要】
主人公の三上を演じるのは、日本を代表する俳優・役所広司。
三上が自らテレビ局へ送った、刑務所内の個人台帳である「身分帳」を手にするテレビディレクター役には、『タロウのバカ』『泣く子はいねぇが』出演の仲野太賀。
また、三上が更生してゆく様子をテレビ番組にしようと企むテレビプロデューサー役は、『コンフィデンスマンJP プリンセス編』『MOTHER マザー』など、立て続けに出演作の公開を控える女優・長澤まさみが務めます。
その他、橋爪功や梶芽衣子、六角精児、北村有起哉、安田成美らが名を連ねました。
これまですべてオリジナル脚本の映画を手がけたきた西川監督にとって初めて小説原案の作品です。
映画『すばらしき世界』のあらすじ
殺人を犯し13年の刑期を終えた三上は、目まぐるしく変化する社会からすっかり取り残され、保護司・庄司夫妻の助けを借りながら自立を目指していました。
そんなある日、生き別れた母を探す三上に、テレビディレクターの男とプロデューサーの女が近づいてきます。
彼らの真の目的は、社会に適応しようとあがく三上の姿を番組で面白おかしく紹介すること。
まっすぐ過ぎる性格であるが故にトラブルの絶えない三上でしたが、彼の周囲にはその無垢な心に感化された人々が集まってきて…。
まとめ
映画では、小説での主人公・山川にあたる人物「三上」を、役所広司が演じます。
役所広司は本作の演技で第56回シカゴ国際映画祭のインターナショナル コンペティション部門にて、ベストパフォーマンス賞を受賞。2001年の『赤い橋の下のぬるい水』以来19年ぶり、自身2度目の受賞になりました。
「三上」という名は、映画化にあたって西川監督が実際の事件を調べ、山川にあたる人物を探していた時に出会った名前だといいます。
小説の設定通りの日付の新聞に「バーの店長が同僚と喧嘩し刺殺した」と書かれており、その名前が「三上正夫」だったため、西川監督はこの「三上正夫」こそが山川だと確信したそう。
映画では、舞台を約35年後に移し、現代の物語として出所した「三上」の人生が描かれます。
予告を見ると、原作の角田にあたるポジションを膨らませ、仲野太賀と長澤まさみが演じるテレビ関係者が登場するようです。
原作『身分帳』が書かれた1991年当時より、さらに人間関係が希薄になってしまった日本で、三上がどう生き抜くのか、期待が高まります。
映画『すばらしき世界』は、2021年2月11日より公開です。