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バカリズム映画『架空OL日記』あらすじネタバレと感想。ドラマ版から続く“いつも通り”が魅力なワケとは?

  • Writer :
  • 村松健太郎

原作×脚本×主演=バカリズム『架空OL日記』

お笑い芸人バカリズムが主演や脚本を務め、2017年に放送された連続ドラマの劇場版にあたる映画『架空OL日記』。

原作はバカリズムが2006年からの3年間にかけて、「銀行勤めのOL」になりきってネット上につづり「働く女性の心理や日常がリアルに描かれている」と話題を集めた同名ブログです。

主人公である “私”をバカリズム自らが演じるほか、マキ役の夏帆をはじめ、同僚OL役の臼田あさ美、佐藤玲、山田真歩、三浦透子がドラマ版から続投。さらにシム・ウンギョン、坂井真紀、志田未来、石橋菜津美らが劇場版の新キャストとして加わっています。

映画『架空OL日記』の作品情報


(C)2020「架空OL日記」製作委員会

【公開】
2020年(日本映画)

【原作・脚本】
バカリズム

【監督】
住田崇

【キャスト】
バカリズム、夏帆、臼田あさみ、佐藤玲、山田真歩、三浦透子、シム・ウンギョン、坂井真紀、石橋菜津美、志田未来

【作品概要】
お笑い芸人のバカリズムが主演や脚本を務め、2017年に放送された連続ドラマの劇場版。

原作はバカリズムが2006年から3年間、「銀行勤めのOL」のフリをしてネット上につづり、「働く女性の心理や日常がリアルに描かれている」と話題を集めた同名ブログであり、同タイトルで書籍化もされています。

夏帆、臼田あさ美、佐藤玲、山田真歩、三浦透子がドラマ版から続投したほか、2019年の話題作『新聞記者』のシム・ウンギョンや坂井真紀、志田未来、石橋菜津美が劇場版の新キャストとして参加しています。

映画『架空OL日記』のあらすじとネタバレ


(C)2020「架空OL日記」製作委員会

いつも通りに憂鬱な月曜日の朝、銀行員のOLである“私”(バカリズム)の一週間が始まります。

携帯のアラームを6時に設定しても、起きるのは必ず6時半。眠気(冬場なら寒さも)に耐えながらも何とか起床し、メイクをして家を出ます。

イヤホンが見つからなかったり、「リップクリームがない」と思ってポケットを探したら、前に失くした際に買ったものの再び失くしてしまったリップクリームを見つけたりと、“私”は自分の間抜けさに呆れたり、助けられたりしています。

ストレスフルな満員電車に揺られ、職場の最寄り駅へ。

同期で一番仲良しのマキ(夏帆)と駅で落ち合うと、世間や会社の在り方に対する実りのないグチを並べながら出勤します。

やがて会社に着くと、更衣室にはいつもの面々である後輩のサエ(佐藤玲)や小峰(臼田あさみ)、酒木(山田真歩)が。

“私”とマキもそこに加わり、どうでもいい話に花を咲かせます。

その内容は、誰も行ったことのないような海外のリゾート地や使えない上司、人事交流でやってきた韓国人社員、ハロゲンヒーターの故障や電源の取り合い、新しく開店したイタリアンレストランの話など、とりとめのない話ばかりです。

以下、『架空OL日記』ネタバレ・結末の記載がございます。『架空OL日記』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2020「架空OL日記」製作委員会

ある時、いつものように更衣室で話をしていると小峰から「発表がある」と言い出されます。

小峰は恋人との結婚を決めたのです。

喜ぶ一同、付き合いの長い酒木の目には思わず熱いものがこみ上げます。

そして結婚式当日、“私”を含めた4人は着飾って式場に。

涙と笑いに包まれつつも結婚式が進んでゆく中、“私”はどこかで見たことがある外見の男性を見かけて、思わず後を追います。

そこにいたのは、“私”と全く同じ顔を持つ男性(バカリズム)でした。

次の瞬間“私”は世界かから姿を消します。

「架空のOL」である“私”は姿を消し、それ以外の世界は変わらず進んでゆくのでした。

映画『架空OL日記』の感想と評価


(C)2020「架空OL日記」製作委員会

この映画は、男性にとっての「パンドラの匣」にいえる映画です。それは、男性が“男性”である限りは現実世界において絶対に覗くことができない世界を描いているからです。そして、そんな世界を“男性”のお笑い芸人であるバカリズムが描き、作り上げている点が『架空OL日記』という物語の最大の特色でもあります。

ですが映画を観続けてゆくと、その世界が楽しく非常に興味深く感じられる一方で、ほんのりとした不安や怖さを感じる瞬間もあります。

「“自分の知らない世界”を、両手のひらで顔を覆い、指と指のわずかな隙間から覗き見る」という、本作を鑑賞している際に抱く感覚。それは“男性”あるいは“自己”を失うことで得られる感覚であり、それゆえに不安や怖さを感じるのかもしれません。

ですが、その不安や怖さがあるからこそ、「“自分の知らない世界”を覗き見る」という行為、言い換えれば「映画を観る」という行為の面白さや楽しさも存在するのかもしれません。

本作を鑑賞する中で感じる“なんともいえない笑い”は、まさにそれを証明するものであり、バカリズムが「架空」という言葉通り“フィクション”として表現しようとした“笑い”の理論の一つなのでしょう。

また、テレビドラマシリーズを経た上で「劇場版」として作られた本作ですが、テレビドラマシリーズから“敢えて”スケールアップせずに制作されている点も、バカリズムが作り上げた“自分の知らない世界”と「“自分の知らない世界”を覗き見る」という行為の醍醐味を保つためであり、本作の映画としての面白さにつながっているのでしょう。

バカリズムが執筆したブログのように、彼自らが演じる“私”の日常のように、“いつも通り”が“いつも通り”に展開されてゆく。そこにこそ、映画『架空OL日記』の原作における面白さ、映画として面白さがあるのです。

まとめ


(C)2020「架空OL日記」製作委員会

才人バカリズムの次の一手は何でしょうか?

2011年の『ウレロ☆未確認少女』で脚本を担当したのち、「世にも奇妙な物語」シリーズの短編作品なども手掛け、フジテレビ系の竹野内豊主演のコメディドラマ『素敵な選TAXI』では全話の脚本を担当しました。以降もリメイク版ドラマ『桜坂近辺物語』『黒い十人の女』などを手掛けており、今や人気脚本家の一人です。

元来、綿密に作り込まれたコント・ネタが持ち味のお笑い芸人として知られていましたが、言うなれば「醒めながら踊る」タイプの芸風とも相まって、彼の表現活動はお笑いという枠を超えながら独特の世界観を展開し続けています

映画脚本は本作が初ですが、変に肩肘張らずに済む緩い世界観を堪能できる点はこれまでの作風とも共通しているといえます。

「次は“監督”か?」と期待されているバカリズムが、次に描く“知らない世界”とは何か。注目を浴び続ける彼の初脚本映画としても、本作は必見の価値ありです。


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