理想郷ボルテックスが人類にもたらしたのは果たして幸福だったのか?!
スリリングな冒険要素とエロティシズムを融合させたSF大作『未来惑星ザルドス』をご紹介します。
映画『未来惑星ザルドス』の作品情報
【公開】
1974年(イギリス)
【原題】
Zardoz
【監督】
ジョン・ブアマン
【キャスト】
ショーン・コネリー、シャーロット・ランプリング、セーラ・ケステルマン、ジョン・アルダ―トン、サリー・アン・ニュートン、ナイオール・バギー
【作品概要】
イギリスの奇才ジョン・ブアマンが製作・監督・脚本を兼任したディストピア映画。単なるSFものとは一線を画す寓話的要素も強い作品。
キャストには『007』のジェームズ・ボンド役ですでに世界的な地位を確立していたショーン・コネリーや、当時まだ20代だったシャーロット・ランプリングを起用。
映画『未来惑星ザルドス』のあらすじとネタバレ
紀元2293年、世界は理想郷ボルテックスと荒廃した外界に二極化していました。ボルテックスに住むエターナルスは、老いることもなく永遠の命を与えられている存在。
一方、外界の人類は獣人と呼ばれ、彼らは巨大な顔を模した空飛ぶ石像ザルドスを唯一神として崇めていました。
ザルドスは増えすぎた人口を抑制するため、獣人の中から選ばれし特別な者たちに銃を与えていました。「銃は善きもの、性は悪しきもの」という教えに従い、殺戮が繰り広げられていたのです。
選ばれし獣人の一人であったゼッドは、ある日ザルドスの中に潜り込み、外界とは遮断された世界であるボルテックスへと辿り着きます。
ゼッドにとってのボルテックスとは、ザルドスに忠実なものが死後に行くことが出来る世界だと教えられていた場所でした。しかし、それが今目の前に広がっているのです。混乱しているゼッドの前に一人の女性メイが現れます。
どうやってここへ来たのかと問うメイ。それに答えないゼッドでしたが、テレパシーを使って頭の中を覗かれてしまいます。
やがてコンスエラという女性の下へと連れて行かれたゼッドは、改めて記憶をスクリーンに映し出されます。この獣人の名前がゼッドであり、非常に野蛮な人物だとは認識出来たものの、途中で記憶が遮断され肝心な部分が分からないままでした。
外界の人間は殺さなくてはならないと主張するコンスエラでしたが、研究者であったメイはそれに反対します。初めてボルテックスに来た獣人は良い実験材料になる上、侵入方法もしっかりと調べるべきだということで、住民の投票で是非を決定することにしました。
皆を集めた場では侵入経路を解明すべきだとの意見や、退屈しのぎに飼っておきたいという意見などの賛成多数でゼッドを3週間程生かしておくことに決定します。
結局男性であるフレッドが彼を預かることに。美術品の整理や物資の運搬と言った下働きをさせることにしました。
ある日、フレッドと共に食糧を配りに行くこととなったゼッド。道中ゼッドは、不死であるボルテックスの人間が罪を犯した場合、罰として加齢の刑を与えられることを知ります。
今向かっているのはそんな反逆者たちの村だそう。最高刑を与えられ、老いた身体を抱えながらも絶対に死ぬことが出来ないのだというのです。
食糧を配り終え、次に彼らが向かったのは無気力人間の村でした。フレッド曰く、ボルテックスの人間が掛かりやすい病気なのだとのこと。ただ立ち尽くし、何の動きも示さない無気力人間たちを不思議そうに見ていたゼッドを、フレッドが好きにしろとけしかけ、女性を犯そうとするも何の反応も示しません。
無気力になるか反逆者になるかの恐ろしい世界だとフレッドはゼッドに教えます。
一方、コンスエラはゼッドを使ってある実験をしようとしていました。繁殖の必要がなくなって性欲が失われたボルテックスの住民にとって、獣人であるゼットを使って勃起という生理現象を解明しようとしていたのです。
コンスエラは皆の前でゼッドに卑猥な映像をいくつか見せますが、彼は反応を示しません。しかし、ゼッドが映像ではなくコンスエラを見つめることでと次第に反応を示したので、周りの人間の嘲笑を買うことになってしまいました。
一方のメイは、ゼッドの遺伝的構造を調べていました。そこで、彼が単なる獣人とは違う突然変異の存在であることに気付いたメイは、改めてゼッドにここへ来た目的を問います。
精神的にも肉体的にもボルテックスの住民より優れていると彼に伝えるメイ。ゼッドの存在はボルテックスを滅ぼすかもしれないと危惧を抱き始めたメイに、それを理由に俺を殺すのかと問い詰めるゼッド。しかし、メイは科学には必要だからまだ生かしておくと彼に伝えます。
その後皆が食事の席に着いた時、コンスエラがメイに研究は終わったんだから彼を殺せと切り出します。まだ終わってないとメイ。投票となり、結果はあと7日間研究してから処分することに決定します。
アヴァロウという女性が野蛮な獣人は写し鏡であると唱え、そうならぬよう瞑想に入り良く考えようと提案します。するとその提案を一人拒否するフレッド。彼はゼッドと会ったことが原因なのか、この世界に嫌気がさしていたのです。
皆との心理融合をも拒否するフレッドは反逆者のレッテルを貼られ、強力な精神攻撃にやがて気を失ってしまいます。それを見ていたゼッドは、外へと飛び出しました。
やがてボルテックスの境界へと辿り着いたゼッド。そこは見えない壁で覆われていました。遠くにいた獣人の仲間に何やら合図をしてから、フレッドを探しに反逆者の村へと向かいます。
村へ辿り着きフレッドを探していると、顔の半分だけが異常にに老けてしまった彼を発見します。フレッドはゼッドを指さし、こいつは死ぬことも出来る羨ましいやつだと老人たちに呼びかけます。
人が死ぬところが見たいと狂喜して群がる老人たち。望みは何かとゼッドが尋ねると、人類を滅亡させたいとフレッド。最初に会った時からゼッドに希望を抱いていたと打ち明けます。
それに対し、“タバナクル”というこの不死の世界を構築する全知全能の存在について何か知っているかと尋ねるゼッド。フレッドに反逆者の中にそのシステムの開発者の老人をがいることを教わり、張本人に死ぬ方法はないのかと尋ねるも、メイに聞いてみろとだけ答えます。
映画『未来惑星ザルドス』の感想と評価
前作『脱出』(1972)とは180度異なる世界観のディストピア映画を創り上げた監督のジョン・ブアマン。しかし、この両者の全く異なる印象の中にも実は共通したテーマが存在しているように思えます。
ブアマンが『脱出』で描いたのは自然と人間との悪しき関係性でした。人間の手によって無情にも破壊されていく自然からの警告をテーマに描かれたのが『脱出』なのですが、この『未来惑星ザルドス』には一体どんなメッセージが込められているのでしょうか?
