映画『半世界』は2019年2月TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開。
主演の稲垣吾郎が演じた高村紘と、幼なじみの親友である沖山瑛介を長谷川博己、もう一人の友人、岩井光彦を渋川清彦が務めています。
また高村の妻である初乃に池脇千鶴、高村親子の思春期の青年・明を杉田雷麟がそれぞれに熱演を見せています。
親友、夫婦、親子とそれぞれの異なる世界観と視野の違いにぶつかり合い、それでも絆を持ちたいとする姿を描いたヒューマンドラマ。
第31回東京国際映画際のコンペティション部門に選出され、観客賞を受賞した本作。
コンペティション上映全16作品の観客から投票を募り、最も多くの支持を得た1作品に贈られる観客賞。
幼なじみ3人組が40歳を目前に再会し、地方都市で暮らす日常と葛藤を阪本順治監督のオリジナル脚本で描いた本作が、たくさんの観客の心を掴みました。
東京国際映画祭にて10月30日に行われた阪本順治監督と稲垣吾郎の記者会見、そして舞台挨拶の模様をお届けします。
CONTENTS
映画『半世界』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【監督・脚本】
阪本順治
【キャスト】
稲垣吾郎、長谷川博己、池脇千鶴、渋川清彦、竹内都子、杉田雷麟、小野武彦、石橋蓮司
【作品概要】
『エルネスト もう一人のゲバラ』『人類資金』の阪本順治監督のオリジナルストーリーで、アイドルグループ元スマップの稲垣吾郎が主演を務めた人間ドラマ。
稲垣が主人公となる炭焼き職人の紘を演じるほか、長谷川博己、池脇千鶴、渋川清彦ら実力派キャストが共演しています。
仕事にも家族にも無関心だった男が、同級生との再会をきっかけに、人生と向き合っていく姿を丁寧に描きだします。
映画『半世界』のあらすじ
山中の炭焼き窯で備長炭の職人として生計を立てている紘(稲垣吾郎)の前に、かつての同級生であり元自衛官の瑛介(長谷川博己)が現れます。
突然故郷に帰ってきた瑛介は、紘の仕事を見て「こんなこと、ひとりでやってきたのか」と驚きます。
しかし紘自身は深い考えもなく単に父親の仕事を継ぎ、ただ毎日をやり過ごしてきたに過ぎませんでした。
紘はもう一人の同級生、光彦(渋川清彦)に、息子への無関心を指摘されます。
仕事の忙しさを言い訳にし、紘は息子の事も家庭の事も妻・初乃(池脇千鶴)に任せきりでした。
仕事のみならず、家族にすら無関心だった自分に気づかされる紘。
やがて、瑛介が抱える過去を知った紘は、仕事、そして家族と真剣に向き合う決意をしますが…。
映画『半世界』東京国際映画祭での記者会見
東京国際映画祭にて10月30日(火)に行われた記者会見に、阪本順治監督と主演の稲垣吾郎が登壇しました。
会見冒頭、MCよりコンペティションに選出された感想を聞かれた稲垣は「僕にとって憧れの映画祭にお招きいただきありがとうございます。なんだか夢のようですね。先日もレッドカーペットを歩かせていただいて、歩いてそうで今まで1回もなくて。歩いてそうって自分で言うのもね(笑)」と笑顔でコメント。
阪本監督も「稲垣君を主演に迎えて炭焼き職人ということを思いつくのは僕しかいなかったと思います。非常に難しかったですし、他の共演者もそれぞれ初めて与えられた役柄でした。皆にとってすごく新鮮な撮影であったようで、僕もそれが一番嬉しいです」とオリジナル脚本で挑んだ本作への想いを語りました。
“半世界”について
「最初に監督から“半世界”という言葉を聞いた時に衝撃がありました。
シンプルな言葉なのに奥が深い。自分にとっての“半世界”って何だろうな、あと“世界”って何だろうなとか想像してみたりしました。
皆それぞれの世界の中では主人公ですし、いろんな気持ちでこの映画を観ていただけると思います」
“半世界”という言葉をどう捉えているかについて語った稲垣。
続けて、阪本監督が『半世界』というタイトルが生まれたきっかけを明かしました。
「写真家の小石清さんが、日中戦争の従軍カメラマンとして中国に渡って撮ってきた写真の数々をまとめて発表された時の題名が『半世界』でした。
従軍カメラマンは、勇ましい日本軍を撮ってくるのが役目ですが、小石さんはまったく撮らず、中国のおじいちゃん、おばあちゃん、子供、鳥、象とかを路地裏やいろいろな所で撮ってきました。
その写真展を見た時に、そうかと。グローバリズムとか言って世界を語りますけど、こうやって名もなき人々の営み、彼らが暮らしている場所も世界なんだと。
