本の無い人生なんて。
本を探し、本を売り、本を愛するブックセラーたちの世界。
世界最大規模のニューヨークブックフェアの裏側から、今現在活躍するブックセラー(書籍販売員)たちを追ったドキュメンタリー映画『ブックセラーズ』。
稀少本のディーラー、古書コレクター、個人書店のオーナーなど、本を愛する個性豊かな人々が登場。
コレクターの歴史から、稀少本のオークションの話、デジタル化で変化する本の世界、そしてこれからの本の未来について。本にまつわるとっておきの話が満載です。
また、ビル・ゲイツが史上最高額で競り落としたレオナルド・ダ・ヴィンチのレスター手稿や「不思議の国のアリス」のオリジナル原稿など、稀少本も多数紹介されています。
この映画自体が珍しい本であり、真の宝物と言える映画『ブックセラーズ』を紹介します。
映画『ブックセラーズ』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ)
【監督】
D・W・ヤング
【キャスト】
デイブ・バーグマン、アディナ・コーエン、ナオミ・ハンブル、ジュディス・ローリー、ジム・カミンズ、アーサー・フルニエ、スティーブン・マッシー、ビビ・モハメド、ヘザー・オドネル、レベッカ・ロムニー、ジャスティン・シラー、アダム・ワインバーガー、ヘンリー・ウェッセルズ
【作品概要】
ブックディーラー、書店主、コレクターや伝説の人物まで、本を探し、本を売り、本を愛するブックセラーたちに迫るドキュメンタリー映画。
監督は、これまで世界各国の国際映画祭にて数々の上映作品を発表してきたD・W・ヤング監督。
映画プロデューサーであり稀少本のディーラーでもあるダン・ウェクスラーの発案と、監督の伯父叔母が本のディーラーだったという縁もあり、製作が開始。
映画のガイド役には、作家、エッセイスト、映画評論家、文化評論家、ジャーナリストとして活躍するフラン・レボウィッツが登場。辛口ながらユーモアあふれる語り口が炸裂です。
ナレーションには、アメリカのインディペンデント映画の中で最も評価の高い俳優のひとり、パーカー・ポージーが制作総指揮とナレーションを担当しています。
映画『ブックセラーズ』のあらすじとネタバレ
世界最大規模の本の市、ニューヨークブックフェアが開催されています。会場であるパークアベニューアーモリーは、1880年に建築され軍の武器庫としても使用されていた由緒ある建物です。
ここでは世界中からトップディーラーたちが選りすぐりの本を持ち寄り、売買が行われます。時計が止められたこの会場は、まさに時間を忘れた宇宙空間のようです。
とにかく大きい本、この世の秘密を集めたカルト本、古書、初版本、歴史的建造物の設計図、歴史的人物の残したメモなど、コレクターも様々です。
コレクターの歴史は古く、ヨーロッパ王朝期に富の証として権力者により集められた美術品収集から始まり、その世界は絵画、骨董品だけではなく、玩具や本など価値ある品物が集められてきました。
そして、これらの収集の過程では思わぬ歴史的発見につながることもあります。20世紀を代表するブックセラーA.S.W.ローゼンバーグは、「若草物語」の著者であるルイーザ・メイ・オルコットが別名で書いたパルプ小説を発掘しました。
ブックセラーとは単に本を売る人ではなく、歴史の探検家であり、本のハンターであり、本の守護者でもあるのです。
近年は社会の多様化やデジタル化で、本を取り巻く世界も大きく変化しています。コレクション界でも、「記録」が注目される時代となりました。
小説の初版よりも、作家の手書きの資料や手紙、残されたメモや写真という風に、作家の人となりや歴史を示すものに価値を見出したのです。
1994年には、マイクロソフト社の創業者ビル・ゲイツが、レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿を、史上最高額2800万ドルで落札して話題となりました。
デジタル化による電子書籍の普及は、書店の数を減らし、街並みをも変えていきました。1950年代のニューヨークには368店舗あった書店も、いまでは79店となり、「ブックロウ」と呼ばれた書店街には現在1店しか残っていないと言います。