この作品の舞台は、人類が引き起こした様々な問題により荒廃してしまった未来の地球。そしてその中に築き上げられたボルテックスという理想郷です。
その住民は誰もが思い描く“不死”と“永遠の若さ”というものを手に入れたエターナルスたちでしたが、彼らには得たものと同時に失くしたものもありました。
それは繁殖する能力でした。不死である上に、ボルテックスという小さな世界に閉じ籠っている彼らにとっては、もはや必要のない能力となってしまったのです。
新たな生命が誕生することのなくなったボルテックスとは対象的に、外界では過剰な人口を調整するためにザルドスという偽の神を仕立て上げることで獣人たちをコントロールしていたエターナルス。
彼らのしていたことは自然の摂理に反した罪深きことであり、その罰としてゼッドという解放者が遣わされたのです。
この自然から人間への警告という点において『脱出』と同様のテーマが展開されていることがお分かり頂けたと思います。
そういったテーマ性の素晴らしさもさることながら、この作品にはその他にもたくさんの魅力が詰まってたものとなっています。
低予算だったこともあってか様々に工夫が凝らされたセットは、一見するとチープ感が否めない印象を与えるのですが、それが逆に絶妙な味わいを感じさせてくれるのです。神ザルドスや理想郷ボルテックスという世界がまやかしのものであると暗に仄めかしているとも言えるのかもしれません。
また、007シリーズの直後という人気絶頂の時期だったにもかかわらず、ほぼ全編にわたって赤い腰巻き一丁で走り回ったショーン・コネリー(ゼッド役)が見せた演技には、とてつもない役者魂を感じさせてくれます。
ゼッドというキャラクターから連想させる野蛮さと賢さが同居したようなショーン・コネリーという存在があったからこそ、この作品が単なるB級映画として捉えらることなく高い評価を受けているのでしょう。
さらにはジョン・ブアマン監督の素晴らしい演出にもご注目。タバナクルの中枢部分で展開される、まるで前衛アートや現代的なミュージック・ビデオかと思わせるような幻想空間は思わず息を呑むほどの美しさに満ち溢れています。
このシーンでは、具体的にゼッドに何が起こったのかということの説明など一切なくとも、観客の脳内に問答無用で理解という名の種を植え付けることに成功しているのではないでしょうか。
そして最後の獣人による皆殺しのシーンは最も印象的です。次々に殺されていくエターナルスたち。地面に横たわり、ようやく死を迎えた彼らの屍をクローズアップで撮っていくカメラ…。そしてそのバックに流れるベートーヴェンの交響曲の調べ…。
これほど凄惨で、これほど美しいシーンを最後の最後に用意していたジョン・ブアマンの底力には、もう脱帽するしかありません。
まとめ
この作品が、ライマン・フランク・ボームの著作である『オズの魔法使い』(1900)をモチーフとしていることは、あらすじの方からお察し頂けるかと思います。原題の『Wizard of Oz』の一部分を指で隠すと…『〇〇zard 〇〇 Oz(zardos/ザルドス)』になるという訳なのです。
ドロシー一行が願いを叶えてもらうために会いに行ったオズの魔法使いが、この作品では偽の神ザルドスに当てはまります。物語のこの部分からエターナルスが獣人を支配するための策を思いついたという訳ですね。
魔法使い(本当は魔法を使えない老詐欺師)がドロシーたちを騙していたように、ザルドスという偽の神を創造することで、獣人たちを欺き、ボルテックスの繁栄と永続のために利用してきたのです。
『オズの魔法使い』では、ウィンキーの国の独裁者である“西の悪い魔女”を倒すことと引き換えにドロシーたちの願いを叶えてあげるという(建前上の)約束でした。推測になりますが、もしかしたらドロシーたちを象徴しているのがゼッドで(キャラとしてはカカシに近い)、“西の悪い魔女”がタバナクルを表しているのかもしれませんが…真偽の程はご自分の目でお確かめ下さい。
この「アメリカで最も優れ、最も愛されているおとぎ話」と言われる『オズの魔法使い』からこのような物語を紡ぎ出したジョン・ブアマンの類まれなる才能に、改めて敬意を表したいと思います。