それぞれの思いを胸に、約60年に一度の赤色彗星を見上げる。
何を忘れて、大人になろうか。
PFFなどの賞を受賞した、瑞々しい青春映画作品をご紹介します。
CONTENTS
映画『赤色彗星倶楽部』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
【監督】
武井佑吏
【キャスト】
羽馬千弘、手島実優、櫻井保幸、ユミコテラダンス、平山輝樹、ひとみちゃん、三輪和音、山口陽次郎、神崎みどり
【作品概要】
PFFアワード2017で日活賞&映画ファン賞、第11回田辺・弁慶映画祭でグランプリを受賞した作品。武井佑吏監督の長編デビュー作品。
映画『赤色彗星倶楽部』のあらすじとネタバレ
約60年に一度しか観測の出来ない赤色彗星が現れる日が迫っていました。
天文部に所属するじゅんはテレビ番組で、赤色彗星と同じ強さの磁力を引き合わせるとタイムパラドクスが起こるというオカルト話を耳にします。
じゅんは天文学部の部員たちと共に、巨大な彗星核を作り始めました。
そして作り上げた暁には秋休み後の文化祭で展示することにしました。
じゅんにははなという幼馴染がいて、ふたりはお互いを意識しながらもあくまで友達であり、恋人とは違う歯がゆい距離感を保っていました。
そんなはなに彼女と同じ剣道部に所属する男子部員が恋心を抱き始めます。
ある日、男子部員は放課後、じゅんの前に現れて「お前ってはなのなんなの?」と質問しました。
じゅんははなが男子部員に奪われるような感覚を覚えましたが、感情を伏せて「ただの幼馴染だよ」と答えました。
一方のはなも、いつも一緒にいて仲良しな天文部にじゅんを奪われ、どんどん距離が離れていくような感覚を覚えます。
はなに恋をした剣道部員の影響もあり、じゅんとはなはあまり親しく過ごさなくなりました。
そしてじゅんは彗星核作りにも精を出せずにいました。
そんな関係のままとうとう秋休みを迎えました。
はなは離れた祖母の家に行ってしまいます。
数日経ち、何をするにも身が入らず、だらだらと秋休みを過ごすじゅんの元に衝撃的な知らせが届きました。
映画『赤色彗星倶楽部』の感想と評価
ある席では世間話が、ある席では悪ふざけが、ある席では恐喝が、ある席では黄昏が。
同じ時、同じ空間で色んなことが引き起こる教室のシーンがとても魅力的でした。
久し振りに青春のど真ん中を観せてくれた作品で、筆者自身の学生時代を振り返りながら帰りました。
もちろん、はなちゃんのような麗しい幼馴染はいませんでしたが。
今回は筆者が感じた印象的な部分をご紹介します。
個性豊かなキャラクターたち
物語の基軸としてじゅんとはなの恋が進んでいくのですが、いわゆる脇役にもそれぞれの思いやストーリーがちゃんと描かれており、なおかつ愛くるしいです。
主人公に付き合って彗星核を作るのではなく、それぞれに思いや願いがあって作るというのが、群像劇として、観ていて気持ちよかったです。
はたけ
天文部の部員。
冴えない小太りなメガネ男子。
溢れてきてしょうがない気持ちが今にも爆発寸前な彼。大人しそうですが行動は大胆で、「なんかこいつ犯罪とかしないかな?大丈夫かな?」と思わされる雰囲気があります。
そんなはたけが思いを寄せる女子の靴下を片方だけ盗み、またそれを自ら履き、その女子の好きな音楽を弾けないギターをかき鳴らし教室でひとり大声で弾き語る。
そして、案の定バレてドン引き。
最高ですよね。ベクトルを間違いすぎた感情の噴出は青春ならではと思います。
筆者は劇中彼の真顔が映るたびに、笑いがこみ上げてきて仕方ありませんでした。
天文部の先輩
「うおぉい」と声を唸らせるだけで、後輩から金を巻き上げる先輩。
天文部には顔を出さないが、後輩部員の面倒見は良い先輩。
実家の家業を手伝う孝行者の先輩。
漫画やアニメ、映画の中でしか生きていないと思われるジャイアン的人物。
出てくるシーンは少ないのですがとても印象的で、「まっすぐなんだろうな」とか「留年してんのかな」とか色々とバッグボーンを知りたくなりました。
みなさんにもぜひ彼の「うおぉい」を聞いていただきたいです。
古文の教師
黒板消しを使うたびにクリーナーで掃除をするようなきっちりとした性格で、誰もが寝てしまうような授業スタイルを持つ退屈な先生です。
ですが物語の要所要所で名言を放ちます。
例えば「ベルトの高さは偏差値の高さ」や「耕さないと稲はささりません。高校生をやれるのは今のうちです」などです。
この名言は主人公の心情や、物語の流れと妙にマッチしており、聞いていて面白いです。
次はなにを言うんだろうと終始ワクワクさせてくれました。
天文部の顧問でもなんでもない、ただの先生なんですけどね。ギャグのようなコメディ要素としても、本作の魅力の一部を担っていると思いました。
紹介した他にもじゅんのことが気になる天文部の女子や、マッシュヘアーの天文部員、はなが好きな剣道部員などなど、キャラクターの棲み分けが上手くそれぞれに魅力があります。
映像に勢いを加えるインディーズバンド
参考音源:『I my me mine,where is she』YUEY
劇中に学校中の女子たちが自らの部活を、ましてや彗星核なんてものには目もくれずに軽音楽部のライブに押し寄せるシーンがあります。
そこで演奏しているのがバンドYUEYです。
参考音源にはアルバムの表題曲を上げたのですが、劇中では「SOS」という曲が演奏されています。
このシーンはいかに天文部の彗星核作りが、学校の端っこで行われているものかを知らしめていて、小さく影響力もないグループがその中で闘志を燃やしている感じが個人的に好きでした。
単純にライブ演奏はカッコよく、映像自体にも迫力がありました。
インディーズバンドの起用なども自主制作映画ならではの魅力かと思いました。
4.まとめ
筆者が鑑賞した劇場は満員御礼でした。
これからの活躍に期待大のスタッフたちの初期作品を見逃す手はありません。
ぜひ劇場にて観賞してみて下さい。