映画『ファンシー』はテアトル新宿ほか全国順次公開中!
人気漫画家・山本直樹の短編を原作に、国内外の映画作品にて圧倒的な存在感を放つ名優・永瀬正敏を主演に迎えた廣田正興監督の長編デビュー作『ファンシー』。
時が止まったかのような温泉街で、永瀬演じる元・彫師の“郵便屋”、窪田正孝演じるロマンティストの詩人“ペンギン”、小西桜子演じる詩人のファン“月夜の星”……現実とファンタジーの狭間で揺らめく男女3人の関係性をスリリングに映し出した作品です。
このたび、本作にて対照的な二人の男の間で「少女」から「女」へと艶めかしく変貌を遂げる月夜の星に扮し、体当たりの熱演を披露した小西桜子さんにインタビュー。
本作で演じられた月夜の星への印象や演じるにあたっての思い、そして女優を目指すようになったきっかけや今後の展望など、貴重なお話を伺いました。
CONTENTS
“変わっている”人間であり“変わってゆく”人間
──本作にて小西さんは、「月夜の星」というまさに“ファンシー”な名を冠した役を演じられましたが、脚本を読まれた当初はどのような印象を持たれましたか?
小西桜子(以下、小西):いろいろな意味で“ファンシー”な人物が登場する本作の中でも、月夜の星は一番変わっている存在だと感じています。そもそも「ファンだから」といって初対面のペンギンにいきなり「妻にしてください」と言ってしまう時点で、すごく変わってますよね。
ですがある意味では、彼女が一番人間的なキャラクターなのかもしれません。だからこそ彼女は一番変わっている存在だし、物語を通じて人間的に一番変わってゆく存在なんだと。そういった一面に私自身も共感できましたし、本作を観ていただく方々にも彼女に対して共感できる部分なのかなとも思っています。
呼応し、反応するイメージとしての演技
──月夜の星は対照的な二人の男、幻想と現実の狭間で揺らぎながら、「少女」から「女」へと変貌していきます。その“変貌”を演じるにあたってどのようなことを意識されましたか?
小西:月夜の星は現実逃避のようにペンギンに惹かれている女の子でしたが、郵便屋さんというペンギンと対照的な人間と出会ったことで、だんだんとその心と体が揺らぎ始め、やがて郵便屋さんの方へと近づいていきます。そうした小さな揺らぎが徐々に大きくなってゆく過程を大事にしようと感じました。
人間は目の前にいる他者に呼応して、その接し方も必然的に変わると思うので、自然な感情の変化を敢えてそのままに演じました。何か特別なことを意識していたというよりは、むしろ考え過ぎないようにしていたかもしれません。ペンギンと郵便屋さんの鷹巣、それぞれといる時に浮かび上がる自然な感情を、無理に着色せずに表へ出すようにしていました。
撮影中は永瀬さんと窪田さんがサポートしてくださったこともあり、お二人のお芝居から受けとったさまざまなものを通じて私自身の演技も変わっていったと思います。役柄としても現実としても他者である相手に呼応し、反応するイメージをもって演じ続けました。
──永瀬正敏さん、窪田正孝さんは撮影の中でどのようなサポートを小西さんにされたのでしょうか?
小西:お芝居に関するご相談など、演技面についてお話をさせていただいたという記憶はあまりなくて、どちらかといえば他愛もないお話を現場ではよくしてくださいました。
クランクインしたばかりのころの私は、カメラの前でお芝居することを本当に難しく感じていましたし、演技面だけでなく現場自体にも慣れていなかったので、とても緊張していたんです。ですが、永瀬さんも窪田さんもそんな私をいつも気にかけてくださって、緊張をほぐしてくださいました。
廣田監督が“私自身”を尊重した意味
──実際の撮影の中で一番苦労された場面などはありますか?
