アルフレッド・ヒッチコックの全サイレント作品9本を一挙公開という世界初の画期的な上映がMOVIX京都にて開催されています(~3月3日)。
英国映画協会が、現存するヒッチコックの全サイレント映画を一コマ一コマデジタル修正した貴重な映像です。
今回は、そのうちの一本で劇場では日本初公開となる『下宿人』(1927年)を取り上げてみました。
[追記]東京での上映が決定しました! 2017年3月18日〜3月24日 場所:東劇(東京メトロ東銀座駅6番出口より徒歩1分。中央区築地4-1-1 東劇ビル3F Tel:03-3541-2711)配給:劇団とっても便利 お問い合わせ:benrimusical@gmail.com
映画『下宿人』作品情報
【公開】
2017年(イギリス)
【原題】
The Lodger: A Story of the London Fog
【監督】
アルフレッド・ヒッチコック
【キャスト】
アイヴァ・ノヴェロ、ジューン・トリップ、マリー・オールト、アーサー・チェイズニー、マルコム・キーン
【作品概要】
冬のロンドンで毎週火曜日に決まってブロンドの若い女性が殺害されるという事件が起き、人々の恐怖を誘っていた。下宿屋の娘デイジーはファッションモデルをしている美しい娘で彼女も金髪だった。ある日、彼女の下宿に奇妙な男性が現れる。
映画『下宿人』あらすじとネタバレ
霧の夜の連続殺人
霧が立ち込める夜のロンドンで金髪の女性の悲鳴が響きました。人々がかけつけてくると彼女は既に絶命しており、またもや火曜日に若い女性が襲われたと現場は騒然とします。
警官が周囲の人に聞き込みをしている横で新聞記者が盛んにペンを走らせます。新聞記者はただちにデスクに電話をし、記事を読み上げます。印刷機が回り、出来上がった新聞の束が配達車に積み込まれ、新聞売り場に運ばれていきます。
「エンバンクメントで7人目の被害者! 目撃者によると犯人は顔の下半分をスカーフで隠していた。現場にはいつものように”復讐”という文字が書かれた三角形の紙切れが落ちていた!」新聞はセンセーショナルに事件を報道していました。
ファッションショーのモデルたちの楽屋にも事件のことが知らされました。皆、不安な気持ちにはなるものの、まさか自分がそのような目にあうはずはないと頭を振ってみせます。
でも用心するにこしたことはありません。モデルの一人、デイジーは黒いつけ毛と帽子で金髪を隠して帰宅しました。
デイジーの家は下宿屋を営んでいます。そこにはしょっちゅう刑事のジョーがいりびたっています。ジョーはデイジーにベタ惚れで、デイジーの方も悪い気はしないようです。
怪しい下宿人
ある夜、チャイムがなり、デイジーの母がドアを開けるとそこには顔の下半分をスカーフで隠した若い男が立っていました。彼は部屋をお借りしたいと言います。
男は部屋に案内されると、まず、カバンを鍵のかかるタンスにしまい込みました。そして部屋に飾られた金髪の女性を描いた絵を落ち着きのない様子で撤去させました。
朝、下宿屋に元気にやってきたジョーは、連続殺人鬼の担当になったと意気揚々です。
別の日の夜、母親が寝床についていると、上の下宿人の部屋でかすかな音がします。耳をすませていると、彼は忍び足で部屋を出て、階段を降り、外に出ていきました。窓から覗くと急いで街中に向かって歩いて行く男の後ろ姿が見えました。
そのころ、街の一角では、一組の恋人が喧嘩をしていました。男性が立ち去り、一人になった女性の背中に帽子をかぶった男のシルエットが映ります。女性の悲鳴が響き渡ります。
またもや火曜日に金髪の女性が殺害されました! 新聞で事件を知った母親は父親に下宿人が怪しいと告げます。深夜に忍び足で外出し、音もなく帰宅したと。父は顔をしかめながらもまさかねと頭を振ります。
