山口幸彦・田野辺尚人インタビュ-「夏のホラー秘宝まつり2019」について語る
2019年8月23日(金)よりキネカ大森で開催される、毎年恒例となった「夏のホラー秘宝まつり2019」。
新旧、洋画・邦画のホラー映画を劇場で上映し、舞台挨拶やトークショーのイベントで、ファンの熱い注目を集めています。
「夏のホラー秘宝まつり2019」で上映される、『怪談新耳袋Gメン 孤島編』に出演の山口幸彦プロデューサーと、「別冊映画秘宝」の田野辺尚人編集長。
おふたりに「夏のホラー秘宝まつり2019」から、日本のホラーをとりまく環境の変化など、お話を伺いました。
おふたりが熱い目を注ぐ、日本のホラー映像業界の現状に迫ります。
【連載コラム】「夏のホラー秘宝まつり:完全絶叫2019」記事一覧はこちら
CONTENTS
子どもの頃に再確認したホラーへの愛情
山口幸彦(「新怪談耳袋Gメン」シリーズのプロデューサー)
──ホラーに興味を抱くようになった原点をお聞かせください。
山口幸彦(以下、山口):子どものころからずっと円谷プロや東宝の怪獣、ホラー映画やオカルト的な色んなものが大好きで、何かこの世ならざるものに対しての憧れが相当強かったので、そういうものが原点になっています。
幼稚園か小学生の頃にジャガーバックスの「世界妖怪図鑑」とかを親に「買って、買って」とねだって、親に「あんた絶対怖がるでしょう!」と言われて、それでも無理やり買ってもらったんです。
でも家に帰ってその本を部屋に置くと、やっぱり禍々しいんですね(笑)。「やっぱりヤダ、寝られない」と言ったので、母親が近くのゴミ箱に捨ててきたんです。
するとやっぱり惜しくなって親に言ったら「ふざけるな」という話になり、夜ひとりで外に出てゴミ捨て場まで行って、取って帰って来たことがありました(笑)。
それを取って帰って来た事によって、やっぱり怖いけど好きなんだな、というのを再確認して、それが今だに続いている気がします。
“ホラー・ユニバース”を作りたい
山口:そしてホラーがやっぱり好きなので「夏のホラー秘宝まつり」や「シッチェス映画祭 ファンタスティックセレクション」で新作の邦画洋画をやったりとか、旧作の洋画ホラーをブルーレイで出したり、自分で作ったホラー作品を、海外で上映したり、好きなホラーで1年中、仕事していきたいのが僕の野望です(笑)。
新旧、洋画・邦画に関係なく、すべてのホラー映画で、マーベル・シネマテック・ユニバースのような“ホラー・ユニバース”を作りたいです(笑)。
その中に「新耳袋Gメン」や「ホラー秘宝まつり」もあり、もっとこれを見たら凄いなという世界地図みたいなものが、どこかで作れたら嬉しいです。
『死霊のはらわた』と『霊的ボリシェヴィキ』
田野辺尚人(「別冊映画秘宝」編集長)
──影響を受けたホラー映画は何ですか?
