闇営業の救急車で生活をするメキシコの家族に密着
本作『ミッドナイト・ファミリー』は、闇営業の救急車で生計を立てているメキシコ人家族を追ったドキュメンタリー映画です。
2019年に開催された第35回サンダンス映画祭のドキュメンタリー部門にて、映画監督ルーク・ローレンツェンが撮影賞を受賞した作品です。
また同年の米国アカデミー賞ドキュメンタリー部門にもリストアップされるほど、その内容は注目度が高い作品と言えます。
ルーク・ローレンツェン監督は、メキシコ人一家が私営運営する闇救急車の仕事を作品のモチーフにすることで、最前線の医療現場の問題のみならず、格差社会とその生活の一端もあぶり出しています。
メキシコの医療問題を映像で捉えたドキュメンタリー映画『ミッドナイト・ファミリー』をご紹介します。
映画『ミッドナイト・ファミリー』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ・メキシコ合作映画)
【原題】
Midnight Family
【監督】
ルーク・ローレンツェン
【キャスト】
ホアン・オチョア、フェル・オチョア、ホセ・オチョア、マヌエル・エルナンデス
【作品概要】
映画『ミッドナイト・ファミリー』は、映画監督ルーク・ローレンツェンがメキシコシティの闇救急車の無許可営業で生活を立てるオチョア家に密着したドキュメンタリー。メキシコ医療の現実をあばき、法に触れてまで医療で生活費を工面するメキシコ人家族に密着した作品です。
人口900万人のところ公営として走行している救急車が、45台未満しかないメキシコシティ。ほとんどの救急車は、私営で営業している闇の救急車です。
本作は、サンダンス映画祭で米国ドキュメンタリー特別審査員賞を受賞したほか、米アカデミー長編ドキュメンタリー賞のショートリストに選出されました。
映画『ミッドナイト・ファミリー』のあらすじとネタバレ
救急車の車窓から見たメキシコシティの深夜の風景。車内から一人の少年ホアン・オチョアが出てきます。彼は17歳の少年です。ストレッチャーに付着している血痕を綺麗に、ウエットティッシュで拭いています。
慌ただしい救急搬送の毎日ですが、少年ホアンにとって、仕事の間に恋人と電話するのが、何よりも息抜きになります。
短い休憩時間に、恋人のジェシカに電話をかけ、先ほど搬送した患者の容態を事細かに話しました。
しかし、彼女にはしばらく電話連絡がなかったことを責められます。ホアンは、母親が死にその子どもも重体という大変な状況下だったため、連絡ができなかったと言い訳をするのに必死です。
メキシコ・シティの人口900万人に対して、公営の救急車は45台未満しかありません。ほとんどの救急医療は、無許可の私営救急隊員が請け負っているという、厳しい現実があります。
ホアンの家族であるオチョア家族も闇営業の救急隊として毎年、何百人もの患者の搬送にあたっているのです。
映画『ミッドナイト・ファミリー』の感想と評価
『ミッドナイト・ファミリー』は、メキシコの闇医療チームの活躍を扱った作品で、第35回サンダンス映画祭のドキュメンタリー部門で撮影賞を受賞しています。
撮影賞受賞作品だけあって、救急隊員や負傷者を捉えたカメラアングルは、見応え十分です。動きの激しい映像には、まるでアクション映画のようなスピード感があります。
オチョア一家は毎晩、救急隊員として大都会を走り回っています。ですが、彼らは、無許可の救急車使用の闇営業者。その背景には、人口900万人に対して、公営の救急車が45台未満という現状がありました。
また、負傷者たちの複雑な家庭環境が、露呈される会話にも注目です。作品の中盤で、オチョア家は、鼻から出血している少女を処置します。
彼女は骨折しているにも関わらず、家庭の心配をします。保険に加入していないため、治療費が高くなることに気を揉んでいるのです。親に気を遣い泣き叫ぶ姿に、胸が締め付けられます。
本作は2019年製作の作品ですが、今彼らの救急搬送の現場が、どのように変化しているのか想像もできません。オチョア一家は現在、どのような生活を送っているのか、気になるところです。
まとめ
闇営業の救急車で生活を送るメキシコ人家族の姿を追いかけたドキュメンタリー映画『ミッドナイト・ファミリー』をご紹介しました。
メキシコの救急現場にカメラを向けた本作は、メキシコの医療問題や格差社会のあり方を見る人に問いかけています。
違法性の高い救急車の運営は、警察からの摘発対象ですが、オチョア家のような救急隊員がいなければ、メキシコの医療現場が成り立たないのも事実です。
メキシコが抱える医療問題を国家が解決しない限り、オチョア一家は毎晩、負傷者のために救急車を走らせなければならないのでしょう。
負傷者も生活困窮者が多いのですが、オチョア一家も生活が懸かっています。
貧困の中で人の命と自分たちの生活を守り抜くしたたかな闇救急隊のオチョア一家を通して、医療現場の逼迫を映し出す映像からも、学ぶべきことがとても多い作品でした。