映画『ライフ・オン・ザ・ロングボード 2nd Wave』は2019年5月31日(金)より、
新宿バルト9ほか全国ロードショー中!
2005年に公開され、中高年サーフィンブームを日本国内に巻き起こした『ライフ・オン・ザ・ロングボード』。
その世界観やマインドを引き継いだ続編的作品こそが、喜多一郎監督の映画『ライフ・オン・ザ・ロングボード 2nd Wave』です。
今回、2019年5月31日(金)からの劇場公開を記念して、喜多一郎監督にインタビューを行いました。
本作の制作を決意したきっかけや前作『ライフ・オン・ザ・ロングボード』にまつわるエピソード、映画というエンタメが持つ力など、貴重なお話を伺いました。
CONTENTS
種子島の人々の想いに応えて
──『ライフ・オン・ザ・ロングボード 2nd Wave』の制作経緯を詳しくお聞かせください。
喜多一郎監督(以下、喜多):3年ほど前、「15年前に『ライフ・オン・ザ・ロングボード』を撮った種子島で、その続編的作品を作ってもらえないか」というお話を種子島の方たちからいただいたんです。
2005年に公開された前作『ライフ・オン・ザ・ロングボード』の影響から、サーフィンをするために毎年多くの方が種子島に訪れていることは以前から聞いてました。しかし前作の時点で物語が完結していたため、続編を見出すのは難しいという認識を持っていて、実現できるのだろうかと悩んでいました。
そうした中で、『2nd Wave』制作の決め手となる出来事があったんです。
2017年に岡山で『桃とキジ』の撮影をしたんですが、その撮影期間中、種子島の方たちが陣中見舞いのためにわざわざ来てくださったんです。種子島の名産品も沢山持ってきてくれて、撮影の応援をしてくれたんです。
その姿を見た時に、「これはやっぱり撮らなくてはいけないな」と感じました。
物語を全て繋げようとするのではなく、世界観やマインドだけを引き継ぎ、同じサーフィン映画として描く。明確な続編とは呼べないかもしれないですが、そういう形で新しい物語を描けばいいと思い至り、脚本の執筆を開始しました。
僕は「人間再生」というテーマに基づき、これまでに12本の映画を制作してきました。そのテーマさえ引き継ぐことができればという意識で書き進めた結果、本作は『ライフ・オン・ザ・ロングボード』とは大きく異なる物語になりました。
しかしながら、前作を観てくださった方にも観ていない方にも楽しんでもらえる作品になっていると思います。
挫折をリカバリーする底力
──『2nd Wave』のみならず、喜多監督は「人間再生」というテーマのもと多くの映画を制作されてきました。そのテーマを掲げられた理由は何でしょう。
喜多:僕は映画のみならず、テレビ・音楽と様々な制作の仕事をしてきたんですが、エンターテインメントの本質はやはり人間を元気にすることだと考えています。
映画監督になったのは今から15年以上前なんですが、当時はちょうど団塊世代が仕事をリタイアし始めた頃だったんです。
戦後の日本の高度経済成長を支えてきた、いわゆる「企業戦士」であった人々がいざリタイアしてみると、仕事ばかりしてきたせいで家族とも距離があり、趣味らしい趣味もない。何もすることがないんです。
そのような人々を街中で見かけると、どうも元気そうに見えない。みな下を向いているように感じる。かつては「企業戦士」として戦ってきたのだから、まだまだ底力は残っているはずなのに。
当時は、迷いの多い時代だったんです。上だけを向いて仕事を頑張ってきた人々がリタイアという避けられない挫折によって迷いが生じ、社会自体にも迷いが生じつつあった時代。新しい目標や夢を見つけにくい、掲げにくい時代だと感じられたんです。
人間って、何かを真剣にやればやるほど必ず大きな挫折を味わうじゃないですか。挫折を味わったことのない人間なんて存在しない。
