映画『悲しみに、こんにちは』は、誰もがきっと心の片隅にしまっている小さな大切な物語を思い出す作品。
宝石のような煌めきと、シャボン玉のような儚さを描いた少女の“ひと夏”の物語です。
今回は映画『悲しみに、こんにちは』を紹介します。
映画『悲しみに、こんにちは』の作品情報
【公開】
2018年(スペイン映画)
【原題】
SUMMER 1993
【脚本・監督】
カルラ・シモン
【キャスト】
ライア・アルディガス、パウラ・ロブレス、ダビド・ヴェルダグエル、ブルーナー・クッシ、フェルミ・レイザック、イザベル・ロカッティ、モンセ・サンズ、ベルダ・ピポ
【作品概要】
ベルリン国際映画祭で新人監督賞を受賞した本作『悲しみに、こんにちは』は、スペインの新星カルラ・シモン監督自身の幼少期の記憶や経験を元にして描かれました。
その後ゴヤ賞でも新人監督賞、2018年アカデミー賞のスペイン代表に選出されました。
映画『悲しみに、こんにちは』のあらすじとネタバレ
家の中で荷物を片付ける人々、ひそひそと大人たちの話し声が聞こえる中、一人の少女フリダがそっと母親の寝ていたベッドを見ています。
1993年の夏、エイズで両親を亡くしたフリダは、大好きな祖母たちに見送られ、バルセロナの家を出ていきます。
着いた家は、森をぬけた所にあり叔父のエステバと叔母のマルガの家族の家でした。
フリダより小さい幼い従姉妹アナもいました。
部屋に入るとアナの前でフリダのお気に入りの人形を順に並べ、もらった人を順にアナに説明し、「絶対触らないで」とアナに何度も言い聞かせます。
フリダは朝目覚め外に出てみると、明るい陽射しの下で朝食が用意されていました。
フリダは牛乳をなかなか飲まないので、エステバが「姉さんに似てるな」と声をかけると、マルガが「甘やかしてはダメ」と注意をします。
ある日、近所の酪農家に卵をもらいに行きました。
フリダは、卵を容器に入れる方法を教えてもらい、注意深く一個ずつ入れてゆっくり歩いて持って帰りました。
また森に行く途中マリア像を見つけ、そこに母親のお祈りを捧げる秘密の場所にしました。
ある日、雷が鳴り急に停電になり、アナはマルガにしがみついています。都会育ちのフリダにとって、田舎の日常が驚きの連続でした。
それから、フリダにとって嫌な日がやってきました。血液検査のためにマルガの車で病院に向かいます。
不機嫌な様子のフリダに、マルガが気遣って「何が不満なの?」と聞きます。
「髪型が変なの」というフリダに、マルガはクシを取り出し髪の毛を整えます。
それでも気に入らない様子なので、自分でするようにとマルガがクシを振りがに渡しました。
途端に窓からクシを投げてしまうフリダ。
診察中に、バルセロナでフリダは検査はもう受けなくていいと言われたことを愚痴ります。
医師は念のために必要なことを説明し、薬をマルガに渡します。
夜ベットの中で母親ネウスの初聖体証明書にお祈りを捧げ、ベッドから抜け出してマルガのバッグからタバコをとりだしました。
それをアナに見つかり、なんとかごまかして逃げ切りました。
翌朝マリア像の秘密の場所に行き、「ママが来たら渡して。きっと喜ぶから…」と言って置いて帰りました。
マルガが気を遣って、フリダを広場に連れて行きました。
近所の子ども達に混ざって、鬼ごっこをしていると転んで膝を擦り剥きました。
心配して近寄ってきた少女に、その子の母親が大声を上げ、「近寄っちゃダメ!その子は病気なんだから」と言います。
フリダを抱えてマルガは広場から出て行きます。
「もう大丈夫よ」と言いながらマルガは、何度も消毒をして傷口にガーゼを当てます。
ある日、庭でフリダとアナが遊んでいると、マルガがフリダにレタスを取ってくるように頼みます。
「それはキャベツ」とアナに言われますが、そのままマルガに渡すとやっぱりキャベツでした。
引き返してアナが採ったレタスを奪って持ってきて、「私が採ったの」というアナに「私よ」と言い返すフリダ。
マルガのやれやれという表情を見せました。
それから、祖母と祖父が訪ねにきてくれました。
フリダはご機嫌な様子で、マルガに靴の紐を結ぶように言われて祖父に結んで欲しいとせがみます。
フリダのお大好きな叔母のロラとアンジーもやってきてパーティーが始まります。
大人たちの会話の中、母親ネウスの良くない話が出てきたので、フリダは咄嗟に話題を変えて「ママの家は誰か住んでいるの?」と聞きます。
フリダは、もうすぐ人に貸すことを告げられます。
夜に楽しそうに踊っているエステバとアナに、フリダも中に入ります。
アナの靴紐が解け、マルガが自分で結ぶように言うと「ママが結んで」とアナ言い返してきました。
マルガは、アナがこんなことをいうなんてフリダのせいだと言って怒り出します。
ある日、フリダは母の思い出の水玉のワンピースを手に持って、秘密の場所に向かいます。
そこにワンピースを置いてマリア像を撫でて立ち去ります。
いつものように外で遊んでいるフリダに穴が一緒に遊んでと近づいてきます。
