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Entry 2020/04/17
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韓国映画『暗数殺人』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。実話元ネタ事件の真相と刑事の執念を描く|サスペンスの神様の鼓動32

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

こんにちは「Cinemarche」のシネマダイバー、金田まこちゃです。

このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。

今回ご紹介する作品は、狡猾な殺人鬼に翻弄される、刑事の孤独な戦いを描いた、実話をもとにした犯罪サスペンス『暗数殺人』です。

恋人の殺害容疑で逮捕されたテオ。

「自分が殺したのは全部で7人」と、他の殺人事件に関し自白を始めた事で、刑事のヒョンミンは、警察などが認知していない殺人「暗数殺人」である可能性を感じ、独自の捜査を開始する犯罪サスペンス。

主演は2008年の映画『チェイサー』で主演を務め、その演技が絶賛され、数々の賞を受賞したキム・ユンソク。

殺人犯のテオ役に、ラブロマンスからヴァイオレンスアクションまで、幅広い作品に出演し、今や「韓国映画界を代表する俳優の1人」と評されるチュ・ジフン。

監督は、韓国映画界最高峰の栄誉とも言われる「青龍映画賞」で脚本賞を受賞するなど、注目の若手監督キム・テギュン。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

映画『暗数殺人』のあらすじ


(C) 2018 SHOWBOX AND FILM295 / BLOSSOM PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

韓国の麻薬捜査官のキム・ヒョンミンは、雇っている情報屋からある男を紹介されます。

カン・テオと名乗るその男は「死体をバラバラにして、運ぶのを手伝った」と、ヒョンミンに告白します。

その瞬間、テオを恋人殺しの容疑で張り込んでいた刑事が突入し、ヒョンミンの目の前でテオが逮捕されます。

数日後、ヒョンミンが趣味のゴルフを楽しんでいると、獄中のテオから連絡があり「本当は7人殺した」と伝えられます。

テオの証言を聞くため、刑務所へ面会に行ったヒョンミンは、テオから恋人の殺害について、具体的な供述を得ます。

ヒョンミンはテオの証言をもとに、殺害現場を独自捜査し、恋人殺害の証拠を手に入れます。

この事により、テオ逮捕の為に警察側が揃えた証拠は、全て捏造であった事が発覚。

テオは求刑より5年短い判決となり、ヒョンミンと刑事側に亀裂が入ります。

ヒョンミンは、テオから6人全員の殺害に関する証言を得ますが、具体的な話を聞こうとすると、テオは激情し、まともに話ができる状況ではなくなります。

しかし、テオの証言が全て具体的であった事から、ヒョンミンは、本件が表に出ていない殺人事件「暗数殺人」であると確信します。

ヒョンミンは捜査の為に、麻薬捜査課から刑事課に移りますが、刑事課長から言われた事は「この件には関わるな」でした。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『暗数殺人』ネタバレ・結末の記載がございます。『暗数殺人』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C) 2018 SHOWBOX AND FILM295 / BLOSSOM PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

