映画『王の願い ハングルの始まり』は2021年6月25日(金)よりシネマート新宿他にて全国順次公開予定!
映画『王の願い ハングルの始まり』は、朝鮮独自の文字創製に尽力した第4代国王・世宗の情熱と葛藤を描いた史劇エンターティンメントです。
世宗王を演じたのは名優ソン・ガンホ。王と共に文字創製に挑む僧侶にパク・ヘイルが扮し、チョン・ミソンが王后を演じています。また、人気ドラマ『愛の不時着』のタン・ジュンサンが若き僧侶役で出演しています。
監督を務めたのは、『王の運命 歴史を変えた八日間』の脚本で「映画評論家協会賞 最優秀脚本賞」ほか多くの賞に輝いたチョ・チョルヒョン。
本作で待望の監督デビューを果たし、重厚で人間味のある作品を作り上げました。
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CONTENTS
映画『王の願い ハングルの始まり』の作品情報
【公開】
2021年(韓国映画)
【原題】
나 랏 말 싸 미(英題:THE KING’S LETTERS)
【監督】
チョ・チョルヒョン
【キャスト】
ソン・ガンホ、パク・ヘイル、チョン・ミソン、キム・ジュンハイ、チャ・レヒョン、タン・ジュンサン
【作品概要】
ソン・ガンホが、独自の文字創生のため尽力した世宗大王を演じる歴史ドラマ。ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』(2003)でソン・ガンホと共演したパク・ヘイルが創生に協力する和尚シンミを演じています。
監督は『王の運命 歴史を変えた八日間』(2015/イ・ジュンイク)の脚本を手がけ、本作が監督デビュー作となるチョ・チョルヒョン。
映画『王の願い ハングルの始まり』のあらすじ
朝鮮第4代国王・世宗の時代。朝鮮には自国語を書き表す文字が存在しませんでした。
一部の上流階級層だけが中国の漢字を学び使用している状況をもどかしく思っていた世宗は、民衆が容易に学び、書くことができる朝鮮独自の文字を作ることを決意します。
世宗は、身分は低いながらも、何カ国もの言語に詳しい和尚シンミとその弟子たちを呼び寄せ、文字作りへの協力を仰ぎました。
仏教徒の僧侶と協力し合い、庶民に文字を与えようとしている王の行動に儒者である臣下たちは激しく反発しますが、世宗大王とシンミは新たな文字作りに突き進んでいきます。
映画『王の願い ハングルの始まり』の解説と感想
ハングル創生の過程を描く
世宗大王は、李氏朝鮮の第4代国王で、朝鮮王朝史上屈指の名君として知られています。とりわけ文字の読めなかった民衆のためにハングル(訓民正音)の創生を行ったことで、国民的英雄として親しまれています。
映画『世宗大王 星を追う者たち』(2019/ホ・ジノ)ではハン・ソッキュが世宗大王を演じるなど、これまで映画やテレビドラマでも度々描かれてきました。
『王の願い ハングルの始まり』は、世宗大王が朝鮮固有の新たな文字を生みだすために奮闘する日々に焦点をあて、大胆な解釈を取り入れながら描いた歴史ドラマです。
面白いのは、世宗大王が共に一から文字づくりを行う相手が、八万大蔵経を守る海印寺の僧侶シンミであることです。
世宗大王は、仏教に関しては廃仏政策をとったため、それまで繁栄していた仏教勢力は著しく衰退していました。
いわば、シンミ和尚にとって世宗大王は憎むべき相手。しかし、民衆たちにも覚えやすい朝鮮独自の文字を作り、彼らの間にも知識を普及させるという目的とその情熱で2人は結びつきます。
サンスクリット語などを参考にしながらも、まったく新しい文字が、言葉の採取、分類を経て生み出されていく過程が想像力豊かに、生き生きと描かれています。
裏切りと陰謀の渦巻く王宮といったエンターティンメントの要素や派手な活劇は一切ありませんが、一つのことを成し遂げる困難さと揺るぎない意志が丁寧に綴られています。
美しい画作りと共に、知的な興味を掻き立てる豊かな映画体験を味わうことができるでしょう。
臣下たちとの衝突
世宗大王に扮するのは名優、ソン・ガンホです。この頃の世宗大王は、病を患い、視力も失いかけていました。
ソン・ガンホは最高権力者である王を、苦悩し時に焦燥する一人の人間として演じています。
臣下たちは、身分の低い仏教徒と王が新しい文字を生み出そうとしていることに激しく反発します。王に向かってここまで言うかというくらい辛辣な意見をぶつけています。
それは逆に世宗大王が人の意見に耳を傾けられる名君であった証とも言えるかもしれません。
臣下たちは、民衆に文字を与えると、変に知恵をつけることになるのではと危惧しています。政治を司る者にとって、民衆が無知であることは都合がよく、民衆が知恵をつけることによって権力に楯突くことを恐れているのです。
しかし、世宗大王は、上に立つものが民衆を抑圧している場合には問題だろうが、そうでなければなんの不都合もないと返します。
臣下たちは、もっともな理由をあげつらいながら、王の試みを阻止しようとし続けますが、その根底には利権に絡んだ腹黒い思惑や権威主義が見え隠れしており、「余は偽善が大嫌いだ」と語る王とは対照的です。
王と臣下たちとの激しい攻防は、現代にも通じる問題として、強く心に響いてきます。
3人の名優の共演
王に辛辣な意見を言うといえば、シンミ和尚も負けてはいません。扮するのはパク・ヘイル。師匠である僧からも「頑固一徹」と呼ばれる人物を、たくましく大胆に演じています。
王が暴君であれば、さっさと処刑されているのではないかというくらい辛辣な物言いをして、ハラハラさせられるほどです。
しかし、ある意味、こうした意見を遠慮なく言える社会は健全で、身分も立場も違う者同士が、時にぶつかり合いながらも、志を貫き切磋琢磨する姿には爽快感さえ感じられます。
また、世宗の妻である昭憲王后は、故郷の家族に手紙すら書けない女官たちを思い、自身も王たちの思いに共感し、時に王を励ましながら尽力します。
昭憲王后を演じているのはチョン・ミソンです。ソン・ガンホ、パク・ヘイル、チョン・ミソンの3人が顔を揃えたのは、ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』以来16年振りとのこと。
3人の名優による素晴らしい演技が、志あるキャラクターをより魅力的にしています。
しかし、チョン・ミソンは2019年7月に亡くなり、本作が遺作となってしまいました。
まとめ
チョ・チョルヒョン監督は、脚本も務め、世宗大王によるハングル創生の過程をまるで実際に見てきたかのように、生き生きと創り上げました。
人間ドラマの迫力と味わい深さもさることながら、歴史の重みを感じさせる風景の中で、物語は展開されます。
仏教の経典である八万大蔵経を保管するために、15世紀に建てらた海印寺の蔵経板殿や、安東鳳停寺などユネスコ世界文化遺産に登録された文化遺産が初めて韓国映画の中に登場しています。
そのほかにも、歴史ある建造物が数多く登場し、スクリーンの中に時代の重みを輝かせると共に、ハングル創生という史実を鮮やかに描き出しています。
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