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Entry 2018/09/18
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『ブラックパンサー』感想と考察。黒人ヒーローはワカンダから差別の歴史は塗り替える|最強アメコミ番付評7

  • Writer :
  • 野洲川亮

連載コラム「最強アメコミ番付評」第7回戦

こんにちは!野洲川亮です。

2018年に公開され、全米興行収入歴代第3位、世界歴代第9位と異例の大ヒットを記録した『ブラックパンサー』

今回は、作品から垣間見れる黒人、アフリカの歴史、文化や、キャラクターから黒人初のスーパーヒーロー映画が、歴史的ヒットとなった背景と魅力を探っていきます。

【連載コラム】『最強アメコミ番付評』記事一覧はこちら

『ブラックパンサー』のあらすじ


(C)Marvel Studios 2017

アフリカの小国ワカンダは発展途上の小国を装っていますが、その実態は強大なエネルギーと硬度を合わせ持つヴィブラニウム鉱石を元に
世界一の科学力を持つに至った超文明国でした。

物語は『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』直後から始まります。

先代国王、ブラックパンサーでもある父ティ・チャカを亡くしたティ・チャラは、祖国ワカンダの新国王、そしてブラックパンサーを継承すべく帰国します。

王位継承の儀式を終え国王の座に就いたティ・チャラは、部下オコエと元恋人の工作員のナキアと共に、かつてワカンダからヴィブラニウム鉱石を盗んだ武器商人クロウを捕らえるために韓国へ向かいます。

一度はクロウを捕らえるものの、謎の男エリックにクロウを奪われてしまいます。

やがて、エリックはクロウの死体と共にワカンダへ現れます。

”死の商人”=キルモンガーと呼ばれるエリックの正体は、先代ティ・チャカ王の弟ウンジョブの息子で、ティ・チャラの従妹でした。

キルモンガーは自らの王位継承権を主張し、ティ・チャラと決闘に及びます。

復讐に燃えるキルモンガーの前にティ・チャラは敗れ、谷底へと突き落とされます。

新国王となったキルモンガーは、世界中の抑圧される人々へワカンダの兵器を送り、世界の勢力を暴力で塗り替えようと画策します。

そこへ、命を取り留めたティ・チャラがブラックパンサーの姿で登場、ワカンダの未来をかけ、二人は再び戦います。

理想郷ワカンダと黒人差別の歴史


(C)Marvel Studios 2017

今作で目を奪われるのは、何といっても”隠された超文明国ワカンダ”という国そのものです。

ワカンダは世界一の文明を誇りますが、その事実を世界中から隠し通しています。

文明をカモフラージュするために国中を覆っているホログラムバリア、絶命するはずだった人間の命をたやすく救ってしまう医療技術、
そして受けたダメージをそのままお返しするブラックパンサースーツなど。

超ハイテク表現の数々は、「007」シリーズや「ミッション:インポッシブル」シリーズといったスパイ映画で目にする、あらゆるガジェットを軽々と凌駕する機能を誇ります。

そしてワカンダの魅力は、単に文明が進んだ無機質な未来都市ではなく、アフリカ文化を尊重し、その生活、ファッション、音楽を映画内に落とし込み、観るものを虜にするカラフルで、リズミカルな世界観です。

さらに今作は物語の各所で、現実の世界で起こってきた黒人差別の歴史にも言及しています。

アヴァンタイトルの舞台は、1992年アメリカのカリフォルニア州オークランドですが、1992年は人種差別に端を発するロサンゼルス暴動のあった年であり、オークランドは公民権運動時代の過激派ブラックパンサー党が誕生した土地です。

ちなみにコミック『ブラックパンサー』とブラックパンサー党誕生は同じ1966年で、(コミック発刊が7月、ブラックパンサー党結成が10月)
このコミックと政治組織に直接の因果関係は無いと言われていますが、公民権運動真っ盛りの当時、両者が同じ時代背景を持っていたことは事実です。

そして、劇中のセリフでも度々、黒人差別が行われてきたことが示唆され、鎖国状態にあるワカンダが、その差別を無視してきた事実が指摘されます。

これは単なる歴史的事実の指摘に終わらず、ティ・チャラがそれまでのワカンダを否定し、開国という決断に至る、という映画の構造に絡めた意味も含まれているので、事実による説教臭さが出ることをうまく回避しています。

もう一人の”主役”キルモンガーは監督の秘蔵っ子

(C)Marvel Studios 2017

今作でブラックパンサーを超える存在感を放つのが、”死の商人”=キルモンガーです。

劇中で初めて登場するキルモンガーは、現代的なファッションに身を包み、穏やかで知的な印象と、その裏に秘めた狂気を同時に垣間見せます。

複雑なキャラクターの背景を想像させ、おまけに正統派な二枚目顔、この初登場シーンだけで観客はキルモンガーから目を離せなくなります。

キルモンガーを演じたのは、『クリード チャンプを継ぐ男』で、ブレイクしたマイケル・B・ジョーダンです。

つい最近、全米オープンで優勝したテニスプレーヤーの大坂なおみが、トーク番組『エレンの部屋』で憧れの存在として挙げたことでもニュースにもなりました。

実は監督ライアン・クーグラーは、デビュー作から今作までに3作品全てで、マイケル・B・ジョーダンをキャスティングしている、正に秘蔵っ子です。

さらに監督の次回作で、4度目のタッグを組むことが予定されています。

キルモンガーの行動動機は、不当に父を奪われてしまったことによる愛情の喪失、そして傭兵として目にしてきた、世界中の弱者たちに力を与えることです。

作品によっては主役として描かれてもおかしくないキャラクター像は、今作のテーマに寄り添ったものであり、監督のジョーダンへの愛着も感じさせます。

クライマックスの戦いで命を落としてしまったので、再登場は可能性は低いものの、何か理由をつけて続編や『アベンジャーズ4』などでも見てみたいと、妄想したファンも少なくないことでしょう。

オコエ、シュリ、ナキア、強き女たちの華麗な躍動

(C)Marvel Studios 2017

今作を彩ったキャラクターはキルモンガーだけではありません。

負けじと大きな存在感を見せたのが、”強き女たち”でした。

それはワカンダ最強の女兵士オコエ、技術開発を担うティ・チャラの妹シュリ、そして”元カノ”の工作員ナキアです。

彼女たちに共通するのは純粋な戦闘力、頭脳だけでも普通の男を優に上回るだけでなく、“男性キャラを陰ながらひたむきに支える”という従来の女性像ではなく、自らの意見をハッキリと主張し、目の前の理不尽に正面から立ち向かう姿勢です。

自分が守るべき人、信念を傷つけるものであれば、例え相手が国王であったとしても、命を懸けて戦いに挑む、男女問わず憧れを抱くような存在なのです。

オコエとシュリが『アベンジャーズ インフィニティウォー』で起用されていることも、そのキャラクターの魅力と先鋭性を、作り手側が十分に評価していることの現れです。

今作は黒人初のスーパーヒーロー映画であり、劇中で黒人差別の歴史などに、言及していることはこの記事内でも触れてきました。

彼女たちの存在は、そういった過去の忌むべき価値観を否定し、断固たる意志を主張する新たなる女性像を象徴する存在となっているのです。

次回の「最強アメコミ番付評」は…

いかがでしたか。次回の第8回戦では、『キックアス』が生み出した”ある邦画”を紹介していきます。

お楽しみに!

【連載コラム】『最強アメコミ番付評』記事一覧はこちら

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