連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第14回
日本公開を控える新作から、カルト的評価を得ている知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を網羅してピックアップする連載コラム、『すべての映画はアクションから始まる』。
第14回は、アカデミー作品賞に輝いた1977年公開作『ロッキー』。
主演を務めたシルヴェスター・スタローンの出世作にして、続編も製作されたボクシング映画の金字塔をご紹介します。
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CONTENTS
映画『ロッキー』の作品情報
【日本公開】
1977年(アメリカ映画)
【原題】
Rocky
【脚本】
シルヴェスター・スタローン
【監督】
ジョン・G・アビルドセン
【製作】
アーウィン・ウィンクラー、ロバート・チャートフ
【製作総指揮】
ジーン・カークウッド
【撮影】
ジェームズ・クレイブ
【キャスト】
シルヴェスター・スタローン、タリア・シャイア、バージェス・メレディス、バート・ヤング、カール・ウェザーズ、ジョー・スピネル
【作品概要】
アメリカ、フィラデルフィアのしがないボクサー、ロッキー・バルボアの成長を描く、1976年製作のヒューマンドラマ。
ロッキー役のシルヴェスター・スタローンが原案・脚本を担当し、第49回(1977)のアカデミー賞作品賞を含む3部門を獲得しました。
スタローン自身もトップスターの仲間入りを果たすきっかけとなり、後に続編5作品とスピンオフ2作も製作されています。
映画『ロッキー』のあらすじとネタバレ
1975年のアメリカ、フィラデルフィア。
この町のスラム地区で暮らすロッキー・バルボアは、年齢も30代に差しかかった4回戦ボクサー。
当然ファイトマネーだけでは生活できないため、知人である高利貸しのガッツォの下で取立人をしています。
そんな生活に呆れた所属ジムのトレーナーのミッキーから、「無駄な人生を送る奴はいらない」とジムを追い出されたロッキーですが、近所のペットショップで働く女性エイドリアンに片思いし、毎日通っては話しかけていました。
エイドリアンの兄ポーリーは粗野な性格ながらも、妹を気にかけてくれるロッキーに感謝していました。
一方その頃、ボクシング現世界ヘビー級チャンピオンのアポロ・クリードは、建国200年祭のイベントの一環として行われる次期タイトルマッチの対戦相手が負傷してしまったことで、代わりの挑戦者を探していました。
数ある候補者リストの中から、アポロが目に留めたのはロッキーでした。
何の実績もない無名選手にアメリカン・ドリームを体現させる狙いと、「イタリアの種馬」というロッキーのキャッチフレーズを気に入ったのです。
突然のタイトルマッチの話に困惑し断るロッキーでしたが、アポロ陣営やプロモーターの強引な説得により試合が決定。
そのロッキーは、徐々にエイドリアンとの距離を縮めてゆき、無人のスケート場を借りて初デート。
その夜、2人はロッキーの部屋で結ばれます。
一方、降って湧いたロッキーのタイトルマッチに、周囲は色めき立ちます。
精肉工場で働くポーリーがスポンサーを名乗り出れば、ガッツォはトレーニングに専念するよう促します。
そしてミッキーが、トレーナーをさせてほしいとロッキーに頼みに来ます。
「ジムを追い出しておいて今さら勝手なことを言うな」とロッキーは冷たく突き放すも、生来の気の優しさから、彼を迎え入れるのでした。
周囲の支え、そして何よりもエイドリアンという恋人の存在が、ロッキーの気持ちををタイトルマッチに向かわせます。
ミッキーが組んだ日々の辛いトレーニングを絶えるロッキーは、試合前日の夜、エイドリアンに弱音を吐きます。
しかし、「もし最終ラウンドまでリングの上に立っていられたら、自分がただのゴロツキではないことが証明できる」とつぶやくのでした。
映画『ロッキー』の感想と評価
参考映像:『ロッキー』メイキング映像
無名俳優を一躍スターに変えた出世作
映画『ロッキー』は、当時無名俳優だったシルヴェスター・スタローンが、偶然テレビで放送されていた世界ヘビー級タイトルマッチのモハメド・アリvsチャック・ウェプナー戦を観て感銘を受け、わずか3日で脚本を書き上げました。
「脚本料は言い値で構わないが、主人公ロッキーは自分が演じる」という無謀とも言えるスタローンの条件を、プロデューサーのアーウィン・ウィンクラーとロバート・チャートフが呑み、製作が開始。
しかし、映画会社ユナイテッド・アーティスツからは満足な製作費を得られなかったため、プロデューサー2人は自宅を抵当に入れるなどして資金集めをしました。
とにかく製作費がなかった本作は、シーンの大半をゲリラスタイルで撮影。
ロッキーとエイドリアンがスケート場でデートするシーンも、エキストラを使う費用がなかったために、閉店後のリンクを2人だけで滑るという流れになっています。
『ロッキー』で最もコストがかさんだのはタイトルマッチで腫れた顔のメイクアップ費用で、そのタイトルマッチの観衆も地元のホームレスたちを集め、代金の代わりにフライドチキンを配ったと云われています。
そうしたさまざまな苦労を経て完成した本作は、結果的に1976年のアメリカでの興行成績年間1位を記録しただけでなく、ロッキー同様にスタローン自身もアメリカンドリームを掴むことになるのです。
泥臭さから洗練されていったボクシングの場面
参考映像:『ロッキー』のロッキーvsアポロ戦
全6作品からなる「ロッキー」シリーズですが、要となるボクシングの振り付けも、『ロッキー5/最後のドラマ』(1990)以外はスタローンが担当しています。
といっても、彼はボクシングの経験があったわけではありません。
『ロッキー』は当初、ボクシングシーンを2人のコレオグラファーを招いて撮影する予定でした。
ところが、本作の監督を引き受けるまで、ボクシングの試合はおろかボクシング映画すら観たことがなかったというジョン・G・アビルドセンと意見が衝突してしまい、結局2人は降板。
そこで監督の命により、脚本家でもあるスタローンが振り付けを考えることになったのです。
困ったスタローンは、脚本の元となったモハメド・アリvsチャック・ウェプナー戦を参考にした上で、若い頃ボクサーだったポーリー役のバート・ヤングにもアドバイスを貰い、なんとかして試合の流れを構築。
回を重ねるごとに、ボクシングの技が洗練かつ派手さを増す「ロッキー」シリーズですが、第1作目のそれが泥臭くていささか凡庸なのは、スタローン自身が振り付けに不慣れだったことに理由があるのです。
もっとも、本作でのロッキーはファイトスタイルも粗削りゆえに、そのぎこちなさがかえって説得力を増しているといえます。
なお、ウェプナーの伝記映画『チャンプ』(2016)では、アリvsウェプナー戦を再現しつつ、『ロッキー』のモデルとなって以降の、波乱に満ちた彼の半生が描かれています。
参考映像:『チャンプ』(2016)
ロッキーとキャリアを共有していくスタローン
参考映像:「ロッキー」シリーズ名場面
『ロッキー』でスターとなったシルヴェスター・スタローンですが、その後作られる続編は、製作時における彼の俳優キャリアを反映している節があります。
当コラムでは、そうした点にも着目していきたいと思います。
次回の連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
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