そういうことと解釈して、そういう想いに近づこうとして、この映画の企画を立てました」
世界的な視野で捉えた“世界”だけではなく、もっと身近なところにある“世界”に目を向け、その2つは決してバラバラではなく、繋がっているということに気づかされるような、映画『半世界』の原点が語られました。
主人公・紘と稲垣吾郎
本作の主人公・紘の「情けないダメおやじ」という役柄を演じたことについて稲垣は次のように話しました。
「そもそも自分がどういう人間なのかはわからないですし、自分が演じるのにピッタリな役って何だろうと、わからなくてもいいと思うし、でないといろんな役をこれから演じていくこともできないので。
確かに役の偏りは役者の仕事をしているとある中で、今回大きかったのは、ここ数年での自分の環境の変化があり、仕事の仕方も変わり、いろいろなことがあった中で、この作品が役者としては初めてのお仕事だった。
そういった意味では自分でも見たことのない自分がスクリーンに現れる、この作品に巡り会えたことが幸せなことだと思っていますし、それを皆さんにお届けできることを嬉しく思っています」
さらに“自分でも見たことのない自分”について具体的に語ります。
「もう、すべてです。チェーンソーを持って木を伐採したり、頭にタオルを巻きながらみかんを食べたり、日本の原風景のような田舎で生活するということも。
そういう稲垣吾郎を見たことがなかったので。僕はどこか自分で自分を俯瞰で見てたりしますが、そういう役者の稲垣吾郎は見たことがなかったなと。
でもこれって、すごく自画自賛みたいなところがあって、自分じゃない自分がそこに映っていたということは、その役になり切れていた、演じ切れていたのかなというふうに思えていて。
でもそれは自分ひとりの力ではなくて、監督をはじめスタッフの皆様、共演者の方、そして三重県の伊勢志摩で撮影していて、その土地に誘われたというか引き込まれたというのもあり、見たことない自分がスクリーンに映っていました」
阪本監督は、紘というキャラクターが生まれた背景について、稲垣と会った時に、“ごまかさない、自分を前に出そうとしない”という印象を受けたことから「たんたんと寡黙に一つの仕事をしている、それが都市部ではなくて、山の中で土にまみれてというイメージが浮かんだ」と話しました。
そして、稲垣の職人気質な一面から生まれた紘ですが、家庭を省みないような紘の性格は、当然稲垣とは似ていないとした上で「映画は、どこか欠損した人を真ん中に据えた方が、いろんな物語が作れるということ。成熟していく様とか、そういう風に物語を運ぶことができる」と語り、隣で大きく頷く稲垣と笑顔で顔を合わせていました。
阪本監督の演技指導
MCから、現場で阪本監督から「もうちょっとカッコ悪くやってみようか」というような指示はあったのか尋ねられた稲垣は、監督の演技指導について明かしました。
「僕は、クールな役であったり、バッジを付けるような役、今舞台では天才音楽家の役をやる稽古中で、一見カッコいい、超人的な役が多いですけど、実際なんにもカッコいい人間ではないので。
カッコイイ身のこなしや動き方とか苦手で、けっこう鈍くさいところもあるので。
ですから、そんなカッコよくしないでとは監督は言わなかったですけどね。
ただ、監督は細かく演技指導してくださって、最初に撮影したのが、自衛隊として海外に赴任していた長谷川博己さん演じる瑛介が帰ってきて、ふたりが久々に会うというシーン。
長回しのワンカットから入り、そこがすごくきっかけを作ってくれた。
何テイクも何十テイクも重ねて、そこで生まれた仕草、具体的には物を差す仕草とか。
僕だったらちょっと優雅に。自分で言っちゃって(笑)
ぶっきらぼうに男っぽくやってみろとか、細かい仕草ってすごく難しいんですね。
本人に出てるものなので、出ちゃうし。
そういうところをすごく細かく指導してくださった。
みかんの皮の剥き方ひとつまで。そういうことの積み重ねでした」
幼なじみ3人組の職業設定
中心人物3人の職業を炭焼き職人、中古車のディーラー、元自衛官とし、サラリーマンではなく親から継いだ仕事に設定した背景について、阪本監督は次のように述べました。
「たぶん僕自身のことがありまして、僕は商売人の子どもで、実は去年、90年続いた店を僕が畳んだんです、継がなくて。
商店街なので皆継ぐ継がないとかいう事柄がいつも耳に入ってきて、自分のおやじとの関係とか、友だちの母子関係とかをヒントにしているというのはありますね」
