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Entry 2019/11/12
Update

映画『ひとよ』ネタバレ感想と評価。結末のカーチェイスは原作にはない家族のあり方を見事に表現

  • Writer :
  • 黒井猫

桑原裕子の舞台『ひとよ』を映画化。家族の絆の尊さとは何か。

白石和彌監督による家族のあり方を描いたヒューマンドラマ、映画『ひとよ』

ノンフィクションベストセラーを原作とした映画『凶悪』(2013)で、第34回日本アカデミー賞優秀監督賞、脚本賞を含め受賞し、その後、手掛けた作品が次々に賞レースに絡む、日本で今一番アツい映画監督、白石和彌監督。

今回は白石和彌監督の手掛けたヒューマンドラマ映画『ひとよ』をご紹介します。

映画『ひとよ』の作品情報


(C)2019「ひとよ」製作委員会

【公開】
2019年(日本映画)

【監督】
白石和彌

【キャスト】
佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、音尾琢真、筒井真理子、浅利陽介、韓英恵、MEGUMI、大悟、佐々木蔵之介、田中裕子

【作品概要】
原作は桑原裕子による同名の舞台。脚本は『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(2010)『凶悪』(2013)で白石監督とタッグを組んできた高橋泉が担当します。

音楽は大間々昴、撮影は鍋島淳裕、編集は加藤ひとみ、美術は今村力です。

映画『ひとよ』のあらすじとネタバレ


(C)2019「ひとよ」製作委員会

港町の大洗。15年前の大雨のある夜、両親の帰りを待っていた高校生の兄・大樹、弟・雄二、妹・園子の前に母・こはるが帰ってきます。

母親は3人の子供に震える声で「お母さん、さっき……お父さんを殺しました。」と伝えます。その父親は子供たちに暴力を振るっていました。こはるは子供たちを守るため父親を車で轢いたのです。

そして、15年後には必ず戻ってくると伝え、警察へ出頭します。

15年の時が過ぎ、雄二(佐藤健)は東京で大衆雑誌の編集者として働くフリーライターになっていました。

大樹(鈴木亮平)は地元の電気店の娘と結婚し、雇われ専務として働き、そして園子(松岡茉優)は美容師の夢を諦め、地元のスナックで働いていました。

3人の実家「稲村タクシー」は、親族が経営を引き継ぎ、嫌がらせを受けながらも「稲丸タクシー」として営業を続けていました。

その日も、酒もタバコもしない新人運転手の堂下(佐々木蔵之介)を雇用し、仕事を教えていました。そして3人は事件の傷が癒えないまま、それぞれの日常を送っています。

ある日の夜、大樹と園子の前に母こはるが帰ってきます。大樹は母親が帰ってきたことを雄二に電話します。

電話を受けた雄二は実家に帰省します。何も変わらない実家を見た雄二は、父親に暴力を受けていた日々を回想します。

次の日の朝、朝ご飯の食卓を4人で囲みますがそこには会話がありません。3人は突然帰ってきた母親を前に何を話して良いのかわかりませんでした。

こはるは、名前を変え守り続けてくれたタクシー会社の皆に恩返しをするため、再び働き始めます。

そんな母を雄二は冷めた目でみます。3人は母親が事件を起こしたあの日から”殺人者の子供”と言われ、苛めに遭ってきました。

大樹と園子は母親を迎えたものの、雄二だけは事件後の出来事から母親を許せないでいました。

雄二は事件のことについて記事を書き、公表したことで再び嫌がらせが始まります。また大樹は妻の二三子(MEGUMI)と別居しており、上手くいってませんでした。

そして雄二の書いた記事を見た二三子は事件のこと、母親のことを秘密にされていたことに腹を立て、大樹と言い争いをします。

言い争いの中で頭に血が上ってしまった大樹は、妻を殴ってしまいます。その暴力性を父親と重ねた大樹は、こはるに「母さんは立派だから、暴力を振るった僕を殺すのか?」と怒りをぶつけてしまいます。

その言葉に腹を立てたこはるは、15年前に雄二がエロ本を万引きした店屋で、エロ本を万引きします。

周りの謝罪もあり、通報は免れたこはるに対して、雄二は「周りを巻き込むな」と言います。

それを聞いていた稲丸タクシー会社の社長の丸井(音尾琢真)は「巻き込まれてやれよ。行動でしか思いを伝えれない人だって知ってるだろ」と雄二を叱責します。

その言葉に3人は、こはるは血の繋がった母親であることを痛感します。一方で、新人運転手の堂下は会社から給与を10万円前借りします。その夜、堂下は別れた息子と会います。