山口:今日は『悪魔のいけにえ』のTシャツを着ていますが、やっぱり『死霊のはらわた』ですね。
それ以前にも色んなものを見ていましたが、一番多感な思春期のときに自分の性欲とか、いろんなもの含めて『死霊のはらわた』にブチ当たったんです。
僕が高校生くらいのときに巻き起こったスプラッター映画ブームの渦中の象徴的な作品で、劇場で観て物凄い衝撃を受けましたし、そこがずっとあるので『死霊のはらわた』と様々な作品を比べています。
田野辺尚人(以下、田野辺):僕は仕事柄、ことさらホラー映画については常に新作を追いかけています。ここ最近ですと『チャイルド・プレイ』のリメイク版や『ハッピー・デス・ディ 2U』などがヒットしている。
今までマニアックなジャンルと思われていた海外のホラー映画が、『死霊館』や『IT/イット “それ”が見えたら、終わり』を若い観客が指示した事で若返り、新しいファン層が生まれていると思います。
そんな変化の個人的に絶対に揺るがない怖い映画は、高橋洋監督の『霊的ボリシェヴィキ』
僕らも『新耳袋殴り込み』で、心霊スポットでコックリさんをやったり、原作になる『新耳袋』の朗読をやったり、ちょっと『霊的ボリシェヴィキ』みたいなアプローチをしたことがありました。
でも『霊的ボリシェヴィキ』は、それをはるかに越えて、「映画」として突き抜けていて、見た瞬間に白旗上げました。やっぱり高橋洋監督は凄い。
ですから『霊的ボリシェヴィキ』のテンションと怖さを、新シリーズの『Gメン』の監督たちがいかに意識し、取り込んでいくかが今後の課題だと思います。
参考映像:高橋洋監督の『霊的ボリシェヴィキ』(2018)
──今回の「新耳袋Gメン」の霊を呼び出す実験で、昔のホラー映画を想起しましたが『霊的ボリシェヴィキ』なんですね。
田野辺:それはわかりませんが、今後の展開にきっと影響があると思います。2018年に佐藤周監督が、とにかく現場で何かを起こしたい、と言ったときに映画の中で、いわゆるブラックボックスとして“謎の箱”を用意しました。
それまでは市松人形や藁人形をぞんざいに扱ったり、滅茶苦茶やっていましたが、あの“謎の箱”がそのうち、いろんな効果を生み出してくるんじゃないかと期待しています。
山口:『怪談新耳袋Gメン 孤島編』では“謎の箱”をあんまり使っていませんが(笑)。
心霊モノ作品の製作環境の変化
──実際の肝試し集団に作品の中で遭遇したりもしていますが、そういった場所に行く人へのメッセージ、注意や楽しみ方などアドバイスはありますか?
山口:先程も言ったように、僕たちは女人禁制で男だけで行きます。そういう意味では霊に対してストイックなつもりです。
よく肝試しの集団に遭いますが、大抵若い人たちで、男だけの場合もあるんですけど、女の子を連れているんですね(笑)。
「チキショー、何やってるんだ俺たちは」という思いを引きずりながら、心霊スポットにひとりで行かなければならないのはキツイんです。ぜひ女の子を連れて行って、その後セックスでもして盛り上がって欲しい(笑)。
田野辺:心霊スポットに行く場合、今はコンプライアンスの問題はじめ、注意しなくてはいけない問題がすごく増えました。
最終的には商品化されるわけだから、撮影が大丈夫な場所なのか、現場プロデューサーが、かなり下調べをしています。
それが最近の怪談ブームによって、Youtuberが容易に心霊スポットに行って、気軽に映像を配信したり、騒いだりして、地元住民の間では、良からぬ噂が広がり深刻な被害が出ている。
こういうものを作っている我々が言うのも何なんですが、地元の人にとってはデリケートな問題だったりするんです。
山口:建物の中、廃墟なども不法侵入になるのでほぼ入れなくなりました。
田野辺:あんまりいい話ではないかもしれませんが、我々がこのシリーズを始めた頃は、まだ滅茶苦茶をやって、それが表現として許された時代でした。それがここ数年で、かなり縛りが厳しくなってきましたね。
田野辺:世の中が神経質になっている。我々がこのシリーズを始めた頃は、まだ滅茶苦茶をやって、笑って観ることができた時代でした。それがここ数年で、縛りが厳しくなってきた。『殴り込み!』シリーズと『Gメン』シリーズ、最大の違いはこの点にあると思う。
「夏のホラー秘宝まつり2019」の見どころ
──「夏のホラー秘宝まつり2019」の見どころは?
