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Entry 2020/05/17
Update

【ベルイマン代表作】映画『仮面/ペルソナ』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。“芸術は多くを救う”の正体は価値観の定義

  • Writer :
  • 中西翼

イングマール・ベルイマン監督が描く自意識の仮面。

映画『仮面/ペルソナ』は、失語症となった女優と、献身的に療養を見守る看護婦の物語です。自意識の境目を無くし、仮面が剥がれていく様子を描いた心理ドラマ。

映画『野いちご』や『処女の泉』など、多くの傑作を生み出したスウェーデンのイングマール・ベルイマン監督が手掛けました。

イングマール・ベルイマン作品に数多く出演するビビ・アンデショーンとリブ・ウルマンが共演しています。

映画『仮面/ペルソナ』の作品情報


(C)1966 AB Svensk Filmindustri

【公開】
1966年(スウェーデン映画)

【原題】
Persona

【監督・製作・脚本】
イングマール・ベルイマン

【キャスト】
ビビ・アンデショーン、リブ・ウルマン、グンナール・ビョルンストランド、マルガレータ・クルーク

【作品概要】
映画『野いちご』(1957)や『処女の泉』(1960)のイングマール・ベルイマン監督が、自意識とドッペルゲンガーをテーマに描く、哲学的心理ドラマ。同監督作品に数多く出演するビビ・アンデショーンとリブ・ウルマンが主演。第2回全米批評家協会賞で作品賞・監督賞・主演女優賞を受賞しています。

映画『仮面/ペルソナ』のあらすじとネタバレ


(C)1966 AB Svensk Filmindustri

蜘蛛や男性器、磔にされ釘を打たれる手や、サイレント映画の映像が映し出されます。そして、白い部屋には少年がいました。少年は、女性の顔に手を伸ばします。

舞台女優のエリザベートは、上映中に突然口をつぐみ、それ以降、言葉を話せない状態に陥りました。そして言葉だけでなく、身体を動かすことも難しくなります。

エリザベートは検査を受けますが、身体的にも精神的にも、特に問題点は見つかりませんでした。そんなエリザベートの看護を担当するのは、25歳の女性アルマ。

エリザベートの元に、夫からの手紙が届きます。アルマは代わりに読み上げますが、エリザベートはその手紙を取り上げ、息子の写真もろとも破ります。エリザベートには、回復の兆しが見えませんでした。

ベテランの女医が、アルマと共に、海辺の別荘で療養生活を送ることを勧めます。そして「沈黙を貫いて、自分を守って。演技をしているときだけが安らぎならば、気がすむまでどうぞ」とエリザベートを非難します。

エリザベートとアルマの別荘地での療養生活が始まります。アルマは何も語ろうとしないエリザベートに心を開きます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『仮面/ペルソナ』ネタバレ・結末の記載がございます。『仮面/ペルソナ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)1966 AB Svensk Filmindustri

ある日アルマは、酒に酔いながらエリザベートに話しかけていました。5年もの間、妻を持った男性と交際していたことがあったが、それは、本物の自分ではなかった。アルマはそう語ります。

アルマは、芸術家を崇拝していました。人のために身を削る精神が素晴らしいと、エリザベートに尊敬の眼差しを向けます。

ついには、見知らぬ少年と乱交し抑えられない興奮を味わったことや、望まぬ子を授かり堕胎した経験まで、アルマは話すようになりました。それほどまでに、エリザベートに心を許していました。

抑制できない様は、まるで自分の中にもう一人の人格があるような感覚でした。その時の、本能のままに快楽を求めた自分を、アルマは悔やみ恐れています。

エリザベートと自分の顔が似ていることを、アルマは恥ずかしながらも告げます。

テーブルの上で寝ていると、失語症のはずのエリザベートの声が聞こえます。確かめると、エリザベートは否定しました。

エリザベートは、アルマに手紙の投函を頼みます。道中、アルマが手紙を盗み読むと、赤裸々に話したアルマの過去や、アルマを娯楽の対象として観察しているといった内容が書かれていました。

