連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第26回
看板ギタリストの事故死、リードボーカルの突然の脱退、幾多のメンバー交代劇…。
転落と低迷を繰り返しつつ、それでも何故バンドは今もなお続いているのか?
今回取り上げるのは、2019年9月21日(金)から新宿シネマ・カリテほかで全国順次公開の『ザ・ヒストリー・オブ・シカゴ ナウ・モア・ザン・エヴァー』。
結成50年を超え、現在でも活動し続けるスーパーバンド・シカゴが、これまでの軌跡を振り返ります。
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CONTENTS
映画『ザ・ヒストリー・オブ・シカゴ ナウ・モア・ザン・エヴァー』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Now More Than Ever: The History of Chicago
【監督・編集】
ピーター・パーディーニ
【キャスト】
ロバート・ラム、ジミー(ジェームズ)・パンコウ、リー・ロックネイン、ダニー・セラフィン、ウォルト・パラゼイダー、テリー・キャス(アーカイブ出演)、ピーター・セテラ(アーカイブ出演)、デビッド・フォスター、アービング・エイゾフ
【作品概要】
これまでに累計1億2200万枚のアルバムセールスを誇るロックバンド、シカゴの波乱万丈な50年を追ったドキュメンタリー。
本作が製作された2016年にロックの殿堂入りを果たした彼らの半世紀にわたる歴史を、「長い夜」「素直になれなくて」といった、数々の代表曲とともに振り返ります。
映画『ザ・ヒストリー・オブ・シカゴ ナウ・モア・ザン・エヴァー』のあらすじ
1967年に結成されたシカゴは、開始当初からロックミュージックにブラス(金管楽器)を導入し、音楽界に新たな息吹をもたらしたバンドとして注目を浴びます。
1億2200万枚のアルバムセールスを誇り、70枚のシングルがチャートイン、そして現在でも年に100回以上のライブ公演を行うなど、精力的に活動する彼ら。
ですが、これまでの経歴は決して順風満帆とはいえませんでした。
本作では、メンバーの不慮の事故死や、ボーカルの突然の脱退といったメンバー交代劇といった幾多の波乱万丈な歴史を、既存メンバーや彼らを支えてきたスタッフたちのインタビューを元に、多くのヒットナンバーを織り交ぜつつ振り返っていきます。
50年のバンドの歩みをヒントナンバーと共に振り返る
参考映像:「素直になれなくて(Hard To Say I’m Sorry/Get Away)」
1967年にロバート・ラム、ジミー・パンコウらを中心に結成され、50年経った今もなお活動を続けているシカゴ。
「シカゴ」というバンド名自体を知らなくても、また、「長い夜」、「愛ある別れ」、「素直になれなくて」、「君こそすべて」といった曲名を知らなくても、メロディ自体はテレビやラジオ、映画などで耳にしたことがあるという人は多いはず。
そんな彼らのヒントナンバーを、日本語対訳付きで楽しめるのが、本作の魅力となっています。
何気ないようですが、歌詞の訳があるのは実はとても重要です。
バンド間に起こった様々な波乱
50年という長いバンド活動ゆえに、当然ながら紆余曲折があります。
リードボーカルを例に挙げても、ピーター・セテラ、ジェイソン・シェフ、ジェフ・コーフィーと、年代ごとにメンバーチェンジを繰り返してきたシカゴ。
特に1985年の、「ヴォイス・オブ・シカゴ」と呼ばれたピーター・セテラの脱退は、大きな話題となりました。
本作は、そうしたシカゴの現役&元メンバーたちが、過去のいきさつについて撮り下ろしのインタビューで語っていきます。
どのメンバーがどんなコメントを発しているかは、ぜひとも本編をチェックして頂きたいのですが、彼らの大半に共通しているのが、「もう済んだことだから」といったスタンスで、シビアかつ冷静に臨んでいる点でしょうか。
辞めていった元メンバーに対する忸怩たる思いを現役メンバーが吐露すれば、元メンバー側からは反論めいたコメントが飛び出したり、中にはインタビュー自体を拒んだと思われる元メンバーも…。
また、そのインタビューもメンバー数人で受けていたり、たった一人で応じていたりと、映像からも複雑な人間関係が透けて見えます。
メンバー間の確執以外にも、バンドには様々な出来事が起こります。
中でも一番の悲劇が、創設メンバーだったギタリストのテリー・キャスが、1978年に拳銃暴発事故で31歳の若さで亡くなってしまったことでしょう。
テリーの思い出を振り返っていたメンバーがつい涙ぐんでしまうことからも、バンドの中心的人物とされた彼の存在がいかに重要だったかが伺えます。
それ以外に、「売れる曲」と「バンドが進みたい方向性」のパワーバランスの調整といった、音楽ビジネスの在り方にまで目を向けているのも興味深いあたりです。
シカゴがシカゴであり続ける理由
2018年には、それまでリードボーカル兼ベースを務めていたジェフ・コーフィーに代わり、シカゴのカバー・バンドに在籍していた経歴を持つニール・ドネルが新たに加入。
そして2019年10月には37枚目となるアルバム『シカゴ・クリスマス』を発表するなど、彼らの活躍はとどまることを知りません。
僕らはお互いの協力で成り立っている。ダメな時は誰かが必ずテコ入れをしてキャリアを守ってきた。
これまで人間関係で幾多の確執や衝突をしてきたシカゴですが、創設メンバーのリー・ロックネインがこう語るように、バンド活動が続いてきた秘訣も、やはり人間関係にあります。
その一方で、もう一人の創設メンバーのロバート・ラムは語ります。
50年もやればバンドも変わる。でもただ一つ言えるのは、誰にでも代わりがいるってことだ。
ロバートの言葉に象徴されるように、シカゴが50年以上続くもう一つの秘訣は、メンバーチェンジを容易に行える柔軟性でしょう。
新メンバーの加入はバンドの新陳代謝にもなり、活動期間もそれだけ伸びて、また新たなファン層の獲得につながる。
数あるロックバンドの中でも、とりわけシカゴのファン層が幅広い理由の一端がここにあると言えます。
シカゴというバンドをよく知らない方は、これを機に彼らの音楽に耳を傾けてみるのはいかがでしょうか。