僕もまた、若い頃にある夢を諦めています。それは、プロのバンドミュージシャンになるという夢です。
大学へ入学する以前、僕はその夢を叶えるために渡米しました。ところが、アメリカに到着した初日に、デクスター・ゴードンとジャッキー・マクリーンが演奏した「ザ・ミーティング」という伝説的なジャズライブを偶然観てしまった。その瞬間、「100万年やっても追いつかない」と感じてしまいミュージシャンの道を諦めてしまった。
けれど、その後見学したとあるレコーディングにて、音楽プロデューサーという職業を知った。その時に、ミュージシャンではなく、音楽プロデューサーになることを決意したんです。
人間の真の力は、挫折した時のリカバリー力なんです。リカバリー力があれば、どんな挫折を味わっても次へと進める。リカバリー力こそが人間の底力そのものだと思えたんです。
作品を通じて、人生に迷っている人や悩んでいる人、目標や夢を見つけられない人に新しい生きがいを見つけるヒントを与えたい。それが「人間再生」というテーマであり、映画を作り始めた理由でもあります。
映画は心に突き刺さる
──その「人間再生」というテーマを描く方法として、映画というエンターテインメントを選んだのは何故でしょうか。
喜多:エンターテインメントにはそれぞれ特質があり、長所・短所も存在します。ですが映画制作を始めてから、映画の人々の心への突き刺さり方は他のエンターテインメントよりも深いのではないかとより実感するようになったんです。
映画の凄い所は、たとえ100年前の作品を現在観たとしても何か得るものがあり、それによって明日からの人生が変わってしまう人がいる所なんです。
そして、そのような他者の人生を変える力があるのだとしたら、いい加減なものは作れない。自分の中で成熟したものを映画にしなければ、その責任を果たすことはできません。
何より、映画制作って楽しいんです。僕にとって映画制作による達成感は、他のエンターテインメント作品の制作では味わえないものなんです。
人生を動かした『ライフ・オン・ザ・ロングボード』
──『2nd Wave』の前作『ライフ・オン・ザ・ロングボード』は、まさに鑑賞された方の人生を変える映画だったわけですね。
喜多:『ライフ・オン・ザ・ロングボード』について、以前、とある女性からお手紙をいただいたんです。
その方のお父さんは、かつて事業で失敗したことから完全に生きがいを失い、自殺未遂までしたとのことでした。そして、毎日元気のない父親をどう元気づけるべきかと彼女は悩んでいたそうです。
そんな時、彼女は偶然レンタルビデオ屋で『ライフ・オン・ザ・ロングボード』を見つけた。サーフィンをやっていたお父さんにはもってこいだと感じた彼女は、映画を借りて彼に観せたんだそうです。するとお父さんは元気を取り戻してくれて、事業を再開することができたと。
また映画公開から10年以上経った頃、とある雑誌で『ライフ・オン・ザ・ロングボード』が大きく取り上げられたんです。その記事の内容もまた、『ライフ・オン・ザ・ロングボード』を観たことで再生することができたオジさんたちの話でした。
それを読んだ時、公開から10年以上経っていても映画は誰かの人生を動かしていることを改めて気づかされ、映画監督になって本当に良かったと感じました。そして、その続編的作品である『2nd Wave』という作品も、そのような映画になれたら良いなと思っています。
かつて観た映画からの影響
──喜多監督はこれまでにどのような作品を観られてきましたか。また、それらの作品からどのような影響を受けていますか。
喜多:子どもの頃は、社会派映画が割と好きでした。特に小学校5年生の時にテレビの洋画劇場で見た、シドニー・ルメット監督の『十二人の怒れる男』は感想文を書いたこともあるぐらいです。
また、元々ミュージシャンとして活動していたこともあって、アメリカン・ニュー・シネマが大好きなんです。特に、ロックとヒッピー音楽に彩られた「ラブ&ピース」の世界を気に入っていました。
