日本時間で3月4日に発表される第90回の節目の米国アカデミー賞。ノミネートの話題作である二強に割って入るのは?
映画ライター村松健太郎が、第90回アカデミー賞の解説と予想します。
2017年は作品賞発表の入れ違いハプニングが強烈な印象を残し過ぎましたが、作品賞は『ムーン・ライト』。
監督賞が『ラ・ラ・ランド』のデミアン・チャゼルに贈られました。
主要部門といわれる主演・助演男女優賞は『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のケイシー・アフレック、『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーン、『ムーン・ライト』のマハーシャラ・アリ、『フェンス』のヴィオラ・デイヴィスがそれぞれ獲得しました。
ちなみに『フェンス』はデンゼル・ワシントン監督・主演作でアカデミー賞4部門にノミネートされましたが、日本では劇場公開されませんでした。
さて、今回は。
CONTENTS
1.アカデミー賞の傾向とは
作品賞ノミネート『スリー・ビルボード』
本当の意味での前哨戦(選んでいる人がアカデミー会員と被っている)や、前哨戦扱いされている(時期的に近い)各映画賞では並ぶ作品と結果がほぼ同じ結果になっています。
もちろん、当日までどちらに転ぶかと思わる激戦部門もありますが、今回は比較的予想がしやすいところではないでしょうか?
ここ数年の流れですが、2018年は“アメリカの今”を象徴するかのようにLGBT、人種・性差ジェンダーを内包した作品が多くなっています。
監督賞ノミネート『シェイプ・オブ・ウォーター』
そんな中、前哨戦で2強に挙がっているのが『スリー・ビルボード』と『シェイプ・オブ・ウォーター』。
さらに言うと作品賞は『スリー・ビルボード』に、監督賞が『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロにという図式がほぼほぼ固定化しています。
片やリアルなサスペンス、一方は監督の色がたっぷりとにじみ出た寓話となっていますが、どちらも“ヒロイン映画”であることが大きな共通点といっていいでしょう。
主演女優がいるということではなく、完全に女性が主人公の物語となっているところです。
“#METOO”から反セクシャルハラスメントの潮流から考えても今年はヒロイン映画が有利です。
ちなみに大量ノミネートも予想された『デトロイト』はノミネートから外れてしまいました。
2.テーマの競合が起きている作品賞
『ダンケルク』
ノミネートは『君の生で僕を呼んで』『ウィンストン・チャーチル』『ダンケルク』『ゲット・アウト』『レディ・バード』『ファントム・スレッド』『ペンタゴン・ペーパーズ』『シェイプ・オブ・ウォーター』『スリー・ビルボード』という並びに。
ちなみに最多ノミネートは『シェイプ・オブ・ウォーター』の13部門、ついで『ダンケルク』が8部門、『スリー・ビルボード』が7部門と続いています。
前哨戦と消去法と実際に見た並びを見て『チャーチル』と『ダンケルク』は二つで一つのような映画の関係にあるので、一歩下がります『ペンタゴン・ペーパーズ』はスピルバーグの受賞キャリアからすると一歩下がるでしょう。
『ゲット・アウト』のノミネートはうれしい限りですが、ここまででしょう。
『ファントム・スレッド』も作品力としては少し下がります。
『シェイプ・オブ・ウォーター』に監督賞となるのであれば、『スリー・ビルボード』が優勢なのは変わりません。
台風の目になるのではと思われる『レディ・バード』が思い切りヒロイン映画なので、どのくらい票の食い合いが起きるかで状況が変わります。
『君の名前で僕を呼んで』ですが、こちらは昨年の『ムーン・ライト』と重なる部分が多いので、作品賞争いでは一歩下がることになるのではと思われます。
ということで、過去の実績等も含めて『スリー・ビルボード』が一番手でいいでしょう。
3.超個性派が並んだ監督賞
『ゲット・アウト』
ノミネートは『ダンケルク』のクリストファー・ノーラン、『ゲット・アウト』のジョーダン・ピール、『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグ、『ファントム・スレッド』のポール・トーマス・アンダーソン、『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロとなりました。
『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナーの名前がありません。
このことから逆説的に作品賞は『スリー・ビルボード』にという文法になりやすくなっていますね。
誰がとっても初受賞ですが、ギレルモ・デル・トロに素直に渡るのかが見ものです。
ノーランやPTアンダーソンなどアカデミー会員の中にも多くのファンを持っているので一波乱起きるかどうかですね。
ちなみにここでも異色ホラー『ゲット・アウト』がノミネートされていることはアカデミー協会からの強いメッセージと言っていいでしょう。
