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Entry 2019/02/27
Update

映画『きらきら眼鏡』ネタバレ感想レビュー。考え方ひとつで日常を輝かせることが出来るアイテムとは

  • Writer :
  • もりのちこ

見たものすべてを輝かせる「きらきら眼鏡」、あなた心の眼鏡は曇っていませんか?

『津軽百年食堂』『夏美のホタル』など多数の映画化が続く人気作家の森沢明夫が自ら犬童一利監督に熱烈オファーをし映画化した作品『きらきら眼鏡』。

森沢の出身地、船橋市の協力を得て、市民参加型の映画として完成しました。

大切な人を亡くした時、どう生きる?それぞれの恋人の死に向き合う男女の物語。

悲しみを乗り越え人生を輝かせるための眼鏡『きらきら眼鏡』は、誰でも手に入れることができるのでしょうか?

映画『きらきら眼鏡』を紹介します。

映画『きらきら眼鏡』の作品情報


(C)森沢明夫/双葉社 (C)2018「きらきら眼鏡」製作委員会

【公開】
2018年(日本)

【原作】
森沢明夫

【監督】
犬童一利

【キャスト】
金井浩人、池脇千鶴、古畑星夏、杉野遥亮、片山萌美、志田彩良、安藤政信、鈴木卓爾、大津尋葵、成嶋瞳子、菅野莉央、大西礼芳、長内映里香、山本浩司、モロ師岡

【作品概要】
人気作家・森沢明夫の「最後の1ページまで切ない」と絶賛された恋愛小説『きらきら眼鏡』の実写化。

監督は『つなぐもの』の犬童一利監督。森沢本人からのオファーで、船橋映画プロジェクトチームと共に作り上げました。

主演の立花明海役にはワークショップなどで抜擢された新人の金井浩人を起用。W主演となる大滝あかね役は、難しい役にも果敢に挑戦する演技派女優・池脇千鶴が演じます。

本作は、犬童監督の前作『つむぐむもの』に続き、第21回上海国際映画祭への正式出品が決定しています。


映画『きらきら眼鏡』のあらすじとネタバレ


(C)森沢明夫/双葉社 (C)2018「きらきら眼鏡」製作委員会

午前4時。鉄道員の立花明海は、駅の仮眠室で眠れない夜を過ごしていました。仕事の時間です。

3年前、彼女を事故で亡くしている明海は、彼女の死を乗り越えられないまま、人生を無気力に過ごしています。

ある休みの日、明海は古本屋にいました。周りとも距離を置く明海の、唯一の趣味は読書でした。

そこで明海は1冊の気になる本に出会います。タイトルは「死を輝かせる生き方」

購入してパラパラめくってみると、本の間に名詞が挟まれていました。名詞には大滝あかねと書かれています。

そして名詞が挟まれていたページの一文、「自分の人生を愛せないと嘆くなら、愛せるように自分が生きるしかない」という箇所に赤線が引いてありました。

大事な本かもしれない。明海は、名詞の連絡先にメールします。

待ち合わせ場所にやってきた大滝あかねは、明海に感謝の気持ちを伝えます。売った時すごく後悔していた本が戻ってきた奇跡を喜ぶあかねは、明海との縁も大切にしたいと言います。

「空が綺麗」と感動するあかねに「空しか見えないけど?」と返す明海。ものの見方、感じ方の違いが2人にはあるようです。

その後、明海の仕事場、駅のホームで再会する2人。あかねは明海を、自分の仕事場にも招待します。

あかねの仕事場はゴミの廃棄所でした。多くのゴミが処理される現場であかりは「ゴミは人々が生きてる証なの」と、捨てられた紐で指輪を作って見せます。「私ね、きらきら眼鏡をかけることにしているんです。見たものすべてを輝かせる眼鏡」

あかりの、いつも楽しそうな笑顔と、物事を前向きに捉える姿勢に、明海は心を許していきます。

「昔、恋人が死んだんです」明海は誰にも言ったことがなかった、ミキの死についてあかねに話します。

ミキは、明海の誕生日の日、別の友達と海に行き事故に遭いました。なぜ、誕生日に一緒にいてくれなかったのか?ミキの最後のLINEに返事を返さなかったことへの後悔が、明海を苦しめていました。

しかし明海はあかねに、「今では思い出すこともない」と嘘を付きます。何かを聞きたそうな雰囲気のあかね。

実は、あかねには余命宣告された恋人・裕二がいました。健気に裕二の世話をするあかね。死への恐怖は静かに膨らんでいました。

あかねの彼の存在を聞かされた明海は戸惑うも、気の合う友達として仲を深めていきます。

明海は、同窓会に誘われていました。ミキの死から逃げていた明海は、地元からも同級生からも逃げていました。

そんな明海にあかねは、「時間って命と同じ。もたもたしてると時間切れになっちゃうよ」と背中を押します。

同窓会に参加する明海。やはり話題はミキのことに。悪酔いをする明海に、ミキの女友達が言い放ちます。「ミキはあんたのことを愚痴ってた。だからあの日も海に行ったんだ。被害者ずらするな。あんたのせいでミキは死んだのよ」

立ち直れない明海。気持ちを押し殺し酒に溺れます。

そんな明海に、あかねから電話が入ります。窓から同じ月を見る明海とあかね。「雨の夜よりも、月の夜の方が寂しいよね、自分だけが取り残される感覚がするから。でも、そんな寂しい時間も幸せを深くするための大切な時間なんだよ」静かに泣く明海。