コレクターの店として愛されてきたスカイライン書店の店主は、「今はネットで本を買う時代、ひどい時代だよ」と閉店を決めました。これはアメリカだけではなく世界中で、日本でも起こっている現象です。
業界トップの知名度を誇るアーカイヴィストのグレン・ホロウィッツは、現代人の読書離れを指摘します。それにより、本の売買の低迷にも繋がっていると言います。
実物にこだわり、稀少本を探してきたブックセラーたちは、ネット社会での本の在り方、これからの本の未来をどう見ているのでしょうか。
映画『ブックセラーズ』の感想と評価
書籍を販売する人=ブックセラーズの世界を追ったドキュメンタリー映画『ブックセラーズ』。
ブックセラーズの他にも、ブックディーラーや稀少本のコレクター、書店主、鑑定人、作家と本を愛する人々が次々と登場します。
時代はデジタル化が進み、電子書籍の普及で本業界は大きく変化しています。書店の数は激減し、印刷文化の消失、読書離れと一つの時代が終わりを告げているようです。
しかし今作は、そんな時代を嘆き悲しむものではなく、いまなお本の魅力に取りつかれている人たちをクローズアップすることで、本の魅力をふんだんに伝える映画となっています。
映画に登場するブックセラーたちは誰もが皆、実に楽しそうです。彼らは、業界の現状を重々把握していながら、この仕事に誇りを持っています。
これまでの経験で、本の持つ確かな力と温もり、その価値をよく知っているからでしょう。本との出会い、感動を求めて彼らは集め続けます。
中でも印象的だったのは、ニューヨークでは若い世代こそが電子書籍よりも実は実物本派が多いというインタビューでした。
ニューヨークの古書店として人気がありながら閉店したレフト・バンク・ブックスを蘇らせようとする若い店主、エリックとジェスは「案外ミレニアル世代は、読書派よ。Kindleは40代が多いんじゃない」と答えています。
街に溶け込み、自分たちの感性で営む個人書店。自らブックセラーであり、書店員でもある彼女らは、客のニーズに細かく応えられる地域密着型の本屋を目指します。
ネットで本を買う時代にありながら、どれを買って読んだらいいか迷う時代でもあります。本好きで良い本をおすすめしてくれる町の本屋は、これから必要なスポットになる気がします。
ブックセラーたちは、本の価値を見極めるためには、とにかく多くの本を買い収集することだと言います。同じ本でも初版と増刷書を買い比べ手に取ると、その違いや歴史が見えてくるそうです。とても奥の深い世界です。
時にブックセラーたちのネットワークは、ネットよりも早く正確です。本を通して世界初の発見をした時の、彼らのわくわくする気持ちが伝わってきます。
ブックセラーのひとりは、「これまでの本や資料がすべて電子化し、未来に本がなくなったら、人々は本の収集を始めるだろう」と言っています。
なるほど、紙の価値が上がり、現代では普通の本が稀少本として扱われる時がくるかもしれません。
どこまでもポジティブに活動するブックセラーたちから、自分の「好きの追求」を貫くことが大事だということを学びます。
「本は絶対に人に貸さない。返ってこないから」。そう最後に落ちをつけるのは、本を愛してやまない作家フラン・レボウィッツでした。
まとめ
本を探し、本を売り、本を愛するブックセラーの世界を映し出したドキュメンタリー映画『ブックセラーズ』を紹介しました。
「No Book、No Life!!」。本の無い人生なんて、なんと味気ないことでしょう。映画に登場する「本を愛する人たち」は、本を通して充実した人生を歩んでいました。
稀少本と呼ばれる珍しい本の数々、有名本の初版、ビル・ゲイツが落札したレオナルド・ダ・ヴィンチのレスター手稿、「不思議の国のアリス」の手稿、「若草物語」のオルコットが偽名で書いたパルプ小説など、貴重な本が続々と登場。
また、壁一面びっしり本が詰まった本棚、はしごがかかった天井まである本棚が並ぶ老舗書店、たくさんの本と一緒に並べられた美術品のコレクションなど、素敵な映像も楽しめます。
電子書籍で手軽に本を読むこともでき、本当にお気に入りの本は側に置いて大切に保管することも出来ます。そんな良い時代だからこそ、「物の価値」を見極める目を養いたいものです。