2018年の年末からの冬休みに注目必至なのは、第22回日本ホラー小説大賞を受賞した澤村伊智の原作『ぼぎわんが、来る』を映画化した、中島哲也監督のホラー・エンターテイメント作品『来る』。
独特の作風で高い人気を誇る中島哲也監督が、2010年公開の『告白』から8年ぶりに、松たか子に依頼した役柄は、国内随一の霊能力者比嘉琴子。
訳ありなルポライター野崎役を、日本エンタメ映画に欠かせない存在である岡田准一が演じています。
そして琴子の妹である真琴を演じた小松菜奈は『渇き。』(2014)に続き、再び中島組み参戦!
この記事では映画『来る』のラスト結末についての解説と、次回作への思いを紹介していきます。
映画『来る』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
【企画・プロデュース】
川村元気
【原作】
澤村伊智「ぼぎわんが、来る」(角川ホラー文庫)
【脚本・監督】
中島哲也
【キャスト】
岡田准一、黒木華、小松菜奈、松たか子、妻夫木聡、青木崇高、柴田理恵、太賀、志田愛珠、蜷川みほ、伊集院光、石田えり、西川晃啓、松本康太、小澤慎一朗
【作品概要】
代表作『嫌われ松子の一生』『告白』『渇き。』で知られる中島哲也監督が、第22回日本ホラー大賞にて大賞を獲得した澤村伊智の小説『ぼぎわんが、来る』を実写映画化。
実力演技派の岡田准一を主演に迎え、黒木華、小松菜奈、松たか子、妻夫木聡ら注目のキャストで魅せる必見のホラー・エンターテイメント作品。
映画『来る』のあらすじ
物語は、妻夫木聡演じる田原秀樹が、親族の13回忌の法要に恋人の加奈を連れて行く場面から始まります。
秀樹と加奈は結婚をし、幸せな新婚生活を過ごしていました。
そんな時、秀樹の会社に謎の来訪者が現れます。
取り次いだ後輩の高梨に「知紗さんの件で」との伝言を残していきます。
知紗とは妊娠して身ごもった加奈のお腹の子に名づけた名前でした。
何故その名前を知っているのか不可解さに秀樹は戦慄を覚えます。
結局、来訪者が誰かわからぬまま、取り次いだ後輩の高梨が大怪我を負い、まるで呪いをかけられたのような謎の死を遂げます。
それから、約2年の月日が経ち、秀樹の周囲で不可思議な出来事が次々と起こります。
不安にかられた秀樹は、親友で民俗学の准教授の津田を通じて、野崎というルポライターと霊能力者真琴を紹介してもらいました。
真琴は出会ったばかりの秀樹に、妻の加奈と娘の知紗を大切にしてあげて欲しいと告げると、秀樹は憤慨してその場を立ち去ります。
心配を募らせた真琴は、独自に身につけた霊能力で“アレ”と対峙しますが、そのことが却って“アレ”を刺激して、力を与えてしまいます。
怯える秀樹と加奈、そして知紗を前に真琴が手に負えずにいると、謎の“アレ”の存在を察知した国内一の霊媒師で、真琴の姉琴子から連絡が来ました。
やがて、琴子は“アレ”を調伏するために全国から霊能の猛者たちを召集するのですが、その半数を失ってしまい……。
映画『来る』の感想と考察
落語のような結末に岡田准一がいること
映画『来る』の結末で、クリスマス・イブの夜にベンチで過ごした岡田准一演じる野崎と、小松菜奈演じる比嘉真琴。
その真琴の腕のなかには、大好きなオムライスの夢を見て眠っている知紗がいました。
このユニークな中島哲也ワールド全快(全壊・全開…?)のラストシーンは、映画ファンの間でも好みが分かれることでしょう。
この終焉はエンターテイメント映画として、“出来すぎのハッピーエンド”だといえるでしょう。
本作のような終わり方に、ホラー映画ファンの中には、「面白くない」「怖くないギャグ落ちで苦手だ」「“アレ”の存在がオチに出ないのか?」など、不満に思うこともあるかもしれません。
倒したはずの悪霊や化け物がラストショットで再び復活する脅かしは定番であり、次回作への余韻だからです。
本作『来る』の場合は、落語のサゲ(オチ)のようになっていることから、好みは分かれてしまうでしょう。
