連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile066
2019年11月に公開される『ゾンビランド ダブルタップ』(2019)のようにコメディを多量に含んだ作品や、王道のパニックホラーを貫いた『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2017)のように、一括りにゾンビ映画と言っても様々な方向性や趣が存在します。
今回ご紹介する作品は、たとえて言うなら『28日後…』(2003)のようにアート性にこだわった作品であり、静かな画面が魅せるおどろおどろしいほどの恐怖やメッセージが新たなゾンビ映画の形を教えてくれる作品です。
と言うことで、NETFLIXが独占配信するゾンビ映画『飢えた侵略者』(2017)をあらすじネタバレを交えご紹介させていただきます。
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映画『飢えた侵略者』の作品情報
Notre affiche officielle, un cauchemar sur papier de l'extrêmement talentueux @francloutier #zombieQC pic.twitter.com/n0OILvgNap
— Les Affamés (@lesaffamesfilm) July 17, 2015
【日本公開】
2017年(NETFLIX独占配信映画)
【原題】
Les affames(英題:THE RAVENOUS)
【監督】
ロビン・オベール
【キャスト】
マルク=アンドレ・グロンダン、モニア・ショクリ、シャルロット・サン=マルタン、ミッチェライン・ラントット
【作品概要】
2017年に公開されたカナダ産ゾンビホラー映画。
カナダを中心に高い評価を受ける本作はカナダ映画賞や、トロント国際映画祭で様々な賞を受賞しました。
映画『飢えた侵略者』のあらすじとネタバレ
F1レースの舞台裏で突如女性が狂い出し、レーサーの彼女に噛みつき、レーサーは助けを求めます。
1人車に乗るスーツ姿の女性は車のクラクションでゾンビをおびき出し、マチェーテで殺害します。
その後も悲嘆に暮れるスーツの女性は車を静かに発進させました。
軽トラックで移動するヴェジィナとボニンは、知り合いの親子が森の中で立っているのを見かけ近寄りますが、既にゾンビ化していた親子に襲われヴェジィナが噛まれてしまいます。
ゾンビたちに追われ森の中に逃げたレアルは、妻に足を噛まれ負傷しながらも妻を槍で刺殺しますが、後ろから猛スピードで迫る2人のゾンビがレアルに迫ります。
次の瞬間、片方のゾンビの頭は吹き飛び、もう片方のゾンビも足を撃たれます。
ゾンビ化した身内を自らの手で殺害し、その後1人で荒廃した街を彷徨う少年のレミがレアルを助けたのでした。
スーツ姿の女性は銃で武装した老婆たちの集う家にたどり着き、感染していないことが確認されると暖かく迎え入れられます。
一方、ヴェジィナは噛まれた傷がきっかけで死亡。
ヴェジィナの遺体を仲間のもとに連れて行ったボニンは犬に噛まれたことで縛り付けられた女性タニアと出会います。
タニアを救う気は無いボニンでしたが、仲間の悲鳴が聞こえこの場所が危険であると判断するとタニアを連れ出し軽トラックへと乗り込み発進させました。
ボニンとタニアは物資の確保のために忍び込んだ農家の家で1人隠れていた少女ゾエと出会い共に行動するようになります。
帰還兵デメニスの情報から8号線に向かったボニンはそこでゾンビたちがガラクタを使い塔のようなモニュメントを作り、そのモニュメントを輪になって囲んでいるのを目撃します。
ゾンビの1人に気が付かれたため、その場を離れたボニンたちはスーツ姿の女性を救った老婆たちの家にたどり着きます。
食料が尽きかけていることを話し合うと、老婆の1人がシェルターの場所を知っていると話し、その場所へ逃げる算段を思案します。
しかし、その夜ゾンビたちの大群が家の近くに押し寄せボニンたちは走って森に逃げ込むことになります。
映画『飢えた侵略者』の感想と評価
QUI SONT LES AFFAMÉS? Ils fixent la forêt et attendent. Comme des chasseurs, ils sont patients. #zombieQC pic.twitter.com/NKHM7KiGde
— Les Affamés (@lesaffamesfilm) August 7, 2015
トロント国際映画祭により決定された2017年の「カナダ映画トップ10」に選出された本作は様々な面が独創的な作品でした。
パニックホラーであるにも関わらず映画全体を支配する静寂さは「音を立てることへの恐怖」を引き立てているだけでなく、人間社会の崩壊を端的に表す見事な手法であり、絶望感の引き立てに貢献しています。
特に本作の中でも特徴的なシーンは、ゾンビが椅子などの家具を使い独特な「モニュメント」を構築している部分であり、不気味さと意味深さを強く感じます。
ゾンビ映画界の始祖ジョージ・A・ロメロ監督の映画『ランド・オブ・ザ・デッド』(2005)では高い知能を持ったゾンビが出現し、人がゾンビを殺害する姿に憤慨する様子を見せていたり、和製ホラーゲーム『SIREN』では屍人と呼ばれる存在が建物を建築するシーンがたびたび描かれていました。
しかし、本作のゾンビは高い知能を持っているようにも、統一の目的意識をもってモニュメントを作成しているようにも見えず、その行動はすべて本能的であるように見えます。
そこにはゾンビとなったことによって持つことになる新たな「宗教観」を感じさせ、このモニュメントを見るだけでも本作の持つ心の底から感じる恐怖感を味わえるような、独特なアート性を持つ作品でした。
まとめ
カナダ本国では本作をケベック州における諸問題と結びつける論争が起きており、社会的メッセージも強い作品であると言えます。
カナダ領でありながらイギリス・フランス・アメリカと3つの大国の狭間で揺れるケベック州と本作の世界観をリンクさせた時、誰が「ゾンビ」のサイドとなるのか、そしてその時の「モニュメント」の意味はどうなるのか。
様々な面を包括して考える考察の面白さを、ぜひ皆さまも体験してみてください。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile067では、シッチェス映画祭2019で上映される近未来を描いた和製SF『WELCOME TO JAPAN 日の丸ランチボックス』(2019)をご紹介させていただきます。
9月18日(水)の掲載をお楽しみに!