映画『グッバイ・クルエル・ワールド』は2022年9月9日(金)よりロードショー!
ヤクザ組織の資金洗浄現場を狙った一夜限りの強盗団。そのあとは普通の生活に戻るはずだった……。映画『グッバイ・クルエル・ワールド』は、強盗に関わった人々がヤクザ組織や警察に追われ、立ち向かう姿を描くクライムアクション作品です。
主演は『ドライブ・マイ・カー』(2021)が記憶に新しい西島秀俊。家族との平穏な暮らしを望む元ヤクザの主人公を演じています。
このたびの劇場公開を記念し、本作をはじめ意欲的な作品に取り組み続ける大森立嗣監督にインタビューを敢行。
本作の企画のきっかけやテーマ、キャスト陣への想い、映像における演出のこだわりなどについて語っていただきました。
CONTENTS
好きな要素を盛り込んだ映画を作りたい
──大森監督にとって初のクライムアクション映画となる本作は、どのような経緯で企画が始まったのでしょうか。
大森立嗣監督(以下、大森):プロデューサーの甲斐真樹さんとは長い付き合いなのですが、ある日食事をしていた時に「次に撮る映画」の話題になりました。「俺たちはやっぱり、男っぽい映画が好きなんだよね」「こういう男を映画で観たい」「こういう音楽を入れたらカッコいいよね」と盛り上がったのですが、そこからトントン拍子に話が進んでいったのです。
脚本の高田亮くんとは『さよなら渓谷』を作った後しばらく会っていなかったのですが、少し前に再会していたこともあり、本作の企画を考えていた時に彼のことが頭の片隅に浮かび、「高田くんとまたやってみるのも楽しそうだな」と思ったのです。オリジナル作品だから一人で脚本を書くのは大変ですしね(笑)。
クライムアクションというやったことがないジャンル、初めての銃撃戦や爆破シーンの撮影が楽しみな一方で、本作のテーマを高田くんと脚本を練る中で考えていきました。そして、「一般人ではない、しかし“ヤクザ”と呼ばれる者でもない人たち」というカテゴライズしにくい人々の居場所がないという問題が浮かび上がってきました。
本作でいえば、西島秀俊さんが演じる元ヤクザや斎藤工くんが演じる半グレ、宮沢氷魚くんと玉城ティナさんが演じる半グレにもなれない人間もそうです。玉城さんが演じた美流は作中で「私たちは人数に入っていないの?」というセリフを口にしますが、カテゴライズしにくい人々がセーフティネットからこぼれてしまうことが社会的な問題にもなっています。
それぞれがいろんな想いを抱いて生きているけれど、共通するのはみんな居場所がないということ。その共通点をもとに、様々な世代の群像劇として描くことにしました。
本作のタイトルは甲斐さんがつけてくれたのですが、エルヴィス・コステロに同名のアルバムがあり、音楽がすごく好きな甲斐さんならではのネーミングだと思っています。また三浦友和さんもコメントで「Cruel World」=「狂えるワールド」という面白い解釈をしてくれていて、思わず感心してしまいました。
役者としての「いい表情」をみられる
──元ヤクザの主人公・安西を演じられた西島秀俊さんとは初めてのタッグですね。
大森:安西は、本作のストーリーにおいて「背負わなければいけないもの」が一番多くある役どころです。西島さん自身もまた、現在の日本の映画界である種の「背負っているもの」がある。安西のような役をちゃんとできる役者さんだと思いお願いしましたし、本人も「ぜひやりたい」と応えてくれました。
西島さんとは年齢が近く、“映画”というモノを作るという点でも近い場所にはいたけれど、なかなか出会う機会はなかった。衣装合わせの前に一度お目にかかって、軽くお酒を飲みつつ、いろんな映画の話をたくさんしました。
実は役に関しては衣装をどうするか程度で「安西がどういう人物か」といった話し合いはほとんどしていません。現場では西島さんが作ってきてくれた安西を、そのまま演じてもらいました。
作中では安西が、片岡礼子さん演じる妻から制止されても止められず、一線を越えてしまう場面があります。観ていてつらい場面ですが、西島さんは役者としていい表情をしていました。
西島さんは映画を愛している方なので、作品に真摯に向かっているのを感じました。俳優としての引き出しもたくさん持っている、頭がいい人です。「大森組は俳優にキャラクターを演じさせるだけでなく、人間の存在の揺らいでいる部分を撮ろうとしているのを現場に来て感じた」とおっしゃってくださり、こちらの想いが伝わっていて本当によかったです。
──強盗団のメンバーの一人・萩原を演じた斎藤工さんの、作中で見せる「ためらいのない狂気」の芝居も見事でした。
大森:工くんは綺麗な顔をしているし、女性に人気もある。映画俳優として、本人がそれを意識しているのかどうかわからないけれど、本当に映画が好きで、現場が楽しいのでしょうね。
今回の現場に入った瞬間にも、少年が純粋に遊んでいるかのように、いろいろなアイディアを出してくれました。一緒にモノづくりをしていて楽しかったです。
萩原は多くの刺青を体に刻んでいますが、それも工くんからの提案です。時間がかかるから大変だったと思いますが、朝早く来て準備してくれました。宝石店を襲う場面は工具を使っていましたが、事前にちゃんと使い方の練習をしてくれていました。