落語のようなオチに対して、岡田准一演じる野崎は「なんだそれ」と、観客の気持ちを代弁するかのような一言をもらします。
かつて岡田准一は、2005年に放送された宮藤官九郎脚本の大ヒットテレビドラマ『タイガー&ドラゴン』で、落語の天才、谷中竜二役を熱演していました。
このドラマで竜二が恋したヒロインのメグミはキャバ嬢でした。
そして本作『来る』の野崎が気になるヒロインの真琴もまた、キャバ嬢。
外見は異なりますが、どちらも奔放な女性という設定も似ています。
奇しくも本作『来る』で革ジャン姿を見たとき、『タイガー&ドラゴン』の竜二の姿を思い浮かべた人もいるかもしれません。
革ジャンに派手なシャツといい、黒と赤の色の違いはありますが、なんとなく連想させられました。
ホラーエンタテイメントである本作『来る』。娯楽や楽しみ(遊び)であるエンタメ作品ならではの、シネフィル的な「遊び」を期待していたから、そのように見えたのかもしれません。
岡田准一に限らず、今回の作品はそれぞれのキャストが持っている過去作のイメージを観客に想起させることで、エンタメ作品として成立させていたような気がします。
プロデューサー川村元気と中島哲也監督の遊び心を感じさせます。
さて、ドラマ『タイガー&ドラゴン』の第1話「芝浜」で、最初に登場する食べ物は、実は赤いケチャップのかかった「オムライス」です。
ここまで言うと出来過ぎで、コジツケ感がありますが、偶然にしては少しできすぎかなと思います。
「オムライス」というメタファー
そもそも映画『来る』のなかで、オムライスとはどのような意味があるのでしょう。
“アレ”と親しくなった知紗の好きな食べ物はオムライスでした。
オムライスの特徴といえば色彩でしょう。黄色い卵の上にかかったケチャップの赤さが「血」を彷彿させるのはいうまでもありません。
子供の頃、ケチャップを血に見立てて遊んだ経験があるのではないでしょうか。
そして、オムライスの形状が物語に重要な意味や隠喩を持っています。
オムライスの形状は、お山のカタチをしていることです。
「お山」というように「御(お)」を付ける場合は、一般的な「山」のことではなく、「お宮」や「お日さま」のように畏敬の念を持たれてきたものになります。
本作『来る』に登場した「お山」は、秀樹の幼なじみの知紗が連れて行かれた「あちら側の世界(死後の世界)」です。
加奈の娘である知紗は、異界の「アレ」と親しみ、引き寄せる存在でした。その知紗が大好きだというオムライスは、つまり、“お山のある、あちら側の世界”に惹かれていることを表すのでしょう。
ラストシーンでベンチに座った真琴の腕の中で知紗が見ていた夢の中。
♪お~むらいすのくに いってみた~いな♪
あくまで、隠喩の直訳ですが…。
♪あのよに いってみた~いな♪
このように読み取ることができるのではないでしょうか。
ありきたりのホラー映画のオチを作らない、鬼才・中島哲也監督らしい遊びに満ちたラストシーンではないでしょうか。
子どもであろうと人間であることで心の闇の深さを持ち、逆に無邪気な明るさは、いっそう恐ろしさを掻き立てるものです。
さて、古くから大人の都合で口減らしで殺されたり、現代もなお中絶され続けてきたお山の“アレ(子どもたち)”は黙っていられのでしょうか?
まとめ
さて、映画というメディアでは家族を描く際に、血の繋がらない疑似家族を描くことが非常に多く、血の繋がった親族よりも、他人同士の関係の方が強固な結びつきを見せることがあります。
野崎は、交際していた彼女に中絶をさせた引け目がありました。
真琴の場合は、様々な無茶をしたことで、子どもを産むことができなくなった後悔の念があります。
そんな彼らが血の繋がらない孤独な知紗をどのように育てていくのか。
野崎と真琴の2人は、知紗の生みの親である田原秀樹と香奈に代わって、父親や母親になるのか、否か。
“アレ”が再び目を覚めさせないためにも…。