アルマは怒りに身を任せます。エリザベートを責め、「心が酷く病んでいる」と言い放ちます。

エリザベートはその言葉に怒ります。アルマは弁解し、許しを請います。しかし、エリザベートは聞く耳を持ちませんでした。

エリザベートの夫が、療養中の妻の身を案じ、別荘地を訪ねました。けれども夫は、アルマとエリザベートを間違え、アルマに話しかけます。

エリザベートは、アルマの手を取って、夫の肌と触れあわせます。アルマは、エリザベートとして夫と話します。

エリザベートが見ているにも関わらず、夫とアルマは唇を重ね、抱きしめ合います。アルマとエリザベートは、お互いの体が入れ替わっていく感覚を、確かに味わいます。

アルマは、本人しか知らないはずのエリザベートの過去を語ります。母性の欠如や孕んだ子供の死を望んだこと。そして、生まれてきた息子を憎んでいることを、責めます。

エリザベートは、息子を拒絶していました。母親として生きることが、エリザベートにはできませんでした。

次第にアルマとエリザベートの身体が、入れ替わり混ざり合っていきます。

アルマはエリザベートに取り込まれまいと拒絶し、看護婦の服を身に纏います。エリザベートは、子供を愛せない無慈悲な人間。アルマは、人を助けたいと切に願う人間。一緒ではないのだと、力強く語ります。

そしてアルマは、別荘地を後にします。エリザベートから離れて、一人の女性として生きるという決意を持って、出て行きます。

エリザベートはやがて回復し、再び女優として舞台に上がるのでした。

映画『仮面/ペルソナ』の感想と評価


(C)1966 AB Svensk Filmindustri

1999年に公開された映画監督デヴィッド・フィンチャーの代表作『ファイト・クラブ』をはじめ、様々な映画に影響を与えた映画『仮面/ペルソナ』

冒頭の性や暴力、神、罪をイメージさせるモンタージュ映像には、引き込まれるインパクトがあります。

また、ビビ・アンデショーンとリブ・ウルマンは、お互いが入れ替わるような憑依的な演技を見せ、見事な叙情を表しています。

『仮面/ペルソナ』の中で、アルマは芸術家への崇拝を口にしています。芸術が多くの者を救っているからこそ、アルマはそう語っったのです。

救いの正体とは、映画を始め様々な芸術が、”価値観を定義する”という点にあります。

アルマもエリザベートも、自らを定義するものが他人であることに悩み、お互いの自意識や体を重ね合います。

アルマは、ペルソナの裏である誰にも見せない本能的な人格を吐露し、それが別の人間によるもののようだと、話していました。

隠した人格を自己だと認識できないのであれば、逆に人に見せるペルソナこそが人格であると言えます。そしてそれは、見られることで初めて、人格が人格たり得るということでもあります

だからこそ、アルマは自己を見失わないよう他人と触れ合います。過去の少年達にとって、アルマは淫らな女性であったと定義されたように、他人の見方によってペルソナは変わります。

物言わぬエリザベートを、アルマは都合良く自分を慰めてくれる他人であると勝手に考え、満たされていました。

もしその”他人”が、自分と同じ性質の人間なら、自分だけでは自己を認識できず、何者であるのかを見失ってしまいます。

アルマとエリザベートは、お互いの感情を共有しすぎたゆえに、お互いのペルソナが剥がれ落ち、自己認識が曖昧になったのです。

そして、自分を見失った者にとっての救いこそが、映画であり写真であり、つまりは芸術なのです。

冒頭のモンタージュの中、サイレント映画が、恐怖を恐怖として描いていました。観客はその映像を介したことにより、恐怖を恐怖と認識できます。芸術は、他人以外の、自己を定義してくれる存在なのです。

まとめ


(C)1966 AB Svensk Filmindustri

神の不在、そして死や性について、難解な映画を撮り続けたイングマール・ベルイマンによる映画『仮面/ペルソナ』。

冒頭のモンタージュ映像から結末まで、どこか不安を抱かされる映像美は、非常に見応えがあります。

また、自分しか知らない自分を知っているドッペルゲンガーの恐ろしさや、他人によってでしか自己を認識できないと言った、人間の不完全性を描いております。

それは、ベルイマン作品のテーマである”神の不在”にも繋がっています。人格を定義するのは、神ではありません。

登場人物の怒りでフィルムが焼けるといった斬新な演出は、あの『ファイト・クラブ』でもオマージュされています。

それだけでなく、デヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』(2001)や、スティーブン・スピルバーグの『ポルターガイスト』(1982)など、多くの映画に、そして多くの映画監督に影響を与えた作品なのです。




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