連載コラム「電影19XX年への旅」第2回
歴代の巨匠監督たちが映画史に残した名作・傑作の作品を紹介する連載コラム「電影19XX年への旅」第2回は、『2001年宇宙の旅』や『時計じかけのオレンジ』のスタンリー・キューブリック監督が、ウラジーミル・ナボコフの同名小説を映画化した映画『ロリータ』です。
幼い少女ロリータに恋した中年男性ハンバート。ロリータの側にいるため彼女の母と結婚をし、本心を隠して生活するハンバートを描いたヒューマンドラマ映画。
物語の中核を担うロリータ役は、オーディションでも適役が見つからず難航した末、偶然テレビに出ているところをキューブリックが目撃した、当時15歳のスー・リランが演じます。
映画『ロリータ』の作品情報
【公開】
1962年(イギリス映画)
【原題】
Lolita
【監督】
スタンリー・キューブリック
【キャスト】
ジェームズ・メイソン、スー・リオン、シェリー・ウィンタース、ピーター・セラーズ、マリアン・ストーン、ロイス・マクスウェル
【作品概要】
ウラジーミル・ナボコフ原作小説『ロリータ』の映画化作品。監督を務めるのは『2001年宇宙の旅』(1968)や『時計じかけのオレンジ』(1971)のスタンリー・キューブリック。
ロリータ・コンプレックスと呼ばれる性的嗜好を持つ男性の人生を描き、『スタア誕生』(1954)のジェームズ・メイソンが主演を務め、当時無名だった女優のスー・リオンがロリータを演じています。
映画『ロリータ』のあらすじとネタバレ
文学者のハンバートは、恨めしい表情でクレア・キルティの荒れた屋敷に出向きます。酒で酔っ払ったキルティに話しかけますが、意識が朦朧としていました。
「ドロレス・ヘイズを覚えているか?」ハンバートが尋ねるも、キルティは答えません。
ハンバートが銃を手に取ると、キルティは逃げようとします。しかしそれも叶わず、撃ち殺されてしまいました。
物語は、キルティが殺される4年前にさかのぼります。
フランスのパリで文学者をしていたハンバートは、アメリカのニューハンプシャー州で大学教授をするため、渡米しました。
アメリカにいる間の宿を探すハンバートは、シャーロットが宿主を務める田舎町の宿を訪れます。
シャーロットは矢継ぎ早に、旅の疲れが残るハンバートに話しかけます。品位のないシャーロットをハンバートは軽蔑し、無視をします。
シャーロットの娘であるドロレス・ヘイズ、通称ロリータが現れます。幼くも愛くるしいロリータは、ハンバートを見透かすように、笑みを浮かべます。そんなロリータに、ハンバートは一目惚れをしました。
そして、ロリータと長く過ごすべく、下宿を決めました。
シャーロットはというと、ハンバートへの想いを募らせていました。ロリータはハンバートの気持ちが分かっているのか、2人の間に割って入り、フラフープを披露します。
また、ハンバートの朝食を盗み食いし、注意をされても止めませんでした。シャーロットは、ハンバートから離れて自分の部屋の掃除などを指示します。親子の関係は、険悪なものでした。
ハンバート達3人は、パーティに出席します。そこには、クレア・キルティという作家がいました。シャーロットは、ロリータに見せつけるように、ダンスを申しこみます。
ハンバートは、ロリータの側にいたいという欲望のままに、シャーロットと結婚しました。シャーロットへの愛情など、微塵もありませんでした。
泊まりのキャンプにロリータが参加することになりました。それはつまり、長く宿を離れることを意味していました。日頃からロリータを手中に収めようとするハンバートは、気が気ではありませんでした。
ロリータへの愛を書き記したハンバートの日記が、シャーロットに見つかってしまいます。シャーロットは、夫が娘を愛していたという事実に耐えられず気が動転し、家を飛び出します。
そして、車に轢かれて死んでしまいました。
シャーロットの死を知ったハンバートは、サマーキャンプで出かけるロリータの元に向かいます。
2人は再会を喜びます。そしてハンバートは、シャーロットの体調が悪いと嘘をつきます。日も落ち、遅い時間だったため、二人はホテルの同室で泊まることにしました。
ホテルにはキルティがいました。キルティはハンバートの気持ちを見透かしたように話し、ロリータに対する罪悪感を煽ります。ハンバートは、ベッドで眠るロリータに手を出せませんでした。
ロリータはハンバートの口からシャーロットの死を知らされます。悲しみに慟哭するロリータを、ハンバートが抱きしめます。
映画『ロリータ』の感想と評価
ナボコフの同名小説で描かれた天真爛漫な小悪魔ロリータよりも、少し大人びた印象を与えたキューブリック版の映画『ロリータ』。
ロリータと共にいる時のハンバートの喜怒哀楽が分かりやすく演出されており、エンタメ性に富んだ娯楽作品だといえます。
キューブリック自身も「エロティックな面を強調できなかった」と語るように、幼い女の子に惹かれていく過程の危うさには欠けているものの、ロリータを演じたスー・リオンの可愛らしさがそれをカバーし、ハンバートの性的嗜好に少なからず共感できる出来栄えです。
ロリータ・コンプレックスと呼ばれる禁断の異常性癖を有するハンバートは、その性癖のままにロリータに恋をし、我が物にしたいと奔走していました。
過度な愛情を隠しきれず、ロリータに逃げられてしまったハンバート。
しかしハンバートは、幼さを無くし、性的嗜好の対象から外れたと思われるロリータすらも愛し、金を積んで我が物にしようとしました。それゆえにキルティを殺害しました。
ロリータを想いすぎるがゆえに殺人犯となってしまったハンバートだけが、異常なのでしょうか。
ハンバートへのシャーロットの想いや、キルティへのロリータの気持ちも、全て同列な欲深さを持っていると考えられます。
ロリータもハンバートも、理想を他人にあてがい、その結果裏切られました。いや、裏切られたのではなく、はじめから恋した相手が理想通りの人間などではなかったのです。
つまり、他人を理想の器とする行為自体が、破滅の道といえるのではないでしょうか。
まとめ
本作品の登場人物は、皆どこかに異常な部分を持っているように描かれていました。
特にキューブリック作品である映画『博士の異常な愛情』(1964)で三役を演じ分けたピーター・セラーズの演じるキルティは、その妖しさを巧みに嗅ぐわせていました。
これは、ただそういった人物ばかりが登場しているのではありません。
人間の誰しもが、どこかに異常な部分を抱えながら生きているということです。そして、ロリータ・コンプレックスもまた、その一つです。
ロリータと結婚した炭鉱で働くジャックのように、異常を隠しながら生きていける者だけが、普通と呼ばれているに過ぎません。
キューブリック版映画『ロリータ』は、ハンバートが内に抱え隠していた、当人にしか分かり得ない欲望を、ハンバートの超至近距離でカメラに収めることで、あぶり出しています。
次回の『電影19XX年への旅』は…
スタンリー・キューブリック監督作品。ベトナム戦争そのものと、狂っていく人間の様を描いた『フルメタル・ジャケット』(1987)をお送りします。