映画『ゴヤの名画と優しい泥棒』が、2022年2月25日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開
1961年に起きた、ゴヤの絵画の盗難事件。
「プロの窃盗団の犯行」と世間が騒ぐ中、盗んだのは年金暮らしのタクシー運転手、ケンプトンだった!というユーモラスな実話を基にした、ヒューマンドラマ『ゴヤの名画と優しい泥棒』。
世界屈指の美術館である「ロンドン・ナショナル・ギャラリー」の長い歴史の中で、絵画が盗まれたのは、この事件のみとなっています。
では、何故ケンプトンはゴヤの名画を盗んだのでしょうか?
そこには、現在にも通じる社会問題がありました。
独自の方法で、社会問題解決に挑んだケンプトンの大勝負を描いた、本作の魅力をご紹介します。
映画『ゴヤの名画と優しい泥棒』の作品情報
【日本公開】
2022年公開(イギリス映画)
【監督】
ロジャー・ミッシェル
【脚本】
リチャード・ビーン、クライブ・コールマン
【キャスト】
ジム・ブロードベント、ヘレン・ミレン、フィオン・ホワイトヘッド、アンナ・マックスウェル・マーティン、マシュー・グード、ジャック・バンデイラ、エイミー・ケリー、シャーロット・スペンサー
【作品概要】
「公共放送の無料化」という自らの主張の為、14万ポンドでイギリス政府が落札した絵画を盗み出したケンプトンと、その家族を描いたヒューマンドラマ。
主人公のケンプトンを演じるジム・ブロードベントは、『ムーラン・ルージュ』(2001)や「ハリーポッター」シリーズにも出演している、イギリスを代表する俳優として知られており、本作ではケンプトンを表情豊かに演じています。
ケンプトンの妻、ドロシーを演じるのは、『キャル』(1984)『英国万歳!』(1994)で「カンヌ国際映画祭」の「女優賞」に2度輝き、『クィーン』(2006)でエリザベス2世を演じ高い評価を得た、ヘレン・ミレン。
ケンプトンの息子ジャッキーをクリストファー・ノーラン監督作『ダンケルク』(2017)で、メインの1人に抜擢され映画デビューを果たした、フィオン・ホワイトヘッドが演じています。
監督は『ノッティングヒルの恋人』(1999)のロジャー・ミッシェル監督。
映画『ゴヤの名画と優しい泥棒』のあらすじ
1961年、イギリスの北東部にある工業都市で知られる・ニューカッスル。
ここで暮らすケンプトンは、お喋りで皮肉屋ながら、困った人は見過ごせない、正義感が強い性格です。
当時、公共放送である「BBC」を視聴するには、受信料が必要な時代でした。
ケンプトンは、その状況に不満を持ち、孤独な高齢者の為に「受信料を無料にせよ」と、独自の運動を展開します。
その運動に、息子のジャッキーも賛同しますが、ケンプトンの妻で常識人のドロシーは、一連の行動に呆れていました。
ケンプトンは、その癖のある性格から、どの仕事に就いても長続きしておらず、家計はドロシーの稼ぎが中心になっています。
しかし、ケンプトンは焦る様子を見せず、運動の合間に戯曲を書き、テレビ局に売り込むという趣味も持っており、そういった部分にも、ドロシーは不満を持っていました。
ある時、ロンドンにある美術館「ナショナル・ギャラリー」が、イギリス政府から一部支援を受け、ゴヤが描いた肖像画「ウェリントン公爵」を落札したというニュースが放送されます。
14万ポンド(約2100万円)という落札額に、ケンプトンは「そのお金で、無料化できる」と憤慨します。
ケンプトンは「受信料を無料にせよ」と言う主張を、議会に通してもらうことと、テレビ局に自分の戯曲を売り込む為に、ロンドンに向かいます。
ですが、ロンドンから戻って来たケンプトンの部屋には、「ナショナル・ギャラリー」に展示されているはずの「ウェリントン公爵」がありました。
ケンプトンはジャッキーと共謀し「ウェリントン公爵」を部屋に隠します。
「ウェリントン公爵」を人質に「受信料の無料化」という、自らの主張を政府に要求するケンプトン。
ですが、ある事がキッカケで、部屋に隠した「ウェリントン公爵」が見つかってしまいます。
「ウェリントン公爵」窃盗の容疑で、裁判にかけられるケンプトンですが、この事件には、意外な真相が隠されていました。
映画『ゴヤの名画と優しい泥棒』感想と評価
「ゴヤの絵画の盗難事件」という、1961年に実際に起きた事件をもとにした、ヒューマンドラマ『ゴヤの名画と優しい泥棒』。
ゴヤの名画「ウェリントン公爵」窃盗の容疑で裁判にかけられてしまう、主人公ケンプトンのキャラクターが、本作最大の魅力です。
お喋り好きで皮肉屋のケンプトンはその性格が災いし、タクシー運転手やパン工房など、仕事を次々に解雇されてしまいます。
それでも、落ち込むこともなく、皮肉を言いながら政府批判を続けるケンプトンは、良く言えば「前向きでポジティブ」、悪く言えば「楽観主義」に見えます。
ですが、ケンプトンの根底にあるのは「社会的弱者を救いたい」という正義感です。
その正義感が、イギリス政府への怒りに向かっているのです。
1960年代、公共放送である「BBC」は受信料を払い、許可証を貰わないと視聴が出来ませんでした。
ケンプトンは、「孤独な高齢者を救うのはテレビ放送」という信念のもと、「BBC」を無料化させる為、世の中を変える独自の運動を展開します。
そして、「BBC」を無料化させるという運動が、ゴヤの名画「ウェリントン公爵」の窃盗に結びつきます。
では、何故こんな大それたことをしたのでしょうか?