捜査で消耗したジョーが訪ねてきました。すると、二階からデイジーの悲鳴が! 彼女は下宿人に食事を持っていったのです。
あわてて二階に駆け上がるジョーと父母。みると、下宿人とデイジーが抱き合っています。「ねずみがいたのよ」とデイジーは言いますが、ジョーは激怒し、男たちは激しく争います。
ある日、下宿人が外出しました。彼はデイジーのフアッションショーに顔を出したのです。ショーに出演したデイジーは下宿人が客席にいるのに気付き、二人は微笑み合います。
デイジーが帰宅すると、彼女がショーで着たドレスが届いていました。下宿人が購入して彼女にプレゼントしたのです。しかし、下宿人を疑っている母は、それを下宿人に突き返してしまいます。
警察は殺人現場を記した地図を見てあることに気付きます。現場がある方向に動いているのです。それはデイジーの家がある下宿街でした。
下宿人もまた、地図を広げていました。彼の地図にも同じように三角のマークがつけられていました。
映画『下宿人』の感想と評価
1927年制作の本作はヒッチコックの三本目の監督作です。サスペンスの神様と呼ばれるヒッチコックの持ち味がこの段階から完成していることに驚きを隠せません。
いきなり悲鳴をあげる恐怖にひきつった女性の顔のアップから始まり、街のネオン、倒れている女性、恐怖に顔がひきつる老女、取り囲む人々、警官、新聞記者と非常にテンポよく無駄なく進んでいきます。
原題の『The Lodger: A Story of the London Fog』が表しているように、霧の深いロンドンの街が描かれていますが、その中に灯る「TO NIGHT GOLDEN GIRLS」という街のネオンが怪しげに魅力的に輝きます。
下宿人の初登場シーンもこれ以上ないというくらいの怪しさ。濃い霧の中に顔の下半分をマフラーで隠した姿で戸口に立っているのです。
演じるのはアイヴァ・ノヴェロという俳優ですが、当時イギリスでアイドル的な人気があったというだけあって非常に美しい顔立ちをしています。神秘的で掴みどころのない感じが役柄にぴったりです。
そして、この下宿人に対して、階下で生活している宿主の疑惑が膨れ上がっていく様が圧巻なのです。
とりわけ下宿人が真夜中に忍び足で外出するところなど、階下で聞き耳をたてている母親と出ていく下宿人の姿が交互に描かれて非常に緊張感のある場面になっています。
サイレント映画なのに、まるでかすかな物音が聞こえ、観ている私たちも必死で耳をこらしてしまう、そんな感覚になってきます。
サイレント映画ならではの表現方法とヒッチコックのサスペンス溢れる演出にわくわくさせられるのです。
まとめ
英国映画協会により、完全デジタル修正された今回の上映作品には、ニティ・ソーニーというアシッド・ジャズで有名な音楽家が音楽をつけています。
途中、ボーカルが入る箇所もあり驚かされますが、サイレント映画というのは、当時人気のあった音楽や弁士がついて上映され、非常にライブ感覚のあるものだったようです。
山田宏一と和田誠の『たかが映画じゃないか』(文春文庫)で、『下宿人』に関して語られた箇所があるのですが、下宿人が歩き回る音に対する不安を現すために、天井を透明なセットにして靴の裏を撮っていると書かれていました。
ヒッチコック自身は足音の効果を出すために、天井に厚い透明ガラスをはめ込んだと語っています。
その伝説の場面を映画館の大きなスクリーンで観ることができて本当にありがたかったです。
この貴重な上映をお見逃しなく!(上映スケジュールなどはMOVIX京都のHPを参照ください)
◯アルフレッド・ヒッチコック サイレント全作品「ヒッチコック 9」完全デジタル修復版 ジャパン・プレミア上映 第2回 うずまさ映画祭 復元映画企画]
MOVIX京都:http://www.smt-cinema.com/site/kyoto/