1980年公開の邦画『復活の日』は、“いま”こそ見るべき秀作
世界各地で猛威をふるう新型コロナウイルス感染症“COVID-19”。
外出自粛要請や緊急事態宣言など、日本国内にも大きな影響が出ており、状況は日々変化しています。
このような状況から、小松左京の小説『復活の日』を思い浮かべた人も多いようです。
映画『復活の日』は角川映画の超大作として1980年に公開された作品です。
映画『復活の日』の作品概要
【公開】
1980年(日本映画)
【原作】
小松左京
【脚本】
高田宏治、グレゴリー・ナップ、深作欣二
【監督】
深作欣二
【撮影】
木村大作
【音楽】
羽田健太郎
【キャスト】
草刈正雄、オリヴィア・ハッセー、ボー・スヴェンソン、多岐川裕美、渡瀬恒彦、ジョージ・ケネディ、グレン・フォード、ロバート・ヴォーン、チャック・コナーズ、エドワード・J・オルモス、ヘンリー・シルヴァ、永島敏行、森田健作、丘みつ子、中原早苗、緒形拳、夏八木勲、千葉真一
【作品概要】
東京オリンピックが開催された1964年に出版された小松左京の同名小説の映画化。監督は『仁義なき戦い』の深作欣二。脚本は『野性の証明』の高田宏治。
主人公の地震予知学者・吉住周三にはNHK朝の連続テレビ小説『なつぞら』が話題となった草刈正雄。各国の南極観測隊やホワイトハウスの面々には、オリヴィア・ハッセー、ボー・スヴェンソン、ジョージ・ケネディ、グレン・フォード、ロバート・ヴォーン、ヘンリー・シルヴァと、日本でも知名度の高かった国外の俳優が出演しています。
映画『復活の日』あらすじとネタバレ
米ソ冷戦時代の1980年代。西側の研究所から細菌兵器として研究されていた新種のウィルス「MM-88」が持ち出されます。MM-88はマイナス10度を超えると、爆発的に増殖する驚異的なウィルスでした。MM-88を手に入れたマフィアが乗っていたセスナ機はアルプスの雪山に激突。そこから世界中に、MM-88が飛散していきます……。
カザフスタンでは大量の家畜が死に、イタリアでは嬰児や幼児を中心に感染が広がります。「イタリア風邪」と呼ばれるようになった疾患は世界中で猛威をふるっていきます。
アメリカ大統領のリチャードソンは事態を重く見て、閣僚会議を開きますが、各地では暴動が勃発。バークレイ上院議員はこれが細菌兵器によるものだと考え、ウィルスを研究していたマイヤー博士を呼び寄せワクチン精製を急がせます。
「イタリア風邪」の猛威は南極にも知らされます。日本の南極観測隊の地震予知学者・吉住は、旅立つ前に恋人の看護師・則子と別れていました。則子は吉住の子を妊娠していましたが、「イタリア風邪」の対応に追われていた疲労から流産してしまいます。
国に家族を残していた観測隊員の辰野は気が気でありません。そんな中ある少年が、ニューメキシコから南極基地へ無線で連絡します。しかし少年は無線の使い方が解らず拳銃自殺。それを聞いた辰野はパニックになり、妻子の写真を抱えて基地の外へ姿を消してしまいます。
MM-88はソ連の指導者をも死に至らしめ、リチャードソン大統領の妻もイタリア風邪で死んでしまいます。リチャードソンは南極のパーマー基地を思い出し、南極にいる各国の観測隊が最後に残った人類であると告げ、「外出や侵入者を許さない」という最後の大統領令をだします。
そして1982年秋、南極の863人を残して人類は滅亡しました……。
映画『復活の日』の感想と評価
角川映画の超大作として製作・公開された『復活の日』。角川春樹事務所とTBSの共同製作です。かつて東宝でも映像化が企画されたことがましたが、あまりに壮大なスケールのため断念したという話もあります。
新種のウィルスがもたらす人類への脅威という点は、現実の新型コロナと共通しています。しかし最も違う点はウィルスが世界中に飛散した背景です。
『復活の日』は原作の出版が1964年、映画の公開も1980年で、作品世界の背景には米ソ冷戦と核の脅威が濃厚にありました。しかし現代の政治状況、外交上の問題はフィクションの世界よりも入り組んでいます。
仮に本作をリメイクするとすれば、最も改変は必要なのは政治背景でしょう。
同じく小松左京原作の映画『日本沈没』(1973)は、「日本沈没」という未曾有の大災害を主人公とした群像劇のスタイルを取っていました。一方『復活の日』の主人公はあくまで草刈正雄演じる地震予知学者・吉住です。
映画『復活の日』は二部構成で前半はホワイトハウスを中心とした人類滅亡までの過程、後半から南極で生き残った人類を襲う新たな脅威が描かれます。
本作のトップシーンは滅亡後の日本を潜水艦から見つめる吉住です。ホワイトハウスや世界各地を襲うウィルスの描写と並行して、南極観測隊の描写や日本に残った吉住の恋人・則子の顛末が描かれます。
そのため観客は、前半の物語の柱に吉住がいないにも関わらず、彼に注視して映画を追うことが出来るのです。
『日本沈没』は大地震、『復活の日』は未知のウィルスの脅威を描いたシミュレーションの側面があります。
しかし『復活の日』は監督が深作欣二、脚本が高田宏治と東映のやくざ映画の主力陣だったこともありシミュレーションの側面は薄く、『仁義なき戦い』や『バトル・ロワイヤル』などの深作監督作品と同じで、過酷な状況下の人間を描いた作品といえるでしょう。
まとめ
『復活の日』の原作が出版されたのは1964年で、偶然にも今年2020年と同じく東京オリンピックが開催された年。改めて小松左京の先見の明に驚かされます。
この映画がフィクションになるかならないかは、各国の政府の柔軟な対応と、国民ひとりひとりの声にかかっているでしょう。
エンディングで流れるジャニス・イアンの「You are Love」の美しい調べに希望を感じながら、現実の人類が本作のように滅亡しない事をただ祈るばかりです。