連載コラム「邦画特撮大全」第16章
特撮作品にはゴジラやバルタン星人、ショッカーの怪人といった“着ぐるみ”、もしくは“ぬいぐるみ”のキャラクターが登場します。
こうした怪獣や怪人、宇宙人の登場が特撮作品の魅力のひとつでもあります。
生身の人間ではない“着ぐるみ”のキャラクターの魅力はデザイナーと造形師、スーツアクターと声をアテる声優、各分野のプロフェッショナルの力を結集したものです。
今回はその中から声優に注目し、数々の特撮作品を彩ってきた声優たちを紹介します。
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昭和特撮のレジェンド声優たち
この項でご紹介するのは昭和の特撮作品を彩った大御所声優の3人です。
ご存知!大魔王で知られた大平透(1929~2016)
『ハクション大魔王』第1話「出ました大魔王の話」「モーレツブル公の話」
まずはアニメ『ハクション大魔王』や『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造、「スターウォーズ」シリーズのダース・ベイダーの吹替で知られる大平透(1929~2016)。
大平が特撮作品で声を担当して最も有名なのが『マグマ大使』の敵キャラクター・ゴア。
2018年上半期のNHK朝ドラ『半分、青い。』の劇中で、原田知世がこのゴアのモノマネをしたことでも話題になりました。
ゴアは悪役ですが紳士的な物腰で丁寧な口調なのが特徴です。大平はゴアのキャラクターを掴むため、声だけではなくスーツアクターも担当しました。
またスーパー戦隊シリーズのナレーションも数多く担当しました。
『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975)から『科学戦隊ダイナマン』(1983)まで連続して担当したほか、『宇宙刑事シャイダ―』(1984)や『巨獣特捜ジャスピオン』(1985)、『恐竜戦隊ジュウレンジャー』(1992)などのナレーションを担当しています。
視聴者の子どもに訴えかけるような講談調のナレーションが特徴です。
ショッカー首領でもおなじみの納谷悟朗(1929~2013)
『仮面ライダー』第01話
次にご紹介するのは納谷悟朗(1929~2013)。
納谷の代表作はアニメ「ルパン三世」シリーズの銭形警部。また『宇宙戦艦ヤマト』の沖田十三艦長、『銀河英雄伝説』のメルカッツといった威厳のある役も多いです。
納谷は『仮面ライダー』(1971)のショッカー首領、『仮面ライダーV3』(1973)のデストロン首領、『仮面ライダーBLACK RX』(1988~1989)のクライシス皇帝など、仮面ライダーシリーズで悪の首領を演じ続けました。
銭形警部のような濁声ではなく、地声に近い高貴さを感じさせる声でこれらの首領を演じています。
悪の首領が多い一方で、『ウルトラマンA』(1972)ではヒーローであるウルトラマンAの声を担当しています。ただし裏番組であった『変身忍者嵐』(1972)では敵の首領・血車魔神斎の声を演じています。
悪の首領役なら飯塚昭三(1933〜 )
『巨獣特捜ジャスピオン』第01話
飯塚昭三も納谷悟朗と同じく悪の首領役が多いです。
『超人バロム・1』(1972)の魔人ドルゲ、『イナズマン』(1973)の帝王バンバのほか、『宇宙刑事ギャバン』(1983)のドン・ホラーから『巨獣特捜ジャスピオン』(1985)のサタンゴースまで“メタルヒーローシリーズ”の敵の首領を4作連続で演じました。飯塚の低く貫禄のある声は悪の首領にはピッタリです。
悪の首領だけでなく『人造人間キカイダー』(1973)のハカイダ―、『秘密戦隊ゴレンジャー』の鉄人仮面テムジン将軍などのライバル役、スーパー戦隊シリーズの各話に登場する敵怪人も数多く担当していました。
余談ですが飯塚はリュウ・ホセイ役で出演していたアニメ『機動戦士ガンダム』(1979)の収録の際、共演者から「悪の帝王」とからかわれていたそうです。
また納谷と飯塚、『電撃戦隊チェンジマン』(1985)などで悪の首領を演じた加藤精三は、『仮面ライダー555 パラダイス・ロスト』(2003)に顔出しで特別出演。
3人は『仮面ライダーBLACK RX』で悪の首領と幹部怪人を演じており、そうした縁での特別出演です。役柄もこれまで数多くの特撮作品で悪の首領や幹部の声を演じていることもあり、怪人(オルフェノク)を管理している大企業・スマートブレインを影で操る大物の役でした。
ヒーローから悪役の声に
【新番組PR】『仮面ライダージオウ』
かつて顔出しで特撮作品のヒーロー役等を演じていた俳優がその後、俳優活動の中心を声の仕事にするというパターンが多くあります。
例えば現在放映中の『仮面ライダージオウ』でOPナレーションとオーマジオウの声を担当している小山力也。
小山というとジョージ・クルーニーやキーファー・サザーランド(『24』のジャック・バウアー)の吹替など声の仕事で知られますが、劇団俳優座に所属している俳優です。
そしてかつて『仮面ライダーBLACK RX』で主人公・南光太郎の仲間である霞のジョーを演じていました。
またブルース・ウィルスやケネス・ブラナーの吹替で知られる内田直哉。
ジョセフ・ゴードン=レヴィットの吹替で知られる土田大。アニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』に出演していた小宮有紗。
彼ら3人はそれぞれ『電子戦隊デンジマン』(1980)、『忍者戦隊カクレンジャー』(1993)、『特命戦隊ゴーバスターズ』(2012)でヒーローを演じていました。
3人は昨年放映された『宇宙戦隊キュウレンジャー』(2017)に中盤から登場した強敵・フクショーグンの声で、スーパー戦隊シリーズに再出演しました。
このようにヒーローを演じていた俳優たちが声優活動をはじめた後、怪人などの着ぐるみキャラクターの声として特撮作品に再出演することが近年では多くあります。
フィルム撮影の時代、特撮作品はオールアフレコが一般的でした。
つまり撮影現場で録音したセリフではなく、撮影後に映像に合わせてセリフを録音していたのです。
『炎神戦隊ゴーオンジャー』第01話
2000年以降はデジタル撮影が主流となりほとんどの特撮作品は同時録音方式に切り替わりました。
それでもスーパー戦隊シリーズは『炎神戦隊ゴーオンジャー』(2008年)までフィルム撮影・オールアフレコを行っていました。
つまり特撮作品に出演していた俳優はアフレコの経験を活かして、声の仕事にシフトしていったということです。
敵の首領やレギュラーで登場する幹部怪人の声にベテラン声優たちが起用されるのは、デビュー間もない若手俳優のアフレコ演技を支えるためでもあったのです。
次回の邦画特撮大全は…
次回の邦画特撮大全は、今年10周年をむかえる特撮TVドラマ『ケータイ捜査官7』(2008)を特集します。
お楽しみに。