サスペンスの神様の鼓動20
こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。
このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。
今回取り上げる作品は、韓国映画『ブラインド』を吉岡里帆主演でリメイクした、視力を失った元女性警察官が連続殺人犯と対峙するサスペンス『見えない目撃者』です。
CONTENTS
映画『見えない目撃者』のあらすじ
警察官に憧れ、日夜警察学校で訓練を受けている浜中なつめ。
なつめは無事に警察学校を卒業し、交番勤務が決まります。
なつめの弟で高校生の浜中大樹は、悪い友人と交友があり、毎晩夜遅くまで出歩いていました。
大樹を心配したなつめは、夜遊びをしていた大樹を連れ戻し、車で自宅に送り届けようとします。
友人と引き離され、憮然としていた大樹は、涙の音がすると言われているアクセサリーを取り出し眺めます。
ですが、大樹はアクセサリーを車のアクセル付近に落としてしまいます。
なつめが落ちたアクセサリーを拾おうと、前方から目を離した瞬間、横から飛び出したトラックと衝突しかけます。
なつめは驚き、トラックを避けようとしますが、運転していた車が横転します。
なつめは、トラックの運転手に救出されますが、大樹は足が挟まれた状態となり動けません。
大樹を助けようとするなつめですが、視界が次第に真っ暗になっていき、動くことが出来ません。
大樹が残っている車は、ガソリンが引火し爆発します。
事故から3年後。
視力を失ったなつめは、警察官を依願退職し、自宅でテープ起こしの仕事をしていました。
事故で大樹を失ったショックから立ち直れず、自宅に籠り気味になったなつめを、母の満代は心配します。
満代の提案で、2人で大樹の墓参りに行きますが、大樹を失った過去に直面できないなつめは、満代と口論となり、1人で歩いて自宅に帰ろうとします。
盲導犬のパルと、暗い夜道を1人で歩くなつめは、自分の横をスケートボードが走り去る音を耳にします。
そして、スケートボードが走り去った先で、車との接触事故のような音を聞きます。
なつめは事故現場と思われる場所に駆け付け、停車してあった車の後部座席を叩き「大丈夫ですか?」と声をかけます。
後部座席からは女性の声がし「誘拐されている助けてほしい」と、なつめに告げます。
なつめが名前を聞くと、女性は「レイサ」と名乗りますが、そこへ運転手が戻って来た事で、車は走り去ってしまいます。
なつめは通報し、警察の事情徴収を受けます。
担当したのは、定年を1年後に控える、長者町警察署のベテラン刑事である木村友一と、強行犯係の刑事、吉野直樹です。
吉野は、なつめが声だけを聞いた事から、最初から「勘違いではないか?」と決め付けますが、なつめから、車からアルコールの匂いがした事と、もう1人の目撃者である、スケートボードの人物がいるという情報を聞き出します。
木村と吉野は捜査の末、事件当日、犯人と思われる人物と接触した、スケートボードの人物である国崎春馬を探し出します。
春馬は、運転手が帽子にサングラス、マスクを着けていた為、顔を見ていない事と、示談金としてお金を受け取った事を話し、車の後部座席には誰もいなかった事を証言します。
春馬の証言から、木村と吉野は事件性無しと判断します。
次の日、春馬がスケートボードの練習へ向かうと、なつめが待っていました。
なつめは、車の構造的に後部座席の女性が見えなかった可能性を告げ、春馬が受け取ったお金を、証拠として提出する事を求めます。
なつめは、春馬から受け取ったお金を、吉野と木村に渡す為、再び長者町警察署を訪れます。
吉野は変わらず「勘違い」と決め付けますが、なつめは吉野の声の特徴だけで、年齢と体形を言い当て、昼に何を食べたかも当て、視覚以外は鋭い事を見せつけます。
木村は、なつめが過去に警察官を依願退職した事も知り「事件では無い」という確証を得る為に、独自捜査を開始します。
なつめは春馬と共に、春馬の先輩である個人情報などを持つ名簿屋、横山司を訪ねます。
「レイサ」は、声の特徴から10代であると考えているなつめに、「レイサ」という女性が存在しない事を分からせる事が春馬の目的でした。
横山の持つ膨大なデータベースに「レイサ」という名前の女性の情報は無く、春馬は帰ろうとしますが、横山から「源氏名ではないか?」という可能性が提示され、調べた結果、1件の風俗店が見つかります。
なつめと春馬は、見つかった風俗店を訪ね「レイサ」の情報を聞き出そうとしますが、店長はまともに取り合ってくれません。
ですが「レイサ」と仲が良いという女性と出会い、情報を聞き出します。
「レイサ」の本名は「レイ」で、再婚した新しい父親と折り合いが悪く、家庭に居場所が無い為、家出をして風俗で働いていました。
そんな時、風俗で働く女性を救済する人物、通称「救様」と出会い、レイは姿を消した事が分かります。
「救様」の正体は「未成年の女性高校生を風俗に斡旋している桐野ではないか?」という情報を頼りに、なつめと春馬は、桐野の自宅を訪ねますが、桐野は何も知りませんでした。