小西:ほとんど演技経験がない中での撮影だったので「全てのシーンで苦労した」というのが正直なところですが、一番難しかったのは、序盤に登場する月夜の星がペンギンへの愛を語る場面です。
本作で月夜の星を演じてゆくにあたって、非常に印象的で大事な場面だったため、撮影では何回もリテイクを重ねたことを覚えています。その際には廣田監督からも「まだ気持ちが足りない」「もっと気持ちを込めて、自身の興奮を出すように」と、丁寧に指導していただきました。
ただ、廣田監督からお芝居に対して細かな演出があったわけではないんです。当時の私は演技に関して分からないことばかりでしたし、それを踏まえた上で廣田監督は私自身のことを尊重して演出をつけてくださったんだと思っています。
特に本作で私が演じた月夜の星という人間は、当初は世間知らずで現実逃避として幻想を愛する少女だったけれど、やがて現実に触れてゆく中で多くのことを知り一人の女性へと変わっていきますよね。その姿と、私自身が本作の撮影を経て“女優”になっていく様子を廣田監督は重ねていたのかもしれません。だからこそ、場面の状況に関する説明自体はしてくださいましたが、基本的には私自身の思うままに、月夜の星として感じるままに演じさせてもらえました。
──思うままに、感じるままに自身の役を演じられてゆく中で、女優として、月夜の星として手応えを感じられた場面はありますか?
小西:実際に演じてゆく中でだんだんと月夜の星としての感覚を掴めていったので、そう考えると物語の後半で描かれる入浴の場面が、一番顕著にその感覚が表れているのかもしれません。
撮影自体もスケジュール最終日に行われたこともあり、それまで月夜の星を演じて続けてきて感じられたことを、月夜の星として一番映し出せたかなと思っています。
“反応”をもらえる感覚/映画に関われる感覚
──そもそも、小西さんが「女優になりたい」「女優のお仕事をしたい」と思われたきっかけとはなんでしょうか?
小西:中学生だったころに園子温監督の『ヒミズ』(2012)を観て、その強烈な熱量にとても感動したんです。その出来事を機に映画へとはまり、沢山の作品を観続けてゆくうちに、お芝居や作品づくりに漠然と憧れるようになりました。
明確に「女優になりたい」と思うようになったのは、知り合いの自主制作映画へ出演したことがきっかけですね。当時の私はお芝居の経験もゼロでしたし、主演だったもののほぼセリフもない役でした。ですが初めて映画に関わってみて、女優という仕事の楽しさや面白さはもちろん、色んな方が作品を観て感想をくださることがとても嬉しくて、自然と「女優になりたい」という思いにつながっていきました。
──自身の演技と出演作品をご覧になった方々から感想という“反応”をいただけることが、女優としてのモチベーションとなったわけですね。
小西:そうですね。「作品、面白かったよ」という感想や、「また映画に出てもらいたい」というお言葉などをいただけけるのがとても嬉しかったんです。
「誰かの心に“何か”を残せているんだ」という感覚は特別でしたし、自分自身が大好きな映画に関わって、言葉をもらえる立場になれるということが何よりも新鮮だったんです。
支えを受けての成長と覚悟
──本作において最も人間的に変貌を遂げる役である月夜の星を演じ終えて、小西さんご自身の中で変化はありましたか?
小西:そうですね……本作での私は、撮影している間の記憶があまりないほどに必死でした。クランクイン直後は、「自身の役について色々と考えた上で現場に入り、お芝居をする」という今の自分ならできることもままならなくて、ふわふわとした曖昧な不安に包まれていました。本作での撮影は、永瀬さんや窪田さん、廣田監督など周りの方からのサポートなど通じて、自身のお芝居を引き出してもらえたからこそ乗り越えられたと思っています。
実はクランクアップ当日の撮影中、急に涙がこぼれてしまったことがあって。その日は、それまでずっと撮影をともにしてきた永瀬さんが一足先にクランクアップを迎え、現場にいるキャストが私ひとりになってしまったんです。キャストのみなさんは本当に優しかったですし、慣れないことばかりの私を大変支えてくださったので、不安や哀しさがじんわりと溢れてきたんだと思います。とはいえ、最後までやり切らなくてはいけないので、気持ちを切り替えてとにかく頑張ったことを覚えています。
撮影を終えてから改めて振り返ってみると、一つの作品を通じて現場で悩み、演技や女優としての壁に向き合っていく中で、私自身も皮がむけて成長できたのかなと思います。これまでは「女優のお仕事をしたい」という願望を持ち続けているだけでしたが、本作での経験を通じて、「今後も“女優”として頑張っていく」という未来に対する覚悟が決まった気がします。
──今後は、どのような作品に出演されたいですか?