次の日、出社した堂下はこはると昨夜のことを話し、「親というものは仕方がないもので、子供の行動ひとつに一喜一憂する」と言います。

堂下に一人の顧客が接触します。その顧客は、以前ヤクザをしていた堂下の後輩でした。そして堂下は覚醒剤の運び屋の送迎を依頼されます。

依頼当日、堂下は運び屋をタクシーに乗せます。しかし送迎の途中、その運び屋が自分の息子であることに気がつきます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ひとよ』ネタバレ・結末の記載がございます。『ひとよ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2019「ひとよ」製作委員会

その夜、絶望した堂下はウイスキー片手にタクシーを運転し、こはるを連れ去ります。それをたまたま目撃したタクシー運転手の同僚の牛久(韓英恵)は、タクシー会社に無線を入れます。

その無線を聞いた大樹、雄二、園子の3人は母親がまた自分たちの元からいなくなってしまうと思い、追跡に向かいます。

3人と堂下のカーチェイスの末、雄二は、こはると共に海に飛び込み自殺を図ろうとした堂下の車に車をぶつけ、間一髪のところで阻止します。

雄二は堂下に飛びかかります。堂下は雄二に「母親を出版社に売ることで母親のせいにして逃げるな」と言います。その言葉に対して、雄二は今まで心に秘めていた思いをぶつけます。

その思いは、「母親が罪を犯してまで作ってくれた自由・夢を捨てるわけにはいかない」「母親を踏み台にしてでも夢を叶えなきゃならない」と言ったものでした。

それを聞き、堂下は「息子と過ごした、あの一夜“ひとよ”は一体何だったんだ」と嘆きます。

こはるは「周りからすれば普通の“ひとよ”でも、自分にとって特別な“ひとよ”ならそれでいいじゃないか」と答えました。そして、お互いの気持ちが理解しあえた“ひとよ”は過ぎ、朝になります。

園子はこはるの髪を切るため、外でこはるを待たせ、ハサミを取りに行きます。

兄妹3人で外で待つこはるを見ると、日光に照らされ、まるで聖母のような穏やかな表情で空を見上げていました。互いに家族の繋がりを確認し、それぞれが日常を過ごす日々に戻りました。

映画『ひとよ』の感想と評価


(C)2019「ひとよ」製作委員会

2018年の過去作『孤狼の血』や、同じ年の『止められるか、俺たちを』などで、擬似家族のような関係性から人間の信頼関係のあり方を描いてきた白石監督が、今回制作した映画『ひとよ』は、血縁関係の呪縛という新しい視点から家族を説いた秀でた作品と言っても過言ではありません。

“擬似家族”や“家族のあり方”をテーマとして扱った作品は是枝監督の『万引き家族』(2018),『デッドプール2』(2018)などジャンル問わず、とても多く制作されている世界的なテーマなのです。

本作品『ひとよ』では、ギリシャ神話にあるオイディプス王の父親殺しをきっかけに、家族4人の間に軋轢が生まれます。しかし血縁関係にあるが故に互いに無視することの存在であり、“家族”の枠組みから出た存在になれないのかもしれません。

シリアスとエンターテイメントのバランス


(C)2019「ひとよ」製作委員会

本作では、とても重くなりがちなテーマを扱いながらも、ユーモアとアクションを巧みに挿入していくことで、重くなりすぎず、伝えることは、しっかりと伝えるという白石監督の見事な手腕が光る作品です。

そして脚本もとても素晴らしい完成度になっており、張っていった伏線を回収することは当たり前とし、物語の核心を映像表現で視覚的に訴えかける演出は、お見事としか言いようがありません。

ラストのカーチェイスからの車同士のクラッシュは原作にはない演出ですが、母親が乗った車と子供たちが乗った車をクラッシュさせることで家族同士でも衝突がなければ互いの思いは理解し合えないことを表現しているのでしょう。

ここには並々ならないほどの白石監督の映画だからこそできる情熱を感じました。

さらに白石監督の魅力の1つに、俳優の演技を引き出すことの上手さがあります。

もちろん実力ある俳優陣をキャスティングしていますが、俳優の持つポテンシャル以上の力を引き出し、さらに上の段階に上げています。

血縁関係にない俳優陣に血を通わし、血縁関係にあるように錯覚させるほどとても魅力的なものにしています。

また、母こはる演じる田中裕子さんの演技には目が離すことができないほどの迫力がありました。

しかし個人的に混乱する演出もあり、それは「回想と現実」「家族4人の視点」が繋がったシークエンスのまま展開されていくため、時間軸と視点の持ち主に混乱しました。

ですが、それを含めたとしても白石監督が“家族”にこだわり抜いて描いた『ひとよ』は間違いなく秀作でしょう。

まとめ


(C)2019「ひとよ」製作委員会

“家族の繋がり”を描いた映画『ひとよ』は、白石監督の手腕と映画への情熱、俳優陣の情熱をヒシヒシと感じる素晴らしい作品であり、間違いなく観るべき映画です。

2020年には『孤狼の血』の続編も公開されるそうなので、白石和彌監督の今後のご活躍にも大いに期待しています。

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