きらきら眼鏡の持ち主、どこまでも前向きなあかねに、好きな気持ちが募ります。

明海はあかねの彼、裕二の見舞いに行くことになります。

あかねが席を外した間に、裕二は明海に話かけます。「明海くんはあかねに惚れてる?」

「今は答えたくありません」と返す明海。自分の気持ちに蓋をします。

以下、『きらきら眼鏡』ネタバレ・結末の記載がございます。『きらきら眼鏡』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)森沢明夫/双葉社 (C)2018「きらきら眼鏡」製作委員会
亡くなった恋人・ミキの死を乗り越えていると嘘を付く明海に、あかねは墓参りに誘います。

一緒に明海の故郷を訪ねるあかね。楽しそうなあかねとは反対に、明海は街の随所にミキの面影を見ていました。

ミキとの思い出の神社で、明海はとうとう抱えていた思いが爆発します。溜めていた涙が溢れます。

呆然と立ち尽くし涙を流す明海に、あかねは「ごめんね。大事な人を失っても生きていけるものか。あなたを見て試していたの」と懺悔します。

自分の気持ちをコントロールできない明海は、あかねをひとり残し帰ります。

裕二の死が迫っていました。死を受け入れられない裕二は、あかねに当たったり、泣きわめいたり、辛い日々が続きます。

このままでは辛すぎると裕二は、あかねに別れを告げます。裕二の側にいたいあかねでしたが、もうどうすることも出来ませんでした。

裕二の前からも明海の前からも姿を消したあかね。裕二は病室に明海を呼び出します。

病室を訪ねる明海に、苦しそうに裕二は「あかねのことをよろしく頼む」と伝えます。

あかねの思いを知る明海は「今まで縛り付けて、いなくなるからよろしくなんて、無責任すぎる。大事な人がいなくなる気持ちを考えたことあるのか」と怒ります。その思いを汲み取る裕二。

明海は久しぶりにあかねに会います。あかねは、以前のあかねではありませんでした。きらきら眼鏡は曇っているようです。

「彼がいないと生きていけない」泣くあかねに明海は「じゃあどうするの?」と問いかけます。

目の前の海に入っていくあかね。後を追う明海。

「裕二さんはいなくならない。ずっといるよ。裕二さんの所へ行くんだ」自分と同じ後悔をしてほしくない明海は必死に説得します。

その後、あかねは裕二の最後に立ち会っていました。裕二のわずかに開いた目は、あかねに向けられていました。

裕二との思い出の公園を歩くあかねと明海。裕二との思い出を語るあかねは、どこか寂しそうです。

「あかねさん、きらきら眼鏡かけてますか?」と聞く明海に、大事なことを思い起こさせてもらったあかねは微笑み返します。

あかねと別れて帰る明海は、空の美しさに目が止まります。あかねが教えてくれた、きらきら眼鏡を、明海も上手に掛けているようです。

映画『きらきら眼鏡』の感想と評価


(C)森沢明夫/双葉社 (C)2018「きらきら眼鏡」製作委員会
心の持ち方ひとつ、考え方ひとつで、何気ない日常を輝かせることが出来る「きらきら眼鏡」は、誰もが持っているアイテムです。「きらきら眼鏡」は、自分で掛けるものです。

大切な人を亡くしたことを受け入れず逃げていた主人公の明海は、仕事をしていても遊びに行っても心から楽しむことが出来ませんでした。

しかし、あかねに出会ったことで物事の捉え方を変えていきます。空の綺麗さ、季節の変化に目を向け、辛いことがあっても幸せになるための時間だと、物事をプラスに考えていきます。

そうすることで、大切な人の死を乗り越え、自分の人生を前向きに進んでいくことが出来るようになります。立ち止まり上を向き、空の美しさを感じられる心の余裕が生まれます。

そしてその余裕は、悲しむ他の人の力にもなることが出来るのです。自分の周りの環境も明るく変える力になります。

きらきら眼鏡を掛けることで起こる幸せの連鎖を感じます。

主人公の明海役を演じた、新人俳優・金井浩人は、等身大の演技で挑んでいます。悲しみを乗り越え成長していく姿が金井の存在感で、よりリアルに伝わってきます。

W主演となったヒロインあかね役の池脇千鶴は、どこまでも心優しい聖母のような眼差しが印象に残りました。

きらきら眼鏡を無理に掛け、自分を奮い立たせていたあかね。その眼鏡が外れ、辛さが溢れだした時の演技に胸が締め付けられます。

そして、忘れてはいけないこの人。余命宣告を受ける裕二の役を演じた、カリスマ俳優・安藤政信です。

どこか達観したような穏やかな裕二が、死から逃れられないと知った時、荒ぶる感情が爆発します。死への恐怖が伝わる演技に引き込まれ、せつなさが募ります。

まとめ


(C)森沢明夫/双葉社 (C)2018「きらきら眼鏡」製作委員会
人気作家・森沢明夫の「最後の1ページまで切ない」と絶賛された恋愛小説を、犬童一利監督が実写映画化した『きらきら眼鏡』を紹介しました。

この作品は森沢の出身地、船橋市の市民参加型の映画としても話題となっています。

船橋市でのロケでは、常に船橋港に係留している南極観測船「SHIRASE5002」が使用されたり、約300人の市民エキストラと市民ボランティアのサポーターが参加しています。

近年、市町村の町おこしの一環として、市民参加型の映画製作が多く行われています。

市民参加型の映画の良さは、その土地で暮らしている老若男女が、改めて故郷の良さを知り、協力して製作することで喜び達成感を共有できることにあります。この経験が子供たちの人生に大きな影響を与えることになるかもしれません。

船橋市の美しい街並みを舞台に、ここでしか撮れない、きらきらな映画が完成しました。

日々の暮らしを輝かせる『きらきら眼鏡』は、自分次第で誰でも掛けることが出来る眼鏡です。

自分の心の眼鏡は曇っていませんか?映画『きらきら眼鏡』で見直してみて下さい。


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