また、地方都市を舞台にした理由については、過去作『エルネスト もう一人のゲバラ』(2017)、『人類資金』(2013)と、ここ5~6年海外で撮影することが多かったことから「自分の地元に帰るような気持ちで映画を撮りたい。小さな都市の、小さな話で、間口は狭いけど奥行きの深いものを撮りたい」という想いが募ったことを明かしました。
さらに「地方都市の中だけで物語が完結するのではなくて、元自衛官の同級生が帰ってきたことで、ちっちゃな町から世界を見るということもやってみたかった」と長谷川博己演じる瑛介のキャラクター設定についても触れました。
男3人の友情と絆
「僕は古くからの友達とかはいないタイプなんですけど、ずっと仕事は男のグループでやらせていただいて。
今も形は変わりましたが「新しい地図」として香取君や草彅君と一緒に、本当に多くのファンの方とともに、その地図を広げていくことに僕は夢中です。
だから、友情と仕事の仲間はちょっと違いますけど、でもそういう絆みたいなものは僕らにもありますし、すごくわかりますし、ふたりにも早く観てもらいたいですね」
最後に、男3人の友情と絆が主人公を動かす本作のストーリーを受けて、男の絆や友情で支えられ動かされた経験について、このように述べた稲垣。
『半世界』に登場する3人組とリンクするように「新しい地図」の3人の関係が熱い友情と強い絆で結ばれていることが伝わってくる言葉で締めくくりました。
映画『半世界』東京国際映画祭での舞台挨拶
東京国際映画祭にて10月30日に、記者会見の直後に行われた舞台挨拶の模様をお届けします。
まずは、阪本監督から観客に向けて、本作のタイトル『半世界』について、小石清さんの写真展から着想を得たことが語られました。
そしてMCから、日常でこれが私の半世界!というものは何かという質問に対して、稲垣は次のようにコメントしました。
「いろんな世界で、皆いろんな面を持った自分がいる。
自分のプライベートも半世界ですし、お仕事の現場でもそこがまた一つの半世界だという気がします。
でも新しい世界という意味では、自分自身、環境が変わって「新しい地図」という形で再スタートをさせていただいて。
そこが今自分にとっての半世界なのかもしれませんね」
続けて稲垣は、この作品の見どころである3人の男性の友情、そして夫婦の愛を演じた共演者とのエピソードを披露しました。
「本当に共演させていただいて感激だった。
僕も映画とかでファンだった俳優さんたちだったので、ご一緒させていただいたことが僕の中で宝物です。
現場では、不思議とその土地の力が大きくて、三重県の伊勢志摩で撮影して、ずっと1つのお家を借りて、僕の家の設定で合宿みたいな感じで1か月以上その場所にいて。
そこにいる時間で、その場所やスタッフの皆さんに引き寄せられて、本当にあれは現実だったのかな、夢だったのかなと思うような、そんな経験だったんですね。
ですから、この間レッドカーペットを歩かせていただいて、久しぶりに長谷川さんや渋川さん、池脇さんとお会いした時に、1か月間暮らして映画を作っていた3人とはまったく思えない感じがして。
今まで僕が映画で見ていた3人がいて、三重県ではそういう感じがしなかったので、映画の力・撮影の力というか、監督がそういう世界を作ってくださった。
現場ではあまりしゃべらなかったんですけど、レッドカーペットを歩かせていただいた後、監督がご飯を食べに連れて行ってくださって、皆でお酒を飲むことができて、すごく楽しい夜でした」
2018年の2、3月に行われたという撮影当時に思いを馳せながら、10月にレッドカーペットで再会した喜びをにこやかに語り、舞台挨拶は終了しました。
まとめ
日本映画界を代表する阪本順治監督が、稲垣吾郎を主演に迎えて紡いだ男3人とその家族の物語。
映画『半世界』は、人生の半ばを過ぎて、これからの生き方を考える、誰もが抱くような葛藤と、家族や友人との関係、そして止まらずに続いていく人生への希望を描いています。
第31回東京国際映画際にて世界初上映されると、たちまち多くの観客の心を惹きつけ、観客賞を受賞。
本作の気になるタイトルのルーツや、稲垣吾郎が演じた主人公・紘の役柄について詳しく語られた記者会見と、舞台挨拶の模様をお届けしました。
映画『半世界』は、2019年2月TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開です。
ご期待ください!