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映画『笑顔の向こうに』あらすじネタバレと感想考察。高杉真宙が歯科技工士役に挑み医療現場での成長を描く

  • Writer :
  • からさわゆみこ

歯科医療界の国家技師達にフューチャーし、笑顔の中には白い歯が輝く、そんな歯の健康を守る現場を描いたハートフルな物語

映画『笑顔の向こうに』は「公益社団法人日本歯科医師会」の全面協力で、歯科医療の現場、特に国家資格を要する歯科技工士と歯科衛生士を主人公にした作品です。

歯は人が健康に暮らすために大事なものです。虫歯になった時の苦痛や治療の時の苦痛は思い出しただけでも嫌なものですが、だからこそ歯科医院は無くてはならない医療施設なのです。

さて、歯科医が主人公のドラマや映画はありますが、『笑顔の向こうに』は歯科技工士や歯科衛生士を紹介し、両者がいなければ美しさは保てないと伝えています。

映画『笑顔の向こうに』の作品情報

(C)公益社団法人日本歯科医師会

【公開】
2019年(日本映画)

【監督】
榎本二郎

【原作】
瀬古口精良

【キャスト】
高杉真宙、安田聖愛、辻本祐樹、西方凌、濱田英里、ayanonono、木村祐一、 大出俊、池田鉄洋

【作品概要】
本作はニューヨークにて10年間、映像やアート関連の制作に関わり、帰国後は映像制作、イベント企画運営会社の経営、国内最大級のシェアオフィス&コワーキングスペース The Companyを開業するなどの活躍をしている榎本二郎が、長編映画の初監督として手掛けたものです。

主演は『ギャングース』『虹色デイズ』(2018)などの話題作で注目を集めた高杉真宙。若手ながら高い技術力を持つ歯科技工士の大地役を好演しています。また、歯科衛生士の真夏役をホリプロタレントスカウトキャラバン 「スターオーディション2010」 でグランプリを受賞した安田聖愛が務め、歯科医役にお笑い芸人の木村祐一、大地の上司役にレポーターで有名な阿部裕二など、多彩なキャストが出演しています。

第16回モナコ国際映画祭で丹古母鬼馬二が助演男優賞、作品は「エンジェルピースアワード」を受賞しました。

映画『笑顔の向こうに』のあらすじとネタバレ

(C)公益社団法人日本歯科医師会

大地は若手の歯科技工士として仕事熱心に義歯を制作しています。クオリティーの高い義歯を作ることで上司や歯科医からは高い評価を得ていました。

一方、東京郊外にある山田デンタルクリニックで歯科衛生士として働くようになった真夏は、初日から寝坊をしてしまい、遅刻寸前で慌ただしく勤務に就きました。

真夏の勤めるクリニックは大地の務める技工所の得意先でした。大地は、その日もできた義歯を届けに行き、偶然、真夏の姿を見つけました。

大地と真夏は石川県金沢の出身で幼なじみです。幼い頃、真夏は歯の治療で口が開けられない時、歯科衛生士の優しい笑顔と唄で和ませてもらった経験があります。

しかし、大地はたまたまその様子を隠れて見ていて、真夏をからかったりしていました。2人は犬猿の仲なのです。

歯科医院には歯の治療のほかにも、歯のホワイトニングや歯石取りなどに訪れる人がいます。ある女子高生は小顔になるため“親不知(おやしらず)”を抜きたいと訴えたりします。

ところが山田医院長は虫歯もなく真っ直ぐに生えていれば、無理に抜く必要はないと言います。女子高生は納得しない様子でしたが、真夏は小顔になる顔面ストレッチを教え、健康な歯は維持した方がいいとアドバイスします。

その様子をクリニックへ向かう大地が見ていて、真夏をからかいます。クリニックで大地は王子と呼ばれ他のスタッフに羨ましがられますが、久しぶりの再会でも真夏にとっては嫌味な大地は苦手なので嬉しくありません。

その後もクリニックでドジをする真夏に「ショマナ(ドジ)」と、言って真夏をからかいます。

大地の実家は歯科技工所を営んでいます。大地も家業を継ぐ意味で技工士の道にすすんでいました。

ある日大地の父親は手を負傷し、技工士としての仕事をするのが難しくなります。しかし、大地のことを「おまえはまだ未熟者だ。うちで雇うつもりはない」と、跡を継ぐことを拒まれます。

大地は職場で認められている一方で、父親からは「未熟者」と言われ、親子関係がギクシャクしていたのです。

以下、『笑顔の向こうに』ネタバレ・結末の記載がございます。『笑顔の向こうに』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)公益社団法人日本歯科医師会

真夏のクリニックでは先輩衛生士のユキが産休に入るため、真夏は心細くなります。ユキは真夏になぜ、衛生士になろうと思ったか尋ねました。

そして、幼い頃に出会った歯科衛生士との思い出が、真那のこの道に進んだきっかけと知ります。ユキは自信なさげな真夏にその人を目標に「患者さんの目線になる。これが衛生士の極意」と、諭してくれました。

一方、大地は上司の知り合いの大学教授に彼を大学職員へと推薦していました。その国際歯科大学の山岡教授が大地をオファーしにやってきて、大地はその誘いを前向きに検討をします。

ちょうどその日、金沢から大地の祖母が演歌歌手のコンサートを観るため上京しました。大地と連絡がつかないところに偶然、真夏と出会い、真夏は大地の祖母をコンサート会場まで連れて行くことになりました。