今回の事件が、家出少女が標的にされている可能性を感じた木村は、生活安全課の日下部翔に、レイという女子高生の調書を探させますが書類はみつかりません。
また、「救様」は都市伝説のような存在になっている事から、春馬はTwitterで「救様」の噂を集めようとします。
なつめと別れ、夜道をスケートボードで走っていた春馬は、突然何者かに車で追突されます。
入院するほどの大怪我を負いながらも、命は助かった春馬の証言から、長者町警察署は、過去に誘拐容疑で逮捕されている新井という男を、容疑者として割り出します。
新井の住居に、木村と吉野が突入すると、そこにあったのは薬の過剰摂取で死体となっていた新井の姿でした。
そして、新井の住居の裏から、4人の女性の死体が発見されます。
サスペンスを構築する要素①「なつめが遭遇した誘拐事件の真相」
本作の序盤では「なつめが遭遇した誘拐事件の真相」が物語の主軸となっています。
視力を失い、精神的に不安定な状態になっているなつめの証言を、警察はまともに取り扱わず、事件性は無いと判断されます。
この時に、事件性が無いと判断された理由が、もう1人の目撃者である春馬が、後部座席に人がいる事を見ていなかった事と、なつめが聞いた「レイサ」という名前の少女の、捜索願が見つかっていないという、なつめが失った「視力」が、ことごとく邪魔しているという点が興味深いですね。
なつめは、事件性が無いと判断された後も、自身の感覚を信じて独自の捜査を開始します。
「誘拐事件が発生した場合、72時間の生存率は30%」という警察学校時代の知識と、警察に憧れていた正義感から、行動を起こすなつめは、非常に力強く魅力的で、序盤のストーリー展開を引っ張ります。
その後も、誘拐犯の巧みな罠により、捜査は終了となりますが、事件の結末が納得できないなつめは、更に事件を追い続け、ベテラン刑事の木村も、なつめの執念が移ったかのように、独自の捜査を続けるようになります。
警察でさえも実態が認識できない真犯人に、視力以外の全ての感覚を駆使して挑むなつめ、謎が謎を呼ぶ、ミステリアスな展開が序盤の見どころとなります。
サスペンスを構築する要素②「邦画トップクラスのサイコキラー」
謎が謎を呼ぶ、ミステリアスな展開が序盤の見どころですが、犯人が長者町警察署の生活安全課の警察官、日下部と判明してから、本作は一変しホラー要素が強くなり、中盤以降は日下部の恐ろしさを見せつけられる展開が続きます。
特に、地下鉄で日下部がなつめを追いかける場面では、スマホのビデオ通話機能を使いながら、春馬のナビゲートを受けて必死で逃げるなつめに対し、日下部は刃物を持ったまま、一定の速度で歩きながら、なつめを追いかけます。
『ハロウィン』や『13日の金曜日』を彷彿とさせる、80年代のスラッシャー映画のような演出が続きます。
また、日下部は自分が犯人とバレた後も、表情を変える事なく、淡々と「儀式殺人」を続けていきます。
ある場面で、日下部はクローゼットの中に閉じ込められるのですが、無表情で何度もクローゼットの扉を蹴飛ばしたり、日下部が、ある人の命を奪った時に発する「はい、頭終了」というセリフなど、寒気のする演出が多く、日下部は邦画トップクラスのサイコキラーではないでしょうか。
規制が厳しい現代において、日下部の恐ろしさを印象付ける、攻めた恐怖演出の数々は必見です。
サスペンスを構築する要素③「物語を盛り上げる小道具の数々」
ミステリー展開の後に、ホラー展開を経て、本作は最後の戦いに突入します。
冷徹なサイコキラーに挑む、なつめと春馬の武器は、吉野が残した拳銃のみ。
ですが「屋敷の見取り図」や「音声ガイド機能付きのスマホ」などを駆使し、何度も日下部を追い詰めます。
そして、大樹の命と、なつめの視力を奪う事故の原因となった、涙の音がするアクセサリーが、日下部を倒す最終的な切り札となります。
このクライマックスは、大樹の死を乗り越え、なつめが精神的に強くなる瞬間を描いた、恐怖と感動が入り混じる素晴らしい場面となっています。
本作は全編を通して、小道具の使い方が上手なので、そこも注目して下さい。
映画『見えない目撃者』まとめ
本作で描かれているのは、どんな状況に追い込まれても「人を助けたい、守りたい」という意思は強く、その意思を持ち続ける事の大切さです。
視力を失っても事件を追い続けるなつめ、定年を目前にしながらも、刑事の使命に気付き、日下部と対峙する木村。
警察は正義の味方である事を証明する為に、たった1人で少女救出に向かった吉野の姿から、本作のテーマは物語られています。
犯人の日下部が、感情を持たない冷徹な人物になっているのも、なつめ達と真逆の人間にいる事を強調しているのでしょう。
本作の物語は、緻密に張られた伏線を回収しながら、丁寧に進んでいく為、本当に見応えのある内容となっています。
次回のサスペンスの神様の鼓動は…
有名な都市伝説「口裂け女」をモチーフにした、サスペンス映画『ゴーストマスク 傷』をご紹介します。