こうでもしないと、一市民であるケンプトンの主張を、誰も聞いてくれないという現実があるからです。
ケンプトンは、自らの主張を聞いてもらう為、ロンドンの議会や新聞社を訪れますが、全く相手にされません。
「BBC」の受信許可料の支払いを拒否し、その一部始終を新聞記者に取材させるという、体を張った抗議活動に出ますが、結果的に刑務所行きになっただけで、ケンプトンの声は全く届きません。
「ウェリントン公爵」の絵が盗まれた後も、警察は「プロの窃盗団の犯行」を疑わず、ケンプトンはいつまでたっても捜査線上に現れません。
ケンプトンという存在は、イギリス政府に見えていないのです。
つまり、主張を通すには、何か大それたことをしないと、一市民の声は世間や政府に届かないという、悲しい現実が本作では描かれています。
本作の中盤で、ケンプトンのある信念が語られますが、その信念こそ声が届かない現代社会において、大切な部分ではないかと感じます。
『ゴヤの名画と優しい泥棒』では、冒頭ケンプトンが裁判にかけられる場面から始まります。
ケンプトンは皮肉なことにこの裁判で注目され、彼ならではの武器で、人々の心を鷲掴みにしていきます。
とは言え「ウェリントン公爵」窃盗の犯人であることは明白で、百戦錬磨の弁護士ハッチンソンも、無罪を勝ち取る事を諦めかけています。
果たして、ケンプトンの裁判の行方は? そして、この事件に隠された真実とは?
本作は、実話をもとにした映画ですが、真実に迫るシリアスな作風ではなく、ケンプトンのキャラクターもあり、終始コメディタッチの楽しい作品となっています。
ですが、込められた風刺的なメッセージは鋭く、特にラストは感動的な作品でした。
まとめ
『ゴヤの名画と優しい泥棒』は、年金暮らしのケンプトンが、「ウェリントン公爵」を人質に自らの主張を世間に届けるという、変わった物語の作品ですが、重要なのは「家族の物語である」という部分です。
ケンプトンの妻ドロシーは、汚い言葉や世間体に異常に反応するおそろしく真面目な性格です。
ですが、無収入で皮肉ばかり言っている、ケンプトンを支え続け、ケンプトンが「夢想家」ならドロシーは「現実主義」であると言えます。
この対局する2人の考え方が少しづつ歩み寄っていくという夫婦のドラマでもあり、大きな役割を果たすのが、ケンプトンが書き続けている戯曲で、ドロシーがこの戯曲を読む場面は注目です。
本作は実話をもとにしているので、ケンプトンもドロシーも実在しており、実際に映画のようなキャラクターだったそうです。
そして、ケンプトンの孫がプロデューサーのニッキー・ベンサムに送ったメールが、『ゴヤの名画と優しい泥棒』が制作されるキッカケになったという話もあり、ケンプトンの子供たちが全面協力しています。
ケンプトンは、とにかく癖が強い性格ですが、強い信念を持ち、家族に愛された男であることは確かです。
盗難事件やケンプトンについてあまり知らない方には、『ゴヤの名画と優しい泥棒』は非常に興味深い作品となることでしょう。