オリヴィエ・アサイヤス監督が新境地に挑んだ映画『冬時間のパリ』。
二組の男女の不倫が絡む恋なんてよく聞く話。
どうにもならないことが多いのが恋愛だけれど、それでも恋することの喜びや、可笑しさを魅力的に謳いあげるのがフランス映画の真骨頂。
2019年の冬の時期に同時に日本公開された、フランス流大人のラブストーリーのルイ・ガレル監督の『パリの恋人たち』に続き、オリヴィエ・アサイヤス監督の本作『冬時間のパリ』もパリからやってき大人ならではの恋愛模様を軽やかな刺激とともに与えてくれます。
映画『冬時間のパリ』の作品情報
【公開】
2018年(フランス映画)
【原題】
Doubles vies
【監督】
オリヴィエ・アサイヤス
【キャスト】
ギョーム・カネ、ジュリエット・ビノシュ、バンサン・マケーニュ、ノラ・ハムザウィ、クリスタ・テレ、パスカル・グレゴリー、ロラン・ポワトルノー、シグリッド・ブアジズ、リオネル・ドレー、アントワン・ライナルツ、ニコラ・ブショー、オレリア・プティ、オリビア・ロス
【作品概要】
監督はクリステン・スチュワート主演の映画『パーソナル・ショッパー』(2016)でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞、また『夏時間の庭』(2008)で知られるオリヴィエ・アサイヤス。主演は『ザ・ビーチ』(2000)『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』(2018)、マリオン・コティヤールの夫でもあるギョーム・カネ。
『灼熱の肌』(2011)『夜明けの祈り』(2016)のバンサン・マケーニュ。そしての『ポンヌフの恋人』(1991)でヨーロッパ映画賞女優賞を、『トリコロール/青の愛』(1993)でヴェネツィア国際映画祭 女優賞とセザール賞主演女優賞を、『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)でベルリン国際映画祭銀熊賞とアカデミー助演女優賞を、『トスカーナの贋作』(2010)でカンヌ国際映画祭の女優賞を受賞している世界三大映画祭を制した女優、ジュリエット・ビノシュとフランスの名優たちが集います。
『冬時間のパリ』あらすじとネタバレ
電子書籍ブームの時代に順応しようと奮闘する敏腕編集者アランのもとを訪れたのは、長年担当している作家であり友人のレオナール。
レオナールは電子書籍や執筆の現代的なスタイルに否定的な考えを抱いています。
正直、レオナールの作風に飽き飽きしていたアランは新作の出版を拒否。しかし、アランの妻で女優のセレナはアランの作品を支持していました。
レオナールの妻は政治家の秘書ヴァレリー。アランとセレナは友人たちと電子書籍化の波や、現代の芸術のあり方について友人たちとも話し合います。
ある日アランは、勤務する出版社にオンライン化の担当者としてやってきた若い女性、ロールと一夜を共にします。
しかし、アランの妻セレナとレオナールは、6年もの間恋人関係にありました。レオナールの最新作『終止符』はセレナとの関係を基にしたもの。彼は以前も元妻との関係を私小説として出版したことがあり、ネットでは度々非難されています。
セレナは夫のアランに、レオナールの作品を出版するよう勧めていますが、アランはなかなか受け入れようとしません。
映画『冬時間のパリ』の感想と評価
本作『冬時間のパリ』の軸となるのは不倫の恋愛関係…と思いきや、会話の大半を占めるのはデジタル化が進む出版、変わりゆく小説をはじめとする芸術のあり方についての問答。
物質主義じゃないと言いつつも、その考えは自己愛だと言われてしまう小説家レオナール、現代のスタイルに順応しようと奮闘するもどうしても割り切れない編集者アラン。
また、成長を感じることがなくても長年続いている連続ドラマに出演し続けている女優のヘレン。問題を抱えている政治家の秘書として必死に支えているヴァレリー。
『夏時間の庭』のアサイヤス監督が描き出すキャラクターたちの生活、セリフはあまりにリアルで事細かく、それでいて説教臭さも媚びもないため、レオナールの小説のごとく「これはノンフィクションなのか?」と思ってしまうほどです。
「インターネットが書くことを自由にした」「ツイッターはたかだか短文だ」「でも何度も名文句を繰り返し書くのはフランス的だ、目新しいことじゃない」など、彼らの知的で洗練された会話に入りたくなってしまいます。
「変わらないためには変わらなくてはいけない」ルキノ・ヴィスコンティの『山猫』がくさいぐらいぴったりに引用される本作は、動きゆく時代に順応しようとする大人たちの物語ですが、恋愛関係、夫婦関係だけは、これからもこの4人のように曖昧で微妙なものなのではないかと感じさせてくれます。
敏腕編集者を演じるギョーム・カネのスマートな魅力はもちろんですが、彼以上に存在感を発揮しているのはレオナールを演じるバンサン・マケーニュ。
起き抜けの姿のだらしなさ、ぽっちゃりした中年体型、薄くなった髪の持ち主で、自分の私生活や恋愛のことばかりを書き元妻や読者から批判を浴びているレオナール。
それなのに書くことに対する彼の思いは、時代の流れにそぐわずとも純粋で、憎めない愛おしさがこみ上げる不思議なダンディさなのです。
そして、いつまでも恋する気持ちを持ち、ウィットに富んだ言葉のキャッチボールを得意とする艶やかな女優ヘレンを演じるジュリエット・ビノシュは安定に素晴らしく、こんな女性でありたいと気持ちを軽やかにさせるパリの女性の魅力でいっぱいです。
まとめ
何も突飛なことが起こらなくても懸命に仕事をし、男と女があり、言葉を交わし合う。それだけで気がついたときには一冊の本が仕上がっているかもしれない。
混じりけのない真実はいつも複雑そうに見えてストレート、シンプルなのに重みがあります。
映画『冬時間のパリ』は、ふっと心に問題を投げかけ、スクリーンと会話をさせ、愛する人の隣に並んで手をつなぎたくなる、“大人の微妙な恋模様”といたずらっぽくオススメしたくなる映画です。