ヒョンミンは、独自に捜査を開始。最初にテオのこれまでの足取りを追います。

テオは家族からも疎まれ、どこで働いても仕事が長続きしない性分でした。

中でも、タクシー会社で働いた際には、タクシーを戻さずに行方不明になり、多大な迷惑をかけていました。

ヒョンミンは、テオがタクシードライバー時代に、行方不明になっている時期に注目し、6人の犠牲者の中で水商売だった女性が、最後にタクシーに乗ったという証言を得ます。

ヒョンミンはテオを訪れ、タクシードライバー時代に殺害したと思われる、水商売の女性の話を聞こうとしますが、テオは金銭と物品を要求します。

数日後、テオを訪れたヒョンミンは、テオが欲しがっていた物を渡し、口座に現金を振り込んだ事も伝えます。

テオは、水商売の女性を殺害した現場を地図に書きます。

地図に書かれた場所を訪れたヒョンミンは、全てがテオの証言通りである事を確信し、捜査令状を取って現場を捜索し、テオが埋めた死体を探します。

当初は、刑事課も捜索に協力してくれましたが、死体が見つからない事から、撤収してしまいます。

1人になっても、死体の捜索を続けるヒョンミンに、チョ刑事が協力、2人で深夜まで死体を捜索し、ついに女性の白骨死体を見つけ出します。

ヒョンミンは、テオを新たに起訴しようと、検事立ち合いの取り調べを行います。

ですが、テオは取り調べの場で「自分は死体を運んだだけ、刑事さんに金を渡されて、無理やり証言させられた」と供述を変えます。

また、ヒョンミンが見つけた死体は、数十年前の死体と鑑定され、時効が成立していました。

ヒョンミンは、テオが供述した残り5件の事件の中で、唯一時効が成立していない、男性の殺害事件の捜査を開始します。

ヒョンミンはチョ刑事と共に、当時の供述書を読み直し、現在は廃墟となった現場を再度捜査し、テオが当時履いていたとされる、スニーカーの跡を見つけます。

ヒョンミンはテオと面会し、当時の事を聞きだそうとしますが、テオは自身の供述に頼ろうとするヒョンミンを馬鹿にし、更に多額の金銭を要求してきました。

ヒョンミンは、逆にテオへ決別する事を宣言し、刑務所を立ち去ります。

テオの事件に固執するヒョンミンは、刑事課長に呼び出され、以前にも、テオの事件に執着し、警察をクビになった男の話を聞かされます。

ヒョンミンは、以前テオの事件を探っていた、元刑事を訪ねます。

元刑事は、自分とヒョンミンの共通点を「捜査が好きな事」と指摘し、それこそがテオの狙いだと言います。

テオは1つの事件が有罪になると、別の事件を自供して、刑事に捜査をさせ、全ての事件が虚偽であるように仕向けていました。

つまり、テオの目的は、ヒョンミンを操り、全ての事件を無罪に持ち込む事です。

ヒョンミンは、意識的にテオと距離を置きながら、独自の捜査を続けていましたが、テオから連絡が入ります。

テオは友人もおらず、刑事にたかる事しか、刑務所で生き抜く方法を知りませんでした。

テオはヒョンミンに見捨てられた事に耐えられず、男を殺害した凶器を、海に投げ捨てた事を自供します。

ヒョンミンは、テオの証言を信用し海を捜索しますが、凶器は見つかりません。それでも、ヒョンミンはテオを起訴する為、現場検証をする事を検事に提案します。

テオは、現場検証に協力しますが、警察を完全に馬鹿にした態度を取り続けます。そして、ヒョンミンはテオを起訴しますが、証拠不十分で無罪となってしまいます。

また、ヒョンミンはテオに逆に起訴を起こされ、交番に左遷される事になりました。

ヒョンミンは、自身が見つけた白骨死体の写真を眺め、死体に子宮用の避妊具「リング」が残されている事に気付きます。

「リング」の購入者のリストをもとに、行方不明届が出された人達を探るヒョンミンは、パク・ミョンという1人の女性に辿り着きます。

パク・ミョンはテオの元恋人で、子供を捨ててテオと一緒になりましたが、殺害されてしまった可能性があります。

ヒョンミンはテオに会い、パク・ミョンの話をして揺さぶりをかけ、テオが明らかに動揺している事を確信します。

動揺したテオは「どう足掻いても、俺には勝てない」と言いますが、ヒョンミンは「お前に勝つ事なんて興味は無い、殺害された人の無念を晴らしたいだけだ」と伝えます。

ヒョンミンは、パク・ミョンの息子を探し出し、供述を得る事に成功、この供述が重要視され、テオは無期懲役となります。

けれども、ヒョンミンはテオに殺害された残りの犠牲者を探し出す為、1人捜査を続けるのでした。

サスペンスを構築する要素①「実際の事件をもとにした犯罪サスペンス」


(C) 2018 SHOWBOX AND FILM295 / BLOSSOM PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

警察さえも手玉に取る殺人犯、テオにに立ち向かう刑事ヒョンミンの執念を描いた映画『暗数殺人』。

タイトルとなっている「暗数」とは、犯罪統計において、警察などが認知している犯罪件数と、実際に起こっている件数との差を指す言葉です。

本作の主軸は「自分は7人殺した」と自白したはずのテオが、巧みに供述を変え、ヒョンミンを翻弄し「実際は、何人殺したのか?」を明らかにできるか?という部分になります。