「新しさ」と「心地よさ」を心がける
──本作のスタイリッシュな映像は、クエンティン・タランティーノ監督の作品を彷彿させつつも、そこには「斬新さ」が確かにあると感じられました。
大森:タランティーノの作品は好きですが、彼は天才なので、下手に真似をすると失敗してしまう。「タランティーノを意識しない」ということを意識していました(笑)。
また今回の映画では、ボビー・ウーマックの曲を使用させてもらうことができたので、オープニングでも「What Is This」を使っています。映像とうまくマッチングさせるようにし、その世界観に沿って撮りました。
ただ、どこかで見たような映像では安っぽくみえてしまう。わかりやすい映像に乗っけすぎず、ちゃんと「新しさ」を、なおかつ「心地よさ」をみせる必要がある。編集を含めて、その辺りは気を付けました。
本作に限ったことではありませんが、映画では「手」に寄って撮っています。手は意外に雄弁で、意識しなくても勝手に感情が出てくるので、嘘がつきにくい。そこに手を撮ることの面白さがあると感じているのです。
家族愛・純愛・犯罪・友情が入り乱れ、フォード・サンダーバードで強盗し、ソウルミュージックが鳴り響く激アツ作品です。アクションや銃撃戦、爆発もありますが、映画自体は「居場所を見つけることの難しさ」というテーマに向かって凝縮されていきます。楽しんでご覧いただければと思います。
インタビュー/ほりきみき
大森立嗣監督プロフィール
1970年生まれ、東京都出身。2001年、プロデュース・出演を務めた『波』が第31回ロッテルダム映画祭最優秀アジア映画賞“NETPAC AWARD”を受賞。2005年には監督デビュー作『ゲルマニウムの夜』が、第59回ロカルノ国際映画祭はじめ多くの映画祭に正式出品され、国内外で高く評価される。
2作目の『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(2010)は第51回日本映画監督協会新人賞を受賞し、第60回ベルリン国際映画祭フォーラム部門、第34回香港国際映画祭に正式出品される。続く『さよなら渓谷』(2013)もモスクワ国際映画祭に出品され、日本映画としては48年ぶりに審査員特別賞を受賞。また同作と『ぼっちゃん』(2013)により第56回ブルーリボン賞監督賞を受賞した。
近年では『日日是好日』(2018)で第43回報知映画賞監督賞を、『MOTHER マザー』(2020)では第75回毎日映画コンクール日本映画大賞を受賞。『星の子』(2021)では第30回日本映画批評家大賞作品賞を受賞した。
その他の監督作に『まほろ駅前多田便利軒』(2011)、『まほろ駅前狂騒曲』(2014)、『セトウツミ』(2016)、『光』(2017)、「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』(2018)、『タロウのバカ』(2019)などがある。
映画『グッバイ・クルエル・ワールド』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督】
⼤森立嗣
【脚本】
⾼⽥亮
【キャスト】
⻄島秀俊、斎藤⼯、宮沢氷⿂、⽟城ティナ、宮川⼤輔、⼤森南朋、三浦友和、奥野瑛太、片岡礼子、螢雪次朗、モロ師岡、前田旺志郎、若林時英、⻘木柚、奥田瑛二、鶴見辰吾
【作品概要】
『さよなら渓谷』でタッグを組んだ⼤森立嗣監督と脚本家の高田亮のオリジナル作品。
主演は、映画『ドライブ・マイ・カー』が⽶アカデミー賞で4部⾨にノミネートされ、全⽶映画批評家協会にてアジア圏出身の俳優で初の主演男優賞を受賞した⻄島秀俊。
強盗団のメンバーとして斎藤⼯、⽟城ティナ、宮川⼤輔、三浦友和が出演。またラブホテル従業員役を宮沢氷⿂、刑事役を⼤森南朋が演じる。
映画『グッバイ・クルエル・ワールド』のあらすじ
夜の街へとすべり出す、水色のフォード・サンダーバード。カーステレオから流れるソウルナンバーをBGMに交わされるのは、「お前、びびって逃げんじゃねーぞ」と物騒な会話。
互いに素性を知らない一夜限り結成された強盗団が向かうのは、さびれたラブホテル。片手にピストル、頭に目出し帽、ハートにバイオレンスで、ヤクザ組織の資金洗浄現場を“たたく”のだ。
仕事は大成功、大金を手にそれぞれの人生へと戻っていく……はずだった。
ヤクザ組織、警察、強盗団、家族、政治家……金の匂いに群がるクセ者たち。もはや作戦なんて通用しない。クズ同士の潰し合いが始まる。最後に笑うのは誰だ!
堀木三紀プロフィール
日本映画ペンクラブ会員。2016年より映画テレビ技術協会発行の月刊誌「映画テレビ技術」にて監督インタビューの担当となり、以降映画の世界に足を踏み入れる。
これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、白石和彌、篠原哲雄、本広克行など100人を超える。海外の作品に関してもジョン・ウー、ミカ・カウリスマキ、アグニェシュカ・ホランドなど多数。