何度も遊んでと説いてくるアナを森の中に連れて行き、置き去りにしてフリダは一人で帰ります。
アナがいないので探し回るマルガは、フリダに何度も聞きと、「知らない」というフリダ。
なかなかアナが戻らないので、心配になったフリダも森を探しに行きますが、置き去りにした場所にアナはいませんでした。
腕に包帯を巻いたアナを抱いて、マルガが戻ってきて、「痛い?」とアナに聞くフリダは、後悔している様子でした。
その夜、フリダが庭にいるとマルガとエステバの言い争う声が聞こえてきます。
「あの子には良心がないのよ。アナに何かがあったらどうするの?」と言い寄るマルガの声。
二人の会話を聞いたフリダは、暗い台所でランプを点滅させてぼんやりと見つめています。
生理でベッドで横になっているマルガに、フリダがそっと近づきます。
夜エステバとマルガの部屋に行こうとフリダはアナを誘います。
ベッドに入った途端「ママ、パパ」とフリダは呼び、「ここで寝ていい?」と聞いて、4人ベッドで横になります。
嬉しそうにフリダは、マルガとアイスクリームを頬張っています。
血液検査の結果、フリダがエイズに感染していないことが分かったからです。
川で子どもたちが遊んでいます。
岸にいるアナに、フリダは足をつかずに泳げることを自慢げに見せています。
アナはそれを見て、つい川の中に入ろうとしました。
その途端足を踏み外して溺れそうになりましたが、近くにいたエステバに助けられました。
「アナが死んでもいいのか!」
泣きじゃくるアナを抱いて、エステバは大声でフリダを叱りました。
祖母たちが再びやってきました。
フリダとアナは祖母からパジャマをプレゼントされますが、フリダはアナのようにピンクが良かったと駄々をこねます。
さらにその上に牛乳をこぼし、自分で洗うようにマルガに叱られます。
祖母たちが帰るときに「帰らないで!」と何度も叫ぶフリダは、祖母の車に乗ろうとします。
エステバが無理やり車から連れ出しましたが、その手を振りほどいて、祖母の車を追いかけます。
走り去る車をフリダは見続けていました。
その夜、リュックに人形を全部詰め込んで出て行こうとするフリダをアナが見ていました。
「誰にも好かれていないから、出て行く」というフリダに、「私は好きよ」とアナは答えました。
フリダはリュックから一つ人形を取り出しアナに渡し、一人で家を出て行きました。
映画『悲しみに、こんにちは』の感想と評価
この映画には、二つの大きなテーマを見てとることができます。
一つ目は、この幼き少女フリダが母親の『死』をどのようにして受け入れて乗り越えていくのか。
その日は彼女にとって、突然やってきました。
母親がエイズで亡くなります。実はこの映画の原題にその理由を読み取ることが出来ます。
原題は『SUMMER1993』今から25年前のスペインカタルーニャの村の夏の出来事で、カルラ・シモン監督の幼少期の物語です。
当時スペインはフランコ軍政権が倒れ、自由を謳歌し開放感に満ちていた時代でした。
一方で突如訪れた自由はドラッグを蔓延さしHIV感染の増加を引き起こしました。
90年代初頭スペインで約2万人以上がエイズで亡くなっています。
シモンの両親もその時代の犠牲者のであり、当時ヨーロッパの中で発症率が最も高い国でした。
その背景を受けてのフリダの母親の死。
新しい家に着いた時アナが当たり前のように父親や母親に甘える姿を見て、戸惑いながらもどこまで踏み込めるか少しずつチャレンジしていきます。
ある時は腫れ物を触るように、ある時は赤ちゃん返りするかのようです。
彼女は心を閉ざしていますが、再び愛し愛されるように三歩進んで二歩退がっていきます。
母親が戻らないことをあの水玉のワンピースが無くなった時に感じとるシークエンスがあります。
そしていつの間にかマルガのことを「ママ」と呼んでいます。母親の死を受け入れた瞬間がそこにあります。
二つ目のテーマは、『家族』です。
叔父、叔母、従姉妹だった人たちが突然父と母と妹になるーフリダにとって自分の居場所を見つけるだけでなく、これから生きていく根元として、作り出す必要があります。
マルガもエステバも、何度も心の葛藤と戦って悩み苦しんでいる様子が映画のあちこちで繰り返されていますが、2人とも逃げないで向き合い続けています。幼いアナでさえも「私は好き」と言って、フリダの家出を留まらせます。
家族の繋がりとは何か。このテーマは、今問われる大切なテーマでもあります。
まとめ
本作作品『悲しみに、こんにちは』のラストシーンが圧巻です。
フリダとアナが嬉しそうにベッドではしゃいでいます。
エステバは二人に抱きついたり、転げ回ったりして、それこそ父親が二人の娘とじゃれている微笑ましい時間。
いきなり大声で泣き出すフリダ。
一番嬉しい時に、一番悲しみが込み上げてくる…。フリダの心は初めて解放されたのでしょう。
きっとこの映画は、あなたを優しく抱きしめてくれます。