かなりショッキングな内容ですが、恐ろしい事に、本作は2010年に韓国の釜山で実際に発生した、殺人事件をモデルにしています。

本作の上映に関して、事件の被害者遺族が裁判所に上映禁止仮処分申請を提出し、制作会社側が謝罪するという事態が起きています。

ただ逆に、事件の被害者の息子とされる人物が「上映に関して賛成である」という内容の文章をSNSで公開し、こちらも話題になりました。

このように、本作で描かれている内容は、現在も韓国に、大きな影を残している事件となります。

サスペンスを構築する要素②「異色とも言える刑事と犯罪者の対決」


(C) 2018 SHOWBOX AND FILM295 / BLOSSOM PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

本作では、殺人犯のテオと、刑事ヒョンミンの攻防戦が物語の中心となります。

とは言え、テオは7人の殺害に関与した事を認めていますので、すぐに終わりそうな話ではあるのですが、問題は一筋縄ではいかない、テオのキャラクターとなっています。

最初はヒョンミンを頼るように、協力的な態度を見せていたテオですが、徐々に態度が大きくなり、最後には文字通り、ヒョンミンを見下すような話し方をします。

また、性格も非常に情緒不安定で、その証言は一切信用できない為、警察内では、テオに関わらない事が正しいとされています。

このテオを演じたチュ・ジフンの演技力が凄まじく、本当に何を考えているか分からないテオを、不気味に演じており、チュ・ジフンは本作で、韓国の映画祭で主演男優賞を受賞しています。

韓国映画だと、テオのような狡猾な犯罪者に対抗するのは、切れ者であったり、暴力的な刑事であったりする印象が強いですが、本作の刑事ヒョンミンは、どちらでもありません。

捜査が好きで警察をやっていますが、それ以外は普通の人物で、作品の中盤まではテオの自供に頼りっぱなしという、情けない印象さえ受けるキャラクターとなっています。

主人公の刑事が、殺人犯の掌で転がされ続けるという、鑑賞していてストレスが溜まる展開が続きます。

ヒョンミンは、韓国映画に登場する主役の刑事としては、かなり異質なキャラクターですが、主演のキム・ユンソクは、実際の刑事とも会っているので、リアリティを追求した結果かもしれません。

しかし、ヒョンミンの中にある確固たる正義が、ラストはテオの全てを打ち砕く結果となります。

サスペンスを構築する要素③「孤独なヒョンミンの執念の捜査」


(C) 2018 SHOWBOX AND FILM295 / BLOSSOM PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

凶悪な知能犯であるテオに、韓国警察は関わろうとしない為、ヒョンミンは孤独な捜査に挑む事となります。

前述したように、ヒョンミンは突出した能力の無い、普通の刑事の為、その捜査は地道そのものです。

事件の目撃者から聞き込みを行い、現場を捜索して証拠品を探し、科捜研で指紋とDNAを鑑定、さらに現場検証で確証を得ようとする、本当に地道で地味な捜査を展開しますが、警察をテーマにした映画の、リアルな面白さが詰まっています。

地道に真実を手繰り寄せるヒョンミンの姿は、秀でた能力が無い、普通の人だからこそ共感できる部分があり、ヒョンミンの努力を一瞬で打ち砕く、テオの狡猾さが、憎たらしい程に際立っています。

映画『暗数殺人』まとめ


(C) 2018 SHOWBOX AND FILM295 / BLOSSOM PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

実際の殺人事件を、緻密な脚本で描いた本作は、かなり重厚なサスペンスです。

見どころは、テオとヒョンミンの攻防戦ではあるのですが、実はラストで、ヒョンミンは全く、テオを相手にしていなかった事が分かります。

ヒョンミンの希望は、テオに殺害されたにも関わらず、届け出さえ出されていない犠牲者の弔いであり、テオを2度と刑務所から出さないような、重い処罰が課される事でした。

ラストにヒョンミンがその事を突きつけ、テオの表情が一気に変わる場面は、テオの自尊心が一瞬で砕かれる、名場面となっています。

今も認知されていない、殺人事件の犠牲者への想いが『暗数殺人』というタイトルに反映されているのでしょう。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…

次回も、魅力的な作品をご紹介します。お楽しみに。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

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