ロンドン映画批評家協会賞受賞ほか、各国の映画祭で多数受賞した映画『ウィークエンド』。
あなたは、自分の運命を変えるような出会いを経験したことはありますか?そんな、運命の出会いを描いたのが『ウィークエンド』。
監督は『さざなみ』や『荒野にて』で知られるアンドリュー・ヘイ。
主人公は心に葛藤を抱えた2人のゲイの青年です。そして、描かれるのはたった2日間の出来事。
それは2人の孤独な心が癒されていく、ささやかで美しい瞬間でした。
今回は、そんな運命の2日間を描いた映画『ウィークエンド』を紹介します。
映画『ウィークエンド』の作品情報
【公開】
2019年(イギリス映画)
【原題】
Weekend
【監督】
アンドリュー・ヘイ
【キャスト】
トム・カレン クリス・ニュー、ジョナサン・レース、ローラ・フリーマン
【作品概要】
『さざなみ』(2016)『荒野にて』(2019)のアンドリュー・ヘイ監督による、ゲイ2人のある週末を描いたラブストーリー。
ゲイのリアルな葛藤と心の交流を描いた本作には批評家から多くの好評価を受けました。
ロンドン映画批評家協会賞をはじめ、世界中の映画祭で数多くの賞を受賞。イギリスでの公開から8年越しに、待望の日本公開を迎えました。
映画『ウィークエンド』のあらすじとネタバレ
イギリスのノッティンガム。ある金曜日。
プールで監視員として働くラッセルは友人が開くパーティに参加しました。
パーティでは、どこか口数が少ないラッセル。その後にしたラッセルは、一夜の相手を探しにクラブに向かいました。
ラッセルが、クラブで出会ったのはアーティストのグレン。バーを後にした2人は、ラッセルの家で一夜を共にします。
土曜日。目覚めたグレンはラッセルに昨晩の出来事の詳細を話すよう促します。
アート作品の一貫として、その語りを録音するためでした。それをためらうラッセル。
そのラッセルの姿から、グレンはラッセルの中にある葛藤を感じ取ります。
どこかラッセルに惹かれるグレン。そして、お互いの携帯電話の番号を交換し、ラッセルの自宅を後にしたグレン。
グレンの帰宅後、仕事に向かうラッセル。彼は同僚との休憩中でも、どこか口数が少なく上の空。
そんな中、グレンから一通のメールが届きます。それは、仕事の後に会おうという誘いでした。
朝以来に再開した2人は、ラッセルの家に向かい始めました。道中2人は互いのことを話し、自分のキャリアや過去についてを語ります。
そして、ラッセルは「自分には両親がいなく、他のゲイのようにカミングアウトを経験したことがない」と心の葛藤を明かします。
このことが原因でラッセルは自分に自信を持てずに、周囲の目線を気にしてばかりいたのでした。
心の距離を縮め始める2人。ラッセルの家に戻った2人は、再度、愛をかわし合います。
そんな中、グレンはラッセルにあることを告げます。
映画『ウィークエンド』の感想と評価
リアルなゲイの姿
映画『ウィークエンド』で描かれるゲイの姿はとてもリアルでした。現代社会でLGBTQが抱える葛藤は、より複雑になっています。
世間での理解が進んだとしても、なくならない彼らへの差別の目線。職場での雑談に加わるのでさえ難しいということ。ゲイである自分を受け入れることの難しさ。また、ゲイ同士の間でも生じる温度差。
そのことは、グレンの「マッチングアプリと脱毛にしか興味がないやつばかりだ」という台詞が物語っていました。
そんな、他のLGBTQ映画では描かれてこなかったリアルな葛藤が『ウィークエンド』では描かれています。
この映画では、大きな出来事は起こりません。描かれるのは2日のささやかな瞬間です。
そんな日常こそ、複雑な現代社会を生きるゲイ特有の葛藤が数多く見え隠れするのです。
『ウィークエンド』が、それ以降の映画でのゲイの描かれ方を変えたという批評家からの評価にも納得です。
かけがえのない瞬間の切り取り
人と人が心を通わせること、それがいかに美しく尊いことなのか。静寂に包まれた無機質なアパートで交わされる心の交流は、とても美しく温かに描かれます。
誰もが一度は経験するであろう、自身を大きく変えるような運命的な出会い。永遠に続くことはない、ほんの一瞬の時間の儚さ。
心を通わせるに連れ、徐々に部屋に満ちる慈しみ。
自身がゲイであることを公言するアンドリュー・ヘイは、そんな瞬間を儚くも温かく切り取っています。
また、窮屈なパーティでのシーンに続いて描かれる遊園地でのデートの場面では、きらめくような美しさでした。
ゲイであるかに関わらず、人と人が心を通わせる普遍的な美しさが存分に伝わってくることでしょう。
まとめ
今回は『さざなみ』『荒野にて』のアンドリュー・ヘイ監督による『ウィークエンド』紹介しました。
そこには、人が人と心を通わせあうことの美しさが描かれていました。
それは“ゲイならでは”のものではなく、誰もが経験したことがあるかもしれない瞬間です。
その、きらめくような瞬間を真空パックしたかのような美しい映画が『ウィークエンド』です。
また、そこで描かれるラッセルとグレンの姿は現代的でリアルな姿でした。
LGBTQへの理解が進んでいるとしても、自分を受け入れることへの葛藤、なくならない差別意識、ゲイの中でも温度差があることが観客に示唆されています。
本作がこの後のLGBTQ映画に大きな影響を与えたということも十分納得できます。