山口:「夏のホラー秘宝まつり」は、新旧、洋画・邦画と、あらゆるホラーをやっています。色んなタイプのホラーがあり、“ホラーのデパートメント”のようなイメージです。
幽霊だけがホラーではないし、殺人鬼だけがホラーじゃない、怪物だけがホラーじゃない。全部いろんなものを合わせて、それがホラーという一つの文化だと思うので、そういったものを味わって欲しいです。
田野辺:小中兄弟の『VAMP』(小中和哉監督・小中千昭脚本作品)は、さすが小中千昭さんといった、見事な吸血鬼エンタテインメントになっています。
和哉さんと子どものころから、ずっと映画を作っていて、小中千昭さんが今まで進めてきた、日本のホラー映画の表現更新を、『VAMP』でまた大きく進めています。
それから佐藤周監督の『シオリノインム』は、2分ごとにエロとホラーが襲って来るというコンセプトらしいですが、いよいよもって本格的なドラマのホラー映画に挑戦しているというところで、これは要注目です。
それと、佐々木勝巳監督の『星に願いを』ですね。この作品は、日本版『ファイトクラブ』と言ってもいい。
西村喜廣監督の『東京残酷警察』、井口昇監督の『片腕マシンガール』など和製エクストリーム・バイオレンスの系譜に連なるものです。非常にパワフルな作品です。
以上の3本は必見です。
山口:そして「シッチェス映画祭」も宜しくお願いします!
インタビュー/ 増田健
構成/ 大窪晶
写真/ 出町光識
山口幸彦(やまぐちゆきひこ)プロフィール
1968年生まれ。新潟県出身。
1991年キングレコード入社後、プロデューサーとして活躍。代表作のTVドラマ『怪談新耳袋』は映画化され、スピンオフ作品「怪談新耳袋 殴り込み!」「怪談新耳袋Gメン」シリーズを生み出します。
数多くのインディーズホラー映画の製作を手がけ、積極的に海外に作品を紹介している、日本のホラー映画製作の第一人者。
田野辺尚人(たのべなおひと)プロフィール
神奈川県出身。
1995年、洋泉社で町山智浩と共に「映画秘宝」創刊にかかわる。その後「映画秘宝」の2代目編集長を務め、現在は別冊映画秘宝編集長。
日本映画界の新しい才能に注目し、発掘・紹介している人物。
映画祭『夏のホラー秘宝まつり2019』開催概要
【映画祭タイトル】
『夏のホラー秘宝まつり2019』
【場所】
東京:キネカ大森 8月23日(金)~9月5日(木)
名古屋:シネマスコーレ 8月24日(土)~9月6日(金)
大阪:シアターセブン 8月24日(土)~9月6日(金)
【料金(キネカ大森)】
新作:1500円
※新作…『VAMP』『怪談新耳袋Gメン 孤島編』『BEYOND BLOOD』『シオリノインム』『残念なアイドルはゾンビメイクがよく似合う』『星に願いを』
旧作:名画座料金
※旧作(3週目に名画座上映)…『ザ・クレイジーズ』『ドリラー・キラー』
映画『怪談新耳袋Gメン 孤島編』の作品情報
【日本公開】
2019年8月23日(金)(日本映画)
【監督】
谷口恒平
【出演】
田野辺尚人、後藤剛、今宮健太、谷口恒平、山口幸彦
【作品概要】
“怪談新耳袋Gメン”と呼ばれるおじさんたちが、心霊スポットに体当たりの殴り込みをかける、昨年の「夏のホラー秘宝まつり2018」で“ホラー総選挙”堂々1位の、人気シリーズ最新作。今年は『怪談新耳袋Gメン 密林編』に続いて製作、劇場公開される期待の作品です。
今回は絶海の孤島にある、逃げ場なしの心霊スポットに突撃、“Gメン”のメンバーを精神的にも肉体的にも追い込みます。まさに存続の危機に直面する“Gメン”たちは、何を目撃・体験するのか。
キネカ大森、名古屋シネマスコーレ、大阪シアターセブンで開催の「夏のホラー秘宝まつり2019」上映作品。
『怪談新耳袋Gメン 孤島編』は2019年8月23日(金)よりキネカ大森で、「夏のホラー秘宝まつり2019」上映作品として公開