大地の祖母はコンサートに来たついでに見合い話を持ってきていました。突然の訪問にも困惑ぎみの大地は、見合いの話には恋人がいると嘘を言い断ります。

実際の大地は恋愛にまったく興味がなく、結婚など毛頭から考えていません。とっさに嘘をついたため、真夏に祖母が帰るまで恋人のふりをしてくれるよう頼みました。

真夏はクリニックで実施している訪問診療の助手として、初めて同行することになりました。訪問先の患者は藤尾イサオという寝たきりの老人です。介護食ばかりになり誤飲性肺炎の予防のため口腔ケアを受けています。

医師は介護をしている娘に口腔ケアをしながら、入れ歯にしてみることを提案します。入れ歯にして自分で噛んで食べることは、認知症予防・消化機能、腸内環境の改善になると説明します。

真夏も自分で立ち上がり、歩けるようになったケースもあると補足します。イサオの娘は話しを聞き、父親の入れ歯を作ることを決めるのでした。

イサオの入れ歯を作るのは大地が指名されます。義歯の制作経験は十分に積みましたが入れ歯制作は初めてです。

見栄えの美しい入れ歯が出来上がりましたが、実際に装着しようとすると噛み合わせなどが全く合わず痛いばかりで、イサオは激怒します。

真夏は入れ歯が合わない原因に左右の噛み癖の違いもあると知り、イサオの健康な時から現在までの食生活から、普段の様子などを細かく聞いてメモを取りました。

山田院長からは「患者の口に入る物という自覚が足りない。くれぐれも自己満足で終らないように」と一喝されてしまいます。

大幅な調整が必要となり、大地は少し自信を失います。上司からの一喝もプレッシャーがかかり、壁にぶつかりました。

真夏は嫌味で自信家の大地を毛嫌いしていますが、彼の才能や技術の高さには尊敬していて、幼なじみなので応援する気持ちもあります。

真夏は大地の気晴らしになればと海へ行こうと誘います。大地はあまり乗り気ではありませんが、賭けに負けて結局、江の島へと出かけました。

(C)公益社団法人日本歯科医師会

それでも何だかんだいいながらも楽しい一日を過ごして終るはずでした。地元に戻り近所の食堂に立ち寄るとそこは、入れ歯を依頼した藤尾が経営する食堂でした。そこで真夏は大地を入れ歯作りを担当していると紹介するのです。

大地は真夏に「おまえって本当に無神経だよな。俺が上手くいってないの知ってて、今日も無理矢理に江の島まで連れ出して……」と、責めます。

真夏は大地の気分転換になればと思ってしたことも、入れ歯作りに期待していることも全て否定されてしまいました。

大地が自宅へ帰ると祖母が心配し声をかけます。苛立っている大地は祖母に対しても辛くあたり、「早く出て行ってほしい。迷惑だ」と言ってしまいます。祖母は翌朝金沢に帰って行きました。

大地は入れ歯作りを再開しますが、そこには気持ちがこもっていません。先輩技工士は自分の経験を伝えます。

「噛み癖は人によって違うから難しい。その人の体形や食生活を知って作らないと……。大事なのは思いやりだよ」

真夏は自分の取ったイサオの食生活などを記録したメモを持って、大地の元へ行き何かの役に立てばと渡すのでした。

それを参考に大地は入れ歯の作り直しをし、納品をすると今度は全てがイサオの口に合い、その入れ歯で何でも好きなものを食べるようになり、寝たきりから歩行できるまでに健康が回復しました。

数日後、金沢の実家から大地に帰省するよう連絡が入ります。迎えに来た父親の手のケガは回復していません。しかし、呼ばれた理由が祖母が癌で余命半年だからでした。

祖母は息子の手の具合を案じ大地を金沢に戻るよう仕向けるため、わざと見合いの話を持っていき、幾ばくも無い命と知り孫の大地との時間を過ごしたかったと語りました。

祖母の本当の気持ちを知った大地は、再び父親と向きあい、話し合いをします。

そして「技工士にとって一番大事なことはまだわかっていないかもしれないが、自分に足りないものはわかった。五十嵐技工所を継がせてくれ」と言い、父は「勝手にしろ」と答えます。

大地は大学での仕事のオファーを断り、踏ん切りをつけるため早々に実家へ帰ることを決めます。そして、真夏に指輪を手作りして渡し、お互い気持ちが通い合ったことを確かめ合いました。

映画『笑顔の向こうに』の感想と評価

(C)公益社団法人日本歯科医師会

本作はエンターテイメントでは取り上げられにくい、歯科衛生士や歯科技工士といったバイブレイヤー的な職種にスポットを当てた作品でした。

単純に仕事の内容だけを理解できたわけではなく、多くの人が歯科医院で経験のある不安を解消するのは、人の思いやりであり、笑顔や優しさがあればこそというのが伝わりました。

また、非営利、無党派など愛、平和、ワンネスを称賛するモナコ国際映画祭で最優秀賞を受賞したことは、歯科医師界やそこを目指す若者に、大きな励ましを与えたのに違いありません。

まとめ

(C)公益社団法人日本歯科医師会

『笑顔の向こうに』は “8020運動30周年記念事業” で行われた、シンポジウムのメインテーマでもあります。つまりその一環として、公益社団法人日本歯科医師会の全面協力で制作された映画でした。

「8020運動」とは“80歳になっても20本以上自分の歯を保とう”がコンセプトになっていて、それを広く一般的に歯の大切さを呼びかけている運動です。

例えば作中で若い子が健康で真っ直ぐ生えた親不知を抜こうとしますが、1本でも多く自分の歯を残すことが大事ということを伝えています。

また、自分の歯、もしくは入れ歯でも、自分で咀嚼し食事ができることが健康につながるということを意識づけようと演出に工夫も見られます。

記念事業の作品ですが、豪華なベテラン俳優陣で脇を固め、旬の若手俳優の起用によって幅広い世代が、楽しみながら歯の健康について考えて観れる作品でした。



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