アメリカン・ニュー・シネマって、いわば「映画と音楽との融合」だったわけじゃないですか。「映画あっての音楽」「音楽あっての映画」という時代が好きだったんです。
その反動なのかは分かりませんが、僕の映画はとてもおとなしいんです。挑戦的なことはこの年齢になるまでに殆ど乗り越えてしまったからだと自身では捉えていますが、「ラブ&ピース」の世界だけが異なる形で残ってしまった。それが現在の自身の作風なのかもしれません。
人生の価値を見出すために
──これから本作を観られる方へのメッセージをお願いたします。
喜多:吉沢悠さんが演じた本作の主人公・光太郎はとても不器用な性格で、他者とコミュニケーションをとるのがとても苦手な人間です。本作は、居場所を失った光太郎が、様々な出会いを通じて再び居場所を見つけ出そうとする物語なんです。
僕にとって人生の価値とは、出会いの「質」だと思っています。人生の中でどれだけの人々と出会って、その出会いを自分のチャンスに変えられるのかが人生の価値だと考えているんです。
それは明日を生きるためのヒントの一つでもあり、本作を観てそのことに気づき、元気になってもらえたら一番嬉しいです。
喜多一郎監督のプロフィール
1956年生まれ、東京都出身。日本大学藝術学部映画科卒。
映画監督、脚本家、プロデューサー、作家として幅広い分野で活動。映画監督としては「人間再生」をテーマに掲げ、オリジナル脚本での制作を続けています。
本作の前作にあたる『ライフ・オン・ザ・ロングボード』(2005)は2018年に亡くなった大杉漣が主演を務め、中高年サーフィンブームを巻き起こしました。
映画のみならずテレビ番組・CMなど1000本以上の映像作品を手がけ、音楽プロデューサーとしても1985年から1990年代にかけて数多くのヒット曲を生み出しました。
インタビュー/河合のび
撮影/出町光識
映画『ライフ・オン・ザ・ロングボード 2nd Wave』の作品情報
【公開】
2019年5月31日(日本映画)
【監督】
喜多一郎
【脚本】
喜多一郎、金杉弘子
【キャスト】
吉沢悠、馬場ふみか、香里奈、立石ケン、森高愛、大方斐紗子、泉谷しげる勝野洋、榎木孝明(特別出演)、竹中直人
【作品概要】
サーファーとして一流の腕を持ちながらもその不器用な性格ゆえに行き場を失ってしまった主人公が、サーフィンや様々な出会いを通じて再び自身の居場所を見出そうとする姿を描いたヒューマンドラマ。
大杉漣が主演を務め、定年後にサーフィンに目覚めたことで種子島に移住した中年男性の第二の人生を描いた『ライフ・オン・ザ・ロングボード』の続編的作品であり、前作に引き続き喜多一郎監督がメガホンを取りました。
キャストには『エキストランド』の吉沢悠、『黒い暴動』の馬場ふみかをはじめ、香里奈、泉谷しげる、大方斐紗子、竹中直人らが出演しています。
映画『ライフ・オン・ザ・ロングボード 2nd Wave』のあらすじ
梅原光太郎は(吉沢悠)は一流のサーファーでしたが、良い波を見ると仕事も約束も放り出してしまうその熱中ぶりが災いし、湘南でその日暮らしを送っていました。
彼女にも愛想を尽かされ、住んでいたアパートすら追い出されてしまった光太郎は、かつて自身を愛弟子のように可愛がってくれていたサーファー銀二(勝野洋)を頼って鹿児島県・種子島に向かいます。
光太郎はやがて銀二が営んでいたサーフショップを訪れますが、彼がすでに亡くなったことを知らされます。そして銀二の娘であり彼の代わりに店を切り盛りしている美夏(馬場ふみか)からは、邪険に追い払われてしまいます。
いよいよ行き場を失いながらも、美夏に頼み込んで鉄浜海岸まで車で送ってもらうことになった光太郎。そこには、サーファーにとって最高の波が日々訪れる、美しい海が広がっていました…。