小西:「人の心を動かす作品」に出たいなと感じています。
映画を観る人間としても、やはり作品の中で描かれる“心動かされる瞬間”が好きですし、その瞬間を感じられるという体験も非常に素敵なものだと思っています。だからこそ、自分が“女優”として誰かの心を感動させられる立場になれたことに、今はとてもやりがいを感じています。
そういった意味では、本作のように愛のある作品、人間としての“温度”について語ろうとする心こもった作品に今後も出演していきたいです。
インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介
構成/三島穂乃佳
小西桜子(こにし・さくらこ)さんのプロフィール
1998年生まれ、埼玉県出身。2017年ごろよりモデル活動を開始し、MVなどにも出演。また自主制作映画『一晩中』にて主演を務めた。
このたび劇場公開を迎えた『ファンシー』にて商業映画初出演。また2020年2月28日に公開の三池崇史監督・窪田正孝主演の映画『初恋』のヒロインに、3000人の中から大抜擢されたことから注目を集めている。
その他の出演作には、第32回東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ部門出品作品『猿楽町で会いましょう』(2020年6月5日公開予定)、グアム国際映画祭入選作品『アストロエイジ』、連続ドラマ『死にたい夜にかぎって』など。
映画『ファンシー』の作品情報
【公開】
2020年2月7日(日本映画)
【原作】
山本直樹
【監督】
廣田正興
【脚本】
今奈良孝行、廣田正興
【キャスト】
永瀬正敏、窪田正孝、小西桜子、深水元基、長谷川朝晴、坂田聡、今奈良孝行、飯島大介、吉岡睦雄、澤真希、阿部英貴、ガンビーノ小林、つぼみ、尚玄、川口貴弘、榊英雄、佐藤江梨子、外波山文明、宇崎竜童、田口トモロヲ
【作品概要】
『あさってDANCE』『BLUE』『ありがとう』などで熱狂的なファンを獲得し、連合赤軍をモデルにした『レッド』では文化庁メディア芸術祭・漫画部門優秀賞を受賞した山本直樹の同名短編を、本作で長編デビューを飾る廣田正興監督が独自の脚色によって映画化。
彫師にして郵便屋の主人公・鷹巣明役を務めるのは、ジム・ジャームッシュ監督の作品などで世界的に活躍する映画俳優の永瀬正敏。そして原作漫画ではペンギンそのものとして描かれている人気の詩人・ペンギンを、映画やドラマに引っ張りだこの実力派俳優・窪田正孝が演じます。
また対照的な二人の男の間で「少女」から「女」へと変貌してゆくヒロイン・月夜の星を、2019年の第72回カンヌ国際映画祭に出品された三池崇監督・窪田正孝主演のラブ・ストーリー『初恋』のヒロイン役にも抜擢された注目の女優・小西桜子が演じています。
さらに田口トモロヲ、宇崎竜童、佐藤江梨子といった個性豊かな俳優たちが脇を固め、泥船のごとき人生を生きる人間たちのおかしみと哀感に満ちた群像ドラマを彩ります。
映画『ファンシー』のあらすじ
とある地方の寂れた温泉街。時が止まったように昭和の面影を色濃く残すこの町で彫師稼業を営む鷹巣明(永瀬正敏)は、昼間は郵便配達員として働き、町外れの白い家に住む若き詩人にファンレターを届けています。
一日中サングラスをかけている謎めいた鷹巣と、ペンギン(窪田正孝)と呼ばれる浮世離れしたポエム作家はなぜかウマが合い、毎日他愛のない雑談を交わしていました。
そんなある日、ペンギンのもとに彼の熱狂的なファンである月夜の星(小西桜子)という女子が「妻になりたい」と押しかけてきます。
折しも地元の町では、ヤクザの抗争など血生臭い出来事が続発。やがてニヒルで粗暴な鷹巣、ロマンティストで性的不能のペンギン、少女のように夢見がちな月夜の星が陥った奇妙な三角関係は、激しく危うげに捻れていくのでした……。
映画『ファンシー』はテアトル新宿ほか全国順次公開中!