ここでは複数回ノミネート組がいますが、そのなかでも人気は寓話性の高い物語と監督のカラーを出し切ったギレルモ・デル・トロ監督が最有力なのは変わりません。
4.日本でも分けるべき⁈(オリジナル)脚本賞と脚色賞
日本では一つにされてしまっていますが、そもそもの作業量や使う能力が違うのでこの二つは似て非なる別物です。
脚本賞は『ビッグ・シック』『ゲット・アウト』『レディ・バード』『シェイプ・オブ・ウォーター』『スリー・ビルボード』と4作品が作品賞と重なっています。
『ゲット・アウト』の善戦がうれしい限りですが、ここでは『スリー・ビルボード』と『シェイプ・オブ・ウォーター』とが逃げ場がない形で正面対決。
間隙を縫ってくる『レディ・バード』と『スリー・ビルボード』の激突になりそうです。
近年は原作ものが多いなか、今回はオリジナル脚本作品が充実していますね。
一方の脚色賞は『君の名前で僕を呼んで』『ザ・ディザスター・アーティスト』『ローガン』『モーリズ・ゲーム』『マッドバウンド』。
なんと、ヒュー・ジャックマンのラストウルヴァリン作品がノミネートされています。
『君の名前で僕を呼んで』以外は作品賞のノミネートから外れていることを考えても『君の名前で僕を呼んで』が最有力でしょう。
IMAX初のコメディ『ザ・ディザスター・アーティスト』は評価は高かったのですが、ジェームズ・フランコのセクハラ関連発言で大きく株を下げてしまいました。
5.超重量級の主演男優賞
『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』
『ファントム・スレッド』のダニエル・デイ=ルイス、『Roman Israel, Esq.』のデンゼル・ワシントン、『ウィンストン・チャーチル』のゲイリー・オールドマンという重厚な並びに『ゲット・アウト』のダニエル・カルーヤと『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメが挑みます。
出れば大抵とっているダニエル・デイ=ルイスの名前がとにかく大きく見えますが、ここは“成りきり”が大好きなアカデミー賞ですのでゲイリー・オールドマンがついに栄冠をつかむことになるのではないでしょうか?
そんなゲイリー・オールドマンの最大のライバルは実はダニエル・デイ=ルイスではなくて新星のティモシー・シャラメかもしれませんね。
アカデミー賞がバランス感覚を発動するとなると『チャーチル』に票が行くのではないかと思われます。
ただ、激戦であることは必至です。『ペンタゴン・ペーパーズ』のトム・ハンクスがノミネートから漏れるぐらいですから。
6.今回を象徴する主演女優賞
ヒロイン映画多く並んだ今年を象徴するかのように力強い面々が並びました。
投票用紙に名前が印刷されているなどという都市伝説めいた冗談もある大女優メリル・ストリープはなんと『ペンタゴン・ペーパーズ』で21回目のノミネートです。
ここに賞レース二強の『シェイプ・オブ・ウォーター』のサリー・ホーキンスと『スリー・ビルボード』のフランシス・マクドーマントも並んでいて、フランシス・マクドーマントが『ファーゴ』以来の受賞の可能性が高いです。
タイトルロールを演じた『レディ・バード』のシアーシャ・ローナンと『アイ、トーニャ』のマーゴット・ロビーがどこまで混戦に持ち込めるでしょうか?
7.助演部門は曲者の集まり
助演男女優はどちらも曲者が集まりました。
男優は『スリー・ビルボード』からサム・ロックウェルとウディ・ハレルソン、『フロリダプロジェクト』のウィレム・デフォー、『シェイプ・オブ・ウォーター』のリチャード・ジェンキンス、『オール・ザ・マネー』のクリストファー・プラマーという並びです。
『スリー・ビルボード』から二人出て競合してしまったので、その間を縫ってクリストファー・プラマーが最高齢受賞となるのでしょうか?
助演女優賞は『シェイプ・オブ・ウォーター』のオクタヴィア・スペンサー、『アイ、トーニャ』のアリソン・ジャネイ、『マッドバウンド』からはヒップホップクイーンのメアリー・J・ブライジ、『レディ・バード』のローリー・メトカーフ、『ファントム・スレッド』のレスリー・マンビル。
またオクタヴィア・スペンサーとメアリー・J・ブランジが取ると二年連続で黒人女優受賞という快挙となります。
8.技術系・美術系は激戦
主要部門にノミネートされた『ダンケルク』『シェイプ・オブ・ウォーター』。
ゲイリー・オールドマンをチャーチルに変身させたメイクアップ技術が評価されている『ウィンストン・チャーチル』に加えて、『スター・ウォーズ最後のジェダイ』『ブレードランナー2049』『美女と野獣』などなど。
この部門であれば負けられない作品が待ち構えています。
まとめ
今回は映画ライターの村松健太郎が、日本時間で3月4日に発表される第90回アカデミー賞を大胆にも解説と予想をご紹介しました。
どの作品がとっても力作揃いなだけに楽しみなアカデミー賞の発表になりそうです。
皆さんもどの作品の受賞を予想していますか?